第1章
鍵となる変化の4つの領域
ディーラーは、これらの領域に対応することで、将来の機会に向けて態勢を整えることができます。
鍵となる変化の4つの領域は明らかです。その4つとは、情報収集、ローンと事務手続き、製品の感触、価格の透明性と分離です。
情報収集
販売店は従来、顧客が購入する自動車とその購入方法について情報を収集するための拠点でした。ディーラーのビジネスモデルは、顧客と販売員の間に築かれる一対一の信頼関係を基礎として成り立っています。この信頼関係は、自動車の販売にとどまらず、サービスパッケージ、保険、ローンなど、さまざまな関連商品のアップセルの基盤にもなります。
しかし、EYの調査では、情報収集に複数のチャネルを利用する顧客が増加しており、特にEVの購入に関しては、この傾向が強いことが明らかになっています。すでに自動車を所有している人が初めてEVを購入しようとする場合、その選択が正しいことを確認したいと考えるものです。内燃機関(ICE)車に慣れている人にとって、EVはなじみのない分野です。そのため、顧客の49%が、情報を収集し、自信を持って意思決定するために、オンラインとオフラインの両方のチャネルを利用しています。
少なくとも今のところは、ディーラーもそのプロセスの一部に入っています。しかし、顧客から忘れられないためには、顧客の意思決定プロセスへの理解を深め、自らの役割の焦点を、従来の販売促進から、助言やサポートの提供へと移す必要があります。ディーラーは、顧客の伴走者として、顧客が自らの選択は正しいと確信できるように、必要な情報やアドバイス、ガイダンスを提供する信頼できる専門家になることを目指すべきです。
そのためには、個々の顧客が意思決定のプロセスのどの段階にいるのか、そして顧客が決定に至るまでを最も効果的に支援するにはどうすればよいのかを、より明確に理解する必要があります。ディーラーは、対面だけではなくオンラインでも購入希望者の初回対応ができ、顧客との信頼関係を構築し、オンラインとオフラインのチャネル間移行を円滑にできる新たな方法を開発する必要があります。
ローンと事務手続き
販売時の自動車ローンの提供は、ディーラーの大きな収益源であり、さらに、書類や事務手続きの確定プロセスは、整備や保険などに関連するさまざまな付加商品のアップセルに活用されています。
しかし、対面での手続きは、ディーラーにとっては付加価値創出の重要な機会になりますが、eコマースの洗練された購入スタイルに慣れている顧客にとっては面倒な手間であり、避けたいと望む人が増えています。現在自動車を所有しているか否かにかかわらず、多くの人が、ローンの申し込みは対面ではなく、オンラインで実施したいと考えています。自動車購入希望者の3分の2(66%)がオンラインでのローンの見積もりと申し込みを希望し、29%が販売店ではなくオンライン上で事務手続きを完了する方が望ましいという意見に同意、または強く同意しています。
ローンの見積もりと申し込み
66%の自動車購入希望者が、オンラインでのローンの見積もりと申し込みを希望している。
これがディーラーの収益に大きな影響を与えることは明らかです。しかし、この意識の変化に対応できなければ、他のサービスプロバイダーが提供するのと同様の、迅速で、円滑で、手間のかからないオンライン完結型体験を望む顧客を失う可能性があります。一方、よりデジタルな販売モデルへの移行が成功すれば、自動車単体だけではなく、より高級な車両仕様や、新しいローン・保険商品、さらには統合モビリティパッケージなどのオプションを販売する新たな機会も生まれるでしょう。私たちの経験では、顧客が柔軟なデジタルツールを使用して注文し、購入を完了させた場合、支出額が増える傾向にあります。これは、最初の取引を成功させるというハードルを越えて初めて、より良いスペックの価値や追加保険の安心感について、具体的に考えられるようになるからでしょう。
製品の感触
自動車の所有者、非所有者共に50%超が、購入前に実際に車を体験したいと考えています。また、EVの購入を計画している自動車非所有者の57%、所有者の61%が、自宅または便利な場所での試乗を希望しています。一見すると、実際の製品体験を重視する販売店の方が現状有利なように思えます。しかし、本当にそうでしょうか。自動車を体験する方法は1つとは限りません。市場の新しいプレーヤーは、斬新なアプローチでシェアを獲得しています。歩合で働いている販売員よりもブランドのファン、あるいは友人や家族でさえ、頼りがいがあり、信頼できるように思えることもあります。また、試乗は顧客の自宅や職場で行うことができるため、専用の(そして高価な)施設を用意する必要もありません。
これらの結果は、一般的に販売店や小売店の在り方が変化していることを示唆しています。顧客は自動車を実際に体験することを望んでいますが、ディーラーの都合ではなく、自分の都合の良い方法で行いたいのです。未来のディーラーネットワークでは、自宅での試乗、利便性の高い目抜き通りにあり、スタッフが親身に対応する体験施設、そしてより深い運転体験とブランド情報が得られる郊外の大型「エデュテインメント(教育・娯楽)」センターなどが混在することになるのでしょうか?
