2022年8月10日
長崎ヴェルカB3リーグ優勝・B2リーグ昇格記念インタビュー 快進撃を支えた「人」「コト」「場」づくり

長崎ヴェルカB3リーグ優勝・B2リーグ昇格記念インタビュー 快進撃を支えた「人」「コト」「場」づくり

執筆者 岡田 明

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター スポーツDXリーダー アソシエートパートナー

スポーツによる価値循環モデルの実現を目指す。

2022年8月10日

ゼロから新たにクラブを立ち上げ、B3リーグ参入初年度を45勝3敗と、圧倒的な成績で制した長崎ヴェルカ。平均観客数もB3リーグの全体平均を大きく上回り、早くも地域の熱量を高める存在になっています。

EYでは、スポーツを取り巻く各ステークホルダーの価値を高めることにより、地域の経済循環を再構築することを目指しています。

今回は、長崎ヴェルカ代表取締役社⻑の岩下英樹氏とゼネラルマネージャー 兼 取締役の伊藤拓摩氏、EYスポーツDXリーダーの岡田明による対談を通じて、「人づくり」「コトづくり」「場所づくり」の3つの観点から、長崎ヴェルカの成功要因をひもときます。

要点

  • B3初年度の快進撃をものにした長崎ヴェルカの「人づくり」「コトづくり」「場づくり」の秘訣とは。
  • クラブ設立の意義を、選手、スタッフ、地域、多くの人々と共有したことで、強いチームづくりと地域の巻き込みに成功した。
  • ワクワクと平和のメッセージを世界に発信する核として、長崎スタジアムシティの建設を推進している。

選手、スタッフ、地域、多くの人々とクラブ設立の意義を共有

岡田:B3リーグ優勝、そしてB2リーグへの昇格、おめでとうございます。私もパートナー企業の一員として、地域を巻き込んだドラマチックなシーズンを一緒に楽しませていただきました。

今回は、初年度の快進撃を振り返りながら、「人」「コト」「場」に着目して、どのようにつながりを作ってきたのかを振り返っていきたいと考えています。

まずは「人づくり」という部分で、クラブ設立の経緯、チームビルディングについて聞かせてください。

岩下:私たちは単にプロバスケットボールクラブを作ることが目的だったわけではなく、ジャパネットグループが中心になって進めている地方創生事業「長崎スタジアムシティプロジェクト」の中核を担う重要なコンテンツとして長崎ヴェルカを立ち上げました。

長崎ヴェルカ 代表取締役社⻑ 岩下 英樹 氏

長崎ヴェルカ 代表取締役社⻑ 岩下 英樹 氏

長崎スタジアムシティは、サッカースタジアムを核にアリーナやホテル、オフィス、商業施設を併設した街づくりを行うプロジェクトです。スタジアムに関しては、当初からサッカーチームであるV・ファーレン長崎が主人公になるイメージがありました。一方でアリーナをどのように活用していこうか。音楽、バスケ、バレー、卓球などいろいろと検討する過程で、2019年の終わり頃、当時のBリーグのチェアマンとお会いし、バスケットボールにチャレンジしてみようと準備室を立ち上げました。

ただ、準備室のメンバーにはバスケに精通している人がいなかったため、なかなかうまく進みませんでした。キーマンとなる人を探す中で出会ったのが、現在、長崎ヴェルカのゼネラルマネージャー 兼 取締役である(伊藤)拓摩です。

伊藤:最初にお話ししたのは2020年の5月でしたね。僕はアメリカにいました。

岩下:そうだね。バスケットボール界のすごい人と面談すると聞いて、オンラインでつないだら、とても若い人が出てきたので驚きました。でも年齢も近かったこともあり、最初から率直な話ができて。拓摩が加わったのをきっかけに、正式にクラブを設立しました。

岡田:スタジアムシティを推進するための1つのドライバーが、実は拓摩さんだったわけですね。拓摩さんは、なぜ長崎ヴェルカに加わることにしたのですか。

伊藤:ゼロからチームを作る醍醐味に魅力を感じましたし、先ほどのお話にもあったように、スタジアムシティからバスケットボールチームを作るという地域創生の理念にも共感しました。

