タイ国におけるバッテリー電気自動車(BEV)の利用及び同セクター発展を促進するためのタイ政府の補助金、関税及び物品税上の優遇措置

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EY 税理士法人

タイJBS タックスアラート‐2022年6月22日

国家電気自動車政策委員会は、タイ国を2050年までにカーボンニュートラルな経済に導くために、バッテリー電気自動車(Battery Electric Vehicle、以下BEV)の採用を促進し、「30@30計画」に基づいてタイ国でのBEV製造を奨励することを目的としたBEV包括的優遇措置を含む提案をタイ閣議に提出しました。「30@30計画」の主な目標は、2030年までにタイ国の年間自動車生産の30%をゼロエミッション車にすることです。

2022年2月15日の閣議決定以降、過去4カ月の間に財務省、税関及び物品税局から一連の告示が公表され、BEV包括的優遇措置に基づく補助金及び間接税のインセンティブが正式に公表されています。このパッケージはBEVのみを対象とし、ハイブリッド車 (Hybrid Electric Vehicles: HEV) 及びプラグインハイブリッド電気自動車 (Plug-in Hybrid Electric Vehicles: PHEV) は対象とされていません。

優遇措置の対象となるには、BEVの輸入業者及び国内製造業者は、物品税局と合意事項の覚書 (Memorandum of Understanding: MOU) を締結し、BEVプログラムへの参加を登録する必要があります。MOUには、一般的に以下のようなコミットメントが含まれます。

  • 払込済資本金に応じ正確に計算される金額で、1,000万~2,000万バーツ(乗用BEV、輸送用BEV及びBEVピックアップ)又は500万~1,500 万バーツ(電動オートバイ)の銀行保証を提供する。銀行保証は、2026年6月30日まで保証されなければならない。
  • 以下の期限内に、自動車法令に従ってBEVモデルを登録する。
    • 輸入BEVモデル:2023年12月31日まで
    • 国内製造BEVモデル:2025年12月31日まで
  • BEVの国内組み立て及びバッテリーの現地化要件を満たす(次の4項参照)。

1)補助金

物品税局は2022年3月21日、BEV輸入業者及び国内製造業者が補助金プログラムの対象になるために満たす必要がある規則、手続及び要件を公表しました。2022年3月21日に開始された当該プログラムの主な内容は、以下のとおり要約されます。

BEVタイプ 乗用BEV 10人乗り以下の輸送用BEV 重量が4トン以下のBEVピックアップ 電動オートバイ
小売価格及びバッテリーkWh 200万バーツ以下、かつ
電池容量10kWh以上
200万バーツ以下、かつ
電池容量10kWh以上

200万バーツ以下、かつ
電池容量30kWh以上

15万バーツ以下
BEV1台あたりの補助金額 7万バーツ(電池容量30kWh以下)
又は
15万バーツ(電池容量30kWh以上)
7万バーツ(電池容量30kWh以下)
又は
15万バーツ(電池容量30kWh以上)
15万バーツ 18,000バーツ
適用期間及び請求当事者 2022年~23年:BEV輸入業者
2022年~25年:BEV国内製造業者
2022年~25年:国内製造業者 2022年~23年:BEV輸入業者
2022年~25年:国内製造業者

* MOUによると、物品税局は電動オートバイの仕様を以下のように設定している。

  • タイ自動車協会 (Thailand Automotive Institute、以下TAI) の認定を受けた48ボルト以上のリチウムイオン電池
  • 3キロワット時以上のバッテリー、又は1回の充電で航続距離が75キロメートル以上のバッテリーで、TAIの認定を受けたクラス1以上の世界統一二輪車排出ガス認証試験/手順に合格
  • 以下の基準のいずれかに合格した空気圧タイヤを使用
    • タイ工業規格局 (Thai Industrial Standards Institute、以下TISI) 規格番号TIS.2720 – 2017「オートバイ及びモペット用空気圧タイヤ」以上の規格、又は
    • 国連規則 (UN Regulation) 第75号(00シリーズ以上)
  • 以下の電動オートバイ安全基準のいずれかに合格
    • TISI 規格番号TIS.2952 – 2018「電気パワートレインの特定要件に関するカテゴリLの車両」又は
    • 国連規則第136号(00シリーズ以上)又は
    • 陸上交通局公示に従ってオートバイの発電機モデルの証明書を取得

現在までに、政府は補助金計画に資金を供給するために30億バーツの初期予算配分を承認しており、BEVの予想台数に基づき、追加の400億バーツの予算配分が求められており、現在検討中です。

