2022年5月18日
IFRSサステナビリティ開示基準に関する2つの公開草案

Beyond TCFD:さらなる気候変動コミットメントを求める情報開⽰基準策定に向けた動きとは

執筆者 沢味 健司

EY Japan Assurance Partner, Ernst & Young ShinNihon LLC and EY Global CCaSS Public Sector Leader

持続可能なより良い社会の発展を目指し、新世代のために情熱を傾ける。プライベートでは障害を持つ人々の活動をサポート。趣味はマラソン。

2022年5月18日

IFRSサステナビリティ関連財務情報開示:ISSB気候関連開示の公開草案

2022年3月31日、IFRS財団の国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board、以下ISSB)は、サステナビリティ関連財務情報開示に関する2つの公開草案を公表しました。これによりグローバルに共通したサステナビリティ開示基準の制定に向けた動きが今後さらに加速します。

要点
  • 公開草案のうち、(2) ISSB気候関連開示は、一般目的財務報告の利用者と情報開示要請に対応する企業からの声に応じ、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の推奨開示事項とプロトタイプ(基準原案)に基づいて作成されたものである。
  • 企業の気候変動対応の開示については、具体的、定量的、かつ、必要に応じて検証可能な根拠の提示を求める内容となっている。
  • 要求事項に準拠した開示対応が難しい企業に対しては、代替的な対応方法に関する指針を示すなど、基準作成のスピードも重視している。


公開草案は、サステナビリティに関連した重要なリスクと機会が企業価値に及ぼす影響を投資家が評価できるような情報開示を企業に要求する (1) サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項と、気候関連のリスクと機会に特有の開示要件を設定する (2) 気候関連開示の2つで構成されています。本記事では (2) の要求事項を取り上げます。

世界経済フォーラムが毎年発行している「グローバルリスク報告書」*1では近年、「気候変動対策の失敗」とその関連リスクが可能性と深刻さの両面において、常に世界で最も差し迫った課題の1つに挙げられており、IFRS財団は気候変動を最優先事項として取り組むことを表明しています。今回公表された公開草案のうち、(2) 気候関連開示*2は、企業に対して重要な気候変動リスクと機会へのエクスポージャーに関する情報開示を求めることを目的としており、2021年11月に公表された、ISSBの最初のテーマ別基準に対し技術準備作業部会(Technical Readiness Working Group: TRWG)が提案した気候関連開⽰要求事項のプロトタイプ*3(以下、「プロトタイプ」)に基づいて作成されています。プロトタイプ同様に、公開草案もTCFD(注1)の中核的な4つの提言と11の推奨開示に基づいて検討・構成されています。

公開草案はプロトタイプから構成の面で大きな変更はありませんが、以下(a)~(h)についての情報を追加しています。

(a) 企業の移行計画におけるカーボンオフセットの利用について具体的な説明

(b) 企業によるシナリオ分析の実施も含めた事業戦略のレジリエンス評価に関するより明確な指針

(c) 企業による重要な気候関連リスク・機会の財務影響額の定量的な開示

(d) リスク管理プロセスの範囲に、気候変動に関連する機会を明示的に含めること

(e) 業界横断的な気候関連指標の適用を支援するTCFDが策定した例示ガイダンスの追加

(f) スコープ1と2について連結グループと連結グループに含まれない組織について、GHG(温室効果ガス)(注2)排出量を別途開示すること

(g) 気候変動に関する、最新の国際的合意に沿ったシナリオと目標に言及すること

(h) 業種別の開⽰要求事項および指標(付録B)の拡充

公開草案の構成

公開草案は以下により構成されており、プロトタイプから大きな変更点はありません。

図表

出典:IFRS財団「IFRS S2 『気候関連開示』[案]」(2022年3月、https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/project/climate-related-disclosures/japanese/jpn-exposure-draft-ifrs-s2-climate.pdf )を基に筆者作成

筆者の見解
公開草案のうち、(2) ISSB気候関連開示は、企業の気候変動開示のフレームワークであるTCFD情報開示の、その先の対応を企業に対して求めています。例えば、ネットゼロなどの野心的な目標を掲げる企業に対しては、目標達成に向けた取り組みやその財務的影響額について定量的な根拠を示すことを求めるものとなっています。また、削減目標達成のためにカーボンオフセットを利用する場合には、スキームの公正性や信頼性に関わる詳細な情報開示が求められるようになり、企業の根拠のない主張やグリーンウォッシュに対してより厳しい目が向けられることが想定されます。
このほか、ガバナンスやリスク管理についても、組織内に担当部署を設置するといった形式的な対応だけではなく、サステナビリティの専門性を有する取締役の任命や社外専門家の利用についての本格的な検討の流れが加速すること念頭に置き、より実効性のあるガバナンスの実現を求めていることが分かります。さらには、既存のサステナビリティ開示基準の1つであるSASB(サスティナビリティ会計基準審議会)スタンダードを活用することがISSBによって表明されたため、今後さらに各業界での検討も進み、企業による開示を後押しするための算定手法やツールの開発が進むとみられます。企業はこうした情報のアップデートを想定し、気候変動開示への対応を加速させていくことに加えて、開示対応にとどまらない積極的な気候変動対応を通じた、長期的な企業価値の向上の追求に取り組んでいくことが求められています。


