EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 兼 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 船木 博文
金融事業部にて各種サステナビリティに関するアドバイザリー業務に従事するとともに、品質管理本部 会計監理部において、サステナビリティ情報開示に関する相談業務などに従事している。また、2020年から2022年の間、金融庁企画市場局企業開示課に在籍し、企業情報の開示充実に向けた施策に従事。
要点
本稿では、2025年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)から公表されたサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)の概要について、基準の公表背景、構成、主な開示要求事項、IFRSサステナビリティ開示基準との相違点、適用時期など、企業の開示実務に影響を与える重要な点を中心に解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
2023年6月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)により公表されたIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2号「気候関連開示」(以下、これらを合わせて「ISSB基準」)において、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する国際的な基準が整備されました。この状況を受け、SSBJでは国際的な比較可能性を確保しつつ、日本企業の実情に配慮したサステナビリティ開示基準の開発が進められました。2024年3月に公表された公開草案に寄せられた意見の検討が重ねられた上で、今般、サステナビリティ関連財務開示の作成及び報告について定めることを目的としたSSBJ基準が公表されました。
SSBJ基準の開発に当たっての基本的な方針は、基準を適用した結果として開示される情報が国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとなるようにすることであり、その具体的な内容は以下の通りです。
SSBJ基準は、次の3つの基準から構成されています。
ISSB基準の内容をSSBJ基準に取り入れる際には、主として基準の読みやすさを優先し、ISSB基準の定めの順番等を入れ替えたり、用語を言い換えたりするなどの工夫がなされています。
また、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開示すべき事項すなわち「コア・コンテンツ」を定めた部分と、コア・コンテンツ以外の、サステナビリティ関連財務開示を作成する際の基本となる事項を定めた部分とで構成されています。一方、SSBJ基準では、これらの内容を2つに分けており、コア・コンテンツを「一般基準」にて、コア・コンテンツ以外の基本となる事項を「適用基準」にて、それぞれ定めています(<図1>参照)。
図1 SSBJ基準とISSB基準の構成の比較
適用基準は、サステナビリティ関連財務開示を作成し、報告する場合における、基本となる事項を定めています。主な要求事項は以下の通りです。
一般基準は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開示すべき事項である「コア・コンテンツ」を定めています。コア・コンテンツは、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つの要素により構成されています(<図2>参照)。
これらの要素は、金融安定理事会の「気候関連財務開示に関するタスクフォース」(TCFD)による提言を基礎として開発されており、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報をどのように識別し、評価し、優先順位付けし、モニタリングし、管理しているか、それぞれについて説明することが求められています。
図2 コア・コンテンツの4要素における開示目的と主な開示要求
一般基準のコア・コンテンツに関する定めは、具体的に適用される定めがSSBJ基準の他の基準(現状では気候基準のみ)に存在しない場合に適用することとされています。現状では、気候関連以外の、例えば、人的資本や生物多様性に関する特定のテーマ別基準がないため、これらのテーマに関連する開示には一般基準が適用されることになります。
気候基準は、気候関連のリスクと機会に関する具体的な開示要求について詳細に定めた基準です。一般基準と同様に「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つの要素で構成されており、気候変動に関しては、「戦略」と「指標及び目標」について、以下のような特徴的な内容が含まれています。
気候基準では、戦略に関する開示において特徴的な要素が幾つかあります。まず、気候関連のリスクと機会が企業戦略に与える影響について、より具体的な開示が求められています。特に、気候レジリエンス(気候関連の変化、進展又は不確実性に対応する企業の能力)の評価を行う際に、気候関連のシナリオ分析を用いることが必要とされ、分析手法やインプットに関する情報などの詳細な開示が求められます。
全ての企業に適用される重要な指標として、以下が開示対象となります。
企業が関連する産業別の指標のうち、主なものを開示することが求められています。その際、ISSBが公表する「産業別ガイダンス」を参照し、その適用可能性を考慮することが求められます。
温室効果ガス(GHG)排出の測定方法については、原則としてGHGプロトコル(2004年)に従いますが、日本における地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)などの法的要求がある場合は、その測定方法を用いることも認められています。また、SSBJ基準独自の要素として、スコープ3排出量のカテゴリー別内訳の開示や、GHGプロトコルと異なる方法で測定した場合の内訳開示などが追加されています。なお、GHGプロトコル以外の測定方法を使用する場合でも、温室効果ガス排出量の算定期間は、適用基準の要求に従い、サステナビリティ関連財務開示及び関連する財務諸表と同一の報告期間を対象とすることが求められます。
SSBJ基準では、以下のような点でISSB基準と異なる取扱いが設けられています。
SSBJ基準は原則適用時期を定めておらず、これについては関連法令において今後定められることが想定されます。この点、金融商品取引法適用会社における有価証券報告書の開示については、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」での検討により、2027年3月期以後、時価総額3兆円以上の企業から段階的に適用(保証は翌年度から)が求められる見込みです。
一方で、任意適用については、SSBJ基準公表日以後終了する年次報告期間から適用することができるとされているため、3月決算の企業は、2025年3月期からSSBJ基準による開示を始めることが可能です。なお、SSBJ基準を適用する場合、適用基準、一般基準、気候基準を同時に適用しなければなりません。
また、法令の定めに基づく開示の場合の経過措置として、最初の年次報告期間においては例えば以下のような措置が認められています。
SSBJは、SSBJ基準の適用を支援するため、以下の取組みを進めています。
SSBJ基準の公表により、日本のサステナビリティ開示に関する共通の基盤が整備されました。SSBJ基準は、ISSB基準との国際的整合性を確保しつつ、日本企業の実情に配慮した内容となっています。
今後、企業は自社の事業特性や投資家の期待を踏まえて、SSBJ基準に基づく開示の準備を進めることが重要です。特に気候関連開示については、グループ企業を含めた温室効果ガス排出量の測定、システム導入の検討、内部統制の構築など、さまざまな準備が必要となるため、早期に対応を検討することが望ましいでしょう。
SSBJ基準の適用時期は今後法令で定められることになりますが、企業価値向上の観点からも、積極的な情報開示を通じてステークホルダーとの対話を深めていくことが期待されます。
2025年3月に公表されたSSBJ基準は、ISSB基準との整合性を図りつつ日本企業の実情に配慮した内容となっています。企業は自社の事業特性や投資家の期待を踏まえ、気候関連開示を含め早期に準備を進めることが重要です。原則適用は段階的に行われる見込みですが、企業価値向上の観点からも、積極的な情報開示によるステークホルダーとの対話の深化が期待されます。
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サステナビリティ情報開示とは、企業が環境、社会、経済の3つの観点から、持続可能な社会の実現に向けて行っている取り組みを報告することです。2023年3月期に内閣府令が改正され、有価証券報告書等でサステナビリティ情報の開示が求められるようになりました。
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)から、2025年3月4日に、サステナビリティ開示に関する以下の3つの基準が公表されました。
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