10 分 2020年9月30日

            露天掘り鉱山の上空を飛ぶドローンヘリコプター

鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティ トップ10 ̶ 2021

執筆者 Paul Mitchell

EY Global Mining & Metals Leader

Experienced mining and metals leader. Contributing insightful points of view to the market around productivity and digital.

投稿者
EY Japanの窓口

EY Japan エネルギー・資源リーダー EY Japan株式会社 パートナー

アンドリュー・カウエル / グローバル規模で点と点をつなぐ「Global dot connector」。

10 分 2020年9月30日

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  • 鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティ トップ10 ̶ 2021

ディスラプションの継続が鉱山事業者に新たなリスクと機会をもたらしました。2021年、成功の鍵となるのは、ディスラプションへどのように対処するかということです。

要点
  • ディスラプションにより、世界の鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティのランキングが入れ替わりましたが、依然として操業許可が第1位となっています。
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応を目的とした変革が、デジタルトランスフォーメーションを加速させ、安全性と生産性を高める機会を生み出しました。
  • こうした機会を捉えてリスクを軽減するには、鉱山事業者が積極的かつ協力的にこの進歩を加速させ、不安定な未来に向けて再構築を行う必要があります。

鉱業・金属セクターのリスク トップ10に関する昨年のレポートにおいてインパクトの大きなリスク(めったに起こらないが致命的な影響があるリスク)の可能性を挙げた際に、2020年に何が起こるかを誰が予測できたでしょうか。間もなくこの鉱業・金属セクターにディスラプションが生じるだろうと予想しましたが、その時点では、さまざまなディスラプションを加速させるような世界的パンデミックが発生しているとは予想もしていませんでした。

新型コロナウイルス感染症が2020年の主要な問題であることは明白であり、2021年も鉱業・金属セクターを含め、すべての業界に影響を及ぼすことになるでしょう。本レポート作成時点において一部の市場では回復傾向が見え始めていますが、他の市場、特に重要な鉱業地域の多くは影響を強く受けています。

2021年のレポートでは、新型コロナウイルス感染症がセクターに及ぼす影響に焦点を当て、このパンデミックが多くのリスクを高めただけでなく、新しい機会も生み出したことを明らかにしています。

鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティ トップ10

感染拡大は極めて壊滅的な事態となっていますが、鉱業・金属セクターはその影響に適切に対応しており、その要因として以下の事項が挙げられます。

  • 人々の健康と幸福を優先する安全第一の文化
  • 適切なチェック体制とバランスの取れたアジャイルな変更管理を可能にする優れたガバナンス
  • 政府、鉱業・金属業界、医療機関やコミュニティが協力し、先行する適切な対応に従っていることを確認
  • パンデミック対策を効果的で一貫したものにするために、専門家のアドバイスに基づいて、オペレーション全体を変更してきたこと

これらの対応により、多くの鉱山は現場の人員が少なくなったにもかかわらずコロナ禍においても操業を続け、生産性を維持しました。しかし新たなプロセス、手続き、手順、健康診断機器や従業員のサポートなど、ビジネスの継続は費用負担の増加を伴うものとなっています。

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第1章

操業許可

操業許可(LTO)は、鉱山事業者にとって依然として第1位の問題です。

2020年のディスラプションによって順位は変動しましたが、操業許可(LTO)は鉱山事業者にとって依然として第1位の問題であり、回答者の63%が上位3つに入るリスクとして回答しています。EYでも、ステークホルダーの関心や要求の高まりとともに、一層重大な問題になると予想しています。効果的な関与がさらに重要になるにつれ、鉱山事業者は以下3層のコミュニティを検討する必要があるとEYでは考えています。

  • 地域コミュニティは、鉱山事業者が先住民の権利と地位をどのように尊重するかについて、より大きな期待を抱くでしょう。
  • 国内コミュニティでは、鉱山事業者が誰に、どのような目的で販売するかについての議論が増加している中で、資源ナショナリズムへの回帰が強まる可能性があります。
  • ポストコロナの社会経済的問題が浮き彫りになるにつれ、より広範なコミュニティの取り組みに関心が集まるようになるでしょう。コミュニティに資産の所有権を提供するという圧力が高まる可能性があります。

鉱山事業者は、政府や鉱業セクターの業界団体と協力して、鉱業セクターから得られる社会貢献と価値のメッセージをより強く打ち出す必要があるでしょう。ブランディング方針を変更する強い必要性が生じています。投資家は非財務的価値を理解しようとしているためであり、資本やその他の資金源を獲得するための鍵となります。

