12 分 2022年1月11日

世界的なパンデミックの収束のめどは立っていませんが、EYの最新のFuture Consumer Indexによると、消費者は前に進もうとしています。

車の窓から顔を出し、雪を口でキャッチしようとする男の子

新しいノーマルを形成しようと前進する消費者にとって欠かせない存在になる

執筆者 Kristina Rogers

EY Global Consumer Leader

Global leader for consumer industries. Marketing strategist. Worked in 20 countries. Harvard MBA. Photographer. Scuba diver. Canadian fiction reader. Mother of two.

EY Japanの窓口

EY Japan 消費財・小売リーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

国内外のM&Aトランザクションに関わるファイナンシャルアドバイザリーサービスを提供。 CPRマーケットセグメント リージョナルリーダーとして、CPRセクターにおけるEYの活動を主導。

12 分 2022年1月11日

世界的なパンデミックの収束の目途は立っていませんが、EYの最新のFuture Consumer Indexによると、消費者は前に進もうとしています。

要点
  • 消費者は必要だから買うというより、欲しいから買う傾向にシフトしており、受け身ではなく、主体的に自ら望む生活を作っていこうとしている。
  • 消費者の中では、値ごろ感や健康に対する関心が低下する一方、購入するアイテムの品質や時間の使い方を重視する傾向が強まっている。
  • 4つの重要なアクションを今すぐ起こす企業は、ポストコロナ時代の消費者の生活にとって欠かせない存在となることができる。
Local Perspective IconEY Japanの視点

今回の結果は、調査時期(2021年10月)からオミクロン株による新型コロナウイルス感染症の急拡大を反映していないものの、人々が消費行動において新しい日常・普通(ニューノーマル)を形成するために前へと進み始めたことは、足元のコロナ感染の急拡大に関わらず継続して行くと思われます。消費者のニューノーマル形成において、消費者が重視するポイントの中でも、特に、消費における「質」重視の傾向とデジタル・チャネルの利用拡大に対して、消費財メーカー、小売企業が、どのように向き合うのか、また、どのように取り組むのかが、消費者によるニューノーマル形成において欠かせない存在となれるか否かに大きな影響を及ぼします。新型コロナウイルスに限らず新たなウイルス感染症の脅威、地球全体の気候変動、社会の分断など、絶えず危機と直面しながら生活していることを再認識した消費者に、そのような危機やリスクと隣り合わせの生活においても消費を楽しみ、生活を豊かにすることが出来ることを提案・提供できる消費財メーカー、小売企業が“欠かせない存在”となるでしょう。


Local contact

平元 達也
EY Japan 消費財・小売リーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー


経済と社会が急激に不安定化してから2年が経ちましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが過去のものになったと言える状況にはまだありません。感染を抑えている国がある一方、感染レベルが依然高い水準で推移している国もあります。また、新しい危険な変異株が出現するリスクは常につきまとっています。そうした中にあっても、世界各国の消費者はついに前へと進み始めたように見受けられます。

歴史を振り返ると、人類は疫病、戦争、自然災害など、その時代を特徴づける事象から立ち直ってきました。まず、乗り越えるべきショック期があり、次に耐えるべき危機的時期があり、最後に訪れるのが回復期です。そうした事象を経験したことで変化を余儀なくされた人々は、自分たちのために新たな生活を築き、次世代のためにより良い社会を構築しようとします。

私たちは今、この3番目の段階に入ろうとしています。EYのFuture Consumer Index第8版によると、消費者は、こうした不確実性と混乱を所与のものとして想定するようになってきました。つまり、パンデミックがどのような影響を及ぼすかを知り尽くしてきたのです。必要だからというより、欲しいからと消費の選択をし、受け身ではなく積極的に普通の生活を再び作り上げたいと考えています。消費者の中では、値ごろ感や自分の健康に対する関心が低下する一方、体験の質や地球の未来を重視する傾向が高まっています。今回の調査で、消費者が新たな日常を今後創り出していく中で念頭に置く基本的なポイントが3つ明らかになりました。

  • リスク・脅威と隣り合わせの生活
  • 重視するのは商品、体験、時間の「質」
  • デジタルが定番のチャネルに

消費財メーカーや小売企業は今、ある意味、コロナ禍での重要な局面に立っていると言えます。自社の事業を回復させることができるかどうか。長期的価値創造のために戦略を見直し、ポストコロナ時代の消費者の新たな優先事項に自社のパーパス(存在意義)と製品ポートフォリオを合わせることができるかどうか。新たな生活を形成しようとする消費者に寄り添うパートナーになるチャンスです。そのためには、多くの場合、大規模な変革が必要となるでしょう。このような変革を行うにあたり、検討すべきアクションが4つあります。

