ビジネスと人権・ニュースレター 第6号 英国およびオーストラリアの現代奴隷法への対応

2015年10月1日
カテゴリー ビジネスと人権

2015年に「UK Modern Slavery Act(現代奴隷法)2015」を採択した英国に引き続き、2018年に、オーストラリアでも現代奴隷法(Modern Slavery Act)が成立し、施行されています。こうした法規制の潮流を受けて、機関投資家を含むさまざまなステークホルダーから、重要な社会問題の1つである強制労働や人身取引といった課題に対する企業の対応を求める声が高まっています。

現代奴隷法の策定とその内容

「現代奴隷(Modern Slavery)」とは、人々が奴隷状態または隷属状態を強要される、拘束労働、強制労働、人身取引などの形態・行為を指します。典型的な例として、低所得地域からの出稼ぎ労働者に対して採用の見返りに多額の採用あっせん手数料を課す、基本的な自由が認められない、などの労働環境が挙げられます。国際労働機関(ILO)は、こうした搾取的な労働の被害者は世界で約2,500万人に上り、G20諸国(先進国に新興国を加えた主要20カ国)全体の年間輸入量のうち、3,540億米ドル相当の産品が現代奴隷リスクと関係していると算出しています (*1)。

2010年ごろから、英国国内も含めたNGOなどによって、この問題に取り組むための新しい包括的な法を求める動きが強まりました。英国政府も現代奴隷は世界的な組織犯罪であると認識し、2015年に、サプライチェーンから現代奴隷と人身取引を排除することを目的としたヨーロッパ初の法律として、現代奴隷法が同国で成立しました。英国やオーストラリア以外の国でも同じような動きが見られますが、これは国連が2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択したことが背景にあります。

英国およびオーストラリアの両奴隷法は、対象課題や開示項目の点でほぼ共通していますが、英国法では開示項目が例示項目とされている一方で、オーストラリア法では法定開示項目とされています。また、年次ステートメントは、英国法では自社のウェブページなどを通じた開示が求められていますが、オーストラリア法ではオーストラリア政府当局への提出・登録が求められています。

*1 “Global Slavery Index” Walk Free Foundation(2021年3月4日アクセス)

表 1 英国およびオーストラリア現代奴隷法の主な要件

英国(*2)

オーストラリア(*3)

対象課題

現代奴隷および人身取引

適用対象

  • 英国において商品もしくはサービスを提供するなどの企業
  • 3,600万ポンドを超える年間連結収益
  • オーストラリアで事業を行う全ての企業
  • 1億ドル(オーストラリアドル)を超える年間連結収益

求められる対応

自社の事業活動およびサプライチェーン上の現代奴隷の発生防止のために講じられた措置についての年次の開示

承認主体(注1)

取締役会(またはこれに相当する監督組織)

取締役会

署名主体

取締役(またはこれに相当する者)

取締役

開示項目(概要のみ)

①    企業の組織構造、その事業活動およびサプライチェーン
②    企業の事業活動とサプライチェーンに存在する現代奴隷のリスク
③    リスクの評価と対処のために講じている措置(デューデリジェンスと軽減措置を含む)
④    企業における当該措置の有効性評価方法
⑤   企業が所有または支配する企業との協議プロセス(注2)

備考

(注1) 発出主体が会社である場合

(注2) オーストラリア法で認められている複数の事業体共通の「共同ステートメント」形式で発出する場合に含めることが求められる項目

現代奴隷リスク対応の広がりと企業に求められる対応

英国およびオーストラリアの現代奴隷法にとどまらず、昨今、こうした自社事業に関係するステークホルダーの強制労働などの人権・社会課題を特定し、企業の対応を奨励あるいは義務化する規制が増えてきています。フランスの注意義務法(2017年成立)、オランダの児童労働デューデリジェンス法(2019年成立)はその一例です。これらの法律は、強制労働や児童労働を含む人権リスクのデューデリジェンス(人権デューデリジェンス)の実施義務を企業に直接的・間接的に課すことを内容としている点で共通しています。このような法規制の潮流を受けて、機関投資家の間でも、企業の現代奴隷リスクを含む人権リスクへの対応の状況を評価の視点に組み込む動きが広がっています。

現代奴隷法の目的は、企業に透明性のさらなる向上と、サプライチェーン上の課題を改善するために自社の影響力を行使するよう促すことによって、現代奴隷の問題に対処することにあります。同法への対応を、奴隷労働と人身取引を含む労働・人権分野全般の「人権リスク」に対応する一環として位置付け、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に準拠し、より包括的な人権デューデリジェンスの実施を進める企業もあります。日本企業にはこうした世界的な動向を見据えて人権に関する方針を策定し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿った人権デューデリジェンスの活動を行い、その情報を開示していくことが求められていると言えます。

EYでは、英国およびオーストラリアの現代奴隷法に対応した年次ステートメントの作成や現代奴隷に関するデューデリジェンスなどの実務対応に関して、グローバルな視点を踏まえた支援を提供します。また、指導原則など、「ビジネスと人権」に関するグローバルなスタンダードの形成に直接関与してきた専門家による、「人権デューデリジェンス」を含むより包括的な人権リスクに対応する支援も可能です。支援の詳細は、現代奴隷法対応支援サービスをご参照ください。

執筆者
ゲスト編集者 名越 正貴

EY Japan CCaSS Senior Manager, Business and Human Rights Service Leader, Human Rights Due Diligence

ビジネスと人権分野の戦略立案支援リーダー。人を尊重した社会発展にコミットし、国際ルールの形成に参画。

ゲスト編集者 大内 美枝子

EY Japan, FAAS事業部 気候変動・サステナビリティサービス (CCaSS) 、マネージャー

マラウイ人の夫と国際結婚し、一児の母。バイリンガル育児に挑戦中。