2023年5月1日
プライベートエクイティの最前線と動向~プライベートエクイティ・ファンドの進化と将来

プライベートエクイティの最前線と動向 ~プライベートエクイティ・ファンドの進化と将来

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

2023年5月1日

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プライベートエクイティ(PE)の世界が注目されており、PEファンドという言葉を聞く機会が増えています。これは、勢い・インパクト・影響力が活発になっている投資の業態です。

要点
  • 日本におけるPE業界の投資活動は過去・現在・将来の点からとても活発で、投資リターンの機会は世界から見ても魅力的である。
  • ESG・サステナビリティの価値観に沿った投資機会の創出と「良い会社」が「良いリターンを出すProfitableな事業」につながるステークホルダーとしての責任を果たす重要性が増しており、社会的責任として高まると考えられる。

EY Japanは「現在の多様なリスクに対するオルタナティブ投資の役割とその未来」と題したイベントを開催し、さまざまなリスクに対するオルタナティブ投資の役割とその未来について論議しました。
 

オルタナティブ投資対談【後編】

田村 晃一(以下、田村): 地政学的なリスクやビジネス機会、経済安全保障を考えた上での、地域的な魅力あるいは地域的リスクも含めた点についてどのようにお考えですか。

越智 多津哉氏(以下、越智氏): 地政学リスクが高まる中で、アジアにおける相対的な日本の立ち位置の向上は間違いなくあります。別の観点から言うと、グローバルのファンドとして非常に興味深く見ているところは、オルタナティブ投資に対する日本の機関投資家のエクスポージャーの向上余地がかなりあるという点です。グローバルと日本で比較した場合、オルタナティブ投資は日本の中ではまだ多少リスクがあるアセットクラスと見られているところも多いので、そこの意識改革がどこまで進むか。逆に言うとそこがアップサイドなので、かなりの期待が高まってきているのではないでしょうか。

田村: 多くの事業会社での経営課題の一つに不正やコンプライアンスの問題が挙げられます。PEファンドの皆さまが、現在の投資先のポートフォリオ事業のマネジメントに対するモニタリング体制において、どういったものがあるべき体制か。違う形に変わっていく必要性を感じておられるのか、それとも今あるものがふさわしく機能していると見ているのでしょうか。

清塚 徳氏(以下、清塚氏): 手短に結論だけ申し上げると、プライベートエクイティ投資自体がそれを相当回避できる体制です。株式を過半数持ち、取締役会から承認を受け、レバレッジが効き、監査も受けて、コベナンツもあるということなので、PE投資下でそういったスキャンダルや不正を起こすことはかなり難しいのではと思っています。

越智氏: 大枠は全く一緒です。やはり関わるステークホルダーの数がかなり多く、エクイティの投資家だけではなく銀行も関わりますし、われわれも中に入って個人のお金を投資するケースも当然あり、いろいろと強力なガバナンスが働きやすいような構造になっていると思います。少なくとも私の観測範囲内では大きな問題は起きてはいません。また、会社のサイズも、コングロマリットというよりはコングロマリットの一部だったりと、比較的大きくはない事業体が多いので、全体が把握しやすいケースが多いです。

田村: 最後に、PEファンドへ投資する機会のスケールを広げるために、PEファンドのLPとして一般投資家を含める議題が世の中では挙がっております。リテールの一般投資家にPEファンドへLP投資を行う機会を提供できるようになるためには何が必要でしょうか。

デビッド・ニコルズ: 市場と当局の両方に求められる規制という意味でも、非流動的な金融商品ですから、それをいかに正確にタイムリーにプライシングし、ネット・アセット・バリューを公開できるメカニズムを、どういう仕組みとしてつくるのかが必要となります。

一つのたとえとして、PEの畑でリテールという穀物を育てることを考えると、リテールで販売するために必須なのは、規制の整備と教育です。つまりPEファンドのリテール販売という穀物を元気に育てるには、種まきに適した畑を耕す。これが規制の整備です。そして種をまいたら、肥料と栄養を十分に与える。これが教育です。この二つがセットで必要です。

田村: そのようにPEファンド業界の投資機会にふさわしい規制の整備と教育がまさに期待されます。その結果プライベートエクイティのインベスター、プライベートエクイティのGPとLP、そしてリターンを刈り取る皆さんのステークホルダーすべてにとってサステナブルな将来に向けて、皆で一丸となって進んでいけるようになります。そのような世界が近いうちに来ることを願っています。


プロフィール

清塚 徳 氏 CLSAキャピタルパートナーズジャパン株式会社 代表取締役社長

清塚 徳 氏

CLSAキャピタルパートナーズジャパン株式会社 代表取締役社長

CLSAキャピタルパートナーズジャパンで投資活動全般を指揮するとともに、投資先の取締役に就任し投資先を支援。同社に入社する以前は、カーライル・グループのディレクターとして、主に消費財・ヘルスケア・化学業界などのMBO投資を担当。それ以前は、三菱UFJ銀行に16年間勤務し、日本や東南アジア諸国にてM&Aアドバイザリー業務や、シンジケートローンアレンジ業務に約10年間従事。

越智 多津哉 氏 パートナーズ・グループ・ジャパン株式会社 プライベート・エクイティ部門 日本チーム責任者

越智 多津哉 氏

パートナーズ・グループ・ジャパン株式会社 プライベート・エクイティ部門 日本チーム責任者

スイス系運用大手パートナーズグループの日本におけるプライベートエクイティ投資責任者。2022年の入社以前は、10年超にわたり米系大手プライベートエクイティ・ファンドのKKRおよび欧州系大手プライベートエクイティ・ファンドのCVCにて、日本における多数の投資案件の新規開拓・投資実行・バリューアップなどに従事。それ以前は米系大手投資銀行のCitiおよびLazardにてM&A・資金調達アドバイザリー業務に従事。

デビッド・ニコルズ EYパルテノン エグゼクティブアドバイザー

デビッド・ニコルズ

EYパルテノン エグゼクティブアドバイザー

米国および日本において資産運用業界を含む金融業界で30年にわたる豊富な経験があり、多くの会社のCEO、CAOおよびCOOを歴任。世界的な大手カストディバンクの共同代表を務めた経験がある。金融商品開発や資産運用ビジネスにおけるマーケット戦略に精通。また、日系大手資産運用会社のバックオフィス・ミドルオフィス業務構築を指導。

田村 晃一 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション シニアアドバイザー

田村 晃一

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション シニアアドバイザー

投資銀行事業本部・アジア太平洋地域統括、およびストラテジー・アンド・トランザクション事業のシニアアドバイザー。2021年12月までシニアパートナーとして日本マーケッツ統括。2008年から2018年の10年以上にわたり世界最大手コンサルティングファームでさまざまなグローバルリーダーシップの役割を担う。1992年よりコンサルティング・PE投資会社などにおいてM&A、投資銀行、PE投資業務などに従事。プロボノプロジェクトおよびさまざまなリーダーシップ育成プログラムを推進。

サマリー

EY発行の「2022年版グローバルオルタナティブ投資サーベイ(PDF)」でもプライベートエクイティが果たす役割が注目され、日本の社会やビジネスの中でもその存在が定着してきています。成長が続く見込みのPEファンドについて、ESGとサステナビリティの観点からどう取り組むべきかなど、異なるプレーヤーの多角的な視点から理解していくことが重要です。

この記事について

執筆者 EY Japan

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