  1. ホリデーセールシーズンのデータを、異なる視点から分析する
  2. 消費者の生活の中で信頼される存在になれるようデータやテクノロジーに投資する
  3. 利用者が物理的チャネルとデジタル・チャネルを行き来しやすい仕組みを作る
  4. 購買でも量より質が重視される時代に合わせてビジネスモデルを変える

消費者が望んでいるのはより良い普通の生活

世界中の消費者が普通(ノーマル)という感覚を取り戻すことを願っており、それを楽しみにしていると回答した人が77%に上りました。しかし、そのノーマルとは、どのようなものになるのでしょうか。生活がコロナ禍前とまったく同じに戻ることはないでしょう。旅行の仕方やエンターテインメントの楽しみ方から、働き方や子供たちの教育まで、日々の生活はさまざまな形で変化しています。消費者が今、求めているのは以前とは異なります。

多くの消費者は、強制的に生じた変化の少なくとも一部について、定着することを望み、そうなると予想しています。パンデミックの結果として、より柔軟な暮らし方や働き方を享受し、ワークライフバランスが改善し、節約もできました。今後を見据え、30%がこれからもより柔軟な働き方をしたいと考え、31%がワークライフバランスの改善を期待しています。

受け入れなければならなかった新たな行動様式を今では普通と感じるようになった人も63%いました。また50%が、パンデミックが落ち着いても、自分の生活は大きく変わったままで元に戻らないとみています。こうした消費者にとって、「ノーマルを取り戻す」とはかつての生活に戻ることではありません。新しい日常を創り出すために積極的に取り組むことなのです。

本インデックスでは、危機の収束後、消費者がどのような生活を望んでいるかを、パンデミックが起きた当初から追跡してきました。この18カ月間で消費者は著しく変化しており、それは今後の消費行動や購買判断や嗜好に影響を与えることになるでしょう。最近は、重視するものが「自分の健康と家計」から「自分と自分の住む地球」へと変わってきました。

ニューノーマルを形作る消費者の3つの変化

では、ニューノーマルとはどのようなものになるのでしょうか。国や消費者セグメントによる差はあるものの、顕著な特徴が3つあります。

1. リスク・脅威と隣り合わせの生活

パンデミックを経験したことで、多くの消費者のリスクに対する考え方や感じ方が変わりました。自分の健康、行動範囲、経済状況を脅かすリスクに対する意識を今後も高く持ち、時間の無駄遣いをしないことを今まで以上に重視するようになるでしょう。

この「常に緊急事態」という考え方が生まれたのは、コロナ禍での暮らしを余儀なくされたからだけではありません。地政学的、経済的状況はますます不安定で、予測不能になってきました。インフレの懸念も高まっています。サプライチェーンは相変わらず脆弱で、気候変動はあらゆる人々の優先課題になりつつあります。

消費者の新型コロナウイルス感染症に対する不安は弱まったかもしれませんが、それに代わる懸念材料はたくさんあるのです。

  • 35%がパンデミック前より孤独を感じている
  • 52%が以前と比べ、必要がなければ外出しなくなった
  • 75%が家計に不安を感じている

パンデミックによる経済的・精神的ストレスを受け、それが支出に対する考え方に影響を与えています。消費者の大部分は貯金を増やしたいと考えており、しかも手元の現金を増やしたいという意志が最も固いのは、最も浪費が多いと思われがちな若い世代です。

2. 重視するのは商品、体験、時間の「質」

パンデミック後の消費者はお金と時間をいつ、どのように使うかを中心に、新たな優先順位を決めつつあります。多くの人がパンデミック中に小さな暮らしを学んだことで、量より質を望むようになったのです。また、消費全体を減らしたいとも考えています。59%の人がお金の使い方に慎重になっていると回答しています。

自宅で過ごす時間が増えて、モノを持ちすぎていることに多くの人が気づきました。空間をもう少しすっきりさせたいと考え、また、モノを捨てることが環境に与える影響に対する意識も高まっています。一方、家計が苦しく、節約しなければならない人たちもいます。