なお、以下の説明はTCFDやプロトタイプから追加された情報を中心に、すでに公表している「企業の気候変動対応の⾼度化を促進する新しい情報開⽰基準とは ― IFRSサステナビリティ開⽰基準:気候関連開示要求事項のプロトタイプ」を再構成したものです。

(1)ガバナンス

公開草案における「ガバナンス」の開示の目的は、一般目的財務報告の利用者が、気候変動に関連するリスクと機会を監視・管理するために企業で用いられるガバナンスのプロセス、統制、手続きを理解できるようにすることされています。TCFDと同様、気候変動リスク・機会についての企業の取締役会による監視体制および経営者の役割についての開示を要求しています。

今回公表された公開草案は、TCFDにおける推奨開示事項を強化した内容となっていたプロトタイプから大きな変更点はありません。具体的な記載事項としては、気候変動関連のリスクと機会に対する責任を有する企業内の部署や個人、およびこれらの部署や個人の責任を規定した企業方針(例:付託条項、取締役会の権限、その他の関連政策)、取締役会における、気候関連の事案についての報告プロセスやその頻度、さらには、これらの監督責任を遂行する上でのスキルと能力をどのように確保しているのかといった点についての開示が求められます。

また、引き続き企業戦略や主要取引の意思決定における気候リスク・機会の検討方法や経営陣に気候関連の方針、戦略、目標の実施についての責任を求める方法、さらには気候リスク・機会に対応するための目標と関連するパフォーマンス指標が経営陣の報酬方針に組み込まれているかも含めた記載も求められています。

なお、実際の開示に当たっては、上記の気候関連リスク・機会の管理に適用されているプロセスが、企業のその他のガバナンス機能とどのように統合されているかについて開示した上で、これらがその他のサステナビリティ関連リスクと機会とともに統合的に管理されている場合、統合的なガバナンスの開示を行い、重複を減らすよう取り組むこと、と公開草案に記載されています。

(2)戦略

公開草案における「戦略」の開示の目的は、利用者が、気候変動に関連する重大なリスクと機会に対処するための企業の戦略を理解できるようにすることとされています。TCFDと同様、1)企業が識別したリスクと機会についての記載、また、これらのリスクと機会が、2)企業のビジネスモデルおよびバリューチェーンに及ぼす影響、3)企業の移行計画(注3)を含む戦略および意思決定に与える影響、4)企業の財務情報(財務状態、財務パフォーマンス、キャッシュフロー、財務計画)、および、5)企業の戦略のレジリエンス、についての開示を要求しています。

公開草案では、TCFDにおける推奨開示事項を強化した内容となっていたプロトタイプの要求事項を、以下①~③の点でさらに明確するものとなっています。

①移行計画の透明性の向上とカーボンオフセット(注4)

ISSBはGHG削減目標を含む企業らの低炭素経済への移行に向けた戦略である移行計画について、その進捗状況をモニタリングするための目標期日、範囲、対象範囲も提示すべきだと提案しています。さらに透明性を高めるために、基礎となる仮定や不確実性も含めて開示するべきとの投資家らの意見を踏まえ、今回公表した公開草案の第13項で、移行計画に関するさまざまな具体的な開示項目を提案しています。例えば、ビジネスモデル、戦略、資源配分、生産プロセス、製品、労働力などの変更を含めた、気候リスク・機会への直接的な対応策、顧客やサプライヤーとの協力を含めた間接的な対応策、および、これらを実施するに当たってのリソースの調達方法などがあります。

中でも、GHG削減策としてのカーボンオフセットの利用については、その技術的な根拠、前提となる政策や法規制、将来の価格変動など、利用可能性における不確実要素が多いため、気候リスク・機会の識別が必要となることから、公開草案ではオフセットの手法(注5)とオフセットの第三者検証または認証スキームについての開示の要求を盛り込んでいます。

