EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部
公認会計士 森 さやか
公認会計士 久保 慎悟
品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。
本稿では、2025年3月期の有価証券報告書の作成にあたり、会計基準等や開示規則の主な改正などによる開示への影響、金融庁による有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の審査項目を踏まえた留意事項を解説します。文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめ申し添えます。
25年3月期から原則適用又は任意適用可能となる主な会計基準等や25年3月期において公表されている主な会計基準等が開示に与える影響について解説します。なお、これらの会計処理等の詳細については、情報センサー2025年4月「2025年3月期 決算上の留意事項」をご参照ください。
22年10月に、税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果の取扱いを定める改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下、改正法人税等会計基準)等が公表され、25年3月期から原則適用されています。なお、改正法人税等会計基準の内容等の詳細については、情報センサー2022年8月・9月合併号「株主資本又はその他の包括利益に対する課税及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いに関する改正案の解説」をご参照ください。
改正法人税等会計基準では、税金費用の計上区分に関する定めが改正され、当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等については、以下のとおり、所得の発生源泉となる取引等ごとに計上区分が異なることとされました。なお、ここでいう「所得等に対する法人税、住民税及び事業税等」には、所得に対する法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)のほかに、住民税(均等割)及び事業税(付加価値割及び資本割)を含むとされています(改正法人税等会計基準5項)。
① 企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引のうち、損益に反映されないものに対して課されるもの
② 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等(以下、評価差額等)に対して課されるもの
③ ①及び②以外のもの
貸借対照表の純資産の部の株主資本の区分において、対応する内訳項目から控除する形式で表示することとされました。
個別財務諸表では、純資産の部の評価・換算差額等の区分において対応する内訳項目から控除する形式で表示することとされました。
連結財務諸表では、連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書において、その他の包括利益の内訳項目から控除する形式で表示することとされました。ただし、各内訳項目について法人税、住民税及び事業税等を控除する前の金額で表示して、それらに関連する法人税、住民税及び事業税等と税効果の額とを一括して加減する方法で記載することもできるとされています(企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」(以下、包括利益会計基準)8項)。そして、連結貸借対照表の純資産の部のその他の包括利益累計額の区分において、対応する内訳項目から控除する形式で表示することとされました。
改正前における損益計算書の表示から変更はありません。すなわち、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)については、損益計算書の税引前当期純利益(又は損失)の次に、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目をもって表示し、事業税(付加価値割及び資本割)については、原則として、損益計算書の販売費及び一般管理費として表示します。ただし、事業税(付加価値割及び資本割)については、合理的な配分方法に基づきその一部を売上原価として表示することができるとされています。
なお、①又は②に該当する当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等についても、以下のいずれかに該当する場合には、損益に計上することができるとされ、結果として、損益計算書の税引前当期純利益(又は損失)の次に、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目をもって表示することができます。
資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等に対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等については、その他の包括利益に関する注記において、税効果の額と併せてその金額を注記することとされました。これに伴って、改正前は「税効果額」とされていた注記における表現が、「法人税等及び税効果額」に変更になりました。
② 退職給付に関する注記(企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」第30項、企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」第58項、[開示例1])
確定給付制度を採用している場合には、退職給付に関する注記において、その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳と、貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の内訳を記載する必要があります。この際、その他の包括利益又はその他の包括利益累計額に計上された項目について、その内訳ごとに税金費用を控除する前の金額で記載することになります。当該税金費用を控除する前の金額であることを示す表現について、改正前は「(税効果控除前)」とされていましたが、「(法人税等及び税効果控除前)」に変更となりました。
