9 分 2021年6月4日

            自宅のソファの上で仕事をして、OECDとデジタル経済のコードを書くフリーランス

OECDはデジタル経済への課税により一方的な措置を阻止できるか

執筆者 EY Global

複数の強みや専門性を兼ね備えるプロフェッショナル集団

EY Japanの窓口

EY Japan タックス・ポリシー・コントロバーシーリーダー EY税理士法人 パートナー

2人の娘の父。趣味はドライブ、スキー、クルージング。好きなお酒はワイン。

9 分 2021年6月4日

OECDはデジタル経済への課税構造の変革に取り組んでいます。果たして各国の一方的なデジタルサービス税導⼊の動きを⾷い⽌めることはできるのでしょうか︖

要点
  • OECDは、経済のデジタル化に伴う国際的な課税ルールの変更に取り組み、2021年半ばの合意を目指している。
  • その背景には、各国が独自に一方的なデジタルサービス税(DST)を導入することにより、グローバル企業の税務が複雑化していることがある。
  • 企業は、潜在的な税負担を把握するために、経済のデジタル化に伴う課税ルール変更から生じる影響について、最新の情報を把握しておく必要がある。
Local Perspective IconEY Japanの視点

多くの日本企業では、自動化されたデジタルサービスや消費者向けの事業にはあたらない、もしくは超過利益がない等の理由により、経済のデジタル化に伴う課税の対象外と認識されていることでしょう。米国バイデン政権から提案されている業種の分け隔てなくグローバル企業100社を課税対象とする案や、インド平衡税(Equalization Levy)における課税対象取引の拡大等、経済のデジタル化に伴う課税環境は日々変化しています。最終的に課税対象とはならない場合においても、自動化されたデジタルサービスや消費者向け事業からの収入について把握する必要性が生じるかもしれません。一方で、あらたな課税権の確立が、グローバルデジタル企業のビジネスモデルに変革をもたらし、よりイノベーティブなビジネスを生み出すかもしれません。日本企業においても、グローバルな課税環境に関する動向を把握し、グローバルデジタル企業における対応を注視することが重要になって来ています。

 

EY Japanの窓口

関谷 浩一
EY Japan タックス・ポリシー・コントロバーシーリーダー EY税理士法人 パートナー

世界経済の急速なデジタル化により、インターネットに接続できさえすれば、企業は誰にでも、その相手が世界のどこにいても商品とサービスを販売できるようになりました。

その結果、活気あるグローバルデジタルサービス経済が発展し、非常に大きな価値が創出されました。その⼀⽅で、経済のデジタル化は政府にも企業にも⼤きな課題を突き付けました。政府には、現⾏の税法ではオンラインビジネス関連の収⼊に対して適切に課税できないのではないかという懸念があります。⼀⽅で、企業側は世界各地で展開するデジタル活動に対する、⼀貫性を⽋いた課税アプローチに対処していかなければなりません。

最⼤の課題の1つは、従来型の課税アプローチを今後も継続することが現実的なのかということです。グローバルデジタル企業が実質的に従業員や事務所を持たず、物理的に所在していない国で多⼤な収⼊を⽣み出すことができるようになった今、各国政府は企業の物理的な拠点に基づいて課税権を決めるという今までの考え⽅を⾒直すようになってきました。

「検索エンジン、ソーシャルネットワーク、デジタルプラットフォームを見れば分かるように、サーバーやソフトウエアは海外に設置できます」とEY Global Government and Risk Tax LeaderのChris Sangerは指摘します。「今、問題視されているのは、消費者の所在地ではなく、知的財産の拠点に課税権が帰属しているという点です」

経済協力開発機構(OECD)は現在、このような状況を是正し、デジタル経済への課税のルールを見直す世界的な取り組みの最前線に立っています。OECDは、今世紀最⼤の国際的な課税ルール改⾰の1つに着⼿し、新たな国際的課税に関する「包摂的枠組み」を通して139の国・地域と連携し、グローバルビジネスで発⽣した所得に対する各国・地域間の課税権の配分方法を変更しようとしています。

2021年半ばまでに世界的な合意を取り付け、複雑化を極める一方的なデジタルサービス税導⼊の動きを⾷い⽌めることができるのかどうか、世界が今、OECDに注⽬しています。

税の帰属を再定義する

デジタル経済を対象とした課税ルールの全面的な見直しの原点は、10年近く前にOECDが立ち上げた税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトにあります。その⽬的は、現地国の課税ルールの不⼀致を利⽤して、グローバル企業がクロスボーダー取引に課せられる税負担の軽減を図ろうとする過度なタックス・プランニングに対処することでした。

今回の新たな取り組みは、大きく2つの柱に分かれています。第1の柱は、帰属と所得配分の新たなルールを定めるものです。この目的は、実際に所在していない地域で継続的かつ大規模な事業を行っているグローバルデジタル企業にその地域で課税できるようにすることです。一方、第2の柱は、世界的な最低税率の合意に焦点が当てられています。この目的は、軽課税国・地域間の税競争を減らし、残された税源浸食と利益移転の課題に対処することです。