消費者が不要な商品や体験への支出を避けているのは、家計のためだけではありません。地球のためでもあります。もはやモノを所有していることがステータスにはなりません。レンタルやサブスクリプション、再販で商品やサービスを長く循環させることに対する関心が高まってきました。例えば53%の人が、物を買い替えるより修理して使うことが多くなったと回答しています。

物を買わなくなった理由のトップは節約ですが、そこには国や地域により微妙な違いがあります。インド、中国、メキシコ、ブラジルの消費者は、環境に寄与する必要があるためです。

カテゴリー別で見ると、優先順位の変化は顕著です。例えば、48%がパンデミックで必要以上に衣服を持っていることに気づいたと回答し、47%が自分の素肌に前より自信が持てるようになり、美容品や化粧品に頼る必要はないと答えています。

3. デジタルが定番のチャネルに

パンデミックは、消費者とデジタル技術との関係も変えています。デジタルを利用せずに買い物、仕事、学習、人付き合いをすることが難しい、あるいはできない時期が何カ月も続きました。これは影響が小さい、歓迎すべき変化であった場合もあれば、これにより大幅かつ難しい対応を余儀なくされた場合もあります。しかし、いずれにしても、デジタル技術は今、こうしたやり取りのノーマルとして受け入れられています。

オンラインで商品を検索し、クリックアンドコレクト(C&C)や宅配サービスを利用しての購入は、普通のショッピング体験の一部となりました。こうした仕組みはコロナ禍前からありましたが、その普及が著しく加速しています。新型コロナウイルス感染症が進化し、新たな危機が起きる中、消費者は今後も、デジタルに頼って安全を確保するとともに、プライベートと仕事を管理することになるでしょう。

  • 消費者の55%がパンデミック以降、テクノロジーの利用の仕方がいい意味で変わったと回答
  • 同46%がリモートワークを継続
  • 同37%が以前は店で購入していた商品をオンラインで購入
  • 同34%が過去6カ月でストリーミング動画サービスへの支出が増加

優先事項としてますます重視されているのが柔軟性です。消費者は今後、仕事、買い物、エンターテインメントを問わず、自分がコントロールできる柔軟性を与えてくれるブランドを生活の一部に組み込むようになるでしょう。それによって消費者の物理的な行動やデジタル行動が変わるにつれ、移動パターンや消費パターンも変化するはずです。

デジタル体験の価値を認める消費者の増加に伴い、こうした体験の質に対する関心も高まっています。人々がデジタルに求めているのは、現実世界で普通に得られる高度なサービスと体験であり、リアルとデジタルの枠を超えたシームレスで一貫性のある体験です。

しかし、こうした期待は現実のものとはなっていません。消費者は、オンラインサービスに付き物の配達料・送料から店舗の在庫切れやその他の残念な体験まで、期待とのギャップに不満を抱いています。サプライチェーン・在庫・物流の問題に対処し、物理的なタッチポイントとデジタルタッチポイントで提供する体験とサービスの質を向上させることが企業にとっての課題であることは言うまでもありません。消費者がお金の使い方に一段とシビアになっていることを考えると、このような摩擦点をなくすことに優先的に取り組むことが不可欠です。

ホリデーシーズンが指標

どれくらいで、こうした新しい行動は定着するのでしょうか。消費者の心理と行動の変化のスピードについては、ホリデーショッピングシーズンの動向が貴重な指標となるはずです。買い控えしていた間の分を取り戻そうとするリベンジ消費で売上が増加する可能性がありますが、世界的な景気への逆風とまだ続くサプライチェーンショックといったマイナス材料も差し引いて考えなければなりません。また、これまで述べてきたように、EYのFuture Consumer Indexから、消費に関する考え方が根本的に変わってきた人が多いことが分かっています。

  • 49%が次のショッピング/セールシーズンにはオンラインで買い物をする予定
  • 40%は、ホリデーシーズンはパンデミック前とそう変わらないと予想
  • 27%がホリデーシーズン中の支出を減らす予定だと回答

ちなみに、今年のホリデーシーズンの支出を増やす予定なのはミレニアル世代とZ世代です。このうち38%がたくさんモノを購入すると幸せを感じると回答しています。これらの世代は子供がまだ小さい、あるいはようやく賃金が上がってきた世代であると思われることから、記憶に残る思い出を作れる手元に残るものや体験を求めがちだと考えられます。

消費者は前へ進んでいるのに、取り残されたままでいいのか?