改正法人税等会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及(そきゅう)適用することとされています(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準」(以下、企業会計基準第24号)5項(1))。ただし、税金費用の計上区分に関する改正については、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができるとされています(改正法人税等会計基準20-3項、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」65-2項)。
改正法人税等会計基準の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合に該当するため、税金費用の計上区分に関する改正及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いの改正のいずれにおいても、当期又は過去の期間に影響があるとき、又は将来の期間に影響を及ぼす可能性があるときは、当期において、以下の事項を注記します。なお、ⅲ.からⅳ.については、ⅴ.ただし書きに該当する場合を除き、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同一であるときには、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができます(企業会計基準第24号10項)。
ⅰ. 会計基準等の名称
ⅱ. 会計方針の変更の内容
ⅲ. 経過的な取扱いに従って会計処理を行った場合、その旨及び当該経過的な取扱いの概要
ⅲ. 経過的な取扱いが将来に影響を及ぼす可能性がある場合には、その旨及び将来への影響。ただし、将来への影響が不明又はこれを合理的に見積ることが困難である場合には、その旨
ⅳ. 表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額。ただし、経過的な取扱いに従って会計処理を行った場合並びに原則的な取扱いが実務上不可能な場合に該当する場合で、表示する過去の財務諸表について遡及適用を行っていないときには、表示期間の各該当期間において、実務上算定が可能な、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額
ⅴ. 表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する会計方針の変更による遡及適用の累積的影響額。ただし、表示期間のいずれかにおいて、当該期間に与える影響額を算定することが実務上不可能な場合には、累積的影響額を反映させた期におけるその金額。また、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することが実務上不可能な場合にはその旨
ⅵ. 原則的な取扱いが実務上不可能な場合には、その理由、会計方針の変更の適用方法及び適用開始時期
令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設されたことに伴い、まずは、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計について23年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(以下、2023年実務対応報告第44号)が公表されました。その後、法人税等(当期税金)の会計処理及び開示に関する取扱いについても企業会計基準委員会(以下、ASBJ)において検討が行われ、24年3月に実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、実務対応報告第46号)が公表され、25年3月期より適用されています。なお、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理等の詳細については、情報センサー2025年3月「グローバル・ミニマム課税制度に係る当期税金の会計上の取扱い」をご参照ください。
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3カ月(グローバル・ミニマム課税制度に関する申告書を最初に提出すべき場合には1年6カ月)以内に申告及び納付をすることが求められています。このため、貸借対照表において、グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することとされました。なお、実務対応報告第46号の公表に併せて、個別財務諸表上、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、財務諸表等規則)第52条も改正され、同条第1項第5号に「長期未払法人税等」が追加されていることから、貸借対照表においては、金額の大小にかかわらず独立した科目として区分掲記が必要である点に留意してください。ただし、会社法計算書類と同程度の開示水準で個別財務諸表を作成することが認められる特例財務諸表提出会社においては、「会社計算規則」の定めに基づいて記載を判断することになり、結果として区分掲記しないことも考えられます(財務諸表等規則第1条の2、第127条第1項、様式第5号の2(記載上の注意))。
さらに、連結財務諸表上、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、連結財務諸表規則)第38条も改正され、同条第1項第4号に「長期未払法人税等」が追加されていることから、連結貸借対照表においても、基本的には、独立した科目として区分掲記が必要となります。ただし、長期未払法人税等の額が、負債及び純資産の合計額の百分の一以下で、かつ、他の項目に属する負債と一括して表示することが適当であると認められる場合には、「その他」等の適当な名称を付した科目にて一括して掲記することができます(連結財務諸表規則第38条第1項柱書ただし書き)。
