わかりやすい解説シリーズ「金融商品」 第1回:金融商品の定義と金融商品会計基準の適用範囲

公認会計士 伊藤 毅
公認会計士 友行貴久

1. 金融商品会計が必要とされる背景

【ポイント】
「金融商品に関する会計基準」「金融商品会計に関する実務指針」等をはじめとする金融商品会計は、証券・金融市場のグローバル化及び金融商品の取引の高度化・複雑化に対応したものであり、金融商品の時価評価に係る会計処理や、新たに開発された金融商品や取引手法等についての会計処理を整備する目的で基準化されたものです。

金融商品会計は、以下のように企業のさまざまな活動において発生する金融商品に関する会計処理を定めています。

図1-1

図1-1 金融商品会計

2. 金融商品の範囲

【ポイント】
金融商品とは「金融資産、金融負債及びデリバティブ取引に係る契約を総称したもの」を指します。

それでは、金融商品とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。「金融商品に関する会計基準」によると、金融商品とは「金融資産、金融負債及びデリバティブ取引に係る契約を総称したもの」になります。

そのため、会社の取引に係る契約がこの定義に該当すれば金融商品会計が適用されることになります。具体的には【図1-2】に挙げられる科目が金融商品に該当します。金融機関だけでなく一般的な事業会社でも存在する勘定科目でも金融資産または金融負債に該当するものがあることが分かります。

金融商品の具体例

図1-2

図1-2 金融商品の具体例

別の見方をすれば、資産のうち将来に金銭で回収されるものを金融資産ということができます。一方で、販売や減価償却により将来的に費用化される資産である棚卸資産や有形無形固定資産は金融資産に該当しません。

同様に、負債についても、企業の営業過程で発生する買掛金や、資金調達の際に発生する社債や借入金など、将来的に金銭で支払われるものが金融負債として該当します。引当金は、将来の特定の費用や損失に備えるための勘定科目であり、契約に基づく金銭の支払義務ではないため金融負債には該当しません。

図1-3

図1-3

3. 金融商品の評価基準の考え方

【ポイント】
金融商品会計では、金融商品の価値をタイムリーに財務諸表に反映するために時価評価の考え方が採用されています。

企業会計原則において「貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならない」と定められていますが、金融商品会計では時価評価の考え方が採用されています。金融商品の価値をタイムリーに財務諸表に反映する必要があるからです。

図1-4

(例) 上場株式を購入した場合(取得後に時価が上昇したケース)

図1-4 (例) 上場株式を購入した場合(取得後に時価が上昇したケース)

→時価評価をすることでB/S計上額が含み益を反映したものになる。


期末時点で時価評価が必要


4. 金融商品会計の主な論点

第2回以降で解説する、多くの事業会社で該当すると想定される論点は以下のとおりです。

論点

内容

有価証券の評価

有価証券をその保有目的にもとづいて売買目的有価証券、満期保有目的債券、子会社及び関係会社株式、その他有価証券に分類し、それぞれの分類ごとの会計処理を行います。売買目的有価証券およびその他有価証券については毎期時価評価を行います。
第2回
時価のある有価証券の時価が著しく下落した場合は、時価の回復可能性がある場合を除き、減損処理を行います。(第3回
また、時価のない有価証券の実質価額が著しく下落した場合にも、実質価額の回復可能性がある場合を除き、減損処理を行います。(第3回

貸倒引当金

債権を一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に分類し、それぞれの債権に対して貸倒引当金を算定します。(第4回

ゴルフ会員権の評価

ゴルフ会員権について、時価の著しい下落が生じている場合に減損処理を行うことを定めています。(第4回

デリバティブ取引
ヘッジ会計

デリバティブ取引は、まだ実行されていないデリバティブ取引についても時価評価を行い、デリバティブ取引の契約から既に発生している含み損益を財務諸表に計上させます。(第5回
また、デリバティブ取引のうち為替相場変動リスクや金利変動リスクなどをヘッジする目的で利用しているものについては、一定の要件を満たす場合、「ヘッジ会計」とよばれる会計処理を行うことができます。(第5回


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