- 事業ポートフォリオが再構築され、日本企業(※1)の53%が今後12カ月間に買収を計画
- M&Aへの強い意欲は不確実性によって失速するのではなく、むしろ加速している
- EU離脱をめぐる不確実性にもかかわらず、英国が過去10年で初めてグローバル企業の間で投資候補先1位に輝く
EYが日本を含む47の国と地域における2,900名以上の経営層を中心とした対象に、年2回実施している「第20回EY グローバル・キャピタル・コンフィデンス調査」によると、地政学上の懸念が増大しているにもかかわらず、グローバル企業(※2)のM&Aの取引意欲は過去10年で最高のレベルとなっています。企業は引き続き買収を活用して、増加する不確実性の中で、将来の成長の基盤を構築していこうとしています。グローバル企業の約60%(前年52%)、日本企業の経営層の53%(前年50%)が今後12カ月間に買収を計画していると回答し、2018年4月の調査から上昇しています。
また、グローバル企業の経営層は、競合他社も同様に買収を積極的に検討していくと見ており、日本企業の経営層の94%が今後12カ月間でグローバルのM&A市場が上向くと予想しています。これは2018年4月の調査時の回答87%を上回っています。
M&Aに対する意欲を下支えしているのは、これまで以上に広範な企業の景況感です。多くのエコノミストがより緩やかな成長を予測しているのとは明らかに対照的に、また地政学上の不安定要因を認めつつ、グローバル企業の経営層は、マクロ経済環境に対してより明るい見通しを持っています。圧倒的多数(93%)の経営層が、世界経済は上昇傾向にあると考えています。こうした明るい見通しは、一年前の調査(73%)に比べて約20%も上昇しています。経営層のこのような強気な見方は、自社の将来の業績見通しを前向きに評価していることからもうかがえます。日本企業の経営層の73%が、今後12カ月間の自社の売上成長率を前年比6%~15%増と見込んでいます。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社(以下、TAS) 代表取締役会長 ヴィンセント・スミスは次のように述べています。
「買収への高まる意欲は、経営層が成長路線の追求にフォーカスしていることを明確に示すもので、それは自社の将来の業績を強気に予測していることからもうかがえます。もちろん市場には不確実性もありますが、多くの経営層にとって、M&Aディールに関与していくことは、自社の事業ポートフォリオを迅速に転換・展開していくため、そして自社の将来の成功を保証するための重要な手段となっています。各セクターや業態で進みつつあるディスラプションは、M&A活動を失速させているのではなく、むしろそれを加速させているのです。」
経営層はM&Aディールと成長にフォーカスしている一方で、リスクに対する警戒も怠っていません。日本企業の経営層の33%が、すぐにそうなるとは考えてはいないものの、経済減速の可能性を自社の成長に対する一番の不安材料に挙げています。また、日本企業の24%の経営層が、地政学上、規制上、および貿易上の不確実性を最大の外的リスク要因と見なしています。
※1:日本企業=今回の調査で回答のあった企業のうち、日本に本社を置くグローバルで展開している企業
※2:グローバル企業=上記※1日本企業を含むグローバルでビジネスを展開している企業。本調査では全回答者がこれに該当する
ポートフォリオを再構築して将来を塗り替える
今回の調査では、グローバルの企業はディスラプションのプラス面の機会を積極的につかむこと、およびリスクを統制することに、これまで以上に注力していることがわかりました。ディスラプションとイノベーションが加速していく中で、事業ポートフォリオの見直しもより頻繁に行われるようになっています。
6割を超える日本企業(63%)の経営層が、事業ポートフォリオの見直しを3カ月ごとに行っていると回答しています。企業は事業ポートフォリオを頻繁に見直すことにより、投資や買収のターゲット領域をスピーディーかつより上手く特定し、売却すべきアセットを認識し、資本配分戦略を磨くことができます。
また、物言う株主からのプレッシャーも、事業ポートフォリオの見直しに拍車をかけています。こうした圧力により、企業は、事業展開や海外進出戦略の見直し(17%)、ダイベストメント(事業売却)の検討(34%)といった戦略を検討するようになってきています。また、経営層のほぼ半数(49%)が、物言う株主からのプレッシャーによって買収の検討を迫られていると答えています。
スミスは次のように述べています。
「企業は将来の発展を担保するために、買収や資産売却を通して積極的な事業ポートフォリオ転換を行っています。デジタルが可能にした非常にスピーディーに変わりつつある世界においては、最も大きなリスクや脅威をチャンスに転換しようとすることが、多くの場合、イノベーションにつながるのです。」