連結損益計算書又は連結包括利益及び損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、対応関係の観点から、税金等調整前当期純利益の次に、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示することとされました。また、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記することとされています。この際、重要であるか否かは企業のキャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解するために有用であるかどうかを踏まえて判断することになると考えられるとされています。
損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、連結損益計算書における表示区分との整合性の観点と親会社等の所得(利益)に対する税には直接的には該当しないものであるという観点から、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を以下のいずれかの方法により表示することとされています。
ただし、個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合には、上記の定めにかかわらず、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示することができるとされています(この場合は当該金額の注記を要しない)。
前記のとおり、23年3月に2023年実務対応報告第44号が公表され、適用されていましたが、24年3月に、グローバル・ミニマム課税制度の導入の進展に併せて行われる法人税法の改正を見据えて適用範囲を拡大しつつ、その名称を変更して改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」が公表され、同日より適用されています。
グローバル・ミニマム課税制度については、課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業とが相違することとなり、税効果会計を適用すべきか否かが明らかではないと考えられること等を理由として、改正実務対応報告第44号により、当該改正実務対応報告第44号の適用が終了されるまでの間、連結会計年度及び事業年度の決算における税効果会計の適用にあたっては、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされています(改正実務対応報告第44号3項)。
また、グローバル・ミニマム課税制度の適用が見込まれるか否かの判断を適時にかつ適切に行うことについて懸念があるとの意見があることから、グローバル・ミニマム課税制度の影響が見込まれる企業において改正実務対応報告第44号を適用した旨を注記することも求められていません(改正実務対応報告第44号16項)。
既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合には、以下の事項を注記することが求められます。なお、連結財務諸表で注記を行っている場合は、個別財務諸表での注記を要しないこととされています(企業会計基準第24号22-2項)。
新しい会計基準等の適用時期について、財務諸表の作成の時点において未だ経営上の判断を行っていない場合には、「適用予定日に関する記述」においてその旨を注記する必要があります。また、適用の影響につき定量的に把握していない場合には、定性的な情報を注記することとされ、財務諸表の作成の時点において企業が未だその影響について評価中であるときには、その事実を記述することで足りるとされています(企業会計基準適用指針第24号12-2項)。
25年3月期における未適用の会計基準等は<表1>のとおりです。なお、適用時期については、3月決算会社を前提として原則適用の時期を記載しています。
表1 未適用の会計基準等
23年12月に、重要な契約の開示に関して、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)等の改正が公布され、24年4月から施行されました。本改正は、22年6月に公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」において、個別分野における「重要な契約」について、開示すべき契約の類型や求められる開示内容を具体的に明らかにすることで、適切な開示を促すことが考えられるとの提言を受けたものです。
本改正は、25年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。ただし、施行日前に締結された契約については、26年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から記載が求められることになりますが、それまでは記載を省略することができるとする経過措置が設けられています。
本改正により、有価証券報告書の開示項目である「経営上の重要な契約等」が「重要な契約等」に変更されるとともに、重要な契約について新たに以下の開示が求められることになります。
* 開示の対象となる「財務上の特約」とは、当該提出会社の財務指標があらかじめ定めた基準を維持することができないことを条件として当該提出会社が期限の利益を喪失する旨の特約のことをいうとされており、開示の対象となる「財務上の特約」が付された金銭消費貸借契約や社債について、純資産額に占める割合が10%以上のものを対象とすることとされている(「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下、パブリックコメントに対する金融庁の考え方)No.58、No.72)。
なお、このときの金銭消費貸借契約や社債は、同種の特約が付された金銭消費貸借契約や社債を合算した残高となる。
また、「重要な影響を及ぼす可能性のある特約」とは、基準となる指標や抵触の際の効果、特約に定める事由が発生する蓋然性等を踏まえ、財政状態等に重要な影響を及ぼす可能性があるものを指すとされている(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.64、No.65)。