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第2章

インパクトの大きなリスク

新型コロナウイルス感染症は、企業の屋台骨を揺るがすようなリスクに備えることの重要性を浮き彫りにしました。

昨年のレポートでは、企業の屋台骨を揺るがすようなリスクは、めったに起こらないため調査の対象となることはあまりないものの、毎年同じ形でリスクとして認識されると指摘しました。

2020年、新型コロナウイルス感染症は、こうしたインパクトの大きなリスクへの理解と見直しが重要であることを明確に示しました。特に、リスクを適切に管理する企業の能力と操業許可との間に重要な関連性があります。企業がインパクトの大きいリスクすべてのエクスポージャーに対してどのように準備、管理および監視するか、コロナ禍の経験を通してステークホルダーの期待が高まっています。

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第3章

生産性とコスト上昇

経済の不確実性の継続と新型コロナウイルス感染症関連費用により、コストへの圧力が高まっています。

複雑さが増し、混乱した供給と経済の不確実性の継続が需要に与える影響によってコモディティ価格が圧迫される中、コストと生産性の上昇は依然として注目されています。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響はさまざまで、予期せぬコストを要する新たな制限や、生産性を阻害していた障壁を取り除くための対応がされています。EYは、長期間にわたってこの問題に効果的に取り組むには、バリューチェーン全体のコストと生産性において真のエンド・ツー・エンドに注力する必要があると考えています。

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第4章

脱炭素化と環境アジェンダ

資本をめぐる戦いを制するためには、好機を捉えてサステナビリティに注力することが必要となります。

パンデミックを受け、社会的責任とより広範なステークホルダーの要求が強まるようになり、脱炭素化と環境アジェンダは一層重要な問題になりました。

温室効果ガス(GHG)排出量の削減に対する圧力は、鉱業・金属企業にとって依然として最大の環境問題ですが、GHG削減の貢献量はコモディティによって異なります。大手企業は直接排出物の脱炭素化アプローチに取り組み始めていますが、現在の排出削減目標の多くはパリ協定に準拠しておらず、ほとんどの鉱山事業者がバリューチェーン全体の環境への真の影響を把握していません。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、鉱山事業者にとって事業の在り方をリセットする機会となったはずです。環境、安全、ガバナンスの問題に一層注力する企業は、操業許可を強化し、資本の争奪において競争優位を獲得することができます。

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第5章

地政学的リスク

世界的なパワーバランスの変化によって、鉱山事業者の操業上のダイナミクスが変わりつつあります。

このリスクは今回トップ10入りしたものであり、近年の地政学的な不確実性の影響の高まりを反映しています。EYジオストラテジーレポート1 の世界の経営層に対する調査では、経営者が自社に最大の影響を与えると予想する地政学的問題は、国際システムにおける米国の役割の変化、EUの安定性、および米中関係であることが分かりました。

この評価は世界における巨大経済圏間の勢力均衡の変化を反映しています。米国は世界秩序のリーダーシップの観点からリポジショニングし、中国は地政学的により大きな役割を果たしており、欧州はさらに結合力のある影響力の行使を目指しています。新興経済圏がその結合力を強めるにつれ、それら経済圏間の関係は不安定になる可能性があります。

この変化する地政学的状況は、鉱業・金属企業の多くのダイナミクスを変化させています。国内生産者を支援し、資源がもたらす富の公正な分配を受け入れ国が確実に受け取れるようにする経済的保護主義への傾向は、多くの地域でより顕著になるでしょう。

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第6章

資本アジェンダ

支出に対して慎重になることでバランスシートは強化されましたが、より大胆な投資決定はより大きな利益をもたらします。

今回の危機の間、鉱山事業者はキャッシュを厳重に管理してコア資産の運用を優先し、必須ではないまたはコアではない資本支出を縮小または削減することにより、流動性を最適化しました。

強力な投資規律は、鉱山事業者がボラティリティを乗り切ることを助けますが、大胆な投資決定を行い、リスクを高めに取ることで、中長期的に大きな利益を得ることができます。これを達成するためのアプローチは、過去に展開されたものとは根本的に異なる可能性があります。鉱業企業は、リスク選好度と資本配分へのアプローチを評価して、新しい機会を逃さないようにする必要があります。

