少額取引に係る適格返還請求書の交付義務免除について ~令和5年度税制改正により手当される見込み~

2023年2月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

令和5年度税制改正の大綱(以下、「大綱」)が公表されました。令和5年度税制改正により、インボイス制度に関して、少額取引に係る適格返還請求書の交付義務の免除について、一定の規定が置かれる予定です。

なお、解説する内容は大綱段階のものであり、確定した内容については、今後の法令等をご確認していただければと思います。

少額取引に係る適格返還請求書の交付義務の免除

売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合は、その適格返還請求書の交付義務を免除するものとされる予定です。この後説明しますように、売手負担の振込手数料については、この改正により実務負担の軽減が期待されます。

売手負担の振込手数料の処理

売手負担の振込手数料(買手が請求金額を支払うときに、振込手数料を差し引いて支払うケース)について、消費税法上、次のいずれかの処理が考えられます。

  • 売手の値引きとして処理
  • 売手の課税仕入れとして処理

売手の課税仕入れとして処理する場合は、買手から適格請求書等およびケースによっては立替金精算書の交付を受けなければなりません。買手がATMで振り込んだ場合は、自動販売機・自動サービス機特例により、売手は帳簿のみの保存により仕入税額控除を行うことが認められますが、買手がどのような方法で振り込むのかをその都度確認することは、実務上困難であると思われます。

結論としては、売手の値引き処理が多く採用されると予想されます。その場合に、売手の値引きは、売上げに係る対価の返還等に該当しますので、本来であれば売手から買手に適格返還請求書の交付義務が課されますが、令和5年度税制改正により、売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満であるものについて、交付義務が免除されることとされる見込みです。この改正により、適格返還請求書の交付の手間が省けることになります。

経理処理との関係

売手が負担する振込手数料を、会計上は支払手数料として費用処理し、消費税法上は対価の返還等として取り扱うことは差し支えない旨が明らかにされました(財務省「インボイス制度の負担軽減措置(案)のよくある質問とその回答(令和5年1月20日時点)」問18)。

会計処理と消費税法上の処理が泣き別れになっても問題ないという意味であり、これにより会計上売上の減額処理をしないで、支払手数料として費用処理しても、消費税法上は対価の返還等があったものとして処理することが可能となります。

売手における売上税額の取扱い

売手が売上げに係る対価の返還等を行った場合は、適格返還請求書の交付の有無にかかわらず、当該売上げに係る対価の返還等をした金額の明細を記録した帳簿を保存することを要件として、売上税額から対価の返還等の金額に係る消費税額を控除することが認められていますが、その取扱いはインボイス制度下においても変更はありません(新消法38条2項)。

インボイス制度下においても、帳簿にその明細の記載を行うことにより、振込手数料に係る消費税額を売上税額から控除すればよいことになります。その点、適格返還請求書の交付義務が免除されることにより、従来と同様の処理および対応を行うことが可能となります。

なお、帳簿の記載事項は、次のとおりであり(新消規27条1項2号)、記載事項は、現行と変わらない予定です。

 資産の譲渡等に係る対価の返還等を受けた者の氏名または名称
 資産の譲渡等に係る対価の返還等をした年月日
 資産の譲渡等に係る対価の返還等の内容
 資産の譲渡等に係る対価の返還等をした金額

買手への配慮

売手は、適格返還請求書の交付なしに、帳簿の記載により売上税額から控除すればよいわけですが、その場合の買手の処理が問題になります。

買手は、仕入れに係る対価の返還等を受けたことになるため、振込手数料に係る消費税額を仕入税額から控除しなければなりません。この取扱いは、適格返還請求書の交付があったかどうかは関係ないことになります。

売手は、買手に対して、売手負担の振込手数料を売手の値引きとして取り扱う旨を通知しておくことが望ましいと考えられます。取引の都度通知する必要はなく、インボイス制度の開始前に注意喚起の意味で通知すればよいと考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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