① 本改正を含む重要な契約についての法令上の開示の要請は、当事者間の合意による秘密保持義務に優先することから、個別の契約において秘密保持条項が設けられていたとしても、法令の定めに基づき当該契約の内容を開示することは、秘密保持義務違反には当たらないと考えられるとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.21、No.22)。
② 記載すべき事項の全部又は一部を同一開示書類の他の箇所(例えば、財務諸表の注記等)に記載した場合には、その旨を記載することによって、当該他の箇所において記載した事項の記載を省略することができることとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.23)。ただし、有価証券報告書等の記載内容を補完する詳細な情報については、任意開示書類等を参照することも可能である一方、法令上有価証券報告書に記載すべき事項について、これを有価証券報告書に記載することなく任意開示書類を参照することは認められないとされています。
③ 企業と株主との間で締結された提出会社のガバナンス等に関する合意や株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約のうち、「重要性が乏しいもの」については開示の対象から除かれることとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.13)。一定の合意を含む契約が「重要性の乏しいもの」に該当するか否かは、当該合意が提出会社等のガバナンスや支配権、市場等に与える影響を踏まえ、個別事案ごとに実態に即して判断すべきであるとされているものの、ガバナンスに対する影響が限定的であるものについては、「重要性の乏しいもの」に該当するものと考えられるとされています。
25年1月に、政策保有株式の開示に関して、開示府令等の改正が公布され、同日に施行されました。令和5年度の有価証券報告書レビューにおいて、「株式の保有状況」の開示のうち、保有目的が純投資目的以外であるいわゆる政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式の開示状況を検証したところ、実質的に政策保有を目的として株式を継続保有していることと差異がない状態になっている課題が識別されたこと等により、有価証券報告書等における「株式の保有状況」の開示について改正が行われたものです。
本改正は、25年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。
従前、最近事業年度中に投資株式の保有目的を純投資目的から純投資目的以外の目的に変更したもの又は純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある場合には、それぞれ区分して、銘柄ごとに、銘柄、株式数及び貸借対照表計上額を記載することとされていました。しかし、本改正では、当事業年度末において保有している投資株式で、保有目的を変更した場合における開示について、純投資目的以外の目的に変更したもの又は純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある場合に以下の開示を求めています。
① 最近事業年度において、純投資目的から純投資目的以外の目的に変更した場合(改正開示府令 第二号様式(記載上の注意)(58)株式の保有状況f(a)) ⅰ. 銘柄 |
---|
② 当期を含む最近5事業年度以内に純投資目的以外の目的(政策保有目的)から純投資目的に保有目的を変更した株式がある場合(改正開示府令 第二号様式(記載上の注意)(58)株式の保有状況f(b)) ⅰ. 銘柄 |
① 「純投資目的」とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいうとされています。例えば、当該株式の発行者等が提出会社の株式を保有する関係にあること、当該株式の売却に関して発行者の応諾を要すること等により、発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情が存在する株式は、純投資目的で保有しているものとはいえないことに留意することとされています(改正開示ガイドライン5-19-3-2)。
② 「専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする」という点について、発行者との関係において売却を妨げる事情が認められない限り、純投資目的に区分することは可能と考えられますが、配当収入を得ることを目的として保有目的を純投資目的に変更した場合には、保有目的の変更後の保有の方針として、投資者との対話に資するような適切な情報開示を行う必要があるという考えが金融庁から示されています。
③ 「当該株式の発行者等」には、提出会社が上場持株会社の株式を保有し、当該上場持株会社の子会社が提出会社の株式を保有している場合、当該上場持株会社との関係において「売却を妨げる事情」が存在する場合には、当該子会社も含まれるという考えが金融庁から示されています。
25年2月に、株式報酬に係る開示規制の見直し等に関する開示府令等の改正が公布され、施行されました。金融審議会「市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書(令和5年12月公表)」における提言を踏まえて、スタートアップ等への資金供給や投資家のリスク負担能力に応じた多様な投資商品の提供を促進することを目的として改正が行われたものです。
本改正により、発行済株式総数、資本金等の推移に関して、従前の開示に加えて、以下の開示が求められることとなりました。本改正は、25年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。
「発行済株式総数、資本金等の推移」の表において、所定の時期に確定した数の株券(金融商品取引所に上場されているもの又は店頭売買有価証券に該当するものに限る)を交付する旨の定めに基づく株券の交付(事後交付型株式による株券の交付)による発行済株式総数、資本金及び資本準備金の増加について、事業年度ごとにそれぞれの合計額を記載し、事後交付型株式による株券の交付によるものである旨を欄外に記載することが求められます(開示府令第三号様式(記載上の注意)(23)発行済株式総数、資本金等の推移b本文)。