帰属ルールの改正により、あらゆる国における国際的な課税ルールの根本的な⾒直しが求められます
Barbara Angus
EY Global Tax Policy Leader

長年にわたり国際的な課税において構造上の中核をなしてきた帰属と利益配分のルールを再定義するという第1の柱は、今回のOECDの枠組みの中で最も大掛かりで、かつ論争を巻き起こす部分です。

「帰属ルールの改正により、あらゆる国における国際的な課税ルールの根本的な⾒直しが求められます」とEY Global Tax Policy LeaderのBarbara Angusは述べています。「また、この枠組みを成功させるとしたら、各国がまったく同じ配分ルールに同意して、同じ方法でこのルールを適用することにより、二重課税を完全に排除する以外にありません」

これを実現させるには、「包摂的枠組み」に参加する139の国・地域間でかつてないほどの調整と合意の形成が必要となるでしょう。

国際的な移転価格ルールを改正する

さらに、「第1の柱を導入するためには、国際的な移転価格ルールの改正が必要になるでしょう」とAngusは述べています。「これは、グローバル企業グループ全体の利益をどのように配分し、各国において課税するかを決めるルールです」

グローバルデジタル企業のサービスを利⽤する消費者が所在する国の課税権が拡⼤すると、知的財産の開発など多⼤な投資を要する拠点が置かれている国に配分される所得が減少することになるとAngus は指摘します。「その結果、税収の面で真の勝ち組と負け組が生まれ、各国が合意に達することが一層困難になるでしょう」

このような問題の複雑さと、各国が協調して新たな得税ルールを策定、合意、実施することの難しさから、DSTなど⼀方的なグロスベースの課税措置への関⼼が⾼まっています。この一方的措置の主な問題点は収⼊と所得の明確な区別と、企業の基本的な納税の能⼒です。

EY Global International Tax and Transaction Services LeaderのJeff Michalakは、この点について、深刻な懸念を抱いていると明かしています。「相当な収入のあるグローバルデジタル企業がすべて、大きな利益を上げているわけではない点に留意することが肝要です」とMichalakは述べています。「実際、まったく利益を得ていない企業もあります。所得ではなく収入に焦点を当てるグロスベース課税は、国にとって徴収しやすいかもしれません。しかし、これは赤字企業が納税できない可能性もあるという当たり前の事実を無視した仕組みです」

新型コロナウイルス感染症の影響

デジタル経済への課税ルールに関するプロジェクトを推し進めてきたOECDも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なパンデミックの影響を免れることはできませんでした。実際のところ、当初の期限を6カ月先送りし、2020年12月ではなく2021年半ばまでに合意に達したいとしています。

また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、現在実施している支援策や景気刺激策の費用の財源となる歳入を増やしたいという政府の意欲も高まっています。

例えば、欧州連合(EU)加盟国は先ごろ、新型コロナウイルス感染症拡大による影響からの経済再建策の原資として7,500億ユーロを借り入れることで合意しました。EUはデジタル課税の導入でこれを返済するとしており、2023年までに導入されるのは間違いありません。EUは包摂的枠組みの中で対応していくことを約束してきましたが、OECDのプロジェクトで合意に達することができない場合に備えて、別の政策オプションも模索している、としています。その内容は以下の通りです。

  • EU域内で特定のデジタル事業を行っている全企業を対象とした法人所得税の上乗せ
  • EU域内で行われた特定のデジタル事業により生じた収入への課税
  • EU域内で行われたB2Bのデジタル取引への課税

その第一弾として欧州委員会は2018年、DSTの導入を試みたものの、この導入が盛り込まれたFair Taxation of the Digital Economy案に対する欧州理事会の支持を得ることができませんでした。ただし、この提案のDST導入は、OECDが現在策定しているような所得税をベースとした協調的なアプローチへと後々置き換えられることを意図した暫定的なものでした。

一方的なDSTの導入

EUとOECDは期限を設けて合意形成を試みてきましたが、独自のDSTを導入して一方的な措置をとっている国・地域は20を超えます。

国・地域におけるDST導⼊が広がったことにより、VAT、関税、賦課⾦、源泉徴収税、外国課税、ハイブリッドデジタル取引税が混在し、それぞれが独⾃の税率と、収⼊の閾(しきい)値を定めるという、複雑な国際課税環境が⽣まれました。
Gijsbert Bulk
EY Global Director of Indirect Tax

英国、フランス、イタリア、オーストリア、スペイン、チェコ共和国、ポーランド、トルコ、インドの9カ国がすでにDST法を制定しており、それ以外の国でもDST法案は審議中か審議保留の状況です。これらの税法の多くには「サンセット条項」が盛り込まれています。そのため、OECDもしくはEUにおいて合意が成立した場合、その税法は失効することになりますが、OECDやEUの合意の一環として、各国がDSTをそのまま失効させるか、廃止するという保証はありません。また、地域レベルで策定されているDSTもあります。例えば、米国メリーランド州は同国初のデジタル広告税の導入を承認しました。ただし、これは現在、異議申し立ての裁判が行われています。