②財務インパクト

ISSBは、2021年10月に公表されたTCFDステータスレポート*4において気候リスクと機会の財務的影響額の開示がほとんど行われていない分野であると指摘された旨に触れています。定量評価の実施におけるデータ収集、算定、評価、社内での承認プロセスなど、企業にとっては課題が多い分野であることに理解を示しつつも、公開草案の第14項で、気候リスク・機会の財政状態、財務パフォーマンス、キャッシュフローに与える影響と、短期・中期・長期に予想される影響について、原則、定量的な情報を開示しなければならない、としています。また、定量的な情報を提供する場合に、企業は単一またはレンジで影響額を開示することができるとして、定量評価における不確実性を考慮したものとなっており、定量評価をめぐる課題に対応する姿勢を示しています。なお、定量評価が困難な企業に対しては、公開草案の第14項 (e) で、その理由を開示することを要求しています。

③気候レジリエンス(回復力)

ISSBは、気候リスク・機会のシナリオ分析が、将来のさまざまな気候変動シナリオにおける、企業の戦略、ビジネスモデル、将来のキャッシュフローのレジリエンス(回復力)を投資家らが理解するためのツールとして、ますます確立されつつあることについて言及した上で、公開草案の第15項でレジリエンスの開示に当たっては、シナリオ分析の実施を必須と記載しています。また、シナリオ分析を実施することが難しい企業に対しては、代替的な手法を用いてレジリエンス評価を実施することを要求し、第15項(b)iiにおいて、一点予測、感度分析、定性的分析などの代替的手法についてのより明確なガイドラインを追記しています。

(3)リスク管理

公開草案における「リスク管理」の開示の目的は、利用者が気候変動に関連するリスクと機会を、特定・評価・管理するためのプロセスを理解できるようにすることとされています。これは、気候関連リスクの識別、評価、管理についての開示を推奨するTCFDおよびそれに基づいて策定されたプロトタイプから、気候関連の「機会」についてもリスク管理における不確実性評価の一環として検討することを求めている点で異なっています。

機会についてもリスクと同様に検討対象とするこの提案について、ISSBは本公開草案の結論の根拠において、リスクと機会が同じ不確実性のもとに関連もしくは生じ得るという見解と、一般慣行においてもリスク対応プロセスに機会を組み込むように進化してきているという側面を反映したものであると述べています。

上記の通り、気候変動のリスクと機会の双方が検討対象になったという点以外では、公開草案はTCFDにおける推奨開示事項を強化した内容となっていたプロトタイプから大きな変更点はありません。小さな変更点として、リスクと機会の識別や評価、優先順位付けを行う際のプロセスや、これらの測定方法、また、重要なリスクと機会ごとに、モニタリングや管理、リスク軽減などの対応方針を公表することが求められており、利用者が企業のリスク管理プロセスの成熟度を理解することを後押しするものとなっています。

なお、実際の開示に当たっては、(1)ガバナンスと同様に、上記の気候関連のリスクと機会の管理に適用されているプロセスが、企業のその他のリスク・機会の管理プロセスとどのように統合されているかについて開示した上で、これらがその他のサステナビリティ関連リスク・機会とともに統合的に管理されている場合、統合的なリスク管理の開示を行い、重複を減らすよう取り組むこと、と公開草案に記載されています。

(4)指標および目標

公開草案における「指標および目標」の開示の目的は、利用者が企業の重要な気候リスクと機会をどのように測定・監視・管理しているか、また、企業が設定した目標に対する進捗を含むパフォーマンスをどのように評価しているかについて理解することができるようにすることとしています。公開草案では、TCFDガイダンスと同様に、業界横断的な気候関連指標(注6)の開示が要求されているほか、プロトタイプで追加された業種別の開⽰要求事項および指標についても盛り込まれています。

業界横断的な気候関連指標のうち温室効果ガス排出量については、TCFDガイダンスやプロトタイプと同様、公開草案も温室効果ガス算定のグローバルスタンダードであるGHGプロトコルを使用し、総量および原単位ベースの排出量指標を開示することと、以下①~②の点を追加で開示することが要求されています。

①スコープ1およびスコープ2(注7)

公開草案では、排出量を (1) 連結会計グループおよび (2) 連結会計グループに含まれない関連会社、共同支配企業、非連結の子会社およびその他関係会社について別途開示することが求められています。この追加的な開示要求については、GHGプロトコルではさまざまな算定アプローチが認められており、企業ごとに適用方法も異なることから、ISSBは公開草案の結論の根拠において、開示情報の比較可能性を高めるために公開草案に要求事項を追加したとしています。なお、(2) 連結会計グループに含まれない関連会社、共同支配企業、非連結の子会社およびその他の関係会社については、その組織範囲を決定するために用いた方法(例:GHGプロトコルの支配力または出資比率基準)についても併せて開示すること、ならびに、用いた方法を選択した理由についても記載することが求められます。

