2023年4月25日
ウクライナ情勢

【2023年に予想される地政学的動向トップ10】01. ウクライナ情勢

執筆者 小林 暢子

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY Asia-Pacific ストラテジー エグゼキューション リーダー

クロスボーダーを強みとする、実績のある戦略コンサルタント&オピニオンリーダー。

2023年4月25日

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ウクライナ情勢は、冷戦終結以来最も顕著な変化を地政学的関係にもたらしました。状況が長引けば消耗戦が懸念され、また、ロシア国内事情次第では情勢の悪化も考えられ、その場合、NATO加盟国が巻き込まれるリスクも上昇します。追加制裁の可能性は高く、科す側の経済にも強く影響を及ぼしそうです。

要点
  • 経済制裁が拡大するに従い、より多くのセクターや業務、サービス製品などに影響が及び、特にロシアでの事業展開およびロシア事業者との共同事業は一層困難になるとみられる。
  • 先進国市場でロシア産品が忌避される中、企業はサプライチェーンの混乱や構造的な物価上昇に見舞われ、経済成長率低下やインフレなどの影響が経済全体に及ぶとみられる。
  • 地政学的影響で経済のブロック化が進む中、戦略的に重要なセクターのうち海外展開する企業には事業環境が急転する懸念があるが、同時に新たな事業機会の可能性も存在する。

ウクライナを巡る情勢は、冷戦終結以来最も顕著な変化を地政学的関係にもたらしました。2023年も、ウクライナ情勢とその影響については引き続き不確実性が非常に高く、広く世界に大きな政治・経済的影響を与えることになりそうです。

現状では、ウクライナに対して何らかの形で勝利宣言ができるようになるまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が停戦等に応じる可能性は低いのではないかと考えられています。またウクライナ側もこれまでと同程度の経済的・軍事的支援を、米国とEUから今後も受け続けることができれば、徹底抗戦を続ける可能性が高いと思われます。そのため、この状況が長引けば長引くほど、両国間の戦争が消耗戦となるリスクは上昇します。

こうした情勢がこのまま続けば、プーチン大統領が国内で苦しい立場に立たされる可能性もあります。しかし自ら辞任するとは考えにくいことから、何らかの体制転換が生じるとなればロシアが無秩序な状態に陥ることも想定可能です。万が一、強硬派が権力を掌握した場合には、ウクライナの情勢が悪化するリスクも高まりかねません。また、プーチン大統領が激しい圧力に追い込まれ、その結果情勢をエスカレートさせることになれば、NATO加盟国が巻き込まれる恐れも高まりそうです。

ウクライナ情勢の著しい悪化により、先進国・地域がロシアに追加制裁を科す可能性は高く、またそれが制裁を科す側の経済にも強く影響を及ぼすことになるとみられます。そのような経過をたどる場合、制裁のスピードと内容を巡り、米国とEUとの見解に隔たりが生じるリスクが高まりかねません。また、ウクライナ情勢における中国やインドといった諸国の立ち位置も、地政学的環境の今後を大きく左右することになりそうです。

ビジネスへの影響

  • 制裁の拡大が事業に影響:制裁が拡大するに従い、より多くのセクターや業務、サービス、製品などが影響を受けるものと考えられます。先進国に本拠地を置く企業を中心に、ロシアでの事業展開や、ロシアの事業者との共同事業はますます困難になるものとみられます。
  • 供給の混乱と物価上昇:先進国市場でロシア産品が忌避される中、企業はサプライチェーンの混乱と構造的な物価上昇に直面する可能性が高いとみられます。また経済成長率の低下とインフレ率の上昇といった二次的な影響が、今後も国・地域を問わず、世界経済全体に及ぶことになりそうです。
  • 地政学的関係がリスクと機会を再定義する:各国間の地政学的関係の変化に伴い、戦略的に重要なセクターに属し、さらに対立する経済ブロックの国においても事業を展開する企業にとっては、事業環境が急転する可能性があります。ただし海外での事業運営が困難になる企業がある中にあっても、本国や友好的な国・地域で新たな事業機会を見いだす企業が現れることも考えられます。

推奨される対応

  • 自社の事業やセクターに対し今後の制裁が影響を及ぼす可能性を評価・検討し、影響を軽減する対応策を講じる。
  • グローバルなサプライチェーン全体の可視化を徹底するとともに、供給不足や価格の変動に対するレジリエンスを高めるため、代替サプライヤーの開拓を検討する。
  • ウクライナ情勢に関わる政治リスクの分析結果を、クロスボーダー投資計画とグローバル戦略の意思決定に織り込む。

【共同執筆者】

許斐 建志
(EYパルテノン マネージャー)

EYパルテノンにおいて戦略コンサルティング業務に従事すると同時にEYの地政学戦略グループメンバーとして、地政学に係るサービスを幅広く提供している。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サマリー

ウクライナを巡る情勢は、冷戦終結以来最も顕著な変化を地政学的関係にもたらしました。2023年も、ウクライナ情勢とその影響については引き続き不確実性が非常に高く、広く世界に大きな政治・経済的影響を与えることになりそうです。

この記事について

執筆者 小林 暢子

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY Asia-Pacific ストラテジー エグゼキューション リーダー

クロスボーダーを強みとする、実績のある戦略コンサルタント&オピニオンリーダー。