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パーパスを踏まえた経営戦略を実現する上でのガバナンスの論点

2021年6月1日 PDF
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情報センサー2021年6月号 Trend watcher

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)
ストラテジー・アンド・トランザクション(SaT) 綱田壮己 

外資系コンサルティングファームを経て、2020年にEYパルテノンに参画。主に金融機関向けの経営・事業・サステイナビリティ戦略、事業ポートフォリオ管理、M&AやPMI、ガバナンス整備の業務を担当。SaTの銀行証券セクターリーダー。

 

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)
ストラテジー・アンド・トランザクション(SaT) 酒井雄太

日系大手生保、監査法人を経て、2020年にEYパルテノンに参画。主に金融機関向けの経営・事業・サステイナビリティ戦略、事業ポートフォリオ管理、M&AやPMI、ガバナンス整備の業務を担当。同社 シニアマネージャー。

Ⅰ はじめに

企業活動のグローバル化や、技術革新による産業構造変化、コア事業の競争力強化や新たな成長分野の獲得、またコロナ禍におけるニューノーマルやデジタルトランスフォーメーション(DX)促進によるビジネスモデルの変化など、経営環境は大きく変わりつつあります。

このような不確実性の高い経営環境下において、企業の存在意義を問うパーパス経営に改めて注目が集まっています。また、パーパスを浸透させ、企業価値向上や持続的成長を果たす経営戦略を実現するために、企業グループ全体での理念共有、事業評価、資源配分が求められることから、ガバナンスの重要性に改めて焦点が当たっています。

本稿では、経営戦略におけるガバナンスの重要性、実効的なグループガバナンス体制設計における留意事項について概観します。

Ⅱ 経営戦略の礎となるガバナンス体制整備

事業再編やM&Aなど、企業価値向上・持続的成長へ向けた経営戦略の次の一手へとつなげるためには、その礎となる実効的なガバナンス体制の整備が重要となります。<図1>に記載の通り、ガバナンス整備と事業再編やM&Aの経営戦略は別々のものではなく、循環しています。

図1 経営戦略の礎となるガバナンス体制整備

具体的には、実効的なガバナンス体制整備がされていればこそ、グループ全体の事業ポートフォリオを適切に管理・評価ができます。また、事業ポートフォリオの適切な管理・評価ができればこそ、事業状況のモニタリングを通じた減損などのリスクの早期察知や抑制ができます。適切な事業ポートフォリオ管理ができていればこそ、グループ全体の的確な事業分析や現状把握ができ、事業再編やM&Aなどの経営戦略の検討・実施へとつながります。

ガバナンスは「守り」との印象を持たれている方も多いかと思いますが、このように、ガバナンス整備は、経営戦略の次の一手のための重要な礎であることがお分かりいただけるかと思います。

Ⅲ 実効的なグループガバナンス体制設計における論点

それでは、経営戦略の礎となる実効的なグループガバナンス体制とは、どのようなものでしょうか。実効的なグループガバナンス体制の設計に際しては、企業グループのパーパスや企業理念を踏まえたグループ全体の方針・管理、個別のシナジー効果・事業ポートフォリオ管理を踏まえて検討を行うことが重要となります。

グループ全体の方針・管理においては、パーパスや企業理念を踏まえたガバナンス方針の策定・浸透や迅速な意思決定と一体的な経営体制に加えて、実効的な子会社の管理等の必要性から事業部への権限委譲と本社によるコントロールの最適なバランスの模索が求められます。また、事業部の分権化を進める場合には、業績モニタリングや人事報酬体系を通じた本社からのコントロールが重要となります。

個別のシナジー効果・事業ポートフォリオ管理においては、余剰資金の活用、信用補完による最適調達の実現と調達コストの低減等の財務的シナジーとコスト削減、スケールメリットの実現、販売・シナジー、ノウハウの共有等の事業的シナジーの最適なバランスの模索が求められます。また、グループ全体の経営戦略や事業計画に照らした事業ポートフォリオの管理体制構築が重要となります。

当然ながら、グループの拡大状態(国際化・多角化の進展)、外部環境・内部環境の変化等を踏まえ、グループ全体のガバナンス方針も随時見直し、更新されたグループ全体のガバナンス方針を子会社/関連会社へ落とし込み、ガバナンスを強化していくことが必要となります。

Ⅳ グループガバナンスの設計に当たっての留意事項

上記の論点を踏まえつつ、実効的なグループガバナンスの設計を実際に検討していく際には、①報告体制②目標設定・モニタリング③評価の三つの構成要素をどのように設計していくかが重要となります。

① 報告体制
グループ全体としての組織体制、親会社・子会社/関連会社それぞれの権限整理、人事権(役員の任免、報酬決定権)が適切に構築されているかが該当する。例えば、子会社/関連会社から親会社へ適切に報告・協議が実施される体制が、組織体制や権限という観点から整備がなされているか。

② 目標設定・モニタリング
事業計画の策定やKPIの設定、それらをモニタリングする体制、および実際のモニタリング(進捗(ちょく)管理)などが該当する。例えば、KPIを定期的に確認し、子会社/関連会社の業績下振れのリスクを早期に察知するような体制となっているか。

③ 評価
モニタリングに基づく業績・リスクの評価やガバナンス体制への評価などが該当する。評価結果を踏まえて、来期以降のガバナンス体制整備やモニタリング方法を検討ができる体制となっているか。

つまり、これらの構成要素が適切に循環し、機能することが実効的なガバナンスには不可欠といえます。

これらの構成要素の検討に当たっては、例えば組織関連、リスク管理、コンプライアンス、人事、管理会計、制度会計、資金、税務管理などの業務領域それぞれにおける報告体制/目標設定・モニタリング/評価の現状確認や在り方を検討していくことが想定されます。具体的には、これらの軸それぞれにおいて、親会社と子会社/関連会社における論点整理を行います。論点を整理する際の視点としては、各軸における親会社のコントロール度合い(集権・分権・分権的統合)やコントロール方法(体制、規程類の整備状況、モニタリング内容・頻度)などが挙げられます。

これら視点からの論点整理を行い、論点を踏まえてグループとしてのポリシー・ガイダンスの策定や標準化を検討していくこととなります。

なお、これらの検討に当たっては、特に海外の子会社/関連会社が対象となる場合には、本社と子会社/関連会社の経営力や文化の違いなどに鑑み、事業規模、業態、地域、基本思想などを踏まえたグループ経営における子会社/関連会社の位置付けと監督・管理のバランスを考慮することが必要となります。
(<図2>参照)

図2 ガバナンスのイメージと構成要素

Ⅴ おわりに

本稿では、パーパス経営に注目が集まる中で、改めてその重要性が認識されているガバナンスに焦点を当て、パーパスを踏まえた経営戦略を実現する上でのガバナンスの論点を概観しました。記載した論点はいずれも、パーパスや企業理念がベースとなるものであり、その検討にはさまざまな知見を要するものです。

EYでは、これらの論点を踏まえ、ガバナンス構造のアセスメント、報告・モニタリング体制の整備、海外を含めた競合他社とのベンチマーク比較、事業ポートフォリオの構造分析、事業再編戦略策定、M&AにおけるPMIなどのご支援を数多くの企業へご提供しています。

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