価格の透明性と分離
すでにローンや事務手続きに伴う従来のアップセルの機会を失っているディーラーにとって、収益性に対するさらなる現実的な脅威となるのが、価格の透明性と分離です。EYの調査では、自動車の所有者と非所有者の双方において、価格の透明性を求める声が高まっており、それぞれの回答者の割合は36%と39%です。これらのグループは、EV購入のための予算をあらかじめ把握しておきたいと考えており、どちらも、50%超が値下げ交渉を伴わない最終的な固定価格を希望しています。販売店を介するのではなく、OEMから直接購入する動機の第一に挙げられているのが、値下げ交渉をしなくてもよいことです。
このように価格の透明性が求められていることに関連して、価格が分離される傾向も強まっています。従来、新車購入には旧車の下取りを伴うことが多く、これによりディーラーは追加の収益を取得し、また、新車販売の条件に柔軟性を持たせてきました。それだけではなく、自らの中古車販売事業のための在庫を容易に確保することもできました。しかし、広告を多用する第三者によるオンライン中古車買い取りサービスの台頭もあり、販売店に下取りに出すのではなく、取引を分けて別の企業に旧車を売却することを選択する顧客が増えてきています。
販売の選択肢が広がることから得られる教訓は、価格の透明性が高まると、価格競争が激化し、最終的には収益性の低下につながるということです。
第2章
4つの主な顧客グループ
自動車購入者は、ある要素に対する考え方や好みによって分類することができます。
しかし、自動車購入者が皆同じではありません。セグメント解析によると、このような大きなトレンドの背後に存在する顧客の意識には、相当の幅があることが明らかになっています。この調査では、サステナビリティ、購入体験、EV対ICEに対する考え方、そして、販売店対オンラインチャネルの好みに基づいて、自動車購入者を4つの主なグループ(デジタル進歩主義者、説得可能な主流派、筋金入りの利便性追求者、良識的進歩主義者)に分類できることが分かりました。
サステナビリティが注目を集める
デジタル進歩主義者は環境への意識が高く、次に自動車を購入する際にEVを選ぶ可能性が最も高いグループです。また、デジタルに関し先進的で、大多数がデジタルショールームの利用やオンライン上での手続きを望んでいます。今回の分析では、他のグループはディーラーを選択する傾向が強いことが明らかになっていますが、デジタルな販売モデルのみを採用する一部のEV OEMが一見成功しているように見えるのは、デジタル進歩主義者が好む、デジタルショールームとオンライン手続きの組み合わせが人目を引くからかもしれません。しかし、このグループは比較的小さく、調査対象となった顧客の15%を占めるにすぎないため、このようなデジタル専用アプローチによる市場シェア獲得の可能性は、少なくとも当面の間は限定的かもしれません。
マルチチャネルの台頭
良識的進歩主義者は、あらゆる選択肢を吟味した上で、最も賢明と思われる選択をする、実用的な購買者です。次に購入する自動車としてEVを選ぶ可能性は概して高いものの、実用主義者であるため、EVにプレミアムを支払うことを最も望まないグループです。また、リサーチにはオンラインとオフラインの両方のチャネルを利用しますが、最終的な購入は全てデジタルチャネルで完結させる傾向が最も高いグループです。良識的進歩主義者は、調査対象の顧客の20%を占めます。
全てを考慮する消費者のEVに対する考え方
