2020年の新型コロナウィルス感染症の拡大によって、サプライチェーンの多くが海外のサプライヤーに大きく依存していることや、ジャスト・イン・タイム型のサプライチェーンの脆弱性、企業がサプライチェーンを把握し切れていなかったこと等が明るみに出ました。2021年にはサプライチェーンに起因する深刻な供給不足、供給網内での強制労働への懸念、サステナビリティを高めることへの外圧などにより、企業にとってのサプライチェーンを巡る問題の深刻さは一層増しています。こうした中、強靱で持続可能なサプライチェーンを構築するため、国家の介入を求める声が高まっています(図1参照)。例えば、バイデン政権は強靱なサプライチェーンを構築するための大統領令を発した上で各種の関連対策を取っており、EU議会は人権とサステナビリティに関するデューデリジェンス法の制定を求めるイニシアチブを通過させました。
パンデミックや各国間の地政学的な緊張関係の高まり等を受けて、補助金政策、保護貿易主義、その他産業政策など、グローバルサプライチェーンへの政府介入が2022年には重要物資や基幹インフラ等に係るセクターで増えることが予想されます。各国政府が関心を寄せる分野は、医薬・医療機器、農業・食品、半導体・デジタル技術、インフラ、エネルギー転換関連技術などがあげられます。例えば、バイデン政権は米国の重要サプライチェーンを包括的に捉えた上で、「フレンドショア」、ニアショア、オンショアのサプライチェーンを奨励しつつあります。また、中国も第14次5カ年計画とその「双循環」戦略では、半導体などの主要産業における国内生産比率の向上を目指しています。
また、気候変動や強制労働の問題への関心が高まる中、各国政府はサプライチェーンに新たな規制を設けることになりそうです。代表的な動きとしては、企業のデューデリジェンスと説明責任に関するEUの提案があげられます。これはサプライチェーン全体で人権と環境の問題に対処するよう、企業に求めるもので、他のEU法令と同様に、EU域外にも広く影響を及ぼす可能性があります。さらに、人権侵害に関連する米国、英国、カナダの輸入禁止措置が拡大し、他の国々が追随する可能性もあります。
ただ、このような各国政府の動きがある中で注意が必要なのは、政府が各企業に求める内容がレジリエンス向上のための政府の取り組みと相容れないことがある、ということです。例えば中国からのポリシリコン輸入を制限する米国の政策は、バイデン政権が進める再生可能エネルギー導入の加速化とは矛盾します。また、石炭発電を抑制する中国の取り組みによって、中国国内の工場が生産を控えてエネルギーを節約しようとするなど、グローバルサプライチェーンに混乱を及ぼしています。
サプライチェーンのサステナビリティをモニタリングすることは、政府の規制強化だけでなく、ステークホルダーの圧力からも影響を受けています。機関投資家を対象としたEYの調査によると、91%の回答者が、投資の意思決定に非財務面のパフォーマンス(社会的貢献)が影響していると答えています。また、EY Future Consumer Indexによると、世界の消費者の43%が、社会に貢献する製品に、より高い金額を出してもよいと答えています。さらに、サステナビリティを重視する世論が一層強まる中で、二酸化炭素排出量目標を達成できないサプライヤーを切り捨てる企業が増える可能性もあります。