私たちが向かっている未来は、実店舗とオンライン両⽅のチャネルが共存し、両者の境界線が曖昧になったハイブリッド型の未来です。しかしそうした未来を実現するには、ショッピングが実店舗・オンラインのどちらであろうと、デジタルテクノロジーが極めて重要です。
テクノロジーの価値と明確な⼩売戦略が適合していなければならない
実店舗とオンラインでの販売は二者択一ではなくなるでしょう。外部要因によって⼩売業のデジタル変⾰のスピードが加速した、というEY Reimagining Industry Futures 2022調査の結果は当然とも言えます。⼩売企業の71%が、サプライチェーンの可視化と管理の向上を⾒込める5GやIoT(Internet of Things)に以前よりも関⼼を持っていると回答し、75%は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、デジタルトランスフォーメーション計画が加速したと答えています。
小売企業におけるデジタルトランスフォーメーションの優先順位
EYでは、最新テクノロジーを活⽤し⾰新的な⽅法で顧客からの要望に応えようとしている⼩売企業を対象に、最も重要視する5GベースのIoT活⽤シナリオを尋ねました。回答を見ると、サプライチェーンの統合による事業運営の効率化、重要インフラの管理などが最優先として挙げられています。今後の優先事項としては、予測型またはリアルタイムのオペレーション、パーソナライズされた製品・サービスによる「3つのI」も同じくらい重要視されていることが分かります。その次にくるのが顧客インサイト、システムおよびプロセスの最適化となっており、いずれもInvisibility(無形化)、Indispensability(不可⽋化)、Intimacy(親密化)を組み合わせて提供したいという考えが明確に⽰されています。
⼩売企業において、情報技術(IT)への⽀出の中で最新テクノロジーへの投資が占める割合は増えています。現在の投資の焦点は、アナリティクスや⼈⼯知能(AI)およびロボティクスやオートメーションを優先したデータドリブンな組織作りであることは⼀⽬瞭然です。またIoTやエッジコンピューティングへの投資も⾏われています。しかし、投資の軸足は、今後数年で5Gや量⼦コンピューティングへと移っていくでしょう。ARやVR、ブロックチェーンへの投資は⽐較的抑えられたままです。このままでは、今後デジタル通貨やメタバースが台頭してきたときに課題となるかもしれません。
最新テクノロジーを促進する新しいビジネスモデルの導入
データによると、適切なデジタルトランスフォーメーション戦略の導⼊を促進するには、⼩売企業は今後次の2 つのアクションを検討する必要があることが分かります。
1. 5Gは重要な鍵を握るが、導⼊には課題を伴う
最新テクノロジーはそれ単体で検討できるものではないことを念頭に置くことが⼤事です。テクノロジーをスムーズに、安定して動作させるには適切なインフラ整備とインテグレーション(統合)が必要です。低遅延、⾼速、⾼帯域が特徴の5Gは、⼩売業のインフラで使う最新テクノロジー間の「接着剤」として理想的です。しかし、多くの⼩売企業はそれを実現するまでの道のりは長いと考えています。77%は、5G・IoT導⼊を成功させるためには今後5 年間で組織のオペレーションモデルの⼀新が必要だと考えており、それは容易なことではありません。
2. テクノロジーサプライヤーとのより緊密な連携が⽬標ではあるが、発想の転換が必要
⼩売企業は⾃社のデジタル化を加速させ、最新テクノロジーのための戦略策定を進めると同時に、エコシステム間の連携に強い意欲を⽰しています。63%が、パンデミックによってテクノロジープロバイダーとの連携強化が促されたと回答しています。
しかし、ほとんどの企業が緊密な連携を必要としながらも、多くの場合その実現に⾄っていません。5Gベンダーとの現在の関係について、まだ⼤半が限定的かつ取引ベースだと69%が答えています。こうした現状は、今まで⾃前でシステム開発や⼈材育成を⾏ってきた⼩売企業にとっては、考え⽅の⼤転換を迫るものであるからかもしれません。しかし⽬標とする場所に、要求されているスピードで到達するとなると、適切な⼈材をすぐに雇⽤し、育成することはまず不可能です。そこで必要なスキルを獲得する別の⽅法を⾒つけなければなりません。つまり、コラボレーションが唯⼀実現可能な選択肢なのです。
3つのIを活用してリテールテクノロジーの力を発揮する
私たちが向かっているハイブリッド型の未来では、消費者はどのチャネルを利⽤するかにこだわりません。消費者は購⼊場所がどこであっても、商品やサービスを同じような形で購⼊したいだけです。
これは⼩売企業にとって顧客との関わり⽅を変⾰する絶好の機会です。多くの⼩売企業は、将来の価値提案を進化させるために新しいテクノロジーを取り⼊れ、未来のチャンスをつかむべく体制を整えようとしています。しかしその道のりは決して平たんではなく、チャンスの扉が開いている時間はそう⻑くないかもしれません。
採用する新しいテクノロジーが未来に適合したものかを確かめるため、EYでは小売企業が検討すべき3つの重要課題をまとめました。
- 採⽤するテクノロジーをサポートする適切なインフラが整備されていること。古いインフラに新しいテクノロジーを付け足しても、物事を減速させ、使い勝⼿を悪化させるだけです。新しいテクノロジーと古いシステムの統合に苦労している⼩売企業は少なくありません。
- テクノロジーパートナーと緊密に連携し、時流に乗り遅れないこと。新たな動きに後れを取らないようにするためには、ソフトウエアやテクノロジーを最新状態に保つ必要があります。⼩売企業とテクノロジーパートナーとの関係は、従来のような取引ではなく、サービス主体のサポートへと移⾏して、システムの陳腐化を避けなければなりません。
- 将来に向けて計画しつつ、あらゆるテクノロジーを検討すること。調査では、ブロックチェーンやAR、VRを⾃社ビジネスに必要なものとしては考えていないという回答が多数でした。しかしデジタル通貨やNFT(⾮代替性トークン)やメタバースが価値創造の新たなチャンスを⽣み出すにつれ、こうした分野への関⼼は急速に加速しています。
3つのIの⼒を最⼤限に発揮して消費者の関⼼を引き、獲得し、定着させるためには、適切なユースケースとビジネスモデルを⾒つけ、それに投資しなければなりません。⼤胆な戦略的選択をし、実現させる時です。それは、先へと進む上で次に通るべき重要な段階であり、今すぐ取り組むことが必要です。
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サマリー
⼩売企業の⽬前には、顧客体験を⼀新させ、顧客の期待に応えるチャンスの扉が開かれています。オンラインと実店舗の両⽅でエンゲージメント強化を図る上で、テクノロジーは⽋かせないツールです。移行の過程においては、将来の提供価値を進化させることのできる、統合型のエコシステムへとシフトしなければなりません。オペレーションにおけるテクノロジーの重要性はすでに認識されている一方で、チャンスを確実につかむためにはパートナーシップ連携強化や最新テクノロジーへの投資を盛り込んだ明確な戦略が求められます。