原則として、補助金申請の支払は先着順であり、申請者は補助金申請を裏付けるために、最終顧客のBEV車両登録書類を物品税局に提出しなければなりません。

2)BEV輸入に係る関税免除又は低減

財務省は2022年4月22日、BEV輸入に係る関税免除及び低減の方針を公表しました。当該方針は、小売価格及びバッテリーキロワット容量に基づき、乗用BEVのみに限定されています。関税減免措置は2022年5月4日から適用され、以下に要約されるように、乗用BEV輸入に適用される既存関税によって異なります。

BEVタイプ 乗用BEV
小売価格及びバッテリーkWh 200万バーツ以下

200万バーツ超700万バーツ以下、
かつ電池容量30kWh以上

関税プログラム FTA 非FTA FTA 非FTA
現行関税率 40%以下の場合 40%超の場合 80% 20%以下の場合 20%超の場合 関税率80%
関税減免措置 免除 最大40パーセンテージポイントの低減 関税率を40%に引き下げ 免除 最大40パーセンテージポイントの低減 関税率を60%に引き下げ
輸入期間 2022年~23年

当該方針の影響は、簡潔に言えば、乗用BEVの原産国によって異なると予想されます。

  • 現在、日本を原産国とする全ての輸入乗用BEVについては、日タイ経済連携協定 (Japan-Thailand Economic Partnership Agreement: JTEPA) 又は日本・ASEAN包括的経済連携協定 (ASEAN-Japan Comprehensive Economic Partnership: AJCEP) に基づき認証され、輸入される場合、20%のFTA関税率が適用されるため、当該BEV方針に基づく関税免除の対象となります。
  • 現在、ASEAN-韓国自由貿易協定 (ASEAN Korea Free Trade Area、以下AKFTA)による 関税率が40%であるASEAN-韓国FTAに基づき認証・輸入される韓国原産の乗用BEVは、小売価格によって関税低減の程度が異なります。
    • BEVの小売価格が200万バーツ以下の場合、40%のAKFTA関税率は0%に低減、又は
    • BEVの小売価格が200万バーツ超、700万バーツ以下の場合40%のAKFTA関税率は20%に低減
  • タイ国とFTA貿易協定が締結されていない国(EU、英国、米国など)から輸入される乗用BEVは、通常の関税率80%が40%(小売価格が200万バーツ以下の場合)、又は、60%(小売価格が200万バーツ超、700万バーツ以下の場合)に低減されます。

全体として、当該関税優遇政策は、FTA諸国と非FTA諸国からの輸入乗用BEVの関税格差を平準化又は縮小させ、中国・ASEAN自由貿易協定に基づき関税を免除されている中国からの輸入乗用BEVとの競争を可能にすることを目的としています。

3)物品税

物品税局は2022年6月8日、仏暦2565年物品税率に関する財務省令(第23号)に沿って、2022年6月9日から施行されるBEVに適用される軽減物品税率に関するさらなる公示を発表しました。以下の物品税低減措置は、物品税局のBEV包括的優遇措置に参加したBEV輸入業者及び国内製造業者に適用されます。

BEVタイプ 乗用BEV 10人乗り以下の輸送用BEV 重量が4トン以下のBEVピックアップ
適用税率 8% 10%
EVパッケージに基づき軽減税率 2% 0%(2025年12月31日まで)
2%(2026年1月1日から)
適用期間&請求当事者

2022年~23年:BEV輸入業者
2022年~2025年:BEV国内製造業者

2022年~25年:BEV国内製造業者

タイ国では、物品税は付加価値税前の希望小売価格(Suggested Retail Price: SRP)に基づいて計算されます。

4)BEV包括的優遇措置に基づく主な国内組み立て要件

i) 2022年~23年までにBEV優遇恩典を申請したBEV輸入業者について
BEVタイプ 乗用BEV 10人乗り以下の輸送用BEV 電動オートバイ
国内組み立て及び数量の要件
  • 2024年までに、BEVインセンティブが申請されている2022年~23年にかけてのBEV輸入総量と少なくとも同数量のBEVを国内生産しなければならない。
  • 2024年までに上記の要件が満たされない場合は、2025年まで延長することができるが、国内生産のBEV生産量は、BEVインセンティブが申請されている2022年~23年までの期間においてBEV輸入台数の1.5倍以上でなければならない。
  • 乗用BEV及び輸送用BEVの場合、国内生産されたBEVも以下の追加要件の対象となる。
    • 小売価格が200万バーツ以下のBEVは、製造業者がBEV輸入数量を補うためにBEVモデルを国内生産できる、又は
    • 小売価格が200万バーツ超、700万バーツ以下のBEVは、製造業者が輸入モデルと同じBEVモデルを生産する必要がある
バッテリーのローカライズ要件