長崎ヴェルカ ゼネラルマネージャー 兼 取締役  伊藤 拓摩 氏

長崎ヴェルカ ゼネラルマネージャー 兼 取締役  伊藤 拓摩 氏

岡田:ヴェルカがこれほど長崎の街に根付いたのは、まさにクラブの理念が地域の皆さんの共感を得たことが大きかったと思います。クラブを設立することで何を実現したいのか、明確なメッセージを発信したことで、そこに共感する人が集まり、クラブに関わる「人づくり」がうまく回っていきましたよね。

あらためて、クラブがどのようなメッセージを発信しているのかを聞かせてください。

岩下:長崎ヴェルカは「バスケットを通して、長崎、そして世界に『今を生きる楽しさ』を広げていく」という理念を掲げています。

もともと、ジャパネットグループは「『今を生きる楽しさ』を!」を信条としています。通信販売の会社として、「見つけて・磨いて・伝える」ことに徹底して取り組み、商品を手にしたお客さまの生活がどのように変化するのか、豊かになるかを伝えることを根幹としてきました。

バスケもサッカーも、その点では変わりません。長崎でバスケやサッカーを応援してくれる人たち全ての生活が豊かになる、今を生きる活力になることを目指したいという想いが根底にあります。

また長崎という土地柄もあるので、平和のメッセージや多様性に富んだ地域性を織り交ぜながら、世界に発信していける企業、クラブに成長したいとも考えています。

言葉にすると大げさですけど、長崎の人が週末の試合が楽しみでしょうがないと思ってもらえるだけで、少しは達成できたのかなと思いますね。

伊藤:チームづくりをする上でも、このチームが達成すべきミッションを明確にすることは最も大切にしたところです。どういうチームを作るのか、何が目的でこのチームができるのかという点をはっきりさせたかったので、早い段階から岩下さんと話をして、メッセージを決めました。

「ファンだけでなく、どんな人でも楽しめるエンターテインメントを生み出す」という理念を体現するために、バスケットにおいては「常に一生懸命に」「激しく」「速い」というプレースタイルを目指そうと。スタッフ・選手たちは、そんなヴェルカスタイルに合うことに加え、ジャパネットの理念にも共感してくれる人に声を掛けていきました。僕らは1年目のチームで信頼がないので、そのようなスタッフ・選手を連れてくるのはすごく大変でしたね。このクラブが目指しているもの、目指すチーム像を伝えることに時間をかけて、ありがたいことに良い仲間が集まりました。

2022年4月23日にB3優勝を決めた長崎ヴェルカ

2022年4月23日にB3優勝を決めた長崎ヴェルカ

岡田:クラブが大切にしているものを事業部と強化部で共有できていますよね。そこにジャパネットさんの文化も移植されているし、拓摩さんがアメリカで経験してきたこともうまくミックスされて、コアが作られているんですね。

岩下社長:ジャパネットグループが顧客中心、つまりBtoCの会社だからうまくいったところも大きいと感じています。従業員とステークホルダーとお客さまの3者間がハッピーであることは、高田明社長の頃からずっと言われていたことです。お客さまに何を提供できるかに真摯に向き合うという文化が強くあったので、バスケやサッカーにおいても、お客さまからチケット代をいただくのも、スポンサーさんからスポンサーフィーをいただくのも同じことだと捉え、それに見合う価値をお返しすることに全力を注ぐことができました。

岡田:チームとしてもファンサービスに積極的ですし、選手にもその考えが行き渡っていると感じています。

伊藤:選手のインタビューを聞いていても、勝ち負け以上に長崎の人をワクワクさせる、あるいは子どもたちに夢を与えるというコメントがここまで出てくるチームは珍しいと思います。選手もスタッフも、クラブが成し遂げようとしていることをしっかり理解しているのを実感します。

