EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY弁護士法人 弁護士・ニューヨーク州弁護士 北村 豊
EY弁護士法人 マネージングパートナー。前京都大学法科大学院 非常勤講師(税法事例演習)(2010~15年)。長島・大野・常松法律事務所(00~09年)、金融庁総務企画局政策課金融税制室 課長補佐(09~12年)を経て、EYグループに参加。法務・税務・会計その他の専門家が協働することにより付加価値の高いサービスを提供することができる税務訴訟、税務調査対応、金融取引に関する法務・税務等に注力している。
東京高裁は、平成26年6月12日、旧商法規定により株式を時価で消却することができない場合でも株式消却益を時価で消却したものとして益金に算入して法人税を課すべきか否かが争われた税務訴訟において、これを肯定する判決を下しました。この判決は、最高裁の上告受理申立不受理決定により確定しています。
法人に対して課される法人税の税額は、一般に、当該法人の各事業年度の「所得の金額」に税率を乗じて計算されます。この各事業年度の「所得の金額」は、「益金の額」から「損金の額」を控除した金額とされています。そして、「所得の金額」の計算上「益金の額」に算入すべき金額については、別段の定めがあるものを除き、一般に、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引に係る当該事業年度の「収益の額」とする旨定められています(法人税法22条2項)。
このように無償による資産の譲渡であっても、それに係る「収益の額」を「益金の額」に算入することとされているのは、法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加をもたらす反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額(時価)に相当する収益があるものとして課税すべきだからとされています。
この考え方に従えば、旧商法規定に基づく株式の消却は、株式の譲渡の一種と考えられるため、消却の際の払戻金額の有無にかかわらず、消却時における株式の適正な価額(時価)に相当する収益があるものとして、同額を「益金の額」に算入して法人税を課することになります。
ところが、本件においては、旧商法規定により、株式の消却に伴い株主に払い戻す金額の合計が減少すべき資本の額等を超えることはできないとされていました(旧商法213条1項、375条1項)。そして、消却時における株式の適正な価額(時価)は減少すべき資本の額等を超えていました。そのため、株式の消却の際に、消却時における株式の適正な価額(時価)を株主に払い戻すことは許されない場合でした。すなわち、もし株式を時価で消却すると、旧商法規定に反し違法となる場合であったといえます。
株主の立場からすると、消却時における株式の適正な価額(時価)には、旧商法規定上収受することが許されない金額が含まれていることになります。そこで、私法上収受することができない金額が含まれているにもかかわらず、消却時における株式の適正な価額(時価)に相当する収益があるものとして、同額を「益金の額」に算入して法人税を課することができるかが、本件の争点となりました。(<図1>参照)
この点について、裁判所は、次の理由から、株式の適正な価額(時価)中に私法上収受することができない金額が含まれているとしても、そのことをもって、直ちにその収益性を否定することはできないと判示しました。
すなわち、法人税が企業の経済活動によって稼得された成果(企業利益)を課税物件とするものであることに照らすと、法人税法22条2項にいう「収益」とは経済的な実態に即して実質的に理解するのが相当であり、また、このように解するのが同項の趣旨でもある租税の公平な負担の観念に合致することになります。
そして、法人税法においては、法人が保有する資産の評価換えによりその帳簿価額が増額した場合でも、原則として、その増額した部分(評価益)は「益金の額」に算入せず(同法25条1項)、保有している段階では課税しないとする一方、資産の売却等によりその支配を離脱したときには、収益としてこれに課税するという仕組みが採用されています(同法22条2項、3項)。従って、本件の株式の消却に伴い、その評価額である株式の適正な価額(時価)を「収益」として計上し、これを「益金の額」に算入することは法人税法上の当然の帰結というべきことになります。
本件は、法人税法上「益金の額」に算入して法人税を課すべきか否かの判断は、私法上収受することができる収益か否かの判断とは異なりうることを示す判例といえます。
なお、裁判所は、私法上収受することができない金額の「寄附金」(法人税法37条7項)該当性についても肯定しました。すなわち、私法上収受することができない金額のうち「寄附金」の損金算入限度額を超える金額は「損金の額」に算入できないものとしました。