旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』― 第41回 まずは目の前のことに全力投球 ~経験の積み重ねによる化学反応を楽しむ~

村山 澄江
司法書士村山澄江事務所 代表


Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2020年8月1日号に掲載された記事をご紹介します。



こんにちは。村山澄江と申します。私は愛知県の町役場で働く父、保育士の母のもとでのんびり育ち、運よく受かった大学進学をきっかけに上京しました。現在は東京に拠点を置き、人生をかけての挑戦をしています。

独立して10年目になりますが、大きな目標もなく、「なんとなく」過ごしていた過去があります。

23歳で司法書士デビューをしたものの、独立して何かをしたいという志はなく、初任給11万円の事務所で働きました。残業手当なしで帰宅が23時という環境で働き、それが普通だと思っていました。

そんな私に奇しくもターニングポイントがやって来ました。29歳で結婚し、平凡な家庭を築こうと思っていた矢先、夫が病に倒れ、ほぼ寝たきりに。夫の収入がなくなり、一気に極貧生活になってしまいました。彼の症状は重く、自殺未遂も何度かありました。精神的にも経済的にも「このままじゃ無理だ」と思い、独立することにしました。まさに背水の陣、といった気持ちでした。独立したとしても、最初から仕事があるわけもなく、たまたまいただいた仕事をひたすら丁寧に、全力投球しました。この一見地味な作業が、信頼を得るという営業活動として機能していたことを後になって実感しています。

仕事内容については、下町で開業したこともあり、相続や高齢者の財産管理(成年後見業務)をすることが増えていきました。高齢の方と関わっていたら、祖母と一緒にすごした日々がよみがえってきて、「おじいちゃんおばあちゃんに喜んでもらえる仕事がしたい」という気持ちが強くなり、研究に没頭していきました。

さまざまな経験を重ねていくうちに、「得意」と「好き」が化学反応をおこし、ある目標ができました。それは、『介護や相続段階の「まさか」をなくして家族の未来をまるくする』ことです。認知症や脳梗塞などで判断能力が低下すると、定期預金が引き出せなくなったり、家を売ることができなくなったりします。代理人(成年後見人)を就けないと前に進めなくなります。もしも弁護士などの第三者が就いた場合は、お亡くなりになるまで毎年お金がかかります。代理人を誰にするのかを決定するのが裁判官である、という点が、この制度について最も注意してほしい点です。

「こんなはずじゃなかった」とならないために、元気なうちに家族で雑談していただくことを推奨しています。「介護が必要になったらどの通帳を使えばよい?」という身近な話題から、「実家はどうする?」「もしもの時は延命措置する?」「お墓はどうする?」という流れで、家族みんなの希望が叶うような雑談ができれば、介護や相続の段階で揉める原因が減ると考えています(実際にご相談にいらっしゃったご家族には、遺言や家族信託といった手続きを用い、備えをしていただいています)。

さて、前夫の看病生活は4年目で終止符がうたれました。悲しいことですが、あの経験のおかげでずいぶんたくましくなったので、感謝しています。5年後に新しい家族(夫・娘)ができ、話し合いの結果、夫が家事育児を担当してくれています。自営業は産休も育休もありませんが、どんな環境でも「なんとかする!」と腹をくくると案外なんとかなるものです。

(「旬刊経理情報」2020年8月1日号より)
(企画・協力 EY新日本有限責任監査法人 EY Entrepreneurial Winning Women)



村山 澄江

村山 澄江(むらやま・すみえ)
司法書士村山澄江事務所 代表

2003年司法書士試験合格。独立志向がなく、勤務を続けること7年。当時の夫が寝たきりになり、なりゆきで2010年に独立。多岐にわたる司法書士業務のうち、おばあちゃん子だった幼少期の思い出が原点となり、介護や相続段階の「まさか」をなくすための対策業務に注力するように。著書『今日から成年後見人になりました』(自由国民社、2013年)



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