情報センサー

小売・外食業における消費税インボイス制度導入に関する留意点


情報センサー2019年4月号 業種別シリーズ


EY税理士法人 税理士 奥山 奈美

EY税理士法人にて、日系及び外資系の事業会社や金融機関等に対する消費税の税務アドバイザリー業務に従事。消費税の適正化プランニング、税制改正対応や税務当局対応、クロスボーダー取引に関するアドバイス等を中心としたサービス提供を行っている。


Ⅰ はじめに

2023年10月1日より、複数税率制度の下で適正な課税を確保する仕組みとして、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入される予定です。新制度においては、「適格請求書」の保存が消費税の税額計算における仕入税額控除の要件となります。小売・外食業においては、税額計算の他に、請求書に関連するシステム、業務プロセス等の変更対応が必要になることが考えられます。国税庁から、インボイス制度に関する手引きやQ&A等、実務対応において参考になるガイドラインが公表されています。本稿では、18年12月までに公表されている当該ガイドライン等を踏まえ、小売・外食業に影響があると思われる主な取扱いの概要及び実務対応上の留意点について説明します。

 

Ⅱ 小売・外食業における留意点

1. 適格請求書と適格簡易請求書

「適格請求書」は、仕入側(課税事業者)の求めに応じて適格請求書発行事業者により交付されます。事業者は、売手側として仕入側が仕入税額控除をとることができるように、一定の登録手続きを行い、適格請求書発行事業者になることを選択するのが一般的と考えますが、この適格請求書発行事業者には、この交付義務及び交付した適格請求書の写しを保存する義務が課せられます。
「適格請求書」とは、次の①から⑥の事項が記載された請求書や納品書、その他これらに類する書類をいいます。複数の書類で相互の関連を明確にして記載事項を満たすことも可能です。また、仕入側が作成する仕入明細書等の場合でも、一定の要件を満たせば仕入税額控除が認められます。
なお、不特定多数の者に対して販売等を行う小売業等は、「適格簡易請求書」を交付することができます。その記載事項は①から⑤、このうち④の「適用税率」と⑤の「消費税額等」はいずれか一方の記載で足りますが、売上に係る税額について「積上げ計算」を採用する場合には(4. で説明)、「消費税額等」の記載が必要となることに留意が必要です。

適格請求書の記載事項

2. 適格返還請求書の交付義務

小売・外食業に多く見られる返品、値引き等において、適格請求書発行事業者は「適格返還請求書」を交付する義務があります。ただし、販売奨励金の精算のために仕入側が奨励金精算書等を交付する場合、適格返還請求書の必要事項がその精算書等に記載されていれば、販売側が改めて適格返還請求書を交付しなくても差し支えないこととされています。
なお、継続的に取引を行う相手方との値引き等においては、売上代金から差し引いて精算される場面が想定されます。値引き等の性質によって、どのような請求書等で対応すべきか、取引内容を確認する必要があります。例えば、販売促進目的で販売数量等に応じて仕入側に支払われる販売奨励金は「売上げに係る対価の返還」に該当し、原則として適格返還請求書の交付が必要になります。一方、仕入側が行った配送に対する配送料の場合には、仕入側が行う役務提供であるため、原則として仕入側からの適格請求書の交付が必要となります。なお、複数の請求書(例えば、適格返還請求書と適格請求書)の必要事項を一つの書類に記載することも可能とされているため、この点を踏まえ、請求書様式を検討することになるものと考えます。

3. 交付方法の特例

商品の委託販売を行う場合、一定の要件の下、媒介又は取次ぎを行う受託者が、委託者に代って、受託者の氏名又は名称及び登録番号を記載した適格請求書を買手に交付する方法をとることができます(<図1>参照)。

図2 消費税額の計算方法

なお、受託者が委託者を代理して、委託者の氏名又は名称及び登録番号を記載した委託者の適格請求書を買手に交付することも認められます(代理交付)。代理交付の場合、受託者は適格請求書発行事業者である必要はありません。例えば、店舗で配送業者の配送料を顧客から受け取るような場面でこのような交付方法が検討対象になり得ることが考えられます。

4. 税額計算と端数処理

(1) 税額計算

課税売上げ及び課税仕入れに係る各課税期間の税額計算は、「積上げ計算」又は「割戻し計算」の選択が可能となります(<図2>参照)。

図2 消費税額の計算方法

仕入に係る税額の「積上げ計算」においては、<図2>に記載する「請求書等積上げ計算」の他に、課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に10/100又は8/108を乗じて算出した金額を仮払消費税額等とし帳簿に記載している場合、その金額の合計額に78/100を掛けて算出する「帳簿積上げ計算」も認められ、これら二つの積上げ計算の併用も可能です。
売上に係る税額の「積上げ計算」を選択する場合、仕入に係る税額も「積上げ計算」を行う必要があります。
一般的に、切り捨てを前提とした端数処理の回数が多い方が集計値が小さくなることから、小売・外食業においては、売上に係る税額について積み上げ計算の採用が現状も多く行われていると思われます。新制度においては、仕入に係る税額の計算方法による違いや対応コストも踏まえ、採用する方法により税額や対応コストが大きく異なる可能性があることから、早期に検討しておく必要があるといえます。

(2) 端数処理

請求書等に記載する消費税額等の1円未満の端数処理は、1請求書あたり税率ごとに1回行うルールとなっており、商品ごとの端数処理が認められないことに注意が必要です。複数書類で適格請求書の記載事項を満たす場合には、どの書類で端数処理を行うのか、税額に影響する点も踏まえ対応を検討する必要があります。

5. 免税事業者との取引

消費者や免税事業者等、適格請求書発行事業者以外の者からの仕入については仕入税額控除ができません。仕入側において、販売側が適格請求書発行事業者であるかの確認等が必要となることに留意が必要です。
なお、一定期間は仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置があります。帳簿に経過措置適用を受ける旨の記載が必要です。

期間 2023年10月1日から2026年9月30日まで 割合 仕入税額相当額の80% 期間 2026年10月1日から2029年9月30日まで 割合 仕入税額相当額の50%

6. 電磁的記録の交付・保存

適格請求書発行事業者は適格請求書の交付に代えて、電磁的記録を提供することができます。提供した電磁的記録は、そのまま又は紙に印刷して保存する必要があります。紙の適格請求書を電磁的記録で保存することも可能です。電磁的記録の保存を行う場合、検索機能の確保等の一定の要件があるため、その確認や対応が必要です。
なお、仕入側が保存すべき請求書等の保存方法についても、販売側と同様です。現行は「3万円未満」及び「やむを得ない理由があるとき」は請求書等の保存がなくても(帳簿保存のみで)仕入税額控除が認められますが、新制度導入後は廃止されることに留意が必要です。

 

Ⅲ おわりに

インボイス制度導入により、請求書の様式や交付・保存方法、税額計算方法の検討や準備等、また、導入後にも仕入税額控除のための要件確認等、経理部門で対応すべき事項が大きく増えることが想定されます。対応事項の検討を早期から進めることが重要になると考えます。


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2019年4月号
 

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