デジタルトランスフォーメーションという幅広い文脈から5Gのロードマップを作成する能力は、必要不可欠な能力です。
EYのチームは、5Gプロバイダーの顧客が5GベースのIoTの世界を最大限に活用できるようにするために5Gプロバイダーが取るべき重要なステップは3つあると考えています。
1. 業界の見直しを優先する
5Gについて視野を広げるよう企業を啓発します。
5G、IoT共に、投資の見通しは基本的に良好です。企業はすでに5Gのさまざまなユースケース(筋書き)を念頭に置いています。ただし、今もなお、IoTを推進している主要な要因は効率の向上です。一方で企業は、5Gが自社のサービスポートフォリオに与えるインパクトと、より広範な企業戦略の双方に取り組んでいます。
この観点から、サービスプロバイダーは、5Gが企業に何を提供できるのか、より訴求力のあるビジョン、つまりバーティカル産業のニーズに働きかけるビジョンを明確に示す必要があります。5Gの事業価値について企業のクライアントを教育し、5Gの革新的なユースケースを作成する方法に関する情報を提供することが非常に重要です。
2. 5Gを企業の変革計画に適合させる
5Gのサービス展開を、より広範な先端技術のニーズに結び付けます。
企業にとっての5Gの課題として挙げられることが多いのが、テクノロジーの統合や成熟度に関する懸念です。つまり5Gのプロバイダーは、5GとIoTのアクセステクノロジー同士の連携、そして、これらの技術と関連するエッジコンピューティングや人工知能(AI)の開発との連携を適切に確立できるよう顧客をサポートする必要があります。
こうした総合的な視点があってはじめて、予算のプレッシャーを受け続ける状況下で企業が問題点を克服するための支援を行えます。デジタルトランスフォーメーションという幅広い文脈から5Gのロードマップを作成する能力は、必要不可欠な能力です。
3. 単なるプロバイダーではなく、パートナーとなるために自己改革する
より重要な5Gのエコシステムを介してエンドツーエンドのソリューションを提供します。
サービスプロバイダーの認識は、大きく変化しています。テクノロジープッシュと取引が相互に作用する時代は終焉を迎えており、現在はエンドツーエンドのソリューションを通じてビジネスに成果をもたらすような対話型のコンサルティングを企業は求めています。5Gの世界には、単一業態で企業が必要とする全ての能力を提供するサプライヤーなど存在しません。通信事業者はIoTの専門家として業界をリードしていますが、デジタルトランスフォーメーション分野では下位に甘んじています。
5Gのプロバイダーは、今後10年間で5GベースのIoTを大規模に提供する能力を備えたエコシステムを優先する必要があります。長期的には、ユースケースの作成やビジネスケースの構築から、サイバーセキュリティ対策、データ関連のコンプライアンスへの対応に至るまで、あらゆる領域の企業ニーズに対処できるソリューションを提供することが重要となるでしょう。
調査結果の詳細については以下をご覧ください。
第1章
業界の見直しを優先する
5Gについて視野を広げるよう企業を啓発します。
5G:IoTの次の波を起こす重要な触媒
5Gは、あらゆる地域の産業を創り変える可能性を秘めています。前世代のモバイルテクノロジーの発展は消費者に受け入れてもらえるかどうかにかかっていましたが、5Gは企業の成長と効率に段階的な変化をもたらすことができます。ビジネスのプロセス構造そのものに組み込まれることで、IoTの力を際立たせ、業界を変革する次の波を起こすことができるのです。
多くの市場では、5Gはまだ登場したばかりですが、今後数年間のうちに、5Gの導入率は大幅に上昇するでしょう。現在、5G向けに投資している企業は全体の15%ですが、今後3年以内に、新たに54%の企業が投資を予定しています。2022年末までには、5G向けの投資はIoT向けの投資に匹敵する水準になるでしょう。
