長年にわたり国際的な課税において構造上の中核をなしてきた帰属と利益配分のルールを再定義するという第1の柱は、今回のOECDの枠組みの中で最も大掛かりで、かつ論争を巻き起こす部分です。
「帰属ルールの改正により、あらゆる国における国際的な課税ルールの根本的な⾒直しが求められます」とEY Global Tax Policy LeaderのBarbara Angusは述べています。「また、この枠組みを成功させるとしたら、各国がまったく同じ配分ルールに同意して、同じ方法でこのルールを適用することにより、二重課税を完全に排除する以外にありません」
これを実現させるには、「包摂的枠組み」に参加する139の国・地域間でかつてないほどの調整と合意の形成が必要となるでしょう。
国際的な移転価格ルールを改正する
さらに、「第1の柱を導入するためには、国際的な移転価格ルールの改正が必要になるでしょう」とAngusは述べています。「これは、グローバル企業グループ全体の利益をどのように配分し、各国において課税するかを決めるルールです」
グローバルデジタル企業のサービスを利⽤する消費者が所在する国の課税権が拡⼤すると、知的財産の開発など多⼤な投資を要する拠点が置かれている国に配分される所得が減少することになるとAngus は指摘します。「その結果、税収の面で真の勝ち組と負け組が生まれ、各国が合意に達することが一層困難になるでしょう」
このような問題の複雑さと、各国が協調して新たな得税ルールを策定、合意、実施することの難しさから、DSTなど⼀方的なグロスベースの課税措置への関⼼が⾼まっています。この一方的措置の主な問題点は収⼊と所得の明確な区別と、企業の基本的な納税の能⼒です。
EY Global International Tax and Transaction Services LeaderのJeff Michalakは、この点について、深刻な懸念を抱いていると明かしています。「相当な収入のあるグローバルデジタル企業がすべて、大きな利益を上げているわけではない点に留意することが肝要です」とMichalakは述べています。「実際、まったく利益を得ていない企業もあります。所得ではなく収入に焦点を当てるグロスベース課税は、国にとって徴収しやすいかもしれません。しかし、これは赤字企業が納税できない可能性もあるという当たり前の事実を無視した仕組みです」
新型コロナウイルス感染症の影響
デジタル経済への課税ルールに関するプロジェクトを推し進めてきたOECDも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なパンデミックの影響を免れることはできませんでした。実際のところ、当初の期限を6カ月先送りし、2020年12月ではなく2021年半ばまでに合意に達したいとしています。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、現在実施している支援策や景気刺激策の費用の財源となる歳入を増やしたいという政府の意欲も高まっています。
例えば、欧州連合(EU)加盟国は先ごろ、新型コロナウイルス感染症拡大による影響からの経済再建策の原資として7,500億ユーロを借り入れることで合意しました。EUはデジタル課税の導入でこれを返済するとしており、2023年までに導入されるのは間違いありません。EUは包摂的枠組みの中で対応していくことを約束してきましたが、OECDのプロジェクトで合意に達することができない場合に備えて、別の政策オプションも模索している、としています。その内容は以下の通りです。
- EU域内で特定のデジタル事業を行っている全企業を対象とした法人所得税の上乗せ
- EU域内で行われた特定のデジタル事業により生じた収入への課税
- EU域内で行われたB2Bのデジタル取引への課税
その第一弾として欧州委員会は2018年、DSTの導入を試みたものの、この導入が盛り込まれたFair Taxation of the Digital Economy案に対する欧州理事会の支持を得ることができませんでした。ただし、この提案のDST導入は、OECDが現在策定しているような所得税をベースとした協調的なアプローチへと後々置き換えられることを意図した暫定的なものでした。
一方的なDSTの導入
EUとOECDは期限を設けて合意形成を試みてきましたが、独自のDSTを導入して一方的な措置をとっている国・地域は20を超えます。