消費者が前へと進み、新たな日常を創り出しつつある今、消費財メーカーや小売企業も立ち直り、組織とブランドの新たな未来を築いていくチャンスです。そのために、検討すべきアクションが4つあります。

1. ホリデーセールシーズンのデータを、異なる視点から分析する

今年のホリデーセール時期は、かつてないほど重要です。消費者の新たな行動がブランドにどのような影響を及ぼしているかを確かめ、未来の消費者を理解する、おそらく初めての大きなチャンスです。しかし、そのためには深い分析を重ねる必要があります。一般的な指標を参考にするだけでなく、さらに踏み込んだ分析を行い、未来の消費者の考え方、価値観、習慣を知り、そうした変化が購買判断にどのような影響を及ぼすかを把握することをお勧めします。今、より高度な分析を行うことは、2022年以降の消費者と投資家の期待に応える一助となるはずです。

2. 消費者の生活の中で信頼される存在になれるようデータやテクノロジーに投資する

消費者は前へと進みながらも、まだ慎重です。消費者が求めるのは信頼できるブランドと体験です。時間通りの配達、商品の原産地など、約束を最後まできちんと守るブランドです。信頼を得続けることができる企業は、消費者の生活にとって欠かせない存在になるはずです。もはや顧客が企業の中心にいるという話ではなのではなく、企業が顧客の生活の中に存在するのです。それには考え方の転換が必要です。顧客が喜ぶ(そして企業にとっても有益な)価値は、どこで生み出すことができるでしょうか。そのためには、どのような技術力が必要になるでしょうか。

3. 利用者が物理的チャネルとデジタル・チャネルを行き来しやすい仕組みを作る

消費者と直接つながる方法を見いだすことが、これまで以上に重要になってきています。オンラインでの買い物が増え、家でスマートフォンやタブレット、パソコンを見て過ごす時間が増えた今、従来の関わり方には、かつてほどの価値がありません。今後は、いつ、どこで、どのようにブランドと関わるかを消費者が今以上に選べるようになっていくでしょう。しかも、消費者はリアルな世界とデジタル世界をシームレスに移動することを望んでいます。この2つの世界の境目が曖昧になる中、デジタル上に現実世界を再現する場合でも、店舗にデジタルの即応性を再現する場合でも、消費者は両方の世界の良いところを求めます。統一感のある体験を創り出し、それを妨げる摩擦点をなくしていくことが今後の成功には不可欠です。

4. 購買でも量より質が重視される時代に合わせてビジネスモデルを変える

消費習慣を見直す人が増えています。地球の保全にもっと貢献したい人もいれば、買う量を減らして質の良いものを購入したい人もいます。顧客の購買行動の動機を把握するためには、企業側の抜本的な対応が必要となるかもしれません。例えば、製品ポートフォリオを見直し、合理化して、長持ちする製品を提供できるでしょうか。その対応として、この対応としては設計変更や、サブスクリプションモデル、レンタルモデル、再販モデルの採用などが考えられます。このような転換を成功させ、既存顧客の満足度の維持、新規顧客の獲得、顧客ロイヤルティの維持を実現するには、品質、調達、サービスに対するアプローチの一新が必要になるかもしれません。「量より質」へと移行するのであれば、新たな価値の源泉かつ収入源として、どのようなサービスやコンテンツ、体験を新たに生み出していきますか。

 

  • 調査方法

    EYは2021年10月6日から25日まで、米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、英国、フランス、イタリア、ド イツ、スペイン、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、インド、サウジアラビア、中国、インドネシア、日本、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカの消費者16,000名を対象に調査を実施しました。アンケートの質問内容は、現在の行動、心理、意固意図にわたっています。

サマリー

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは収束していませんが、消費者は前に進もうとしています。人々は生活にノーマルを取り戻そうと懸命ですが、だからとって、かつての生活に戻りたいわけではありません。パンデミックを経験したことで、人々は大きく変わりました。深刻な経済的不確実性、気候危機の増大、全般的な危機感の高まりに直面し、消費者の優先事項も多様化しています。4つの主要なアクションを起こした企業は今後、人々の消費、仕事、レジャーに欠かせない存在になれるでしょう。

この記事について

執筆者 Kristina Rogers

EY Global Consumer Leader

Global leader for consumer industries. Marketing strategist. Worked in 20 countries. Harvard MBA. Photographer. Scuba diver. Canadian fiction reader. Mother of two.

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