アパレル業界 第1回:概況

EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 田代隆志/柳本高志

1. アパレル業界とは

アパレル(apparel)業界とは、衣料品一般に関する製造、販売、流通に属する業界であり、シューズ、バッグ雑貨、化粧品等も含めたファッション業界の一部を構成しています。第1回では、アパレル業界の構造や特徴、昨今のトレンドについて見ていきたいと思います。

第2回以降は、具体的に、売上及び営業費用、棚卸資産、固定資産の減損会計や、アパレル業界の特徴的な会計処理や内部統制について解説します。
 

2. アパレル業界の構造

アパレル業界の構造の中には、様々な役割の企業が存在します。大きく分類して、業界の上流から素材メーカー、アパレルメーカー、ファッション小売業と区分することができるでしょう。

まず素材メーカーですが、その中にも、原料となる繊維や糸を製造する繊維素材メーカー、その繊維や糸からテキスタイル(生地)を製造する生地メーカー、その生地を染色する染色メーカーの他、レザーやファーあるいはニット等の生地に関する業界もあり、多くの分類をすることができます。

次にアパレルメーカーですが、商品企画を行い、生地メーカーから生地等の素材を調達し、衣料品を製造します。製造工程である裁断、縫製等の工場を自社で保有している企業もありますが、製造工程は協力工場に外部委託するケースも多く存在します。製造工程では、様々な機械が導入されているものの、比較的、労働集約的な工程が多いため、人件費が安い諸外国に製造を外部委託するケースが多くなっています。このように製造自体を外部委託している場合でも、一般的にはアパレルメーカーと呼ばれます。

最後にファッション小売業ですが、百貨店、スーパーマーケット等の量販店、ファッションビルや路面店等の専門店、ショッピングセンター、アウトレットモール等の様々な販売チャネルで、最終顧客である消費者に衣料品を販売します。昨今では消費者が店頭ではなくEC(電子商取引)で購入することが増えたため、衣料品をECで販売するプラットフォーム事業者も存在します。

前述の素材メーカー、アパレルメーカー、ファッション小売業のうち、アパレルメーカーとファッション小売業の両者を営む製造小売業はSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)と呼ばれます。SPAは、メーカーと小売の両者の利益確保、商品企画と販売店との共同プロモーション、消費者の購入状況に合わせたシーズン中の追加生産の機動性等、多くのメリットがある反面、製造から販売までの幅広いノウハウが必要、大規模な投資が必要で、製造から販売まで負うリスクも大きい等のデメリットがあります。
 

3. アパレル業界の特徴

アパレル業界の特徴ですが、前述の素材メーカー、アパレルメーカー、ファッション小売業という区分で見た場合、素材メーカーに関しては、会計の観点でアパレル業界特有の論点は少なく、むしろ一般的なメーカーとしての原価計算や固定資産等の特徴が、そのまま当てはまる点が多いといえます。従って、ここからは主にアパレルメーカーとファッション小売業に関連する特徴について見ていきます。

まず、アパレル業界の第一の特徴として、多様な契約形態や取引条件の存在が挙げられます。ファッション小売業者がアパレルメーカーから商品を仕入れる際の契約形態としては、主に買取仕入れ、委託仕入れ、売上仕入れ(消化仕入れ)があります。

買取仕入れとは、アパレルメーカーからファッション小売業者に商品が納入される時に所有権が移転し、いったん買い取った商品は、原則返品できないという仕入れ形態です。

次に、委託仕入れとは、ファッション小売業者がアパレルメーカーから委託されて商品を店頭に一定期間置き、売れ残り商品はアパレルメーカーに返品されるという仕入れ形態です。

最後に、売上仕入れ(消化仕入れ)とは、アパレルメーカーからファッション小売業者に納入された商品のうち、店頭で顧客に売れた商品のみを仕入れたとする仕入れ形態です。

このような契約形態があることに加え、様々な取引条件があります。例えば、買取仕入れでも一定条件の中で返品が認められている場合もありますし、そのような返品条件がない場合でも、実務慣行の中で売れ残り商品の返品が行われるケースもあります。

消費者に対する価格(上代)の決定に関しても、アパレルメーカー側に決定権がある場合と、ファッション小売業者にある場合があります。

アパレルメーカーあるいはファッション小売業者は、これらの契約形態や取引条件、さらには実務上の慣行等も踏まえて、売上等の会計処理を検討する必要があります。この点については、第2回で解説します。

次に、アパレル業界の第二の特徴として、商品のライフサイクルと季節性が挙げられます。衣料品の中にも、婦人服や紳士服や子供服、ラグジュアリーブランドからファストファッション、ファッション性が高いものから定番品までと、様々なバリエーションがあり、商品のライフサイクルは異なります。ファッション性が高い商品であれば、1シーズン経過後は値引販売しないと売れないケースが多いと思われますが、一方でトレンドがあまり変わらない紳士服や定番品等は、数シーズン定価販売が行われる商品もあります。

また、いわゆる売れ残り商品の在庫処分方法も、企業により戦略が異なる分野であり、アウトレット、ファミリーセール、催事等で在庫処分する企業と、商品ブランドを維持するために廃棄する企業があります。

