2021年10月28日
カーボンZERO時代に生き残るには―自動車・エレクトロニクスを中心とする製造業の経営改革と戦略

カーボンZERO時代に生き残るには―自動車・エレクトロニクスを中心とする製造業の経営改革と戦略

カーボンZERO モノづくり グリーン革命2050(2021年8月19日開催)

要点

  • 自動車のEV(電気自動車)化が各国で進む中、日本は消極的な姿勢だが、変革に乗り遅れると競争力を失うリスクもあり得る。
  • 再生エネルギー(再エネ)発電、水素製造、カーボンクレジット取引の市場規模は将来500兆円超になる可能性も。 成長市場でビジネス機会をつかめるよう備える必要がある。
  • エレクトロニクスや産業材の分野にも勝機。 気候変動経営を進めてイノベーションを起こすことが重要だ。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(以下、EY)は、Webinar「カーボンZERO モノづくり グリーン革命2050」を開催しました。先立って出版した『カーボンZERO気候変動経営』を軸に、自動車やエレクトロニクスを中心とした製造業におけるカーボンニュートラルのトレンドを概観し、今後求められるであろう経営変革と、ビジネス機会や新しい価値創造について詳細な解説を行いました。

Section 1 画像 グリーン・ニューディール政策の下で進むEV化は、環境対策の名を借りた覇権争いか?
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グリーン・ニューディール政策の下で進むEV化は、環境対策の名を借りた覇権争いか?

いま世界各国でEV導入の機運が高まっています。その背景には、温暖化防止と経済格差是正のための経済刺激策「グリーン・ニューディール」があり、各国は産業競争力を高めるためにEVの覇権を狙っているのです。

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オートインサイト株式会社 代表 鶴原吉郎 氏

カーボンニュートラルが世界的な潮流になり、世界各国でEVシフトの動きが加速しています。自動車業界を長年ウオッチしてきたオートインサイト株式会社 代表 鶴原吉郎氏が、Zero Carbon後の自動車メーカーの戦略を解説しました。EV導入の機運が高まる背景には、冒頭の「グリーン・ニューディール」政策が挙げられます。もちろん地球環境や気候変動に対する行動が発端ですが、各国の産業競争力を高めていく狙いもあるようです。

鶴原氏は「単に気候変動を抑制するという美談だけにとどまらず、EV化が自動車メーカーの覇権争いにもなるという裏の意図を読み解く必要があります」と指摘します。

いま欧州メーカーがEV化を積極的に打ち出しており、EU圏では2035年までにHEV・PHEV(プラグインハイブリッドEV)を含むエンジン車を全廃する提案も出されています。米国も2030年までに乗用車と小型トラックの半分をEV・PHEV・FCV(燃料電池自動車)にする方針です。中国は2060年にカーボンニュートラルの目標を掲げ、2035年までにNEV(新エネルギー車:EV+FCV)の比率を50%にするとしています。

そのような状況で、他国と比べてEV化に及び腰に見えるのが日本の完成車メーカーです。この点について鶴原氏は、「EVはCO2削減に最適でない」「自動車はユーザーが選ぶものでメーカーが関与すべきでない」「日本はHEVに対して一日の長があり、すぐにキャッチアップできるため、イニシアチブを取るつもりがない」といった理由を挙げました。

しかし鶴原氏は、日本メーカーのEV戦略に対し、次のように疑問を投げかけます。

「確かに商品は顧客が選ぶものですが、EV化は環境対策の名を借りた覇権争いの要素も強く、顧客が選びたくなる施策を先に打った国やメーカーに市場を取られるリスクがあります。また再生可能エネルギーの導入が進むと、EVがCO2削減の最適解になってきます。EVならば自宅で充電でき、ガソリン代より安く上がる上、高速充電ステーションが登場すれば不便さも解消するでしょう」

さらに注意したいのは、EVの世界ではハードウエアよりもサービス的な発想への転換が重要なことです。また、戦略物資であるバッテリーやレアメタルの調達が、国内で不透明なことも気になります。ニッケル資源を擁するインドネシアで、中国や韓国の電池メーカーが現地工場を建設する動きも見逃せません。

