【3月公表!】速報連載第1回 サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)を読み解く:概要

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【3月公表!】速報連載第1回 サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)を読み解く:概要


2025年3月、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)よりサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)が公表されました。本稿では、SSBJ基準の基本的な構成や特徴、ISSB基準との相違点、適用時期など、企業の開示実務に影響を与える重要ポイントを解説します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 兼 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 船木 博文

金融事業部にて各種サステナビリティに関するアドバイザリー業務に従事するとともに、品質管理本部 会計監理部において、サステナビリティ情報開示に関する相談業務などに従事している。また、2020年から2022年の間、金融庁企画市場局企業開示課に在籍し、企業情報の開示充実に向けた施策に従事。



要点

  • SSBJ基準は国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)により公表されたIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)との国際的整合性を図りつつ、日本企業の実情に配慮した基準として開発された。
  • SSBJ基準は「適用基準」「一般基準」「気候基準」の3つから構成され、TCFDの4要素に基づくコア・コンテンツを含む。
  • 2025年3月期から任意適用可能だが、法令による原則適用時期は今後決定される予定。


Ⅰ はじめに

本稿では、2025年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)から公表されたサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)の概要について、基準の公表背景、構成、主な開示要求事項、IFRSサステナビリティ開示基準との相違点、適用時期など、企業の開示実務に影響を与える重要な点を中心に解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。


Ⅱ SSBJ基準公表までの経緯及び開発に当たっての基本的な方針

2023年6月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)により公表されたIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2号「気候関連開示」(以下、これらを合わせて「ISSB基準」)において、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する国際的な基準が整備されました。この状況を受け、SSBJでは国際的な比較可能性を確保しつつ、日本企業の実情に配慮したサステナビリティ開示基準の開発が進められました。2024年3月に公表された公開草案に寄せられた意見の検討が重ねられた上で、今般、サステナビリティ関連財務開示の作成及び報告について定めることを目的としたSSBJ基準が公表されました。

SSBJ基準の開発に当たっての基本的な方針は、基準を適用した結果として開示される情報が国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとなるようにすることであり、その具体的な内容は以下の通りです。

  1. 国際的な整合性を図るという場合、ISSB基準との整合性を図ることを基礎とする

    ・原則としてISSB基準の要求事項を全て取り入れる

  2. 相応の理由が認められる場合には、ISSB基準の要求事項にSSBJ基準独自の取扱いを追加し、ISSB基準の要求事項に代えてSSBJ基準独自の取扱いを選択することを認める

    ・SSBJ基準独自の取扱いを選択しなければ、ISSB基準に準拠したことになることを意図している
    ・SSBJ基準独自の取扱いを選択した場合、それが直ちにISSB基準に準拠しないことにはならないと考えられる

  3. ISSB基準にはない定めであっても、個別に検討した上で必要と認められる場合には、SSBJ基準においてISSB基準の要求事項に追加した定めを置く

    ・追加で要求する開示は、ISSB基準の開示を作成する過程で入手する情報に基づき作成可能とすることを意図している

Ⅲ SSBJ基準の構成

SSBJ基準は、次の3つの基準から構成されています。

  1. サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」(以下、適用基準) 
  2. サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」(以下、一般基準) 
  3. サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(以下、気候基準)

ISSB基準の内容をSSBJ基準に取り入れる際には、主として基準の読みやすさを優先し、ISSB基準の定めの順番等を入れ替えたり、用語を言い換えたりするなどの工夫がなされています。

また、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開示すべき事項すなわち「コア・コンテンツ」を定めた部分と、コア・コンテンツ以外の、サステナビリティ関連財務開示を作成する際の基本となる事項を定めた部分とで構成されています。一方、SSBJ基準では、これらの内容を2つに分けており、コア・コンテンツを「一般基準」にて、コア・コンテンツ以外の基本となる事項を「適用基準」にて、それぞれ定めています(<図1>参照)。

