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平成28年3月決算会社での有価証券報告書最終チェック

2016年5月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2016年6月号 会計情報レポート

会計監理部
公認会計士 浅井哲史
公認会計士 武澤玲子

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『会社法決算書の読み方・作り方(第10版)』『連結財務諸表の会計実務(第2版)』『会計処理アドバンストQ&A』『連結子会社の決算マニュアル』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

平成28年3月期の有価証券報告書提出期限は6月末までとされています。本稿では、提出期限を目前に控え、本年度の有価証券報告書作成に当たって留意すべき事項を、当期の会計及び開示の改正点、金融庁による有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の結果及び直近における重点テーマ審査項目を踏まえた留意事項の順に解説します。なお、文中の意見にわたる部分は私見である点を申し上げます。

Ⅱ 会計基準等の主な改正点と開示

1. 企業結合会計基準等

平成28年3月期から、平成25年9月13日改正後の「企業結合に関する会計基準」「連結財務諸表に関する会計基準」及び「事業分離等に関する会計基準」(以下、企業結合会計基準等)が原則適用となります。改正点は、表示に係る改正、会計処理に係る改正に分けられます。

(1) 表示に係る改正

企業結合会計基準等の改正に伴い、平成28年3月期から、<表1>のとおり連結財務諸表の表示科目が変更されました。

表1 表示科目の変更

この変更に伴って表示方法を変更している旨を注記することになりますが、当該注記は、会計処理に係る改正(後述(2)参照)を当期から適用する場合には、会計方針の変更として記載することが考えられます。一方、前期に会計処理に係る改正を早期適用していた場合には、表示方法を変更した旨を表示方法の変更として記載することが考えられます。
なお、経理の状況以外の部分についても、「主要な経営指標等の推移」の指標の一つであった「当期純利益」の名称が「親会社株主に帰属する当期純利益」に変更されています(その旨を脚注で記載することが考えられます)。

(2) 会計処理に係る改正

企業結合会計基準等の改正に伴い、取得関連費用の取扱い、暫定的な会計処理の確定の取扱い、非支配株主との取引の会計処理が改正されています。これらの改正を当期から適用する場合、会計方針の変更に関する注記を記載することが考えられます。また、平成27年3月期に企業結合会計基準等を早期適用していた場合、経理の状況以外の「主要な経営指標等の推移」において、前期の企業結合に係る暫定的な会計処理の確定を行ったときに、企業結合年度の数値にその影響を反映させる必要がある点にも留意が必要です。
なお、この改正に伴い、キャッシュ・フロー計算書の表示も<図1>のとおり変更されていますが、比較情報は組み替えないこととされています。

図1 キャッシュ・フロー計算書の表示

2. 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針)は、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用とされています。また、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から早期適用が可能となります。期末から早期適用する場合と翌年度期首から原則適用する場合のそれぞれにおける開示上の取扱いは<図2>のとおりです。

図2 回収可能性適用指針の適用時期と平成28年3月期の開示

なお、会計方針の変更による影響とは、回収可能性適用指針の適用に伴い、以下の定めを適用することにより、これまでの会計処理と異なる場合の影響を指します。

  • (分類2)でスケジューリング不能一時差異を回収可能としたケース
  • (分類3)で課税所得の合理的な見積可能期間を5年超としたケース
  • (分類4)の要件に該当する企業が(分類2)に該当するものとしたケース

また、連結財務諸表等の「その他」四半期情報の開示では、回収可能性適用指針の早期適用により会計方針を変更した場合、過去に提出した四半期報告書の数値を遡及(そきゅう)修正する方法、しない方法のいずれによることもできます。ただし、いずれの方法によったかを注記することが考えられます。
回収可能性適用指針を平成29年3月期の期首から原則適用する場合には、既に公表されている会計基準等のうち、適用していないものがある場合に記載する、未適用の会計基準等に関する注記の記載を検討する必要があります。

3. 税制改正と税効果会計に適用する税率に関する適用指針

平成28年3月29日に税制改正に係る法律が国会で成立し、同年3月31日に公布されました。これにより、法人税率、事業税率が引き下げられるとともに、繰越欠損金の控除限度割合が変更となっています。「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(以下、税率適用指針)では、期末日までに国会等で成立した税法による税率を税効果会計に適用することとされているため、平成28年3月期の税効果会計は新税率によることが求められます。
税率の変更により繰延税金資産(負債)の金額が修正された場合、その旨及び影響額を税効果会計の注記として記載する必要があります。また、繰越欠損金の控除額変更に伴う影響額の注記についても考慮する必要があります。
なお、税率適用指針は平成28年3月期から適用され、期末日までに公布された税率によるとされていた取扱いが変更されています。この変更は会計方針の変更に該当しますが、その影響は通常重要性が乏しく、会計方針の変更に関する注記の記載は不要と考えられます。

