2022年5月25日
サプライチェーンへの政府介入の増加

サプライチェーンへの政府介入の増加

執筆者 小林 暢子

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY Asia-Pacific ストラテジー エグゼキューション リーダー

クロスボーダーを強みとする、実績のある戦略コンサルタント&オピニオンリーダー。

2022年5月25日

新型コロナウィルス感染症の拡大等を機に、グローバルサプライチェーンの脆弱性が明らかになる中で、その強靱化等を目的とした政府介入が世界的に広がりつつあります。

要点
  • 医薬・医療機器、農業・食品、半導体・デジタル技術、インフラ、エネルギー転換関連技術など、重要物資や基幹インフラ等に係るセクターでサプライチェーンへの政府介入が広がりつつある。
  • 企業のデューデリジェンスと説明責任に関するEUの提案や米・英・加による人権侵害に関連する輸入禁止措置など、各国政府はサプライチェーンの管理に関する規制を強化しつつある。
  • 企業のサプライチェーン上のリスク管理の強化等は、政府の規制強化だけでなく、ステークホルダーの圧力からも影響を受けている。

2020年の新型コロナウィルス感染症の拡大によって、サプライチェーンの多くが海外のサプライヤーに大きく依存していることや、ジャスト・イン・タイム型のサプライチェーンの脆弱性、企業がサプライチェーンを把握し切れていなかったこと等が明るみに出ました。2021年にはサプライチェーンに起因する深刻な供給不足、供給網内での強制労働への懸念、サステナビリティを高めることへの外圧などにより、企業にとってのサプライチェーンを巡る問題の深刻さは一層増しています。こうした中、強靱で持続可能なサプライチェーンを構築するため、国家の介入を求める声が高まっています(図1参照)。例えば、バイデン政権は強靱なサプライチェーンを構築するための大統領令を発した上で各種の関連対策を取っており、EU議会は人権とサステナビリティに関するデューデリジェンス法の制定を求めるイニシアチブを通過させました。

パンデミックや各国間の地政学的な緊張関係の高まり等を受けて、補助金政策、保護貿易主義、その他産業政策など、グローバルサプライチェーンへの政府介入が2022年には重要物資や基幹インフラ等に係るセクターで増えることが予想されます。各国政府が関心を寄せる分野は、医薬・医療機器、農業・食品、半導体・デジタル技術、インフラ、エネルギー転換関連技術などがあげられます。例えば、バイデン政権は米国の重要サプライチェーンを包括的に捉えた上で、「フレンドショア」、ニアショア、オンショアのサプライチェーンを奨励しつつあります。また、中国も第14次5カ年計画とその「双循環」戦略では、半導体などの主要産業における国内生産比率の向上を目指しています。

また、気候変動や強制労働の問題への関心が高まる中、各国政府はサプライチェーンに新たな規制を設けることになりそうです。代表的な動きとしては、企業のデューデリジェンスと説明責任に関するEUの提案があげられます。これはサプライチェーン全体で人権と環境の問題に対処するよう、企業に求めるもので、他のEU法令と同様に、EU域外にも広く影響を及ぼす可能性があります。さらに、人権侵害に関連する米国、英国、カナダの輸入禁止措置が拡大し、他の国々が追随する可能性もあります。

ただ、このような各国政府の動きがある中で注意が必要なのは、政府が各企業に求める内容がレジリエンス向上のための政府の取り組みと相容れないことがある、ということです。例えば中国からのポリシリコン輸入を制限する米国の政策は、バイデン政権が進める再生可能エネルギー導入の加速化とは矛盾します。また、石炭発電を抑制する中国の取り組みによって、中国国内の工場が生産を控えてエネルギーを節約しようとするなど、グローバルサプライチェーンに混乱を及ぼしています。