図1 SSBJ基準とISSB基準の構成の比較

図1 SSBJ基準とISSB基準の構成の比較

Ⅳ 適用基準の概要

適用基準は、サステナビリティ関連財務開示を作成し、報告する場合における、基本となる事項を定めています。主な要求事項は以下の通りです。

  1. 報告企業:関連する財務諸表と同じ報告企業に関するものを開示する
  2. 報告期間:財務諸表と同じ報告期間を対象とする
  3. 報告のタイミング:財務諸表と同時に報告する
  4. 情報の記載場所:財務諸表とあわせて開示する
  5. リスク及び機会の識別:サステナビリティ関連のリスク及び機会の識別に当たり、SSBJ基準を適用するとともに、SASBスタンダードにおける開示トピックを参照し、その適用可能性を考慮しなければならない
  6. 重要性がある情報の開示:企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会に関して重要性がある情報を開示する
  7. つながりのある情報:情報が関連する項目間、サステナビリティ関連財務開示内、サステナビリティ関連財務開示と財務諸表におけるつながりを理解できるように情報を開示する
  8. 公表承認日:サステナビリティ関連財務開示の公表承認日及び承認した機関又は個人の名称を開示する
  9. 後発事象:報告期間末日以降から公表承認日までに、報告期間末日現在で存在していた状況に関する新たな情報を入手した場合は関連開示を更新し、新たに発生した事象で、開示しないことが主要な利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合は開示する
  10. 比較情報:当報告期間に開示される全ての数値並びに有用な説明的及び記述的情報について、前報告期間に係る比較情報を開示する(経過措置あり)

Ⅴ 一般基準の概要

一般基準は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開示すべき事項である「コア・コンテンツ」を定めています。コア・コンテンツは、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つの要素により構成されています(<図2>参照)。

これらの要素は、金融安定理事会の「気候関連財務開示に関するタスクフォース」(TCFD)による提言を基礎として開発されており、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報をどのように識別し、評価し、優先順位付けし、モニタリングし、管理しているか、それぞれについて説明することが求められています。

図2 コア・コンテンツの4要素における開示目的と主な開示要求

図2 コア・コンテンツの4要素における開示目的と主な開示要求

一般基準のコア・コンテンツに関する定めは、具体的に適用される定めがSSBJ基準の他の基準(現状では気候基準のみ)に存在しない場合に適用することとされています。現状では、気候関連以外の、例えば、人的資本や生物多様性に関する特定のテーマ別基準がないため、これらのテーマに関連する開示には一般基準が適用されることになります。


Ⅵ 気候基準の概要

気候基準は、気候関連のリスクと機会に関する具体的な開示要求について詳細に定めた基準です。一般基準と同様に「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つの要素で構成されており、気候変動に関しては、「戦略」と「指標及び目標」について、以下のような特徴的な内容が含まれています。

1. 戦略に関する主な要求事項

気候基準では、戦略に関する開示において特徴的な要素が幾つかあります。まず、気候関連のリスクと機会が企業戦略に与える影響について、より具体的な開示が求められています。特に、気候レジリエンス(気候関連の変化、進展又は不確実性に対応する企業の能力)の評価を行う際に、気候関連のシナリオ分析を用いることが必要とされ、分析手法やインプットに関する情報などの詳細な開示が求められます。
 

2. 指標及び目標に関する主な要求事項

(1) 産業横断的指標等

全ての企業に適用される重要な指標として、以下が開示対象となります。

  • 温室効果ガス排出(スコープ1、2、3の絶対総量)
  • 気候関連の移行リスク
  • 気候関連の物理的リスク
  • 気候関連の機会
  • 資本投下
  • 内部炭素価格
  • 報酬

(2) 産業別の指標

企業が関連する産業別の指標のうち、主なものを開示することが求められています。その際、ISSBが公表する「産業別ガイダンス」を参照し、その適用可能性を考慮することが求められます。

温室効果ガス(GHG)排出の測定方法については、原則としてGHGプロトコル(2004年)に従いますが、日本における地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)などの法的要求がある場合は、その測定方法を用いることも認められています。また、SSBJ基準独自の要素として、スコープ3排出量のカテゴリー別内訳の開示や、GHGプロトコルと異なる方法で測定した場合の内訳開示などが追加されています。なお、GHGプロトコル以外の測定方法を使用する場合でも、温室効果ガス排出量の算定期間は、適用基準の要求に従い、サステナビリティ関連財務開示及び関連する財務諸表と同一の報告期間を対象とすることが求められます。


Ⅶ SSBJ基準とISSB基準の主な相違点

SSBJ基準では、以下のような点でISSB基準と異なる取扱いが設けられています。

  1. SSBJ基準独自の選択肢を追加する主な項目

    (1) スコープ2温室効果ガス排出について、ISSB基準で要求している契約証書に関する情報に代えて、マーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出量を開示することができる

