4 分 2022年3月18日
原油タンカーの上空写真

石油・ガス業界のアナリストは2021年第4四半期の決算報告をどう見るか

執筆者 Andy Brogan

EY Parthenon Energy Sector Leader

Speaker and industry advocate, optimist, music addict and avid traveler.

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EY Japanの窓口

EY Japan 石油・天然ガスセクターリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー

子どもは3人。趣味は料理すること、食べること、犬と遊ぶこと。

4 分 2022年3月18日

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石油、ガス、LNG(液化天然ガス)の価格は2021年第4四半期も回復を続け、石油・ガス会社の決算報告はそれに応じた内容となりました。

この記事は、石油・天然ガス業界の四半期トレンドシリーズの一部です。

要点
  • 石油・ガス会社は、2021年第4四半期も健全な財務状況を維持した。最近の情勢で市況が変化する中、時間の経過とともに企業の対応は明らかになる。
  • 当面は原油市場の供給不足が予想されており、アナリストは各社の上流事業への設備投資計画に関心を寄せた。
  • コスト上昇に関する質問があり、人件費と原材料費が収益に与える影響も焦点となった。

2021年の⽯油・ガス事業は改善が⾒られました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の勢いはいまだ衰えずとも、経済が適応し回復するにつれ、⼈や物の移動や⽯油需要は正常に戻りつつあります。⽯油、ガス、LNGの価格はパンデミック前を上回り、⽯油・ガス会社の利益につながっています。決算からわずか数週間後、最終決算報告からの数⽇間で状況が⼤きく変化しているものの、2021年第4四半期はこの傾向が続きました。

ブレント原油価格は第4四半期に8%上昇して1バレル平均80⽶ドルとなり、この7年で最も⾼い⽔準に達しました。OPECによれば、海外渡航などの移動制限が解除され、世界の⽯油需要は第3四半期から第4四半期にかけて2%増加しました。同時に、厳しい⽣産統制によって市場の供給不⾜が続き、在庫が減少しました。また、最近の情勢が世界的な供給不⾜に拍⾞をかけています。

ガス市場では、⽶国が例年より暖かかった上に⽣産量が回復したことで、ヘンリーハブ(天然ガス)価格は31%下落しました。⼀⽅、ロシアからの供給不安とインフラへの圧⼒により、欧州での価格はこれまでにない⽔準まで⾼騰しています。在庫が少なく供給不安を抱えたまま暖房が必要な第4四半期に突⼊し、LNG価格は90%以上上昇しました。供給不安が現実になったことで、LNG市場は当⾯ひっ迫した状態になるでしょう。精製マージンは、前四半期に⽐べおおむね横ばいでした。

第4四半期の決算発表は、総じて良好な結果となりました。メジャー各社の純利益総額は413億⽶ドルで、173億⽶ドルだった前四半期の2倍以上。2020年第4四半期の258億⽶ドルの損失からすれば驚くべき回復です。メジャー各社のキャッシュ・フロー総額は502億⽶ドルと、前四半期を16%下回るものの、前年同期⽐では2倍を超えました。

決算説明では、従来とほぼ変わらず財務関連に質問が集中し、全体の半数近くを占めました。62%を占めていた前四半期からは減少したものの、好調な財務状態によるものに違いありません。キャッシュ・フローが健全だったこともあって株主への配当に関⼼が集まり、この質問は全体の8%を占めました。アナリストは、価格、収益、キャッシュ・フローが予想を上回った場合に配当性向と⾃社株買いのペースがどう変わり得るかに注⽬し、キャッシュ・フローがさらに増えた場合にどのような⾏動に出るかを率直に質問しました。

当面は原油市場の供給不足が予想されており、特に投資拡大をすでに発表している企業にとっては、上流事業への設備投資計画は大きな注目を集めるものでした。投資の増額分を短期プロジェクトと長期プロジェクトにどう割り振るのかが焦点となりました。

例年のこの時期と同様に、2022年の企業の設備投資計画と予想される成果に関心が寄せられていました。アナリストは高止まりする原油価格への対応について質問し、業績予想の上限にどの程度の変動を見込んでいるかを測ろうとしていました。当面は原油市場の供給不足が予想される(予想が現実となりつつある)中、特に投資拡大をすでに発表している企業にとっては、上流事業への設備投資計画は大きな注目を集めるものでした。

