EYは、2021年版EY M&A Firepowerレポートを公開しました。本レポートによると、2020年のライフサイエンス企業の合併・買収(M&A)取引額は1590億米ドルと、2019年の3060億米ドルから減少し、2014年以降でほぼ最低の水準となりました。1件の大型M&A(12月のアストラゼネカによるアレクシオン・ファーマシューティカルズの買収)が、ライフサイエンス企業による年間M&A取引総額の4分の1を占めました。もともと低調が予想された2020年でしたが、COVID-19パンデミックの影響でデューデリジェンスや商談をバーチャルで行わなければならないという問題に加え、ターゲットとなるバイオ製薬企業および医療機器企業の評価額の高止まりを受け、買収意欲のある多くの企業が様子見姿勢をとりました。こうした難しい環境下で、バイオ製薬企業の買い手は優先度の高い疾患領域において、提携やより小規模なボルトオン型買収に再注力しました。医療機器企業は、手続の中止や延期により収益が悪化しました。
本レポートによると、2020年はマーケットのボラティリティにもかかわらず、ライフサイエンス企業の期末時のファイヤーパワー(企業のM&A実行能力を貸借対照表の健全性に基づき測定したEY独自の指標)は記録的な水準に達しました。バイオ製薬企業が2020年に使用したファイヤーパワーはわずか12%と、2019年の20%から低下しました。医療機器企業のファイヤーパワーは2020年に41%拡大し、史上最高に達したものの、使用率は7%にとどまり、2019年の10%から低下しました。
EY Global Health Sciences and Wellness Strategy and TransactionsリーダーのPeter Behnerは次のように述べています。
「ライフサイエンス企業のM&A活動は回復し始めていますが、2019年の高水準には届かないでしょう。しかし、2021年がM&A活況の年となることを示唆する複数の要因があります。バイオ製薬企業にとっては、商業的な複雑さを軽減する必要性が高まる中、特にがん治療や免疫療法など細分化された疾患領域に注力することが、M&Aを推進する重要な長期的要因となっています。また、潤沢な流動性およびプライベート・エクイティの買い手の存在が、事業売却や疾患領域の深化の機会を生み出しています。パンデミックに起因する臨床試験の遅れや売上減少の状況によっては、成長ギャップがM&Aを急がせる新たな要因となる可能性もあります」
こうした傾向は、ライフサイエンス企業のM&Aが2020年下半期に上向いたのに続き、2021年も活況となることを示唆しています。バイオ製薬企業は金融リスクを軽減する比較的小規模の買収やパートナーシップに注力するとみられる一方、医療機器企業はより積極的に買収に資金を投じ、拡大している成長ギャップ(企業の収益成長と業界全体の売上拡大とのギャップ)を縮小することになりそうです。
EY LLP Life SciencesパートナーのJohn Babittは次のように述べています。
「医療機器企業にとって、2020年は素晴らしい年になったと考えています。手続が延期されたものの、M&Aファイヤーパワーは業界史上最高の5000億米ドル近くに達しました。しかし、活況でバブル的な昨今のIPO市場や、特別買収目的会社の関与により、このところのM&A活動は複雑化しています。ワクチンが展開され、医療機器業界に予測可能性が戻れば、2021年の同業界のM&A市場は非常に活況なものとなるでしょう」
本レポートの主な調査結果は次の通りです。
- 取引金額より取引件数:2020年のバイオ製薬企業の大型M&Aは1件のみ。評価額の高止まりと公開市場の堅調さを受け、買い手企業がより小規模のM&Aに注力したとみられる。
- これまで同様、リスクをヘッジしつつ、デジタルを中心とする必須のテクノロジーや製品を獲得する手段として提携が用いられた。2020年のバイオ製薬企業の提携活動は、取引件数および取引金額の両面で活況となった。買い手企業が11月30日までに締結したパートナーシップは261件に上り、その支払総額はアップフロントとマイルストーンを合わせて約1400億米ドルに達する。
- バイオ製薬企業の成長ギャップが縮小:大手バイオ製薬企業は、強固なサプライチェーンとコロナウイルス感染症(COVID-19)関連製品、特にワクチンへの素早い対応により、コロナ禍による売上への短期的影響を抑えることができた。その結果、2020年に成長ギャップが600億米ドルから350億米ドル未満へと縮小した。
- 医療機器企業の未使用のファイヤーパワー:大手医療機器企業には潤沢な資本準備金がある。さらに、手続の延期や中止を受け、医療機器企業の上位35社の成長ギャップが90億米ドル増の290億米ドルになったことを考えると、2021年は医療機器企業がM&A実行能力を発揮する年となりそうである。ライフサイエンス企業による2020年最大の2件のM&Aがその可能性を示しており、診断と遠隔治療に機会が生じている。
本レポートはこちらからご覧ください。www.ey.com/firepower
※本プレスリリースは、2021年1月11日(現地時間)にEYが発表したプレスリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
英語版プレスリリース:
Firepower 2021: life sciences M&A falls to one of lowest totals since 2014, as biopharmas refocus on alliances and bolt-on deals