②スコープ3(注8)

公開草案では、スコープ3の排出量開示が要求されています。ISSBは公開草案の結論の根拠において、スコープ3排出量が多くの企業にとってカーボンフットプリントの大部分を占めるため、企業の低炭素移行計画の妥当性の判断に役立ち、投資リスク分析の重要な要素になるといった認識の高まりが背景にあると言及しています。なお、このスコープ排出量の測定に、取引先など他社から取得した情報が含まれる場合、その測定根拠を説明すること、および、他社から取得した情報によるスコープ3排出量を除外する場合には、除外する理由(例:信頼できる測定根拠を入手できないため)を説明することが求められます。

業種別の開⽰要求事項および指標については、プロトタイプ同様、付録 B*5として11の業界と68の業種について開示項目が設定されています。これらの各開示項目に対し、要求される指標や適用における技術的なプロトコルが関連付けられています。付録Bは、SASBの産業別スタンダード(以下、SASB基準)から派生したものです。ISSBは今般、公開草案の公表に向けて、国際的な互換性に向けた対応、重複の排除、金融セクター向けの対応などの追加作業を行っています。意思決定に有用な情報であり、かつ費用対効果が高い基準としてすでに利用者や企業に評価されているSASB基準を基に、ISSBは今後、業種別の開⽰要求事項および指標の基準を策定することを表明しています。

公開草案の第23項では、企業が設定したGHG削減目標の開示要件が述べられています。具体的には、そのGHG削減目標が設定された背景(例:緩和、適応、セクターや科学的知見に基づく目標設定イニシアチブ)、また、目標設定が気候変動に関する最新の国際協定に基づくものであるかの開示が要求されています。この国際協定とは、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCC)締約国会議(いわゆるCOP○○)で合意される削減目標などを指し、本公開草案発表時点では、パリ協定(2016年4月)が直近です。本協定によれば、地球温暖化による気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分に低く抑えること、および産業革命以前の水準より1.5℃まで温暖化を抑える努力を追求することに沿った目標であるかを開示する必要があります。

脚注

注1:G20の要請を受け、⾦融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開⽰および⾦融機関の対応をどのように⾏うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ⽒を委員⻑として設⽴された「気候関連財務情報開⽰タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指し、気候変動関連リスクおよび機会に関する開⽰フレームワーク(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・⽬標の観点からの開⽰を推奨する)を提⾔として取りまとめた最終報告書が2017年6⽉に公表された。また最終報告書の付録文書として、開示の実務的な解説を提示する実施ガイダンスも併せて公表された。2021年10月に当ガイダンスは改訂されており、プロトタイプもこの改訂を踏まえた内容となっている。

注2:京都議定書で定められた温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)、三フッ化窒素(NF3)、パーフルオロカーボン(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)の7種類のガスを指す。大気中の温室効果ガスは、赤外線を吸収・再放出する性質があり、地表、大気および海水の温度を保つ、いわゆる温室効果があるが、大気中の温室効果ガスの濃度が急激に上昇し温室効果が強まったことが、地球温暖化の原因とされている。

注3:移行計画とは、実質カーボンゼロなどの野心的な目標を含む低炭素経済の移行に向けた事業計画・戦略を指す。低炭素移行計画とも呼ばれる。

注4:公開草案では、カーボンオフセットを以下のように定義している。カーボンオフセットとは、排出権プログラムによって発行される、温室効果ガスの排出削減または除去を表す排出単位のことであり、電子登録によって一意にシリアル化され、発行、追跡、取り消しが可能である。また、認証されたカーボンオフセットクレジットとは、政府または独立した認証機関によって認証された、譲渡または取引可能な商品の形態をとるカーボンオフセットで、トンCO-2またはトンCO-2eqで除去量が表記される。なお、オフセットは京都議定書の3つの市場メカニズム(第6条、12条、17条)、すなわち排出量取引、クリーン開発メカニズム、共同実施に基づくものであり、締約国が排出量削減目標を達成するために、ある程度の柔軟性を持たせることができるようになっている。