鶴原氏は「日本メーカーに意識していただきたい点は、EVが単にエンジンをモータとバッテリーに置き換えたものではないことです。サービスやプラットフォームを組み合わせた発想や、ソフトウエアも重要です。さらに産業構造の変化に伴い、開発と製造の分離が起きるでしょう。量産価格と同等で多品種少量生産を可能にするマス・カスタマイゼーションのニーズも喚起されます」と予測します。 

プラットフォームメーカーに脱皮を図るフォルクスワーゲン(VW)のような企業は、スマートフォンのアプリと同様に、自動車アプリも価値を生み出すと考えています。EV化の下では、EMS(電子機器受託製造)企業の助けを借りれば開発と製造を分離でき、GoogleやAppleなどのIT企業の影響も大きくなるため、自動車開発の主導権を握られる可能性もあります。「従来の自動車メーカーは汎用プラットフォームビジネスに参入すべき」と鶴原氏は力説します。

とはいえ鶴原氏は「EV化はあくまで手段に過ぎず、勝ち残りの条件にはなりません」と述べ、「EV化の後は、クルマの価値創造の手段が大きく変わります。そういった変化を考えに入れて、新たな価値を提供できる企業が勝ち残っていくでしょう」と結論付けました。

Section 2 画像 脱炭素化の世界的トレンドの中で、日本企業に求められる早急な対応と再定義
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脱炭素化の世界的トレンドの中で、日本企業に求められる早急な対応と再定義

気候変動を巡る動きを語る上で、この5年間にカーボンニュートラルの流れが一挙に加速した点は重要な論点です。世界が脱炭素へ向かう中で、日本はどんな技術に注目し、行動変容を起こしていけばよいのでしょうか。

尾山 耕一 画像

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジック インパクト パートナー/EY Japan SDGsカーボンニュートラル⽀援オフィス メンバー
尾山耕一

気候変動を巡る最近のトレンドと、2050年のカーボンニュートラルに向けて、日本企業が早急に対応すべきことについて、EYの尾山耕一が説明しました。

気候変動問題の大きな流れは、2015年末の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、パリ協定採択による国際合意が形成されたことに端を発します。その後に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)最終報告」があり、さらに「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)1.5℃特別報告書」で、1.5℃以内に平均気温を抑えなければ、人類や地球に壊滅的なダメージが及ぶと警鐘が鳴らされ、カーボンニュートラルの流れが加速したのです(図表1)。

図表1

図表1 気候変動問題の大きな流れ

気候変動を巡る最近の動き。パリ協定の採択を契機に、この5年間でカーボンニュートラルの流れが一挙に加速。TCFDをはじめ、多くの国際的なイニシアチブも立ち上がった。

この5年間にTCFDをはじめとする多くの国際的なイニシアチブが立ち上がりました。特にTCFDの活動に対する企業の賛同表明は、2021年8月25日時点で2,418団体に成長。中でも日本は475団体と最も賛同数が多い国になっています 1

「日本企業の賛同数がトップであり続ける背景として、経済産業省を中心としたTCFDコンソーシアムの立ち上げ、コーポレートガバナンス・コードの改訂などが考えられます。プライム市場(一部上場)の条件にTCFD、あるいは同等の気候変動情報開示が義務付けられ、プライム市場を狙う企業にはTCFDへの対応が求められています」(尾山)

世界が脱炭素へ向かう中で、尾山は国内の各産業分野で対応すべきことを再定義し、そのアイテムを次のように整理しました(図表2)。

図表2

図表2 脱炭素へ向かう中で各産業分野で対応すべきこと

世界各国の動きから見た脱炭素化への施策。エネルギー、運輸、製造、建築、農業などにおいて有効な選択肢がある。ライフスタイルからの行動変容も必要である。

「エネルギー系では再生可能エネルギーや蓄電池・水素、スマートグリッドなど、運輸系ではZEV(ゼロエミッション車)やスマート交通(自動運転)、EV化が難しい船舶・航空の場合は新燃料という方向性があります。製造業もプロセスの効率化に加え、バイオ・サーキュラーエコノミー・電化・水素などで脱炭素化を図れます。それ以外の分野も同様ですが、CO2の吸収や除去も重要になるでしょう」(尾山)

さらに日本のグリーン成長戦略では、ライフスタイルからの行動変容を伴わなければ、脱炭素化は難しいとの見方もあります。尾山は「覇権争いは自動車だけでなく、すべての分野で始まっています。日本が従来の経済競争力を保つには、企業も脱炭素化に逡巡せずに、ポスト炭素経営を推進する必要があるでしょう。ただしカーボンニュートラルが完全に実現できるとは限りません。伏線的なシナリオも含めた戦略を立案し、リソースを確保しておくことが重要です」と語りました。

