TradeWatch 2022年 Issue 2

TradeWatch 2022年 Issue 2 ドイツ:移転価格調整金の関税上の取扱い及び関税還付に係る判決 - ホトニクス訴訟の終息

EY Japanの窓口

EY 税理士法人

2022年11月15日
カテゴリー 間接税

2022年9月26日の週、連邦財政裁判所は浜松ホトニクス訴訟の判決を下しました。当該判決の展開は本記事には反映されていませんが、次号のTradeWatchで取り上げる予定です。

2017年12月、欧州連合司法裁判所(以下、「CJEU」)は、移転価格の下方調整及びそれに伴う関税還付可能性に関する問題を扱った浜松ホトニクス訴訟1の判決において、関連者間で支払われた輸入申告時の取引価格で遡及的に一括調整の対象となるものは関税評価上の取引価格を構成することはできないと結論付け、関税の還付を拒否し、ヨーロッパを中心とする世界中の通関専門家を驚かせました。

2022年5月、浜松ホトニクスによる関税還付の申請を否認したミュンヘンの財政裁判所の判決2及びドイツ連邦財政裁判所への訴訟のエスカレーションから約5年の時を経て、ミュンヘン連邦財政裁判所で口頭審理が行われました。

最新の公聴会に関するいくつかの洞察、予想される判決結果及びその他の未解決のケースへの影響は以下のとおりです。

背景3

  • 浜松ホトニクス(以下、「H/JP」)のドイツ法人である浜松ホトニクス・ドイツ(以下、「H/DE」)は、H/JPから直接商品を購入し、ドイツ国内で販売しています。2009年、H/JPとH/DEは、2006年10月から2010年9月までの期間について、それぞれの税務当局と事前確認制度(Advance Pricing Arrangement、以下「APA」)を締結し、当該APAに従った暫定的な移転価格を設定し、移転価格期間終了時となる2010年度末に調整を行いました。
  • 浜松ホトニクスグループは、年度末の調整時点で、H/DEの営業利益率が基準レンジを下回っていることを認識し、当該営業利益率が基準レンジ内に収まるよう、H/JPからH/DEに対するクレジットノートを発行し、遡及的な一括下方調整を行いました。H/DEはこの調整を受けて、取引価格ごとの配賦ではなく、すべての輸入貨物の平均関税率に基づいた過払い関税還付申請を税関当局に提出しました。
  • ミュンヘン地方税関当局は、調整金額が貨物の種類ごと及び輸入取引ごとに配賦されていないことを理由に、当該合計価格による還付申請を却下しました。また、当局は、価格設定及びその後の価格調整メカニズムの詳細につき事前合意がされていない点について言及し、関税の還付は輸入前に最終的な合計価格が計算式によって正確に定義されており、かつ当該払い戻しが輸入貨物に明確に関連している場合にのみ可能である、と述べました。さらに、欧州共同体関税法典(以下、「CCC」)第29条は、現実支払価格、すなわち輸入取引による価格を指していることを指摘しました。
  • これに対し、H/DEは、当該平均関税率に基づいた過払い関税​​払い戻しの請求は、すべての輸入貨物が同じ販売利益率を達成するという仮定に基づき、外部比較目的のために計算された平均関税率分析に基づいて計算していると主張し、当該決定を不服としてミュンヘン貨物裁判所(以下、「裁判所」)に提訴しました。
  • 裁判所は訴訟が提起されたのち、CJEUに対し、次の質問への回答を求めました。
    1. 移転価格が年度末に調整される場合、年度末の調整が関税還付又は追加的な支払いのいずれにつながるかにかかわらず、取引価格を関税評価額の決定に使用できるか。
    2. 取引価格を関税評価額の決定に使用できるとすれば、関税評価額の検証や決定にあたり、その後の移転価格の(上方及び下方への)調整の影響を認識できる簡便なアプローチは使用できるのか。

CJEUの判決

  • CJEUは、CCC第28条から第31条までの規定4においては、当初申告価格及び会計期間終了後の調整の一部からなる合意取引価額を関税評価額とすることは認められないと解釈する判断を示しました。
  • CJEUはさらに、CCCにおいては、移転価格による取引価格の上方及び下方調整に基づき取引価格を調整する義務を輸入企業に課していないと述べ、さらに、同法典には企業が下方調整のみを申請するというリスクから税関当局を保護するいかなる規定も含まれていないと述べました。これらの議論に基づき、CJEUは、浜松ホトニクス訴訟が例示する取引価格の遡及的な調整は認められないと結論付けました。