Bリーグになってからは、NBAの選手の姿を見て、なぜ自分がプレーするのか、なぜこれだけの給料をもらえるのかと、パーパスを問う選手が増えました。その中でも、長崎ヴェルカほど、選手が自ら進んで社会貢献活動を行っているチームは聞いたことはありません。ほぼ全員がそのようなマインドセットで行動しているのは、チームスタッフ、選手の人間性の高さによるところが大きいと思います。

長崎の人と共に、持続可能なスポーツクラブを作る

岡田:「コトづくり」という観点では、地域とのつながりを作るためにどのようなことに気を遣われましたか。

岩下:長崎ヴェルカというクラブを作る上で最も大切にしたのは、長崎の人と一緒にクラブを育てていくということです。持続可能なスポーツクラブを作るためには、長崎のみんなで作っていくというプロセスが絶対的に必要だろうと考えていたからです。

ですから、クラブのシンボルとなるクラブ名も公募で決定しました。2,324件の応募をいただいた中から3案に絞って、一般投票を行い、投票総数14,882件の中から過半数の票数を獲得したヴェルカに決定。2020年の10月31日に発表しました。

岡田:例えば、アルビレックス新潟のように、同じブランドでサッカーとバスケを運営するということも可能だと思うのですが、サッカーチームであるV・ファーレン長崎と別のブランドにされたのは、そういう狙いがあったわけですね。

岩下:そうです。長崎ヴェルカを立ち上げる時に、これはリアル「サカつく」だなと最初に思ったんですね。そこで「ヴェルつく」と題したファンミーティングを企画して、例えば「どんなグッズが欲しいですか」とか、「チームが発足したので、伊藤拓摩がチームの状況を語ります」といったさまざまなテーマで、双方向性のオンラインイベントを1年間やり続けました。僕も拓摩もよく参加しているんですよ。

最初は50〜60人でしたが、多い時には500人ぐらいが集まる規模にまで発展しました。今後も続けていきたいと考えています。

今のこういうファンとの距離感も、10年20年たって、B1でチャンピオンシップを獲るような強豪クラブになったら変わってしまうのかな?

伊藤:いや、そんなことはないと思いますよ。

岩下:でも、変えないように努力しないと、変わってしまいそう。これまでの距離感を、意識して維持していきたいよね。

ワクワクと平和のメッセージを世界に発信する核・長崎スタジアムシティ

岡田:今季のBリーグチャンピオンシップ決勝を見ていても、培ってきたコアなものがチームにあり、それがファンやパートナー企業にも行き渡っている、だからこそ、あのステージまで到達できるのだと強く感じましたね。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター スポーツDXリーダー 岡田 明

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
公共・社会インフラセクター スポーツDXリーダー 岡田 明

伊藤:本当におっしゃる通りで、今年のBリーグチャンピオンシップ決勝で明らかになったのは、クラブの総合力の高さです。琉球ゴールデンキングスも宇都宮ブレックスもただ強いだけではなく、事業と強化してきたのはもちろんですが、ファンの皆さん、パートナーさんを巻き込んだ総合力が高いクラブです。

琉球の桶谷HCが「(クオーターファイナルとセミファイナルを)沖縄アリーナのブースターの皆さんに勝たせてもらった」※とおっしゃっていましたが、ヴェルカの目指すところもそういう総合力なのかなと思います。僕自身もただ強いだけではなく、クラブの総合力を高めることに貢献できる、唯一無二のGMになりたいと考えています。

岡田:すばらしいです。そして、長崎にも2024年にスタジアムシティという、沖縄アリーナに負けない場所ができるわけですよね。

岩下:はい。スタジアムシティはサッカー、バスケに特化した観戦体験ができるように設計しているのが1番の特徴です。サッカースタジアムはタッチラインから観客までの距離が5m、バスケはほぼ0距離。抜群の観戦環境で、長崎の人たちが毎週のように本物を見られる。スタジアムは約2万人、アリーナは約6千人で満員になるという世界観を目指しています。

