中国、広州南沙における個人所得税優遇に関する通達の公布他

中国JBS‐中国税務および投資速報(日本語要約版)2022年8月

税務法規

1. 個人所得税

・広州南沙における個人所得税優遇政策に関する通知(財税2022年29号、以下「29号通達」)

概要

国税発2022年13号通達により公布された、「広州南沙における世界に向けた広東・香港・マカオ間の全面的協力を深めるための総体方案」(以下、「総体方案」)の関連要求を着実に実施するため、財政部および国家税務総局は2022年7月21日付で29号通達を公布し、広州市南沙区(以下、「南沙」)における個人所得税優遇政策を明確にしました。

ご参考として、南沙、横琴、海南、広東・香港・マカオグレーターベイエリアなど各地の現行の個人所得税優遇政策を以下の表にまとめています。なお以下の政策(免税政策または補助金政策)の適用に際しては予納時に個人所得税をいったん全額納付する必要があり、即時に免税が適用されるということではない点に留意する必要があります。

対象地域(適用時期)適用される個人適用される政策1
年度確定申告時に適用される個人所得税の免税政策
南沙
(2022年1月1日から2026年12月31日まで)
南沙で勤務する香港・マカオの居住者香港・マカオにおける負担税額相当を超える部分の個人所得税を免税とする。
横琴
(2021年1月1日から2025年12月31日まで)
横琴で勤務する国内外ハイレベル人材と緊急不足人材2個人所得税の負担が15%を超える部分を免税とする。

 
横琴で勤務するマカオ居住者マカオにおける負担税額相当を超える部分の個人所得税を免税とする。
海南自由貿易港(以下「海南」)
(2020年1月1日から2024年12月31日まで)
海南で勤務するハイレベル人材と緊急不足人材2個人所得税の実際の税負担が15%を超える部分を免税とする。
租税負担を軽減するための補助金3
福建平潭(以下「平潭」)
(2013年1月1日から2025年12月31日まで)
平潭で勤務する台湾居住者台湾居住者が平潭で実際に申告・納付した個人所得税額の20%に相当する金額の補助金を支給し、取得した補助金は個人所得税を免税とする。
北京市特定区域(首都機能核心区、北京都市副センターなどを含む)4
(2020年1月1日から適用)
海外ハイレベル人材2個人所得税の実際の税負担が15%を超える部分について補助金を支給する。
粤港澳グレーターベイエリア(以下「グレーターベイエリア」)中国本土9都市5
(2019年1月1日から2023年12月31日まで)
グレーターベイエリアで勤務する海外ハイレベル人材と緊急不足人材2中国本土と香港の個人所得税負担の差額に対し、グレーターベイエリアで勤務する海外ハイレベル人材と緊急不足人材に補助金を支給する。当該補助金は個人所得税を免税とする。
臨港新区
(詳細な実施細則の内容は未公表)
海外人材国務院が2019年に公布した政策に基づき、海外人材に適用する個人所得税の差額補助政策6を検討・実施する。
  1. 通常、源泉徴収義務者は予納時には個人所得税を一旦、全額源泉徴収し、その後個人が年度個人所得税確定申告において免税を申請、又は雇用者もしくは個人が所定の期間内に財政補助金を申請する流れになります。
  2. 「海外ハイレベル人材・緊急不足人材」とは、香港、マカオで永住権を取得した居住者、香港入境計画(優秀人材、専門家および企業家)を取得した香港居住者、香港・マカオに定住した中国本土居住者(中国本土の戸籍を抹消済みの者)、台湾居住者、外国人、海外長期居留権を取得した帰国留学生や海外華僑などのうち、関連の地区で勤務、納税し、かつ現地のハイレベル人材、緊急不足人材の適格要件を満たす人を指します。雇用者および個人は各地の政策、方針の詳細を正しく理解する必要があります。
  3. 一部の地方政府は補助金の限度額を設けており、例えば深圳市は2020年の補助金申請に関する通達において、個人所得税補助金の上限額を一人当たり500万元までと規定しています。
  4. 北京市特定地区における海外ハイレベル人材に適用される個人所得税政策は京財税2021年731号通達(「731号通達」)により公布されましたが、関連する個人および企業は、詳細について管轄当局に確認が必要と考えられます。
  5. グレーターベイエリアの中国本土9都市は、広東省広州市、深圳市、珠海市、佛山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市を指します。広州南沙で勤務する、条件を満たした海外ハイレベル人材と緊急不足人材も、グレーターベイエリアにおける海外ハイレベル人材と緊急不足人材向けの個人所得税補助金政策を適用することができます。
  6. 2021年に、中国(上海)自由貿易試験区臨港新片区管理委員会および複数の上海政府機関は共同で沪自貿臨管委2021年 720号通達 (以下、「720号通達」)を公布し、この720号通達には、海外からのハイレベル人材・緊急不足人材、及び海外から帰国したハイレベル人材・緊急不足人材に対する個人所得税負担15%以上の部分に相当する額の差額補助金を支給する政策など、外国人材に関する複数の支援政策が含まれています。720号通達は2021年11月22日から2023年12月31日まで適用されますが、補助金申請の具体的な条件、手続きなどもまだ公布されていません。関連する個人および企業は、詳細について管轄当局に確認が必要と考えられます。
     

関連条文の全文は下記よりご確認ください。

総体方案
www.gov.cn/zhengce/content/2022-06/14/content_5695623.htm

29号通達
czt.gd.gov.cn/attachment/0/496/496748/3994119.pdf

 

2. 租税条約(多国間条約)

・『税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多国間条約』の中国における施行及び一部の租税条約の適用開始に関する公告(国家税務総局公告2022年 16号、以下、「16号公告」)

概要

税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、通称は「BEPS」)行動計画はG20により提出され、経済協力開発機構(OECD)の主導で進められています。全15項目の行動計画のうち、15番目として「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多国間条約」 (以下、「多国間条約」)が打ち出されています。この多国間条約は2016年11月24日に正式に可決され、2022年6月30日現在、中国を含む97カ国・地域が締結しています。

国家税務総局は2022年8月1日、多国間条約の中国における施行及び一部の租税条約の適用開始に関する事項について、16号公告を公布しました。

16号公告の主な内容は次のとおりです。

施行時期

多国間条約は2022年9月1日より中国においても施行されます。

適用状況

2022年6月30日現在、租税条約の相手国における多国間条約の施行状況により、多国間条約は中国が締結済みである47の租税条約(詳しくは16号公告の添付資料をご覧ください。)に適用されます。適用開始日は、多国間条約第35条における「適用開始」の規定に基づき決定され、通常、両締約国のうちいずれか遅い方の施行日により決定されます。

現行の租税条約への影響

中国は今後、締結済みの100カ国との租税条約を多国間条約の適用対象に組み入れる見通しです。上述した多国間条約の発効手続き済みである47相手国のみならず、より多くの国・地域が多国間条約を締結、発効させることで、適用範囲はさらに拡大する見通しです。

16号公告の全文は下記よりご確認ください。
www.chinatax.gov.cn/chinatax/n810341/n810825/c101434/c5178626/content.html
 

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