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第7章

仕事の未来を加速させる

今回のパンデミックは企業文化に変化をもたらし、仕事や働き方の変革を加速させた可能性があります。

昨年のレポートでは第2位だったリスクが、今回は第7位に順位を落としています。リスクの重要度が低下したからではなく、鉱山事業者がその問題に対処できるという自信をつけていることがその理由です。鉱山事業者は、パンデミックの間に労働者の安全性に関するコミットメントを明確に示し、健康の保護や現場での感染リスク軽減を目的とした迅速な行動をとりました。

現在ではリモートワークやバーチャルチームの活用が進み、従業員の安全性・生産性・つながりを維持することにより、危機を超えて付加価値をもたらす可能性があることを企業は認識しています。今回のパンデミックは鉱業・金属企業の企業文化に変化をもたらし、仕事や働き方の持続可能な変革の新たな好機を生み出しました。調査した鉱業・金属企業の経営層の約80%が、新型コロナウイルス感染症の影響が、企業の変革を後押しすることを期待していると述べています。

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第8章

ボラティリティ

経済の不確実性が高まり、需要についての長期的な意思決定を行う鉱山事業者の力量が試されています。

ボラティリティが今年のトップ10に新たに加わりましたが、これは、新型コロナウイルス感染症が世界のコモディティ市場に与えた影響を反映しています。パンデミックによって短期的にサプライチェーンは大混乱し、需要に関する継続的な不確実性が生み出されました。

中国の急速な景気回復は鉄鉱石の需要を維持し、金と銀は安全資産としての地位を保持していますが、将来のディスラプションにより、この変化が加速する可能性があります。コモディティ価格の激しいボラティリティの回復、代替資源の脅威および顧客の需要の変化により、鉱山事業者は持続可能で長期的な意思決定を行う必要があります。

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第9章

デジタルとデータの最適化

鉱山事業者は、今回の危機を通じてデジタルトランスフォーメーションのさらなるメリットを実感しています。

デジタルとデータの最適化は前回リスク第3位でしたが今回は第9位となっており、鉱山事業者がデジタルについて自信を深めていることを示しています。これは、重要度の低いリスク(または機会)とみなされているためではなく、デジタルを取り巻く問題の多くが大規模な鉱山事業者にとってはすでに「通常のこと」になっているためと考えます。多くの鉱山企業では、デジタルロードマップの2年目から3年目に入っており、デジタルトランスフォーメーションが複雑になるにつれ、企業にとっての価値がより明確になってきています。

新型コロナウイルス感染症の影響は、自動化、AI、ブロックチェーンなどさまざまなテクノロジーが、事業継続性を確保する上で役立つ利点を強調しています。すでにデジタル化の推進に投資していた企業は今その恩恵を受けており、パンデミックを超えて競争力を維持し続けるでしょう。

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第10章

イノベーション

協働的なイノベーションの範囲を広げ、より大きなものとするための条件が整いました。

鉱山事業者には、特に新型コロナウイルス感染症に対処するためのセクターの急速な転換を経たことで、イノベーションアジェンダの範囲を広げ、有効性を高める多くの好機があります。今回のパンデミックは、イノベーションへのリソースから市場へのアプローチを採る方法に関する貴重な教訓を提供しました。この影響に対処するため、バリューチェーン全体でイノベーションが増加し、ソリューションがさらに実装され、多くのイノベーションプロジェクトが急速に実現しています。

新型コロナウイルス感染症は、鉱業・金属企業間のコラボレーションを強化する触媒としても機能し、問題に対する創造的でアジャイルなソリューションを生み出しました。このセクターは今、このコラボレーションを拡大する大きな好機に直面しています。新製品や新技術の共同展開、デバイスの販売拡大を超えたイノベーションの適用による共有インセンティブと報酬の開発、またその結果としてのビジネスシステムや慣行の根本的な変化など、個々の企業、セクター全体、コミュニティに短期的および長期的な重要な価値をもたらすことができます。

サマリー

新型コロナウイルス感染症によって生じた不確実性、コモディティ価格の大きな変動、地政学的緊張などの要因により、鉱山事業者の2021年のリスク&オポチュニティのトップランキングに変動が見られました。パンデミックによって、企業責任に関するステークホルダーの期待が高まるにつれ、操作許可、ディスラプション、環境・安全性・ガバナンスのすべてがより重要な問題になっています。破滅的な状況をもたらした今回のディスラプションは、鉱業・金属セクターが長らく先延ばしにしていた構造変化を進め、将来の同セクターを再構築することになる変革プロジェクトを加速させる機会を生み出すはずです。

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執筆者 Paul Mitchell

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