EY Global Director of Indirect TaxのGijsbert Bulkは次のように述べています。「国・地域におけるDST導⼊が広がったことで、VAT、関税、賦課⾦、源泉徴収税、外国課税、ハイブリッドデジタル取引税が混在し、それぞれが独⾃の税率と、収⼊の閾(しきい)値を定めるという、複雑な国際課税環境が⽣まれました」

各国が独自のDSTの仕組みを作っているため、コンプライアンスを達成するためのコストも、その複雑さも、急激かつ桁違いに上昇する可能性があります。

ローマに拠点を置くStudio Legale Tributario EYのTax PartnerであるNicoletta Mazzitelliは、イタリアの新たなDSTへの実際の対応について、次の様に説明しています。「イタリアのDSTの税率は3%であり、2020年1月1日から適用が開始されました。課税対象は、世界全体の収入が7億5,000万ユーロを超え、かつ、イタリア国内で発生したデジタルサービスからの収入が550万ユーロを超える単一の事業体またはグループです。

イタリアのDSTの対象となるのはデジタル広告、ソーシャルメディア、商品やサービスのプラットフォームなどですが、ユーザーから収集したデータの販売もこの対象です」

EY Global International Tax and Transactions Services Partner兼Tax Technology Sector Leader兼Digital Tax LeaderのChanning Flynnは、このような⼀方的措置による課税が及ぼす影響について次のように簡単に説明しています。「80~90カ国で事業を展開している企業の場合、コンプライアンスを順守するためには、80~90種類の税額計算をしなければならなくなります」

Flynnはまた、このような複雑な税制のしわ寄せが企業の経済面にまで及び、特定の国・地域においてどのように価格を設定し事業運営コストはいくらになるかを考えなければならなくなると指摘し、次のように述べています。「お分かりのように、こうしたことはすべて、あっという間に信じられないほど複雑になります」

多くの国と企業がこのように迷路のような複雑さに直⾯しており、デジタル経済への課税について、OECDが合意に基づいた協調的アプローチを実現させることが望まれているのは明らかです。新しい国際的な課税制度を実行可能にするには、米国などの主要国が合意に加わる必要があります。

米国ではトランプ政権がフランスのDSTについて米国企業を差別するものだとして、24億米ドル分に相当する一部のフランス産品に100%の関税を課す提案を行いました。また、オーストリア、ブラジル、チェコ共和国、EU、インド、インドネシア、イタリア、スペイン、トルコ、英国のDSTも差別的であるとされました。これらの国々のDSTに対してさらなる措置は講じられておらず、バイデン政権はこうした貿易問題についての立場をまだ表明していません。

今後の道筋を描く

不確実性、そして複雑さの度合いとコストの上昇に直面し、デジタルサービスに携わる企業はコンプライアンスの徹底を図るために、どのような対応をとればよいのでしょうか。Michalakは、次のように言っています。「⼀方的措置としてのDSTの導⼊は現実に今、起きています。この税制がどこで、どのように制定されるか、これが企業の税負担の度合いにどのような影響をもたらすのか、注意深く見守る必要があります」

世界的にDSTを巡る状況は複雑化しており、多くの企業は今後、動向をリアルタイムに把握できるリソースを持つ、信頼できる第三者のアドバイザーのサポートが必要になるでしょう。
Jeff Michalak
EY Global International Tax and Transaction Services Leader

十分なサポートがなければ、重要な税務の判断を下し、適切に計画を立てることが難しくなる企業が出てくるかもしれません。企業が的確に経営の意思決定を行い、コンプライアンスを確実に順守するためには、明確な現状把握と予測能力が必要です。

「世界的にDSTを巡る状況は複雑化しており、多くの企業は今後、動向をリアルタイムに把握できるリソースを持つ、信頼できる第三者のアドバイザーのサポートが必要になるでしょう」とMichalakは述べています。

それでは、OECDの包摂的枠組みは合意に向けてどのように検討を進めるのでしょうか。企業は具体的にどのような対応をとればよいのでしょうか。

EY Global Leader of Business Tax ServicesのRob Weberは、すべてのグローバル企業が声を上げ、その声を確実に届けることについて、次のように推奨しています。「OECDの包摂的枠組みにおいて検討が進められている段階で関与し、公平に発⾔する権利を確保し、枠組みの策定にプラスの影響を及ぼすことが企業の最善の利益になります」

サマリー

国際的な課税に関するOECDの枠組みの合意期限が迫っていますが、合意成立までに解決しなければならないことは山積みです。また、一方的措としてのDST導⼊の圧⼒も強まっています。そのため、企業が複雑なプロセスに備え、税負担のリスクを減らすためには、DSTの動きを国別にモニタリングすると共に、OECDの進捗状況を注意深く⾒ていくことが求められます。

この記事について

執筆者 EY Global

複数の強みや専門性を兼ね備えるプロフェッショナル集団

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