Ⅲ 金融庁による有報レビューを踏まえた留意事項

1. 平成28年度有報レビューにおける審査項目等

有価証券報告書の記載内容の適正性を確保する目的のもと、毎年、金融庁による有報レビューが行われています。有報レビューは、次の三つの柱からなっています。

(1) 法令改正関係審査

法令改正関係審査については、毎年の法令改正事項が対象となります。平成28年3月31日以降を決算日とする会社では、改正後の企業結合会計基準等が原則適用となっており留意が必要です。詳細は本稿の「Ⅱ1. 企業結合会計基準等」を参照ください。

(2) 重点テーマ審査

重点テーマ審査については、毎年特定のテーマが公表されています。平成28年3月期以降の会社を対象とした平成28年度有報レビューでは、工事契約に関する会計処理・開示等の4テーマが示されています。平成28年度有報レビューにおける重点テーマ審査項目を踏まえた留意点は<表2>を参照ください。

表2 平成28年度重点テーマ審査項目を踏まえた留意点

(3) 情報等活用審査

適時開示制度に基づいて開示された情報、マスコミ報道、金融庁にディスクロージャー・ホットライン等を通じて提供された情報を加味して審査対象会社が抽出されている状況であり、個別具体的な対応がなされるものと考えられます。

2. 過去の有報レビューにおける指摘事項

過去の有報レビューの重点テーマ審査項目は<表3>のとおりです。

表3 過去(直近3年間)の有報レビューにおける重点テーマ審査項目

過去の有報レビューの結果として公表されている内容を見ると、とりわけ注記情報の記載内容が不十分である点、会計基準や開示規則等の適用が誤っている点等が指摘されています。過去のレビューの結果を参考とし、有価証券報告書の開示上で特に留意すべき事項として考えられる主な内容は以下のとおりです。

(1) 企業結合等関係注記(関連する注記を含む)

  • 企業結合や事業分離等があった場合、必要な注記がなされているか
  • 連結キャッシュ・フロー計算書に関する注記事項において、企業結合や事業分離等に関する注記がなされているか

(例)

  • 株式の取得により新たに連結子会社となった会社の資産及び負債の主な内容
  • 現金及び現金同等物を対価とする事業の譲渡を行ったことにより減少した資産及び負債の内訳

(2) 退職給付関係注記等

  • 退職給付制度の概要の記載が実際に採用している退職給付制度と一致しているか
  • 退職給付制度の概要の記載内容と有報における他の項目の記載内容が整合しているか
  • 年金資産の主な内訳の記載において、大部分を「その他」としてまとめていないか
  • 年金資産の主な内訳として「オルタナティブ」として記載している資産に性質やリスクの異なる重要な資産を含んでいる場合、その旨の説明を行っているか
  • 重要性ある臨時に支払った割増退職金について、「退職給付に関連する損益」において開示しているか
  • 退職給付関係注記における未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の組替調整額と「その他包括利益に関する注記」に記載された組替調整額が整合しているか
  • 「コーポレート・ガバナンスの状況」において、退職給付信託として設定した株式のうち、みなし保有株式に該当するものを開示しているか

(3) 固定資産の減損に係る損益計算書関係注記

  • 回収可能価額(正味売却価額ないし使用価値)の算定方法の記載や減損損失等を認識した固定資産の内容を適切に開示しているか

(4) 金融商品注記(時価情報等)

  • 保有している金融商品(デリバティブ取引を含む)の内容、リスク、時価等の開示について記載が十分か

(5) セグメント情報等注記

  • 量的基準を満たす事業セグメントについて、その状況が一時的であると想定される等の理由により報告セグメントから除外していないか
  • セグメント情報の注記が、「経理の状況」以外の記載(例えば「事業の状況」の「研究開発活動」の記載や「設備の状況」の「主要な設備の状況」の記載等)と整合しているか
  • 複数の事業セグメントを集約している場合、その旨を記載しているか
  • 重要性基準を超えるため、注記情報として開示すべき「関連情報」の記載が漏れていないか

(6) その他

  • 重要性が乏しいとして記載の省略を検討している注記項目等について、金額だけでなく質的にも重要性が乏しいことが説明できるか
  • 特別損益項目については特別損益項目として開示することが適切か。また適切な科目名が利用されているか。さらに固定資産売却損益の記載については当該固定資産の種類又は内容を、その他の項目の記載については、その発生原因又は性格を注記により適切に示しているか
  • 引当金の設定対象とした費用ないし損失の内容や、当期に費用・損失を計上することの根拠の記載が十分かどうか

※有報レビューの概要及び実施の内容については、金融庁のウェブサイトにて公表されている。

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