積極的な投資意欲があるにもかかわらず、ほとんどの企業は5Gの導入に着手しただけで、先には進めていません。現在あるいは将来の投資計画を持つ企業のうち、社内で実際に5Gの運用を開始しているのはわずか3%です。67%の企業が、5Gの運用テストを行っているか、5G向けの投資についてサプライヤーと協議を進めており、28%は社内での5G展開を計画しています。
企業は、5GベースのIoTにおけるさまざまなアプリケーションを見据えています。
企業はすでに、IoTの新たな可能性を解き放つために5Gが果たし得る役割について認識しており、現在IoTへの投資を行っている企業や投資を計画している企業は、さまざまなユースケースについて言及しています。このうち、サプライチェーンの管理と編成が上位に来る一方、パーソナライズされた製品・サービスは、プライベートネットワークおよびVR(仮想現実)・AR(拡張現実)アプリケーションのようなまだ新しい概念と並んで下位にランクされています。
導入意欲は限定的か? IoTを推進する主な理由は効率の向上
応用分野に関しては、企業は5Gが提供し得る利点について幅広い視野を持っているものの、全体的には、IoTへの支出を推進する大きな要因は今もなお、効率の向上となっています。IoTを推進する理由として、データ管理の改善、労働生産性の向上、コスト管理が上位に挙げられる一方、新しいサービスの創造やビジネスモデルの見直しなど、売り上げを伸ばすための目標については下位にランクされています。5Gの広範な応用例は成長を目指した目標に向けられていますが、今のところ、この事実はIoTの推進要因としては反映されていません。
第2章
5Gを企業の変革計画に適合させる
5Gのサービス展開を、より広範な先端技術のニーズに結び付けます。
5Gの問題点:テクノロジーの統合、成熟度、限られた予算、認知度の不足
企業は、発展を続けるIoT計画を実現する手段として5Gを位置付け、さまざまな応用例を念頭に置いています。しかし、課題は山積しており、前向きな予測を立てるのは難しい状況です。戦略、財務、運用面に限らず、企業は5GベースのIoTの試みが頓挫してしまう可能性のあるさまざまな問題点について発表しています。
テクノロジーの統合が複雑だと認識されている点、予算のプレッシャー、企業の理解不足、戦略的な妥当性についての懸念、これらは全て社内的な課題として特に言及されるものですが、企業側で管理できることです。
より広範なエコシステムに内在する外部的な主要課題としては、5Gテクノロジーが未成熟だと受け取られている点が挙げられますが、これは規制やサイバーセキュリティ、新たなパートナーシップやコラボレーションに関するエコシステムについての懸念と結び付いています。
企業は、5GやIoTなどの先端テクノロジーとの共生関係を求めている
これらの課題を念頭に置いた上で、新生テクノロジーが長期的な変革に欠かせないものとなるように、一連の5Gの優先事項を企業はすでに定めています。既存のIoT計画を5Gのニーズに適応させることが今後の優先事項の1つである一方、5Gと他の先端テクノロジーとの関係について掘り下げることも最優先の検討事項であり、このことは、企業が表明している統合や連携といった課題を反映しています。
5Gが将来のビジネスモデルをどのように特徴づけるのかについて評価することも、優先事項のトップ5内に入っています。現状のIoT向けの投資を推進する主な要因が効率の向上であり、ビジネスモデルの見直しはそれほど重視されていないことを考えると、これは有益な情報です。5Gは、売り上げの拡大をIoT計画の中心に据える可能性を秘めており、企業はこのことを認識し始めています。
5G:広範囲に及ぶ企業変革を実現するエンジン
企業は、5Gが組織を根本的に再構築できることに気付いています。5Gが新たなビジネスモデルに与える多大なインパクトを探ることに関心を持っているだけでなく、5Gの世界でオペレーティングモデルを見直す必要があることを企業は予見しています。しかし、これもまた、潜在的な不安要素の1つです。4分の3の企業が、5G導入を成功させる前提条件はオペレーティングモデルの見直しであると認めているにもかかわらず、5GベースのIoTへの移行を成功させることができると確信している企業は半数未満にとどまっているのです。