カーボンニュートラルに向けた変革を進めるには、どうあってもCO2を吸収することが求められます。そうなるとCO2バリューチェーンや、環境情報を可視化するプラットフォームの構築もビジネスチャンスになるでしょう。尾山は「とはいえ脱炭素の動きは長期戦です。いまの新入社社員が定年退職を迎えるまで企業が存続する意志をもって50年経営を推進していくことがカーボンZEROに向けた第一歩になるでしょう」とWebinarの聴衆に向けてエールを送りました。

出典:

1. 「TCFDとは」TCFDコンソーシアム tcfd-consortium.jp/about(2021年8月25日アクセス)

Section 3 画像 再エネ発電・水素製造・カーボンクレジット取引の市場規模は2050年に約540兆円に
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再エネ発電・水素製造・カーボンクレジット取引の市場規模は2050年に約540兆円に

カーボンニュートラル社会においては、カーボンニュートラル主要3技術の2050年市場規模は約540兆円になる見込みです。しかし多くの関連ビジネスが生まれるためには、低コスト化だけでなく、制度・スキーム上の課題の解決も同時に求められます。

岡村 知暁 画像

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジック インパクト シニアマネージャー
岡村知暁

前セッションを受けて、EYの岡村知暁が、再エネ・水素・炭素除去というカーボンニュートラルの主要3技術を中心とした企業変革の取り組みと、関連ビジネスの展開などについて紹介しました。

2050年に向けたカーボンニュートラルのイメージは、省エネによってエネルギー消費量を抑えつつ、再エネの電力系や水素などの非電力系、炭素除去技術でカーボンオフセットを進めるというものです。このような再エネ・水素・炭素除去の動きは、世界中で進められています。再エネについては、各国とも2030年の目標を前倒ししたり、また再エネ×水素(グリーン水素)や、CCUS(分離・貯留CO2利用技術)への技術開発にも本腰を入れ始めています。

では、今後どこまで再エネ・水素・炭素除去の利用が進むのでしょうか。国際エネルギー機関(IEA)における「ネットゼロ・エミッション(NZE)シナリオ」2 の分析をベースに、岡村は2050年の主要3分野の市場規模540兆円規模と概算し、「水素・充電ステーション、エネルギーマネジメントシステム(EMS)などのビジネスまで含めると、さらに大きな市場になるでしょう」と期待を寄せました(図表3)。

図表3

図表3 市場規模概算

再エネ・水素・炭素除去における市場規模の概算。2030年以降、水素製造や炭素除去(クレジット取引単価の高騰を前提に試算)のビジネスも伸び、合計で2050年に540兆円規模の巨大市場が生まれると予測される。

この主要3分野で期待されるビジネスとしては、再エネ以外にも蓄電池の開発や、需要家が導入した創・蓄エネ設備を効率的に活用する仮想発電所(VPP)、P2P取引などでチャンスが生まれそうです。一方、水素については水電解以外に貯蔵・輸送、モビリティ・船舶・ドローン利用などでバリューチェーンが形成され、ビジネスの拡大が見込まれます。

また炭素除去も、原油回収率を高める原油増進回収技術(EOR)や、地中貯留・海洋隔離でのCO2回収・貯留技術(CCS)、液体・藻・気体などからのCCUS、直接空気回収(DAC)などで事業機会が生まれるでしょう。「まだ炭素除去は不透明な市場ですが、経済産業省は、カーボンリサイクル技術ロードマップ 3 で、2030年からの普及を宣言しています」と岡村は説明します。

ただし、こういった3つの主要技術をベースにした市場拡大には、低コスト化だけでなく、制度・スキーム上の課題も存在します(図表4)。

図表4

図表4 3つのカーボンニュートラル技術の普及を進めるための主な制度・スキーム上の課題

3つの主要技術を普及させる制度・スキーム上の課題。市場の成立と拡大には、技術開発による低コスト化だけでなく、表に示す課題の解決が残る。

「日本は、再エネの調達手段が欧米等に比べると限定的。それらを見据えた(VPPAなどの)仕組み作りも重要です。水素も技術実証に加え、街中利用を見据えた法規制整備などにも着手していく必要があります。炭素除去も、CCUやDACを含めたクレジットの検討が必要です。カーボンプライシングも現実的な価格設定が大切です」(岡村)