直近の改正ではありませんが、23年1月に、開示府令等の改正により、有価証券報告書等において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設され、サステナビリティ情報の開示が求められています。本改正の詳細については、情報センサー2023年3月号「改正企業内容等の開示に関する内閣府令の解説」をご参照ください。
25年3月に、サステナビリティ基準委員会より以下の3つのサステナビリティ開示基準が公表されました。
これらのサステナビリティ開示基準は、公表日以後終了する年次報告期間に係るサステナビリティ関連財務開示から適用することができるとされていますが、強制適用の時期については示されていません。
サステナビリティ開示基準の内容等の詳細については、以下をご参照ください。
金融庁は、毎年、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すことを目的として、「記述情報の開示の好事例集」を公表、更新しています。
また、23年1月に改正された開示府令において、有価証券報告書等にサステナビリティに関する考え方及び取組の記載欄が新設されたことを踏まえ、どのような開示が投資判断にとって有益と考えられるか、投資家等による勉強会が実施され、これを受けて24年11月から25年3月にかけて「記述情報の開示の好事例集2024」※1が公表されています。
※1 金融庁「『記述情報の開示の好事例集2024』の最終版公表」www.fsa.go.jp/news/r6/singi/20250324-2.html(2025年3月25日アクセス)
有価証券報告書の記載内容の適正性を確保する目的の下、毎年、金融庁と財務局等との連携により有報レビューが行われています※2。
25年度の有報レビューの概要は<表2>のとおりです。
項目 |
対象会社 |
審査内容及び方法 |
25年度の対象項目 |
---|---|---|---|
(1) 法令改正関係審査 |
すべての有報提出会社 |
毎年の法令改正事項に関して、調査票*1に回答し所管の財務局等に提出 |
|
(2) 重点テーマ審査 |
審査対象会社 |
特定の重点テーマに着目して審査対象会社を抽出し、個別の質問を送付 |
|
(3) 情報等活用審査 |
審査対象会社 |
適時開示や報道、一般投資家等から提供された情報等を勘案して審査を実施 |
- |
*1 24年度の有報レビューで識別された主な課題について審査結果を踏まえた留意すべき事項等に従って開示が行われているかについて確認する調査項目が含まれている。また、当該調査票は、有価証券報告書及び内部統制報告書の作成に向けた準備段階や有価証券報告書及び内部統制報告書の作成時に適宜参照し、提出前のチェックで利用する等、記載漏れ等の防止の観点で利用することが期待されるとされている(ただし、調査票のみで判断することなく、必ず該当の法令等を併せて参照する旨も示されている)。
*2 「株式の保有状況」における政策保有株式の保有目的等に関する開示については、法令改正等で新たに開示が求められた事項ではないが、24年度の有価証券報告書レビューにおいて識別された課題のうち特に留意すべき事項であることから、25年度の審査対象に含めるとされている。
*3 有価証券報告書において開示される「サステナビリティに関する考え方及び取組」及び「コーポレート・ガバナンスの状況等」に関する記載内容について提出会社による自主的な改善に資するよう審査するとされている。
過去の有報レビューの重点テーマ項目は<表3>のとおりです。
対象年度 |
重点テーマ |
---|---|
24年度 |
サステナビリティに関する企業の取組の開示 *1 |
23年度 |
サステナビリティに関する企業の取組の開示 *2 |
22年度 |
収益認識に関する会計基準 |
*1 23年1月に施行されたサステナビリティに関する情報開示の開示府令の改正にともない、有価証券報告書において開示される「サステナビリティに関する考え方及び取組」に関する記載内容について自主的な改善に資するよう審査を実施。
*2 重点テーマ以外の有価証券報告書の記載項目(政策保有株式に関する開示等)についても適宜審査を実施。
24年度の有報レビュー結果を踏まえた留意事項及び改善の方向性として記載された内容のうち主なものは以下のとおりです。なお、留意事項及び改善の方向性と併せて、今後の有価証券報告書提出会社による自主的な改善に資するよう、有報レビューで識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集も掲載されています。
23年度の有報レビューで識別された課題が24年度の有報レビューにおいても複数の審査対象会社で識別されています。これに加えて、24年度の有報レビューで新たな課題も識別されています。識別された主な課題は以下のとおりであり、24年度の有報レビューで新たに識別された課題には下線を付しています。
サステナビリティに関する企業の取組の開示に係る審査結果として、識別された主な課題は以下のとおりです。なお、24年度の有報レビューで新たに識別された課題又は更新された課題については下線を付しており、下線を付したもの以外は23年度の有報レビューにおいても識別されていた課題であり引き続き留意すべきとされています。
また、金融庁ウェブサイトでは、個別項目それぞれについて、具体的な留意事項等を事例も交えて解説しています。加えて、課題への対応にあたって参考となる開示例集も示されています。詳細は、金融庁ウェブサイト「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度)」※2をご参照ください。
課題① |
サステナビリティ関連のガバナンスに関する記載がない又は不明瞭である |
---|---|
課題② |
サステナビリティ関連のリスクを識別、評価及び管理するための過程に関する記載が不明瞭である |
課題③ |
サステナビリティ関連の機会を識別、評価及び管理するための過程に関する記載がない |
課題④ |
識別したサステナビリティ関連のリスク及び機会に対応する戦略並びに指標及び目標に関する記載がない又は不明瞭である |
課題⑤ |
サステナビリティ関連のリスク及び機会の記載がない又は不明瞭なため、サステナビリティに関する戦略並びに指標及び目標に関する記載が不明瞭である |
課題⑥ |
戦略並びに指標及び目標のうち重要なものについて記載がない |
課題⑦ |
人的資本(人材の多様性を含む)に関する方針、指標、目標及び実績のいずれかの記載がない又は不明瞭である |
課題⑧ |
人的資本(人材の多様性を含む)に関する指標、目標及び実績が連結会社ベースの記載になっていない |