石油・ガス事業の長期的な見通しが定かでないため、増額分を短期プロジェクトと長期のプロジェクトにどう割り振るのかも焦点となりました。コスト上昇は重要なポイントであり、人件費と原材料費が収益に与える影響に質問が集中しました。またこれに関連し、2022年に計画されている設備投資の増額が、事業の活発化とインフレのどちらによるものなのかをアナリストは探っていました。取引面では、国際ガス市場が流動的なことを踏まえ、当四半期の企業収益にどの程度影響を与えたか、それが一時的なものかどうか、また今後取引実績がどう推移するかについて質問がなされました。

2021年第4四半期の上位3テーマ

脱炭素化は依然として最も重要な戦略テーマです。EUのグリーンタクソノミーが今年導入されると、欧州の投資家の環境、社会、ガバナンス(ESG)戦略の指針になるとされ、アナリストは各社がどのようなスコアになるか関心を寄せています。現在の地政学的緊張に対する企業の対応は、投資家が非経済的要因に注目していることを浮き彫りにしています。アナリストはさらに、資産または地域レベルで炭素集約度を開示するよう強く求め、特に業界ベンチマークを満たさないプロジェクトについて、資産収益と排出量の関係を明らかにしようとしました。

M&Aについては、再生可能エネルギー企業の買収と既存事業の成長とのどちらに意欲を示しているかが探られました。狙いは、こうした事業を育てたいという企業の熱意と、ゼロから事業を起こす能力があるかを把握するためと思われます。これと並行し、商品価格の高騰がバリュエーションに影響する場合、すでに発表された資産処分計画に加えてさらに対応するつもりがあるのかをアナリストは確認しようとしていました。また例年通り、商品価格についても企業の見解が問われました。

経営に関するテーマとしては、2022年の生産見通しが最も注目されました。アナリストは、2022年の生産増加が事業の活発化と効率化のどちらによるものになるのか見極めようとしていました。短期的には企業がどの程度柔軟な対応を見せるのか不明ですが、長期的な投資計画や生産計画は、最近の情勢を踏まえてすでに見直されています。ガス市場は長期的に上昇傾向にあるという一致した見方から、アナリストは石油とガスの両方の生産増加を見越しています。またガス価格が高騰し不安定なことから、長期契約を結ぶのか、スポット市場にとどまるのか、企業の戦略について質問が挙がりました。いつも通り、各社の主要プロジェクトの最新情報と、2022年に必要なメンテナンスのレベルについても確認がなされました。

今後の見通し

石油・ガス市場は地政学的リスクと在庫減少に直面し、不安定な状態が続いています。第4四半期末のアップサイドリスクは現実になり、混乱が加速して、かつてないほど将来の見通しが流動的になっています。こうした不確実な状況を踏まえた上で、既存事業、新規事業、配当および自社株買いにどう資本を配分するのか、加えて資本利益率と脱炭素化の進捗が今後も注目されるでしょう。

  • 分析の対象範囲および手法

    本レビューの⽬的は、世界の⽯油・ガス企業11社を対象に、2021年第4四半期の決算報告シーズン中にアナリストが質問した内容から、主要テーマを分析するものです。上位3テーマの特定は、決算報告の電話会議の記録を分析した内容のみに基づきます。今回の分析は以下の企業を対象としています。

    • BP plc
    • Chevron Corporation
    • ConocoPhillips
    • Eni SpA
    • Equinor ASA
    • Exxon Mobil Corporation
    • Repsol SA
    • Royal Dutch Shell plc
    • Suncor Energy Inc
    • TotalEnergies SE
    • Woodside Petroleum

サマリー

石油・ガス市場は地政学的リスクと在庫減少に直面し、不安定な状態が続いています。石油・ガス業界の長期的見通しへの関心はそのままに、既存事業、新規事業、配当および自社株買いにどう資本を配分するのか、加えて資本利益率と脱炭素化の進捗に今後も投資家の注目が集まるでしょう。

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執筆者 Andy Brogan

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