市場成立・拡大にかかる不確実性は残るものの、カーボンニュートラルの流れは着実に進みます。まずは自社の強みを棚卸し、攻めとなる事業拡大への検討を進めるべきでしょう。

出典:

2. Net Zero by 2050, IEA, 2021, iea.org/reports/net-zero-by-2050(2021年8月19日アクセス)

3. 「カーボンリサイクル技術ロードマップ」、経済産業省、2021年7月改訂、(meti.go.jp/press/2021/07/20210726007/20210726007.pdf、2021年8月19日アクセス)

Section 4 画像 グリーンモビリティ経営で、カーボンニュートラル以外のビジネスチャンスが広がる自動車業界
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グリーンモビリティ経営で、カーボンニュートラル以外のビジネスチャンスが広がる自動車業界

EVシフトを中心にインパクトを受ける自動車業界。その解決策として注目されるのが「グリーンモビリティ経営」です。さらに「Beyond CASE」による相乗効果はカーボンニュートラル以外のビジネスを萌芽させます。

早瀬 慶 画像

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
⾃動⾞セクター・リーダー パートナー
早瀬 慶

低炭素社会において、新たな経済成長のけん引役が求められている自動車業界。EYの早瀬 慶は、端境期を迎えた同業界で生き残るために、これから重要となる「グリーンモビリティ経営」を中心に解説しました。

いま自動車業界は、カーボンニュートラルを中心にさまざまなインパクトを受けています。その解決策の1つとして注目されているのが「グリーンモビリティ経営」です(図表5)。

図表5

図表5 グリーンモビリティ経営における主要トピック

グリーンモビリティ経営は、カーボンニュートラルの課題だけでなく、Beyond CASE、Mobility impact、パワートレイン、エネルギーマネジメントでの打開策にもなる。

例えば近年、自動車業界では「CASE」というキーワードが叫ばれてきました。しかしCASEはElectric(電動化)だけでなく、Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動運転)、Shared(シェアリング)が連動する「Beyond CASE」によって相乗効果が発揮され、全体最適化や社会コストの低減を促す可能性があります。これがグリーンモビリティ経営を推進すべき根拠の1つにもなっています。

またMobility impactによって、モノづくりの定義が変わり、移動の最適化や移動を軸とした街づくりまでメーカーの目線が移りつつあります。モノづくりという意味では新しいパワートレインの開発は当然ですが、どんなエネルギーを使って効率的にマネジメントができるのかという観点も大切です。このようにグリーンモビリティ経営は、カーボンニュートラル以外の論点でも打開策になります。

早瀬はこう語ります。「特に感度の高い企業は、これを『自分ごと』として捉え、攻めのビジネスに転じようとする向きもあります。自動車プレイヤーとして、サプライヤー以外の業態に変化を遂げたり、経営指標をにらみながら新たな打ち手を考えているのです」 

こういった状況を踏まえつつ、早瀬は日系自動車メーカーの立ち位置について触れました。

「電動化を推進する方向は各社とも必至であり、BEV(バッテリー式電動自動車、あるいはEV)を含めどのようなパワトレミックス戦略を取るか、どのように他プレイヤーと協業するか等の判断が勝ち残りを左右します。グローバルプレイヤーは、例えば、バッテリー開発の有無で2パターンに分かれます。開発費を抑えるためにアライアンスを組む企業も多く、さらに水面下で密な連携や合従連衡が起きています」(早瀬)

また現状のビジネスモデルを前提とすると、気候変動インパクトにより、自動車メーカーの売上利益率の減少が続き、2050年までに利益率維持か、利益率半減かで明暗が分かれるでしょう(図表6)。FCVを自社で提供する企業や、発展途上国でのシェアが高い企業は相対的に優位性があると考えられます。

図表6

図表6 グリーンモビリティ経営:自動車OEMのP/LとB/Sインパクト:売上利益率の推移(1.5度シナリオ)

気候変動インパクトの影響による自動車OEMの売上利益率推移。EYでは、2050年まで全体的に減少傾向は進むとみているが、利益率維持・利益率半減という点でメーカーの2極化が進むと予測している。

