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会計監理部 公認会計士 加藤圭介
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)などがある。
本稿では、平成29年3月期の有価証券報告書の作成に当たり、当期の会計基準等の主な改正による開示への影響、金融庁による有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の重点テーマ審査項目を踏まえた留意事項を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
平成29年2月14日に、内閣府令第2号「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部改正」が公布され、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)が改正されています。
開示府令の改正は、平成28年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の提言を踏まえ、「経営方針」について決算短信ではなく有価証券報告書における開示項目とするために行われたものです。
開示府令の様式において、「事業の状況」における「対処すべき課題」が「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に変更されるとともに、記載上の注意において、経営方針・経営戦略等の内容を記載すること、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載することが追加されています(第二号様式 記載上の注意(32)、第三号様式 記載上の注意(12)等)。
「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の欄の記載に当たっては、企業と投資者との建設的な対話に資するとの観点から、投資者の投資判断に必要な情報や対話に資する情報を、各企業がそれぞれの経営内容に即して記載することが考えられます。また、将来に関する事項を記載する場合には、当連結会計年度末現在において判断したものである旨を記載するとされていますが、記載事項が当連結会計年度末から提出日までの間に変更された場合には、変更された旨及び変更後の内容を記載することが考えられます。
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針)は、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用されています。
適用初年度の期首において、以下の3項目を適用するため、これまでの会計処理と異なる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことになります(回収可能性適用指針第49項(3))。
有報提出会社がⅡ 2.(1)に該当する場合には、連結財務諸表及び個別財務諸表のいずれについても会計方針の変更の注記を行いますが、連結子会社及び持分法適用会社でのみⅡ 2.(1)に該当する場合には、連結財務諸表にのみ会計方針の変更の注記を行うこととなります。従って、適切な注記を行うためには、有報提出会社のみならず連結子会社及び持分法適用会社が前記Ⅱ 2.(1)の3項目を適用したかどうかを確認する必要があります(<表1>参照)。
平成28年度税制改正を受けて、実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(以下、減価償却取扱い)が公表されています。従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理し、建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法について定率法を採用している企業が、平成28年4月1日以後に取得する当該すべての資産に係る減価償却方法を定額法に変更するときは、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うとされています(減価償却取扱い第2項)。また、前記以外で減価償却方法を変更する場合には、自発的に行う会計方針の変更として取り扱うことになり(減価償却取扱い第3項)、正当な理由(企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準の適用指針」第6項)に基づくものであることを説明する必要があります。
前記Ⅱ 3.(1)に従って、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、平成28年4月1日以後に建物附属設備又は構築物を取得したかどうかにかかわらず、連結財務諸表及び個別財務諸表において、次の事項を注記する必要があります(減価償却取扱い第4項、第18項なお書き)。
企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税に関する会計基準」(以下、法人税等会計基準)が平成29年3月16日に公表され、同日以後適用されています。
法人税等会計基準は、従来、監査・保証実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」等に定められていた取扱いを基本的に踏襲しており、実質的な内容の変更は意図されていないため、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しないものとして取り扱います。
実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」(以下、リスク分担取扱い)が平成29年1月1日以後適用されています。これに伴い、「退職給付に関する会計基準」等の関連する会計基準等及び財務諸表等規則、連結財務諸表規則とそれらのガイドラインの改正が行われています。
リスク分担型企業年金は、会計上の分類が確定拠出制度と確定給付制度のどちらに該当するかを判断した上で、その分類に応じ、会計処理及び開示を行うこととなります。
なお、連結財務諸表を作成している場合は個別財務諸表における注記は不要です。
例えば、次の内容を記載するとされています。
確定拠出制度に係る退職給付費用の額に含めて記載することとされています。
確定給付制度の開示(「退職給付に関する会計基準」30項、財務諸表等規則第8条の13、連結財務諸表規則第15条の8)に含めて行うものと考えられますが、企業の採用する退職給付制度の概要において、リスク分担型企業年金の概要の説明を行うことが考えられます。
確定給付制度の一部を確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金へと移行した場合には、追加情報として次の項目を注記することが考えられます。
有価証券報告書の記載内容の適正性を確保する目的の下、毎年、金融庁と財務局等との連携により有報レビューが行われています。
平成29年3月期に適用される開示制度の改正のうち、主なものは以下のとおりとされています。
内容の詳細については、「Ⅱ 会計基準等の主な改正による開示への影響」をご参照ください。
平成28年度の有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき点が公表されています。
過去の有報レビューの重点テーマ項目は<表2>のとおりです。
有報レビューでは、会計処理と開示の2つの側面から審査が行われますが、開示については、とりわけ注記事項の記載内容が不十分である点、会計基準や開示規則等の適用が誤っている点等が指摘されています。有価証券報告書の開示上で特に留意すべき事項として考えられる主な内容は次のとおりです。
平成29年度有報レビューにおける改正が行われた会計基準等の適用状況の審査は、次のテーマに着目して実施されます。
※リスク分担取扱い第12項、財務諸表等規則第8条の13の2、財務諸表等規則ガイドライン8の13の2、連結財務諸表等規則第15条の8の2、連結財務諸表規則ガイドライン15の8の2