事業ポートフォリオの再編と最適化の実行を適宜行うことが成長戦略と経営資源の適正配分には不可欠
日本企業の経営層の29%が不採算部門の特定や売却すべき資産の特定に、最近行った事業ポートフォリオの見直しが有効であったと回答しています。
TAS日本マーケッツ統括、シニア・パートナーの田村晃一は、このことについて次のように述べています。
「日本において、大手商社を含むグローバルに展開する多国籍企業グループが大きな転換期を迎えており、事業のポートフォリオを見直していることを日々感じています。大手企業が戦略的に自社の事業ポートフォリオを"Reshape"(事業の変革)すること、そして再編・転換することが積極的に始まっています。特に上場している複合企業の子会社などで変革の速度が上がってきており、それはカーブアウトやスピンオフ、さらには公営企業の民営化などにつながるのです。潤沢な資産を持つグローバル・エクイティ・ファンド等は、そのようなカーブアウトや大手多国籍企業の複合事業の再編などに積極的に参画し、投資を行っています。結果として日本のビジネスの国際競争力は強化され、企業グループの形態は今までにない形で変わっていくでしょう。」
英国が投資検討先の第1位に輝き、中国は米国にも目を向ける
欧州連合(EU)離脱をめぐる不確実性が続いているにもかかわらず、英国は10年前の調査開始以降初めてグローバル企業の投資検討先の第1位となりました。過去最低を記録した2016年10月の第7位から躍進し、2014年以降トップの座にあった米国を追い抜きました。英国に次ぐ投資候補先は米国、以下、ドイツ、中国、フランス、カナダ、インド、オーストラリア、ブラジル、そしてアラブ首長国連邦という順となりました。
現在の不確実な状況からすると、英国のこの順位を意外と思う人もいるかもしれませんが、2016年のEU離脱をめぐる国民投票以降も同国のM&A活動は堅調に推移していました。 2018年、英国におけるM&Aはグローバル全体の10%(総額4000億米ドルに相当)を占め、内外からのディール活動で英国内の合併が増大したことにより、同年の英国のM&A活動は、金融危機以来の好調な一年となりました。
もうひとつ予想外だったのは、中国が投資候補先のトップ5に返り咲いたことです。中国市場へのアクセスの課題や、米国およびEUとの貿易関係悪化が憂慮されている中で、意外な結果となりました。また、保護主義をめぐる問題にもかかわらず、中国を含む、最も積極的にクロスボーダー投資を行なっている10カ国中、9カ国の投資家が、投資検討先の第1位として米国を選びました。
日本企業の経営層は投資検討先として日本、米国、中国、英国そしてフランスを挙げています。
スミスは次のように述べています。
「地政学上の問題が重大な課題を生んではいるものの、経営層は認識されている障壁を克服し、自社の長期的な戦略目標を後押しする市場でのプレゼンスを確保・拡大していこうと堅く決意しています。ナショナリズムの高まりが政治論争に火をつける可能性がある一方、テクノロジーによって世界は狭まり、経営層は引き続き、成長を目指して海外に目を向けています。」
すべての道がM&Aにつながる
経営層は自社のM&A戦略が熾烈な競争に直面すると予想しており、 86%の経営層が来年は敵対的、競争的な買い付けが増加すると見ています。 同時に、91% がプライベートエクイティによる資産競争が激化すると予想し、85%の経営層が、メガディール($100億米ドル超の規模の取引)が増加すると見込んでいます。
スミスは、次のように述べています。
「世界的な金融危機の直後にスタートした、10年前の『第1回EYグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査』には、様々な市場に広がった深刻な不安が反映されていました。 当時と現在の重要な違いの1つは、不確実性に対する経営トップの見方です。 2009年、企業の経営陣は不確実性によって身動きのとれない状態でした。 今日、不確実性こそが彼らの活動の源となっています。 2019年の経営陣は、積極的にリスクを管理し、ディスラプションがもたらすポジティブな面を手に入れることに集中しています。」
詳しい調査結果はey.com/ccbをご覧ください。またTwitterでも情報を発信しています。(@EY_TAS | #EYCCB)
※本プレスリリースは、英語のプレスリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
〈英語版リリース〉
Global M&A appetite at 10-year high fueled by portfolio reshaping