早瀬は「攻めのカーボンニュートラル事業という観点では、すでに販売価格が製造コストを上回って、利益が見込めるような新領域も出ています。日系メーカーが自動車製造・販売以外の新領域に踏み込める機運もありますので、ゼロベースで検討することも必要です」とまとめました。

Section 5 画像 エレクトロニクスや産業材メーカーによる気候変動経営とイノベーションの進め方
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エレクトロニクスや産業材メーカーによる気候変動経営とイノベーションの進め方

エレクトロニクスや産業材の分野における、カーボンニュートラルへの対応には、ビジネスモデル・プロダクト・プロセスという3つの非連続的なイノベーションが求められ、本質的な意味でのDXが加速するでしょう。

三浦 貴史 画像

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー
三浦貴史

最後のセッションでは、EYの三浦貴史が、自動車領域以外にも目を向け、「エレクトロニクス産業における気候変動経営」をテーマに、カーボンニュートラルによるイノベーションの可能性について論じました。

世界的なメーカーが真っ先にカーボンニュートラルを宣言したことで、周辺サプライヤーを巻き込む形で、エレクトロニクスや産業材にも影響が及んでいます。ステークホルダーからCO2排出量が高い製造業へのプレッシャーが高まり、脱炭素化に対する脅威を感じる企業や、新たなビジネスチャンスの好機とみる企業もいて、その捉え方もさまざまです。

とはいえ、カーボンニュートラルの実現は容易なことではありません。例えば、このコロナ禍において、各国の行動制限により経済が停滞して、世界のCO2排出量は約7%も削減しました 4。これはリーマンショック以上で、産業革命以来の出来事といわれます。

しかし三浦は「1.5℃目標を達成するには、毎年7.6%ずつ排出量を削減しなければなりません 5。新型コロナウイルス感染症の流行による行動制限が続いても、1.5°C目標には届かないのです。いかに現在の目標が高いものなのか実感できるでしょう」と語ります。 

そこで非連続なハードルの高いシフトを起こすためには、ビジネスモデル、プロダクト、プロセスという3つのイノベーションが企業経営に求められます(図表7)。

図表7

図表7 今後求められる経営変革

カーボンニュートラルがもたらすシフトと、そのために企業経営に求められるビジネスモデル、プロダクト、プロセスという3つの重要な非連続なイノベーション。

1つ目は、規模の経済から、最適化による経済への転換。環境負荷を考慮したサーキュラーエコノミーや、それに即したオペレーティングモデルの変革を進めなければなりません。2つ目は、利益中心の短期的価値から、環境の負荷低減を含む持続可能な長期的価値を訴求できるプロダクトへの見直しです。3つ目は、プロダクトのプロセスやサプライチェーンまで見て、各種情報をひも付けたり、それぞれのCO2排出量を明らかにすることです。 

「これからはカーボンニュートラルを起点に本質的な変革が求められるでしょう。エレクトロニクス企業も、3つのイノベーションにチャレンジしなければいけません」(三浦) 

このような非連続な革新を起こすには、新たな脱炭素化技術の市場形成に加え、製造機器の稼働率向上を目的としたビジネスモデルまで目を向けることが肝要となります。これは機器のサブスクリプションモデルや企業間のシェアリングサービスにもつながるでしょう。また調達・製造・物流では、グループ企業において生産設備の再利用や共有化も可能です。アフターサービスでも、機器の予防保全や無線アップデートなどで収益化が見込めます。リサイクル分野でも、素材のすべてを分解せず機器や部品の再生に取り組めば、従来より価値が向上します。その他、中古品マッチングや、ブロックチェーンによる品質保証など、新規・周辺事業も生まれる可能性があります。 

三浦は「このように企業の個別部門による規制対応から、経営戦略にひも付く全社変革として事業機会を捉え直す必要があります。カーボンニュートラルが、本質的な意味でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させるでしょう」と予測します。 

市場からみても、EMSなどのデジタル活用による効率化(グリーン by デジタル)と共に、カーボンニュートラルデータセンターなど情報通信の省エネ・グリーン化(グリーン of デジタル)が年平均20%以上で成長するため、デジタル領域への整合性もあり、参入機会も増えると思われます(図表8)。