さらに、春夏物と秋冬物でも商品特性が大きく異なります。冬物のコートに代表される重衣料は単価が高いものの、数年に一度等、購入頻度が下がる一方で、軽衣料は単価が低いものの、消費者は毎シーズン数多く購入する等の特徴があります。

これらのライフサイクルや季節性等の実態を反映させるように、会計上は商品の評価基準を検討する必要があります。この点については、第3回で解説します。

最後に、アパレル業界の第三の特徴として、設備に関して見ていきます。

アパレル業界における設備としては、本社や製造設備もありますが、特徴的なものは店舗等の販売設備といえます。

強固なブランドを保有している場合は別として、衣料品を販売している店舗等の現場の売れ行きは、一般的に変動しやすい特徴があります。百貨店、ショッピングセンター、アウトレットモール等に入っている店舗は、その百貨店等の集客力が落ちれば影響を受けます。また、路面店は特に店舗周囲の環境変化(ライバル店の出退店や、人の流れの変化)によっても大きな影響を受けます。従って、このような環境変化を受けて店舗等の固定資産の資産性を適切に評価できるように、固定資産の減損会計を適用する必要があります。この点については、第4回で解説します。
 

4. 昨今のアパレル業界のトレンド

アパレル業界は比較的、業界変化のスピードが遅いといわれますが、昨今はテクノロジーの発達により、様々な変化が起きています。

一点目としては、販売チャネルの変化が挙げられます。従来は百貨店や専門店等の店頭で販売されることが一般的であり、サイズや色合いや着心地が重要視される衣料品とECとの親和性は低いといわれてきました。しかし昨今は、画像データや口コミ等のインターネット情報が豊富になり、EC上のショッピングモールを展開する企業が増加する等の要因により、ECでの販売割合が増加しています。ECは、アパレル企業が独自のサイトを運営する場合と、他社が運営するインターネットショッピングモールで販売する場合があります。これに加えて、ECでのファッションレンタル業の伸長も、近年の特徴です。アパレル企業は、店舗とECという複数の販売チャネル(オムニチャネル)をそれぞれ、どのような役割として活用するか、高度な販売戦略が求められています。会計的にも、売上の認識時期、固定資産の減損等に影響することが考えられます。

二点目としては、オーダーメード品の増加が挙げられます。従来はオーダーメードといえば紳士服が中心でしたが、紳士服に限らずオーダーメードの衣料品が増加しています。採寸技術、工場へのデータ転送、裁断処理等、従来のオーダーメードでは人手がかかっていた機能をテクノロジーが担うことにより、従来よりも安価で早くオーダーメードの衣料品が出来るようになりました。会計的にも、売上の認識時期やソフトウェアの会計処理等に影響することが考えられます。

三点目として、RFIDの活用が挙げられます。近年では、製品に付けるタグにRFIDというタグを使う企業が増えています。RFIDとはRadio-frequency identificationの略であり、電波等を用いた無線通信により、タグに埋め込まれた情報をやり取りする仕組みです。RFIDを利用することにより、これまで、それぞれの製品に付けられているタグをハンディスキャン等で一つずつ読んでいた作業が、RFIDと読み取り機の電波を利用した無線の作業に置き換え可能になります。そのため、倉庫における入出庫作業等が大幅に効率化され、また棚卸にも用いることができると考えられます。また、店舗においてもレジでの読み取りをRFIDの読み取り機で行うことにより、レジの対応時間の短縮につながると考えられます。会計的にも、会計処理の前段階の内部統制として、販売、入出庫、棚卸等の幅広い範囲に影響することが考えられます。

四点目として、環境意識の高まりも挙げられます。どの業界にも共通して言えることですが、持続的な環境や社会などに対する消費者の意識が高まり、環境に配慮した原材料の使用、製造過程における二酸化炭素の排出量等、商品の製造背景が消費者の購買行動に影響を与えるようになってきています。店舗に回収容器を設置して顧客が不要となった衣料品を回収し、リサイクルや寄付をするといった取組みも増えています。また、2021年6月改訂のコーポレートガバナンスコードにおいては、上場会社の経営戦略の開示に当たって自社のサステナビリティについての取組みを開示するよう改正されるなど、開示にも影響を与えています。
 

5. 新型コロナウイルス感染症拡大による影響

2020年春ごろからの新型コロナウイルス感染症の拡大は、アパレル業界にも影響を与えています。

ECでの販売割合が増加していることについては前述した通りですが、感染症拡大により外出機会が減少するなか、その傾向はますます強くなっており、実店舗の役割も見直されつつあります。実店舗は自社商品に実際に触れてもらう場所、ブランドコンセプトを消費者に伝える場所とし、購入はECでといったように、実店舗がEC販売の補助的な役割を担っているケースも多く見られるようになりました。

国内アパレルメーカーの衣料品はデザイン面、品質面における評価が向上し、訪日外国人から人気を集めていたこともあり、売上が好調であったアパレル企業もありました。いわゆるインバウンド特需です。しかし、感染症拡大の影響により、2019年には3,188万人(※)であった訪日外国人数は2020年には411万人(※)、2021年1月~6月には9万人(※)とインバウンド特需は消滅することとなりました。一方で外国人観光客が訪日時に知ったり、購入した商品を、訪日せずともインターネット通販を使用して購入する取引(越境EC)が増加しているとも言われています。

※ 出典:日本政府観光局「国籍/月別 訪日外客数(2003年~2021年)」



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