注5:ISSBでは公開草案の結論の根拠においてカーボンオフセットの手法を炭素除去と排出回避に分けて説明している。

炭素除去:
炭素除去とは、大気中から(すでに排出された)温室効果ガスを取り出す手法である。炭素除去には、植林や森林保護といった自然由来の方法でCO2を吸収する方法と、工場などから排出されたCO2を他の気体から分離して、地中に貯留・圧入するという二酸化炭素回収・貯留技術(Carbon dioxide Capture and Storage: CCS)といった先進的な技術を利用した方法がある。自然由来の手法、先進技術、それぞれ異なるリスクと機会要因となり得るため、公開草案では、炭素除去の手法について開示することを求めている。

排出回避:
ISSBでは、回避された排出を以下のように説明している。回避された排出とは、ある製品、サービス、プロジェクトが存在しない状況と比較した場合、あるいはベースラインと比較した場合に、その製品、サービス、プロジェクトからの将来の潜在的な削減排出量を示すものである。投資家らからはその妥当性について判断が難しいと批判されることもあり、また企業の気候変動対策における排出回避アプローチは、排出量取引や排出量削減の目標とは補完的なものであり、基本的に異なるものであるため、公開草案では、達成されたカーボンオフセットが、炭素除去によるものか、排出回避によるものかを開示することを企業に要求することを提案している。

注6:業界横断的な気候関連指標は以下の通りである。

  • 温室効果ガスの排出量(スコープ1、スコープ2、スコープ3)
  • 物理的リスクおよび移行リスクに対して脆弱な資産または事業活動の量と割合
  • 機会に関連した収益、資産、事業活動の割合
  • 気候変動リスクと機会対応目的で行った資本支出および投融資額
  • 企業内で使用する炭素価格とその意思決定プロセスにおける適用方法
  • 気候変動対策に関連して影響を受けた経営陣の報酬の割合

なお、上記の業界横断的な気候関連指標については、公開草案の別添として、例示的ガイダンスが提供されている。

注7:公開草案では以下の通り定義している。

スコープ1:
企業が所有または管理する排出源から発生する直接的な温室効果ガス排出。例えば、所有または管理するボイラー、炉、車両での燃焼による排出、所有または管理するプロセス装置での化学生産による排出など。

スコープ2:
間接的な温室効果ガス排出:企業が消費する購入電力、熱、蒸気の生成から発生する温室効果ガス排出。購入電力とは、購入された、あるいは企業の境界内に持ち込まれた電力を指す。スコープ2の排出は、物理的に発電された施設で発生する。

注8:公開草案では以下の通り定義している。

スコープ3:
スコープ2以外の排出で、報告企業のバリューチェーンで発生する間接的な排出(上流と下流の両方を含む)。公開草案においてもGHGプロトコルと同様、購入した製品・サービスや製品の使用など15のカテゴリが含まれる。

出典

*1:「第17回 グローバルリスク報告書 2022年版」, World Economic Forum, https://www3.weforum.org/docs/WEF_Global_Risks_Report_2022_JP.pdf(2022年5月12日アクセス)
*2:「IFRS S2 『気候関連開示』[案]」、IFRS財団、 https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/project/climate-related-disclosures/japanese/jpn-exposure-draft-ifrs-s2-climate.pdf(2022年5月12日アクセス)
*3:”Climate-related Disclosures Prototype”、IFRS財団、https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/groups/trwg/trwg-climate-related-disclosures-prototype.pdf(2022年5月12日アクセス)
*4:”Task Force on Climate-related Financial Disclosures – 2021 Status Report”, TFCD, https://assets.bbhub.io/company/sites/60/2021/07/2021-TCFD-Status_Report.pdf(2022年5月12日アクセス)
*5:Appendix B—Industry-based disclosure requirements、IFRS財団、https://www.ifrs.org/projects/work-plan/climate-related-disclosures/appendix-b-industry-based-disclosure-requirements/ (2022年5月12日アクセス)

【共同執筆者】

山口 美幸
(EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 兼 FAAS事業部 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS) マネージャー)

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サマリー

今回公表された公開草案は、グローバルに一貫した気候関連開示基準を求める、一般目的財務報告の利用者からの要請に応じたものです。企業に対しては、より具体的な開示に加え、開示情報の根拠についても求めるといった、踏み込んだ内容です。一方、画一的な開示対応を企業に求めることの難しさや気候変動分野における開示の課題にも触れ、基準作成のスピードを重視し、特定の要求事項に関して対応が難しい企業には開示において説明を求めるComply or Explainの対応を取っています。

この記事について

執筆者 沢味 健司

EY Japan Assurance Partner, Ernst & Young ShinNihon LLC and EY Global CCaSS Public Sector Leader

持続可能なより良い社会の発展を目指し、新世代のために情熱を傾ける。プライベートでは障害を持つ人々の活動をサポート。趣味はマラソン。