図表8

図表8 新たな成長機会となるグリーンxデジタル

カーボンニュートラルは本質的な意味で企業のDX化を加速。デジタルを活用したグリーン化、あるいはデジタル機器・情報通信自体の省エネ・グリーン化が成長領域になると予測されている 6, 7, 8 

さらに、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「革新的環境イノベーション戦略」9 では、分野別に39のイノベーションアクションプランが設けられているため、参考にしてみるとよいでしょう。 

最後に三浦は「カーボンニュートラルは全社的な取り組みなので進め方も難しいのですが、危機感を醸成することが大切です。その上で自社のチャンスを棚卸しして、変革を加速していきましょう」と締めくくりました。

出典:

4. Le Quéré, C et al., Temporary reduction in daily global CO2 emissions during the COVID-19 forced confinement (Nat. Clim. Chang. 10, 2020), nature.com/articles/s41558-020-0797-x(2021年8月19日アクセス)

5. Emissions Gap Report 2019, UN Environment Programme, 2019, unep.org/resources/emissions-gap-report-2019(2021年8月19日アクセス)

6. STATE OF SUSTAINABILITY RESEARCH - CLIMATE CHANGE MITIGATION, Global Electronics Council, 2021 

7. Energy Management System Market, BIS Research, 2020

8. Carbon Neutral Data Center Market, BIS research, 2021

9. 「革新的環境イノベーション戦略概要」統合イノベーション戦略推進会議(新エネルギー産業技術総開発機構ホームページ、nedo.go.jp/content/100904224.pdf、2021年8月19日アクセス)

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Q & A

講演の後に設けた質疑応答では、参加者の方から多くの質問が寄せられました。時間の関係上、セミナー当日にお答えしきれなかった質問に対し、抜粋してお答えします。

Q. 

製造業では企画開発~廃棄回収が対象範囲であり、廃棄回収面で、マテリアルリサイクルから3つの項目へのシフトチェンジを言及されていました。どの程度CO2が削減でき、どのようにして定量的に可視化できるのでしょうか?

A. 

製品の種類によるものの、素材までリサイクルするより、製品・部品の再生産や中古品の流通の方が価値が高くなるという意味合いです。(例えば、素材まで戻した場合は新品の1%未満の価値〈価格〉になるが、中古品では新品の約50%の価値になるといわれている製品もあります。)

また、CO2排出量は「新品使用時のCO2排出量」-「リサイクルプロセスで消費したエネルギーのCO2排出量」で算定されると認識しています。そのため、リサイクル品の品質を新品と同等水準まで上げる場合に莫大なエネルギーを消費してしまう素材は、新品を利用するときより多くのCO2を排出してしまう場合もあり、CO2排出の観点では、マテリアルリサイクルが優れているとは言い切れないのが現状です(素材の種類を考慮した取り組みが必要になると認識しています)。もちろん、マテリアルリサイクルのプロセスに使うエネルギーを脱炭素化できれば、リサイクルした分を相殺できるようになると考えています。

 

Q. 

サプライチェーンのCO2可視化について、サプライヤー企業の総量把握が行われるのでしょうか、それとも製品単位での可視化までが求められるのでしょうか。

A. 

出資関係などがない独立したサプライヤーの場合、あくまで自社事業で利用している製品の上流工程のCO2排出量が対象になると認識していますので、製品単位と想定しています。

※スコープ3は「事業者の活動に関連する他社の排出」になります。
環境省「サプライチェーン排出量 概要資料」、2021年7月27日(env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_gaiyou_20210727.pdf、2021年8月19日アクセス)

Q.

半導体不足とカーボンニュートラルとに関係性はありますか?

A. 

(特に自動車産業における)直近の半導体不足は、カーボンニュートラルが直接的な主要因とは捉えていませんが、「テキサスの停電」や「台湾の水不足」など、気候変動に起因する要因の影響もゼロではないと認識しています。今後カーボンニュートラルニュートラルを進める上で半導体が担う役割は大きいと認識しており、再エネ関連機器を含め、需要増への影響はあると考えます。

サマリー

カーボンニュートラル時代に向け、自動車を中心とする企業が生き残りを図るには、グリーンモビリティ経営が重要なポイントの1つになります。また自動車以外の日系メーカーも自社の強みを棚卸しし、場合によっては業態や生業(なりわい)の変化を厭わずに、攻めのビジネスを展開していく必要があります。

この記事について

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

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