第3章
単なるプロバイダーではなく、パートナーとなるために自己改革する
より重要な5Gのエコシステムを介してエンドツーエンドのソリューションを提供します。
エンドツーエンドのソリューションが台頭するにつれ、ベンダーに対する考え方は変化している
企業が5Gに対応したIoTの世界に向けてその戦略を練り直す中、企業がサプライヤーへ向けるニーズも変化しており、ベンダーに求められる能力が今後数年のうちに変わっていくことは既定路線です。競争力のある価格設定と、ビジネスや業界のニーズについての広範な理解は変わらず重要であるものの、それ以外の能力への期待が確実に高まっています。特に、エンドツーエンドのソリューションを提供する能力は他と比べて重要度が上がっており、今後のニーズとして2位につけています。
企業のマインドシェアは複数のサプライヤー間で分割されている
エンドツーエンドのソリューションの重要性が高まっているにもかかわらず、どの単一業態のベンダーも、企業が要求するさまざまな活動全般において信頼できる唯一のプロバイダーとして他を上回ることはありません。通信事業者は、信頼できるIoTの専門家として他のサプライヤーよりも上位につけています。一方、デジタルトランスフォーメーションの専門家としてはITサービスプロバイダーが業界をリードしており、通信事業者はITサービスプロバイダーと機器・アプリケーションベンダーに後れを取っています。
5GやIoTなどの先端テクノロジーに向けられる総合的かつ統合されたアプローチに対する企業のニーズ、そしてエンドツーエンドのソリューションへの期待の高まり、これらを考慮すると、調査結果が示す通り、サプライヤーはベンダーエコシステム全体で連携してパートナーシップを築く必要があることは明白です。
5Gは、単なるIoT接続ソリューションの新しい形式ではなく、それ以上の存在です。将来を見据えたとき、データ管理に関する助言だけでなく、既存のIoTインフラストラクチャーから5GベースのIoTへの技術的なアップグレードパスを提供できるベンダーが、企業には必要です。実際、こうした懸念事項が、エンタープライズIoTベンダーの戦略を推し進めるでしょう。企業側もベンダー戦略と全体的なビジネス戦略との間のギャップを埋めていくため、包括的なトランスフォーメーションの緊急課題を理解しているサプライヤーに利益がもたらされることになるのです。
企業が求めるもの:ビジネスに成果をもたらす信頼できるパートナーシップ
EYの調査で同意を示した企業の回答の中では、5GベースのIoTプロバイダーに向き合う上での基本的な課題が強調されています。企業は、適切な5Gプロバイダーを見つけるのに苦慮しています。回答した企業の3分の2は、5Gに関するサプライヤーとのやり取りには駆け引き的な要素が強く、取引関係の域を出ないと考えており、77%は、パートナーとしてビジネスの成果をもたらしてくれるベンダーを重視していくという見解を示しています。
テクノロジープッシュの時代を超えて先に進むことが不可欠です。EYの調査では、7割以上の企業が、業界、金融、法律、リスク管理において豊富な経験を持つベンダーを優先するとも回答しています。5GベースのIoTプロバイダーが顧客との間で、特定の分野における具体的なスキルに裏打ちされた、目的にかなった生産的な対話を行う必要があるのは明らかです。
サマリー
1,000社を対象としたこのEYの調査では、5Gの機会を評価する上で、変わりゆく企業のニーズと考え方について詳しく考察しています。IoTの次の波で5Gが果たす重要な役割を示唆する兆しはありますが、期待と不安が交錯しています。5Gが成熟するにつれ、企業はより多くのものをサプライヤーに求めようとしています。端的に言えば、顧客エンゲージメントという古い世界は目的には適合していません。5Gのプロバイダーが成功を収めようとするのであれば、根本的な自己改革が必要なのです。