2022年3月31日
製薬業におけるTCFD対応とサステナビリティに関する視点

製薬業におけるTCFD対応とサステナビリティに関する視点

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2022年3月31日

コーポレートガバナンス・コードの改訂により、上場企業はサステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示することが、プライム市場上場企業はTCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実させることが求められています。本稿では、製薬業における対応について解説します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 ライフサイエンスセクター 公認会計士 鶴田雄介

一般事業会社勤務を経て当法人に入所。入所以来十数年にわたり国内外のライフサイエンス系企業へのサービスを中心に担当。2013年から15年までEYニューヨーク事務所へ出向。現在は会計監査業務に加え、サステナビリティ開示関連業務や次代のデジタル監査・保証ビジネスモデルの構築を目指す当法人アシュアランスイノベーション本部の業務を担当している。

要点
  • コーポレートガバナンス・コード改訂に伴い、多くの製薬会社がTCFD対応を進めています。
  • 環境影響の側面からは、他のハイリスク業種と比較して製薬業への影響は大きくありませんが、一定の影響があります。
  • 製薬業の特性上、サステナビリティに関する視点としては環境的価値のみならず社会的価値の視点も考慮することが重要です。

Ⅰ はじめに

2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、上場企業は経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取り組みを適切に開示すべきとされています。また、プライム市場上場企業は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく気候変動に関する開示の質と量の充実を進めるべきとされており、本稿の執筆時点において、製薬業を含む多くの日本企業が対応に努めています。

Ⅱ 製薬業における環境影響とTCFD対応

1. TCFD提言の概要

TCFDの提言の要素は、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4点であり、11の項目の情報開示が推奨されています※1。中でも、戦略(特にシナリオ分析)については業種ごとの特徴が出やすい領域であり、TCFD対応の中核をなすものです。なぜなら、長期的で不確実な経営課題である気候変動によるリスク及び機会に対して、企業の経営戦略がどのように適応し得るかについて情報開示することは、投資家が企業の気候変動に対するレジリエンスを評価する上での重要なステップであると考えられるからです。

2. 製薬業における気候関連のリスク及び機会の特徴

戦略の開示を検討するに当たっては、気候関連のリスク及び機会の識別が前提となりますが、TCFD提言では、気候関連リスクを二つの主なカテゴリー、すなわち低炭素経済への移行に関連したリスク(移行リスク)及び気候変動の物理的影響に関連したリスク(物理的リスク)に分類しています。そこで、以下ではTCFD提言の整理に沿って、①移行リスク(<表1>参照)、②物理的リスク(<表2>参照)、③機会(<表3>参照)の順に製薬業における気候関連のリスク及び機会の特徴を要約します。

表1 ①移行リスク※2
表2 ②物理的リスク※2
表3 ③機会※2

Ⅲ 社会的価値の側面から製薬企業がサステナビリティに関連して重視すべきと考えられる視点

全体として、環境負荷の側面に対して製薬業が与える影響は、エネルギー、運輸、素材・建設、農業・食料・林業などの業種と比較してそれほど大きくないと言えるでしょう。一方で、製薬業の特性上、これらの環境的負荷の視点に加え、「責任あるイノベーション」「アクセスとアフォーダビリティ」「信頼性と品質」などの社会的価値の視点の重要性も高いと言えます。したがって、製薬業がサステナビリティに関する取り組みや開示拡充の検討を行うに当たっては、これらの視点も考慮することが重要です(<表4>参照)。

表4 社会的価値の側面から製薬企業がサステナビリティに関連して重視すべきと考えられる視点

出典:バイオ医薬品企業がサステナビリティを重視して長期的成長を遂げる方法
   ey.com/ja_jp/life-sciences/how-biopharmas-can-create-long-term-growth-focusing-on-sustainability

Ⅳ おわりに

サステナビリティ開示の領域においては、「国際サステナビリティ基準審議会」の創設が行われるなど、特に欧州を先頭に非常に速いスピード感で議論が進展しています。日本においても「サステナビリティ基準委員会」の設立が決議されるとともに、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報のさらなる開示要求(義務)などについても活発に議論が行われています。日本の製薬企業は、TCFD対応や統合報告書開示において、先進的な取り組みを行っている企業も多く、製薬業界ばかりでなく、他の業界からもその動向が注目されていると言えるでしょう。

※1 TCFD提言に関するさらなる詳細は、本誌Vol.171(2021年12月号)「求められるTCFDへの対応」を参照。

※2 <表1>から<表3>は、本稿執筆時点における国内大手製薬会社各社の統合報告書・ウェブサイトなどの開示情報を元にEYが整理して作成。

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サマリー

コーポレートガバナンス・コードの改訂により、上場企業はサステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示することが、プライム市場上場企業はTCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実させることが求められています。本稿では、製薬業における対応について解説します。

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