説得可能な主流派は、今のところ自動車を所有する傾向は低いものの、レンタカーやカーシェアリング、タクシーなどの形で自動車を利用しており、自動車購入を検討しています。EVを購入する可能性は平均よりやや高いだけですが、EVにプレミアムを支払う意欲は2番目に高くなっています。彼らは、その名の通り、さまざまな意見に寛容な消費者であり、EVが自分のための「車」であると認める心の準備ができています。調査対象者の50%を占めるこのグループは、圧倒的に大きく、次に人数の多いグループの2倍になります。
販売店信奉者
筋金入りの利便性追求者は、最も古くから存在し、自動車の体験や最終的な購入のために販売店を利用する可能性が最も高いグループです。このグループの大多数が自動車所有者で、何よりも自動車での移動の利便性を好み、他の交通手段の利用度は平均よりも低くなっています。しかし、最も「伝統的」なグループであるにもかかわらず、3分の1超が、次はEVを購入したいと回答しています。このグループは調査対象者の15%を占め、最も小さな2つのグループのうちの1つです。
第3章
ディーラーおよびOEMへの影響
ディーラーとOEMは、現在頼みとしている主要な収益源に大きな影響が及ぶ中、それに適応していかなければなりません。
上記の調査結果から明らかになったのは、流動的な顧客と過渡期にある市場の姿です。オンラインへの移行に熱心な少数のアーリーアダプターの存在が、本質的に異質な購入者が混在しているという事実、つまり大多数の購入者は筋金入りでも革新的でもなく、その間のどこかに位置することを見えにくくしている可能性はあります。
しかし、明らかなのは、ディーラーもOEMも、現在依存している主要な収益源のいくつかに大きな打撃を受けているということです。情報収集、ローン、価格の透明性におけるオンライン化は、個々の影響は小さく見えたとしても、全体的に見れば、小さくはありません。特に新車購入と旧車下取りを分離するトレンドは、販売店が従来採用してきたビジネスモデルにおいて三脚椅子の脚1本を取り去るようなものになりかねません。販売、アフターセールス、中古車という強固な3本の脚が、目に見えて不安定な販売とアフターセールスの2本だけになる可能性があるのです。
それでは、ディーラーとOEMは、平行するそれぞれの道を進み続けるべきなのでしょうか。それとも力を合わせ、マルチチャネルを活用する新たな方法で顧客関係(そして、それが生み出す収益)を共有すべきなのでしょうか。また、将来のビジネスモデルはどのようなものになるのでしょうか。誰もがアクセスできるオープンプラットフォームでしょうか。あるいは、特定の第三者とのパートナーシップに基づくネットワークモデルでしょうか。
このような疑問に答えるには、小手先の対応や一歩引いたところから監視するだけでは不十分で、ディーラーの役割およびディーラー、OEM、顧客との関係を根本から見直す必要があります。ディーラーは信頼できる専門アドバイザーとして意思決定の道の伴走者へと自己変革することで、既存の収益を最大限維持するだけではなく、新たに生じる機会をも活用できる可能性が大きくなるのです。
本稿で紹介したようなセグメント解析は、過渡期にある市場の複雑さの理解に役立ち、OEMやディーラーに、前途を照らす洞察を提供することができます。顧客は最終目的地をまだ決めていないかもしれませんが、オンラインのマルチチャネルの未来に向かっていることは否定できません。それに適応できないディーラーやOEMは、すぐに致命的な結果を招くことはなくても、前途はますます厳しくなる一方でしょう。
EYの最新の見解
サマリー
直近のEY Mobility Consumer Indexの調査結果によると、自動車購入者の大部分は、自動車購入の全プロセスをオンラインに移行する準備はできていませんが、オンラインのマルチチャネル化に向けた未来に歩みを進めていることが分かります。ディーラーは、それに対応し信頼できるアドバイザーとなり、意思決定の道を共に歩む伴走者となる必要があります。