    (2) 気候関連の移行リスク、気候関連の物理的リスク及び気候関連の機会に関連して、資産又は事業活動の数値及びパーセンテージに代えて、規模に関する情報を開示することができる

    (3) 報酬関連の評価項目が役員報酬に組み込まれているもののその他の評価項目と結び付いて役員報酬に組み込まれており、気候関連の評価項目に係る部分を区分して識別できない場合、気候関連の評価項目を含む評価項目全体について開示することができる

    (4) ファイナンスド・エミッションに関する追加的な情報の一部として、世界産業分類基準(GICS)の6桁の産業レベルのコードを用いて産業別に分解したファイナンスド・エミッション及びグロス・エクスポージャーに関する情報は、当面の間、開示しないことができる

  2. ISSB基準に追加する主な項目

    (1) 指標の表示単位に関する定め

    (2) サステナビリティ関連財務開示の公表承認日及び承認した機関又は個人の名称の開示

    (3) GHGプロトコルとは異なる方法により測定することを選択し、かつ、当該方法により測定した温室効果ガス排出量に重要性がある場合、GHGプロトコルにより測定した排出量とGHGプロトコルとは異なる方法により測定した排出量の内訳の開示

    (4) スコープ3温室効果ガス排出のカテゴリー別の内訳の開示

Ⅷ 適用時期及び経過措置

SSBJ基準は原則適用時期を定めておらず、これについては関連法令において今後定められることが想定されます。この点、金融商品取引法適用会社における有価証券報告書の開示については、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」での検討により、2027年3月期以後、時価総額3兆円以上の企業から段階的に適用(保証は翌年度から)が求められる見込みです。

一方で、任意適用については、SSBJ基準公表日以後終了する年次報告期間から適用することができるとされているため、3月決算の企業は、2025年3月期からSSBJ基準による開示を始めることが可能です。なお、SSBJ基準を適用する場合、適用基準、一般基準、気候基準を同時に適用しなければなりません。

また、法令の定めに基づく開示の場合の経過措置として、最初の年次報告期間においては例えば以下のような措置が認められています。

  1. 比較情報の開示の免除
  2. 気候基準に準拠して、気候関連のリスク及び機会のみについての情報を開示すること
  3. スコープ3温室効果ガス排出(ファイナンスド・エミッションに関する追加的な情報を含む)の開示の免除

Ⅸ SSBJ基準の適用を支援する取組み

SSBJは、SSBJ基準の適用を支援するため、以下の取組みを進めています。

  1. 補足文書:ISSBが公表する教育的資料等のうち、SSBJ基準の適用において参考となるものについて、SSBJの了承を得たものを補足文書として公表
  2. SSBJハンドブック:SSBJ事務局が、SSBJ基準を利用する際の便宜を考慮して作成する解説 
  3. 有価証券報告書の作成要領(サステナビリティ関連財務開示編):有価証券報告書における開示を念頭に、SSBJ事務局において作成中の要領

Ⅹ おわりに

SSBJ基準の公表により、日本のサステナビリティ開示に関する共通の基盤が整備されました。SSBJ基準は、ISSB基準との国際的整合性を確保しつつ、日本企業の実情に配慮した内容となっています。

今後、企業は自社の事業特性や投資家の期待を踏まえて、SSBJ基準に基づく開示の準備を進めることが重要です。特に気候関連開示については、グループ企業を含めた温室効果ガス排出量の測定、システム導入の検討、内部統制の構築など、さまざまな準備が必要となるため、早期に対応を検討することが望ましいでしょう。

SSBJ基準の適用時期は今後法令で定められることになりますが、企業価値向上の観点からも、積極的な情報開示を通じてステークホルダーとの対話を深めていくことが期待されます。


サマリー

2025年3月に公表されたSSBJ基準は、ISSB基準との整合性を図りつつ日本企業の実情に配慮した内容となっています。企業は自社の事業特性や投資家の期待を踏まえ、気候関連開示を含め早期に準備を進めることが重要です。原則適用は段階的に行われる見込みですが、企業価値向上の観点からも、積極的な情報開示によるステークホルダーとの対話の深化が期待されます。


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