2026年1月1日から物品税局が指定する基準及び要件に従ってバッテリーをローカライズする必要がある。

具体的には、BEV製造業者は、以下3つのローカライズオプションのうち、いずれか1つに準拠する必要がある。

オプション1:2026年1月1日までにバッテリーセルのローカライズ

オプション2:2026年1月1日までにバッテリーモジュールのローカライズ

2030年1月1日までにPCUインバーターのローカライズ

2035年1月1日までに以下の部品のローカライズ

  • トラクションモーター
  • 減速機
  • BEVバッテリー用エアーコンプレッサー
  • バッテリーマネジメントシステム (BMS)
  • ドライブコントロールユニット (DCU)

オプション3:2026年1月1日までにバッテリーパック組み立てのローカライズ

2030年1月1日までにPCUインバーターのローカライズ

2035年1月1日までに以下の部品のうち2つのローカライズ

  • トラクションモーター
  • 減速機
  • BEVバッテリー用エアーコンプレッサー
  • バッテリーマネジメントシステム
  • ドライブコントロールユニット
適用されない
BEVモデルチェンジ 国内で生産されるBEVモデルのマイナーチェンジは、物品税局のBEV補助金政策委員会の承認を得る必要がある。
ii) タイ国のBEV製造業者について
BEVタイプ 乗用BEV 10人乗り以下の輸送用BEV 重量が4トン以下のBEVピックアップ
バッテリーのローカライズ要件

2026年1月1日から物品税局が指定する基準及び条件に従ってバッテリーをローカライズする必要がある。

具体的には、BEV製造業者は、以下の3つのローカライズオプションのうち、いずれかひとつに準拠する必要がある。

オプション1:2026年1月1日までにバッテリーセルのローカライズ

オプション2:2026年1月1日までにバッテリーモジュールのローカライズ

2030年1月1日までにPCUインバーターのローカライズ

2035年1月1日までに以下の部品のローカライズ

  • トラクションモーター
  • 減速機
  • BEVバッテリー用エアーコンプレッサー
  • バッテリーマネジメントシステム (BMS)
  • ドライブコントロールユニット (DCU)

オプション3:2026年1月1日までにバッテリーパック組み立てのローカライズ

2030年1月1日までにPCUインバーターのローカライズ

2035年1月1日までに以下の部品のうちふたつのローカライズ

  • トラクションモーター
  • 減速機
  • BEVバッテリー用エアーコンプレッサー
  • バッテリーマネジメントシステム
  • ドライブコントロールユニット
BEVモデルチェンジ 国内で生産されるBEVモデルのマイナーチェンジは、物品税局のBEV補助金政策委員会の承認を得る必要がある。

5)条件を満たさなかった場合

物品税局は、BEV包括的優遇措置の要件を満たさないBEV輸入業者及び製造業者に罰則を科す権限を有します。

i) 期限内に規定BEV数量を国内で生産せず、物品税局から失効通知書を発行されたBEV輸入業者

  • 銀行保証は没収される。
  • BEV 輸入業者について、国内の BEV 生産台数不足分の補助金及び年利7.5%(非複利ベース)の利子を徴収する。及び
  • 国内のBEV生産台数不足分につき、不足物品税の遡及(そきゅう)的更正、100%の加算税及び月当たり1.5%の延滞税を課す。

さらに、物品税局から失効通知書が発行された場合、輸入BEVは輸入日より減免税恩典の対象外とみなされます。したがって、輸入者は失効通知書の発行日から30日以内に税関に通知し、関税及び輸入VATの不足分並びに月当たり延滞税(関税は1%、輸入VATは1.5%)の支払を申し出る義務があります。 支払は、税関の更正インボイスの日付から30日以内に納付される必要があります。 ただし、当該失効は、各FTAプログラムに基づくFTA関税率の適用には影響しません。

ii)バッテリーのローカライズ要件を満たさないBEV輸入業者及び国内製造業者

  • 200%の罰金(不足物品税額に基づく)は、バッテリーのローカライズ要件を満たさない、国内生産のBEV生産量に基づいて科される。

まとめ

BEVの包括的な優遇措置は、補助金及び税負担の低減という形で、タイ市場にBEVモデルを導入するための大きな財政的インセンティブを提供する一方、これらのメリットはBEV全体の生産量を強化するタイ政府の「30@30 計画」の一環として、2024年以降に開始される厳格な国内組み立て及びバッテリーの現地化要件を満たすことが条件となっています。

タイ市場に興味を示すBEV企業は、当初のBEV輸入計画及び将来の国内BEV組み立て計画、BEVモデルの組み合わせ及び数量、タイ政府の補助金プログラムへの予算配分、主要部品の国内調達オプション及び関連コストへの影響を評価し、当該インセンティブによる全体的なメリット及びコンプライアンスコストを注意深く判断する必要があります。

※このタックス・アラートの目的は提案事項の理解を容易にすることであり、事前に専門家に相談せず、税務計画のためだけに使用しないようご留意ください。

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日付:2022年6月22日

 

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