実際にプロジェクトを進めると、スタジアム、アリーナ単体で回収できるほど甘くはないということも分かりました。だからこそ、ホテルや商業施設と複合型で収益化する構想にしています。

岡田:スタジアムシティは、ツーリズムという点でも長崎を活性化する要素になると思います。

岩下:スタジアムシティは長崎駅から徒歩で約10分という抜群の立地です。長崎駅には2022年9月に新幹線が開通しますし、長崎の名所の1つである稲佐山公園・長崎ロープウェイもジャパネットグループが指定管理者となり、より魅力的な場所へとリニューアルを進めています。

なにより、長崎はもともと観光都市なので、外から来られた方に対するウエルカム感がすごくあります。今も、諫早のトランスコスモススタジアム長崎から駅にかけての道をV・ファーレンロードと名付けて、道路沿いのお店が自発的にもてなしているんですよ。アウェーのファンの方たちに、無料で地元産の豚肉の串を振る舞ったり、かきを焼いたりして迎えています。

岡田:すごいですね。

岩下:長崎は人口が減っていますから、来てもらえることがうれしいんでしょうね。私たちもその文化を大切にしていて、スタジアムやアリーナを設計する上でもホームとアウェーの差を作らないことを意識的に行っています。

岡田:人口の減少が社会課題としてある中で、スポーツをきっかけに長崎に触れていただく機会が増えることは、地域復興の起爆剤になり得ますね。

岩下:スタジアムシティができる場所は三菱重工さんの工場跡地なのですが、長崎市内の魅力的な場所なので、複数の応募があったと聞いています。その中でわれわれを選んでもらえたのは、単なる商業施設よりもスポーツ施設の方が街の活力になると期待していただけたからだと受け止めています。

伊藤:アメリカでは、バスケットの試合がある日は本当にお祭りみたいなんですよ。試合開始の1時間、2時間前から来て、まずバーで飲む。試合が終わってからもアリーナにそのままとどまって、お酒を飲んだり食事をしたり。アリーナに限った話ではなく、NBAの試合があると友人宅や、レストラン、バーに集まって試合を見る。本当に至るところでバスケットボールを楽しんでいます。

ヴェルカも同じように、もちろん1番はアリーナに来てもらいたいのですが、それ以外でもヴェルカの試合があるから、どこどこのバーにみんなで集まろうということが根付いていくといいなと思いますし、長崎はそれができると感じています。そういう意味でも、スタジアムシティができることはとても大きいことです。

岩下:スタジアムシティは大きなチャンスだと感じています。世界に向けて長崎の魅力や平和のメッセージを発信するためにも、サッカーも、バスケも、例えばACLの予選までは開催できる、バスケの世界大会が開催できるという建設基準を意識しています。

もともと年間数百万人の外国の方々が訪れる街なので、街のポテンシャルをうまく生かして、ビジネスと感動を両立できる仕組みづくりにチャレンジしていきたいと考えています。

(左)伊藤 拓摩 氏(中央)岩下 英樹 氏(右)岡田 明

左より)
長崎ヴェルカ  ゼネラルマネージャー 兼 取締役 伊藤 拓摩 氏
長崎ヴェルカ 代表取締役社⻑ 岩下 英樹 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター スポーツDXリーダー  岡田 明

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岡田 明

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EY Japanは、スポーツによるコミュニティの再蘇生を目的とし、人づくり、場づくり、コトづくり、ルールづくりに取り組んでいます。

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サマリー

ゼロイチでクラブを立ち上げ、B3初年度で優勝を決めた長崎ヴェルカの強さの秘訣は、その「人づくり」「コトづくり」「場づくり」にありました。
明確なビジョンを掲げ、地域への発信・巻き込みを丁寧に行い、スタジアムシティという場所づくりを着実に進める長崎ヴェルカの歩みは、スポーツを軸とした地域コミュニティ再蘇生のモデルケースといえます。

この記事について

執筆者 岡田 明

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター スポーツDXリーダー アソシエートパートナー

スポーツによる価値循環モデルの実現を目指す。