サプライチェーンのサステナビリティをモニタリングすることは、政府の規制強化だけでなく、ステークホルダーの圧力からも影響を受けています。機関投資家を対象としたEYの調査によると、91%の回答者が、投資の意思決定に非財務面のパフォーマンス(社会的貢献)が影響していると答えています。また、EY Future Consumer Indexによると、世界の消費者の43%が、社会に貢献する製品に、より高い金額を出してもよいと答えています。さらに、サステナビリティを重視する世論が一層強まる中で、二酸化炭素排出量目標を達成できないサプライヤーを切り捨てる企業が増える可能性もあります。


ビジネスへの影響

  • サプライチェーンの脆弱さにより、様々なセクターにおいて企業が投入コストの上昇に直面する可能性があります。米国、EU、中国やその他の国々が国産比率を高めるためにサプライチェーンの再構築を行っていますが、その余波を受ける形で世界的にサプライチェーンの混乱が続き、物資調達の遅延だけでなく原材料など投入コスト上昇につながる可能性があります。企業は必要な部品の不足や投入コストの上昇に直面することになる可能性があり、そうなるとコストの一部を消費者に転嫁し、それが高水準のインフレにつながる恐れもあります。なお、各企業のサプライチェーンのレジリエンスを強化する取り組みとしては、調達材料と最終製品の備蓄、およびサプライチェーンの多様化などがあります。

  • 規制や市場からの圧力が企業に対して、温室効果ガスの排出量が多い事業を削減するよう促す可能性があります。ネットゼロ化の気運の高まりは、調達、製造、輸送、包装など企業の事業活動全体に対し、政府と消費者の関心を集めそうです。企業にとっては、包装に使用する材料から生産拠点の場所、さらには製品のリサイクルや再利用の方法まで、あらゆる点を再考する良い機会となります。

  • 新たなデューデリジェンスプロセスによって、コンプライアンスの重要性が増します。近く施行されるEUのサプライチェーン・デューデリジェンス法および同様のイニシアチブは、グローバルサプライチェーン全体で人権とサステナビリティに関するコンプライアンス遵守を証明するよう企業に求めることになります。このため、人権とサステナビリティに対し現実に起きている悪影響、もしくは将来的に起こりうる悪影響の特定や評価、報告を実施し、また、結果に応じ供給業者を変更する必要が生じることになりそうです。これにはコンプライアンスリスクや民事責任が問われる可能性といった負の面もありますが、他方でサプライチェーン全体を効果的にモニタリングしている企業にとっては、レピュテーション向上と商業の面でチャンスとなりえます。

  • 政府のサプライチェーンへの介入が増えることで、人材戦略に変更が生じそうです。新しい規制への対応として企業に事業場所を移転する必要が生じる場合、新たな土地で適切な人材を確保しなくてはならないという課題が生じます。これは特に、テクノロジーや先進製造業などの特定の地域に強力な人材エコシステムを有するセクターや、外国の低賃金労働に依存しているセクターで深刻になりそうです。一方で他の企業にとっては、従来と異なる労働力プールにアクセスする機会を手に入れることになります。また、サステナビリティと人権のデューデリジェンスは、企業がこうした問題に関する従業員からの信頼を構築していく機会になります。

 

図1:今後もグローバルサプライチェーンのレジリエンスが課題

図1:今後もグローバルサプライチェーンのレジリエンスが課題

【共同執筆者】

許斐 建志
(EYパルテノン シニアアソシエイト)

EYパルテノンにおいて戦略コンサルティング業務に従事すると同時にEYの地政学戦略グループメンバーとして、地政学に係るサービスを幅広く提供している。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サマリー

戦略物資等に関わるセクター等を中心に今後、世界的に政府介入が増すとみられ、各企業は一層サプライチェーン上のリスク管理を強化すること等が求められると予想されます。企業は、セクターによらず物資調達の遅延や投入コスト上昇等に直面し、また、新たなサプライチェーンの再構築等のために必要な人材を採用するために新たな戦略等を求められる可能性があります。

この記事について

執筆者 小林 暢子

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY Asia-Pacific ストラテジー エグゼキューション リーダー

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