EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」が公開されました。本稿では、IAS第36号「資産の減損」に関連する論点の一部について紹介します。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士・サステナビリティ情報審査人 大野 雄裕
上場企業の経理部門を経て、2005年当法人に入社。国内及び外資系企業の会計監査に従事。16年から2年間、EYロンドン事務所に駐在。22年よりIFRSデスクに所属し、IFRS会計基準及びIFRSサステナビリティ開示基準の関連業務に従事。
要点
このたび、IFRSに関するEYの解説及び見解をまとめた「International GAAP® 2024」の日本語版として、「IFRS 国際会計の実務 International GAAPシリーズ 2024」を発刊しました。本刊行物は原著の英語版と同様に無料で利用できるPDFにて提供し、2025年2月を初回として、3年にわたって章ごとのPDFを定期的に公開することを予定しています。詳細はこちらをご確認ください。
IFRS実務講座では、2025年4月掲載より、2022年版からアップデートされている論点の一部を紹介しています。第3回となる本稿では、IAS第36号「資産の減損」(以下、IAS第36号)に関連する論点のうち、資金生成単位(CGU)に関連する論点を2つ紹介します。各論点の詳細は、「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」第20章を参照ください。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
IFRS第16号に基づき計上される使用権資産の多くは、個別の資産レベルではなく、CGUレベルで減損の評価が行われます。リース資産がおおむね独立したキャッシュ・インフローを生成するという場合もある一方で、企業の事業がサービス提供か財の製造かにかかわらず、多くのリース資産は、企業の主要な事業活動におけるインプットとして使用されています。
企業は、使用権資産の用途変更又は放棄を決定する際には、そのような決定をIAS第36号の観点からどのように評価しなければならないかを検討する必要があります。
IAS第36号第12項(f)は、資産が使用されているか又は使用されると見込まれる方法の著しい変化は、内部の情報源に基づく減損の兆候であると述べています。従って、使用権資産の用途を変更するという企業の決定(又はそうする以外の現実的な代替策がないという企業の結論)も、当該資産、資産グループ又はCGUが減損している可能性を示唆します。このことは、店舗の閉鎖が予定されている場合や、決定が使用権資産の減損を評価するレベルに影響する場合に特に該当します。減損の兆候が存在する場合、企業は当該資産又はCGUに対し減損テストの実施が求められます。
減損テストの実施に当たって企業はまず、減損テストをどのレベルで実施しなければならないかを評価する必要があります。使用権資産の想定用途を変更するという企業の決定により、用途変更がCGUの構成に影響するかどうかという問題や、またそうである場合、CGUの決定に対する当該変更をいつ反映するかという問題が生じます。使用権資産を放棄するか又は転貸するかという決定は、当該資産の性質及び使用方法に応じ、CGUの識別にさまざまな影響を及ぼします。例えば、小売店舗はそれぞれ個別のCGUであると判断されることが多く、対照的に、管理事務所はCGUに含まれる他の資産と一緒に減損テストの対象となるか、又は全社資産に分類され、それらが属するCGUに合理的かつ首尾一貫した基礎により配分されることが多いとされています。
CGUを更新する必要があると結論づけた場合、企業はまず、想定用途の変更がCGUの決定に影響する時点を評価しなければなりません。検討に当たり重要なのは、用途変更の決定が適切な権限を有する階層の管理者によって行われたかどうか、そしてこの決定がいつ行われたかです。決定権限を有する階層の管理者は、執行権を有する経営幹部や取締役会であることが多いです。加えて、企業が想定用途を変更する能力を有しているかどうか、又は貸手の承認が必要であるかどうかも評価することが求められます。
用途変更が及ぼす影響は、決定の時期によって異なります。特に、比較的大きなCGUの一部として使用される不動産リースの場合は、使用権資産が現在のCGUにおいていつまで使用されるのか、従って、当該CGUのキャッシュ・インフローの生成にいつまで寄与し続けるかを検討することが重要です。さらに、企業は残存リース期間の長さや、CGUの評価に関連するその他の事実及び状況があれば、それらも考慮しなければなりません。多くの場合は重要な判断が必要となるため、財務諸表における追加の開示が必要となる場合があります。
このように、企業は、使用権資産の用途を変更するという決定がCGUに、そして減損の評価を実施するレベルに及ぼし得る影響を評価する必要があります。すなわち、使用権資産の用途を変更する決定により、使用権資産の減損テストを個別に実施した結果、減損損失が認識される場合があります。また、意思決定から実際に用途変更されるまでの期間が短いほど、意思決定がCGUの識別に影響する可能性は高くなります。
小売業においてはいわゆる旗艦店を開設して運営していることがあります。その場合、旗艦店が減損テストを実施する目的上、個別のCGUであるか、及びどのキャッシュフローを減損テストに含めるべきかという疑問が生じます。旗艦店の公式な定義は存在しませんが、小売業では、旗艦店を何らかの共通の特徴及び目的を有するものとして識別されています。旗艦店は、特に立地、規模、内装、品ぞろえ、サービスとその目的、及び直接的なリターンに関する期待の点で他の店舗と異なることが多いとされています。
