1. 戦略と整合性:戦略の優先順位を決め、オペレーティングモデルを構築する
すべてにおいて最高水準を目指したいと思うのは当然ですが、時間、コスト、リソース面の制約があるためそれは不可能です。財務部⾨の真の価値を引き出すには、業務分野ごとに異なる⽅法で⾼度な効率性と実効性を実現する必要があります。そこで重要となるのは、どの業務で卓越性を追求し、どの業務を外部に委託するかを⾒極めることです。例えば、すべてのサービスに共通する業務(保険数理モデルの構築、データソーシング、定型的な計算や記録など)は、⼀般的にアウトソーシングの有⼒な候補です。外部の企業に委託することで、コスト効率よく品質の⾼い成果をあげることができます。
⼀⽅、価値の創造と戦略的トランスフォーメーションに重点が置かれる場合は、アウトソーシングせずに自社内で最上級のパフォーマンスの発揮を追求することが有益です。こうした重点業務における成功が、競合他社との差別化につながる可能性があります。
また、事業が行われる場所の近くに置くことが最適なサービスもあれば、集中化できる、そしておそらくは集中化すべきサービスもあります。最も複雑なサービスは、CoEを通して提供することが最適かもしれません。CoEは通常、専⾨的なスキル、技術的な専⾨知識、標準化の経済性を活⽤して、特定のプロセスや機能を最適化します。⼀部の保険会社はCoEを利⽤して(データサイエンスなどの)新しいスキルのコミュニティを構築しています。また、専門的な会計、保険負債の計算、複雑な資産評価、税務などの特定分野のリソースをCoEとして確保している保険会社もあります。
2. ソーシングモデルとサービスモデル:代替的なリソースソリューションを活用する
シェアードサービスとオフショアのケイパビリティの拡⼤や変更も一般的な方策の一つです。先進的な保険会社は、もはやコスト削減のためだけに第三者に業務を活用しているわけではありません。今ではマネージド・サービスのビジネスケースには、業界固有の知⾒、深い専⾨知識や先進テクノロジーへのアクセスも含まれるようになりました。これは、基本的な業務以外にも当てはまります。税務、法定報告、保険数理業務のアウトソーシングは、多くの保険会社にとって魅⼒的な選択肢となっています。プロセス全体に加え、将来予測業務や計画⽴案業務までアウトソーシングされているのです。
今後は、最⾼レベルの実績をあげる財務グループの間ではアウトソーシングが⼀般的になると予想されますが、必ずしもすべてのサービスプロバイダーに、例えばエンド・ツー・エンドで部⾨横断的なプロセスの設計などに必要な業界固有の専⾨知識があるとはかぎりません。一方、業界有数のプロバイダーは、特定分野(保険数理、リスクなど)の専門知識も備え、その業界独自の税務上の問題に関する理解も深めていくはずです。最も強固かつ⽣産的なアウトソーシング関係を構築した保険会社は、委託先のプロバイダーを⾃社の業務の延長線上に位置づけ、リスクを共有し、お互いのインセンティブを一致させ、⾼度なコラボレーションを図るようになるでしょう。
3. 人材と文化:適正なスキルと適切な職場環境を確立する
財務チームが重点をシフトさせるにつれ、人材の争奪戦が激化する中にあっても組織全体のスキルセットと知識基盤を進化させることが財務部門のリーダーに求められるようになるでしょう。多くの保険会社は、人材の採用とつなぎ止めに取り組むだけでなく、必要なケイパビリティを確保するために既存の従業員の再教育と新たなスキル習得にも努めています。
将来、財務チームでは、テクノロジスト、データサイエンティスト、ビジネスアナリストが会計と保険数理の中核的なスキルを補完する役⽬を果たすことになるでしょう。今後、財務チームは多様な⼈材同⼠のコラボレーションを促す必要もあるでしょう。適切な人材に加え、考え方の多様性とインクルーシブな職場環境もまた、ビジネス上の優位性を高める一助となり得ます。
多くの保険会社は、アクチュアリーの知見を十分に活用しているかどうかを⾃問する必要があります。アクチュアリーは通常、豊富なビジネス知識と優れた解析能⼒を備えています。アクチュアリーの専⾨知識と専⾨技術を活⽤することで、財務部門が顧客と会社のビジネスのために情報(インテリジェンス)を⽣み出し、最終的には価値を創造する能⼒を⾼めることができるはずです。
4. データ、テクノロジー、プロセスおよび統制:最適化、一般化、最新化を図る
組織全体で、また第三者のサービスプロバイダーとの間で情報をシームレスに共有しやすくなるよう、将来のサービス提供モデルはテクノロジーとデータに裏打ちされものでなければなりません。ユーザーの信頼を⾼めるためには、オリジナルのデータ・ソースからレポートに⾄るまで、データ品質もモデルに組み込むことが不可⽋です。
継続的改善に関わる⽬標の達成を⽀えるため、分析、さまざまな切り口でのレポーティング、データの可視化といった機能をより多くのユーザーが利⽤できるツールを導⼊する保険会社もあります。こうしたツールの活⽤できる適切なスキルセットを備えることで、チームはより迅速にビジネスニーズに対応できるようになるはずです。
サービス提供モデルの変革には、プロセスの調整も必要となるでしょう。財務部門が新たな業務を導入する場合には特にそうです。新たなプロセスの導⼊に伴い、統制の枠組みも進化させる必要があります。具体的には、統制の簡素化と⾃動化を進めるとともに、予測的かつ予防的なものになるようデザインされる必要があります。それが、キャパシティを拡大し、新たなサービスに注力する後押しになるはずです。
本記事の作成にあたっては、EY UK CFO Consulting Senior ManagerであるNick Smithが協力をしてくれました。この場を借りて、感謝の意を表します。