裁判所によるその後の判決

  • 2018年、裁判所は、CJEUの判決を、税関の上位機関に当たる連邦税務省関税局が、当該年度に申告されたインボイス価格に基づいて関税評価額を決定したことを示していると解釈し、H/DEによる関税還付の申請を却下しました。
  • その一方で裁判所は、前段のCJEUの判決を、純粋に事実に基づいた陳述で解決済みの判例法を復唱するだけであり、根本的な問題を解決していないと明確に批判しました。
  • 2018年末、浜松ホトニクスは本裁判をミュンヘン連邦財政裁判所にエスカレートすることを決定しました。手続きの最終段階である口頭審理は、2022年5月に行われました。

予想される結果

※この記事は、口頭審理後、評決が出される前に作成されたものです。

  • 当時の議論と口頭審理でのドイツ連邦財政裁判所の裁判官の反応から、関税還付の請求は否定される可能性が高いと思われます。これは、関税評価額を当初の移転価格に基づき算出することは認められる一方で、移転価格の下方調整は、今回のケースでは考慮されない可能性があるということを意味しています。判決及び弁論はまだ公開されていませんが、裁判官は口頭審理において、当該評決では上方調整の扱いには言及しないことを示唆しました。それでも、上方調整に直面している申告者は、当該判決に輸入者が関税評価の決定において上方価格調整を考慮しないことを支持する文言が含まれているかについて、判決の内容を注視する必要があります。
  • なお、UCC第85条第1項には「輸入税の額は、当該商品に関する関税債務が発生した時点で当該商品に適用されていた関税計算規則に基づいて決定される」とあり、移転価格調整が関税債務の発生後に行われるものであることを考慮すると、当該規定は最終的な関税評価額を決定する際に上方調整を考慮しないことを主張するのに十分な論拠となり得るといえます。ただし、決定的な答えを得るには裁判所の判断が必要となります。
  • これらを受けて、裁判官は評決の中で、関税評価額の最終決定における、移転価格の上方調整について今後の訴訟の多発を予期していることについても述べました。この件に関しては、EU加盟国各国において裁判が係属中であるため、今後も移転価格調整の関税評価額の最終決定への影響が注目されることになりそうです。

企業に求められるアクション

浜松ホトニクス訴訟は、移転価格調整金が個別の輸入取引のレベルまで配賦されていない場合における関税還付の申請に係る事例となるため、すべての下方調整による関税還付について、同様の判決がなされることを示すものではない、という点に注意が必要です。また、欧州の各地域の裁判所において還付に関する訴訟が係属中であり、還付に関する法的権利は引き続き保護されるものと思われます。したがって、価格の下方調整による関税還付の可能性がある輸入企業は、浜松ホトニクス訴訟の判決結果のいかんを問わず、関税還付の申請を取り消すべきではありません。

他方で、上方調整を行う輸入企業にとっては、税関当局が、上方調整は特殊関係による影響に起因するものであり、引き続き課税対象であると見なす可能性が高いということを考慮する必要があります。浜松ホトニクス訴訟の予想される判決は、上方調整を行う輸入企業にとって有利となる強力な論拠を提供する可能性があり、自己申告による遡及調整を実施する中で税関による追加審査を受けた場合でも、審査に対して上訴し、この問題について法的見解を求めることが可能といえます。しかしながら、その一方で、上方調整の取扱いに関連するケースは、いずれにしても裁判所による判断が必要となる可能性が高いと考えられます。

この問題によって、関税評価額の最終決定に移転価格調整が与える影響は依然として検討されており、EUへの輸入を行うさまざまな企業に影響を与えると考えられます。特に関連会社間価格に基づく申告を行っている企業は、当該関税評価額の適切性について慎重な評価を行うことが推奨されます。最終的な関税評価額の決定に移転価格調整を考慮することについて反対する議論もありますが、企業は、輸入前に現地の税関当局と協力することで、移転価格調整の取扱いについて法的に明確にし、追加費用や金利を負担するリスクを抑えることを検討することが望ましいといえます。

巻末注

  1. C-529/16を指す。
  2. FG München (14K 2028/18)(2018年11月15日)を指す。
  3. 弊社の関連過去アラートはこちら
  4. 実質的には、2016年5月1日付でUCC第70条から74条に反映・置換されている。

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