旗艦店に関して、共通する主な特徴には以下のような点があるとされています。
旗艦店は企業全体のブランド戦略に重要な役割を果たすことが多いものの、その売上の生成に係る性質は、IAS第36号のCGUの定義に基づいて評価することが必要であると考えられます。
おおむね独立したキャッシュ・インフローを生成する旗艦店はIAS第36号に基づくCGUの定義を満たすため、単独のCGUであるとみなす必要があると考えられます。他方、旗艦店が地域におけるブランドイメージの向上という機能を有し、同じ地域の他の店舗に便益をもたらしている場合、他の店舗からのキャッシュ・インフローは互いにおおむね独立しているとみなされないため、このような旗艦店を同じ地域の他の店舗と集約して1つのCGUとするという主張は可能です。実務において極めてまれではありますが、理論的には極端な例として、ある店舗が独立したキャッシュ・インフローを生成しない、又はわずかにしか生成しないように設定されていることがあり、企業の革新的な新製品を顧客に体験させることを主な目的とし、売上は他のチャネルから生成されることが期待される実験的な店舗のケースがあるとします。このような場合、当該店は全社資産の定義を満たすため、減損の評価は全社資産として行うことが考えられます。
旗艦店の中には、そもそも不採算となるよう予算が組まれていたり、他の店舗と同様のリターンを要求されていなかったりするもケースがあります。このようなケースでは、旗艦店の設置に対する経営者の投資決定は、通常、旗艦店が事業全体にもたらす便益を念頭に置いてなされています。このことにより、個別のCGUである旗艦店の使用価値(VIU)を算定する際に、事業全体への追加的な便益の供与を考慮しなければならないのか、また、どのように考慮しなければならないのかという問題が生じます。
旗艦店の追加的な機能はおおむねマーケティングであるため、当該機能を回収可能価額の算定において考慮する必要はないという見解があります。マーケティングに関する支出は通常発生時に費用処理されるため、旗艦店が不採算となるよう予算が組まれている場合、減損損失を計上することは必ずしも矛盾しないと考えられます。この見解では、企業はそもそも旗艦店に係る費用を資産計上することの是非を検討しなければなりません。
あるいは、VIUの算定時には、旗艦店の設置に対する経営者の事業上の根拠を検討すべきという見解もあり得ます。この場合、IAS第36号第71項のガイダンスを用い、他のCGUに提供されるサービスに対する独立第三者間取引条件による課金をVIUの計算に含めることが適切となる可能性があります。その目的は、他CGUに提供される便益について課金がある場合に旗艦店が生成するであろう金額を反映することです。首尾一貫性を確保するため、便益を享受するCGUがこれらの課金を各CGUの回収可能価額のモデルに組み込むことも必要となります。どのCGUが旗艦店からの便益を享受しているか、従って、どのCGUが提供されたサービスに対し課金されるかを決定するには、慎重な検討が必要となると考えられます。中には、企業の事業全体に一定水準の便益を提供する旗艦店もありますが、複数の旗艦店を有する事業の場合は特に、旗艦店はその所在する商業圏を支援している可能性の方が高いと考えられます。その場合、課金を組み込むのは支援される店舗に限定する必要があります。
このように、企業が旗艦店の減損を評価する際には、VIUの計算に独立第三者間取引条件による課金を組み込み、他のCGUに提供されるサービスを反映することが可能であると考えられます。また、首尾一貫性を確保するため、便益を享受するCGUのVIUを算定する際には、これらの課金を費用として反映する必要があると考えられます。
本稿では、「IFRS国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」でアップデートされたIAS第36号に関連する論点のうち、CGUに関連する新たな論点を2つ取り上げました。IAS第36号はCGUを識別するには判断を要することを認めており、今後も会計処理には留意が必要と考えられます。
「IFRS国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」では、本稿で紹介した論点以外にも記載が拡充されており、財務諸表作成者に限らずIFRS適用実務に関与するすべての方にとって必携となり得る刊行物と言えるでしょう。ぜひ、手に取っていただけますと幸いです。
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2025年2月に「IFRS 国際会計の実務 International GAAPシリーズ2024」(日本語版、無料)が公開されました。
「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」が公開されました。本稿では、IAS第36号「資産の減損」に関連する論点の一部である、CGU(資金生成単位)のうち、使用権資産の用途変更又は放棄の決定、及び、旗艦店に関する各論点について紹介します。
オンライン刊行物:IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ 2024
本刊行物は、EY発刊の原著である「International GAAP」の日本語版です。本刊行物は、クライアントとのIFRSに関する各種取組み、規制当局や基準設定主体、その他の専門家との議論を通じて培われた実務上の論点に対する解釈も含めて解説しています。
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