課題⑨ |
「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載すべき事項を有価証券報告書内の他の箇所に記載して参照する場合において、記載上の不備がある |
課題⑩ |
「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載事項について、公表した他の開示書類等に記載した情報を参照する場合において、記載上の不備がある |
さらに、開示の充実に向けて参考となると考えられる全般的事項も23年度の有報レビューの審査結果の公表に引き続き示されており、以下のとおりです。
① 開示の重要性
② 企業価値向上に向けたストーリー(文脈)を意識した開示
③ 検討中・策定中等の場合の開示
④ 補足情報の開示
従業員の状況及びコーポレート・ガバナンスの状況等の開示に係る審査結果として、識別された主な課題は以下のとおりです。なお、24年度の有報レビューで新たに識別された課題又は更新された課題については下線を付しており、下線を付したもの以外は23年度の有報レビューにおいても識別されていた課題であり引き続き留意すべきとされています。
課題① |
女性管理職比率を女性活躍推進法の「管理職」の定義に従って算定・開示していない |
---|---|
課題② |
取締役会、会社が任意に設置する指名・報酬委員会、監査役会等の開催頻度、具体的な検討内容、出席状況等の記載がない |
課題③ |
内部監査が取締役会に直接報告を行う仕組みの有無に関する記載がない |
課題④ |
政策保有株式の銘柄ごとの保有目的(保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の概要を含む)が具体的に記載されていない |
課題⑤ |
政策保有株式の銘柄ごとの保有目的が安定株主の確保にあるにもかかわらず、当該目的が記載されていない |
課題⑥ |
取締役会等における政策保有株式の保有の適否に関する検証についての開示と実態に乖離がある |
課題⑦ |
銘柄ごとの政策保有株式の定量的な保有効果の記載が困難な場合において、政策保有株式の保有の合理性を検証した方法の記載が不明瞭である |
課題⑧ |
政策保有株式縮減の方針を示しつつ、売却可能時期等について発行者と合意をしていない状態で純投資目的の株式に変更を行っており、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっている |
課題⑨ |
政策保有株式縮減の方針を示しつつ、発行者から売却の合意を得た上で純投資目的の株式に区分変更したものの、実際には長期間売却に取り組む予定はなく、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっている |
※2 金融庁「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度)」www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250401-3/20250401.html(2024年4月1日アクセス)
25年3月に成立した令和7年度税制改正により、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置の一環として、防衛特別法人税が創設されることになりました。なお、当該税制改正による会計処理等への影響の詳細については、情報センサー2025年4月「2025年3月期 決算上の留意事項」をご参照ください。
繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算することとされていることから(「税効果会計に係る会計基準」第二・二2)、当該防衛特別法人税の創設により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を修正しなければならない場合があります。このように税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正された場合には、その旨及び修正額を注記する必要があります(「税効果会計に係る会計基準」第四3)。
25年3月28日に、金融担当大臣は全上場企業に対し「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」を発出しました。
当該要請では、有価証券報告書の開示は、本来、株主総会の3週間以上前に行うことが最も望ましいと考えられる一方で、実務上の課題が存在するとされています。そして、現状、株主総会同日又は数日以内の開示が9割以上を占めており、その前日又は数日前に提出することに日程上の大きな支障はないと考えられるとされています。
そこで、有価証券報告書の望ましい時期の開示への第一歩として、今年度から株主総会の前日ないし数日前に提出することの検討が要請されました。
当該要請内容の詳細は、金融庁のウェブサイト「株主総会前の適切な情報提供について」※3をご覧ください。
有価証券報告書を株主総会前に提出する場合、その記載事項のうち、定時株主総会又はその直後の取締役会の決議事項となっている事項について、その旨及びその概要を記載することとされています(開示府令第三号様式(記載上の注意)(1)一般的事項g)。このため、株主総会前に有価証券報告書を提出していなかった企業が株主総会前に有価証券報告書を提出する場合には、例えば、以下の記載事項が変更になる可能性があると考えられます。
記載内容への影響の詳細は、金融庁のウェブサイト「有価証券報告書の定時株主総会前の開示について」※4における「解説(総会前開示を行うに当たっての留意点)」をご覧ください。
※3 金融庁「株主総会前の適切な情報提供について」www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250328-2/20250328-2.html(2025年4月26日アクセス)
※4 金融庁「有価証券報告書の定時株主総会前の開示について」www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sokaimaekaiji.html(2025年4月26日アクセス)
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