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国際会計基準審議会(IASB)は、2018年10月にIFRS第3号「企業結合」における事業の定義を改訂した。本改訂は、取引を企業結合として会計処理すべきか、もしくは資産の取得として会計処理すべきかの判断に資することが意図されている。
IFRS第3号では、引き続き、取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当するかどうかを市場参加者の観点から判断する。本改訂では、事業に該当するための最低限の要件が明確化され、市場参加者が欠けている要素を入れ替えることができるかどうかの評価が削除されている。一方、取得したプロセスが実質的なものであるかどうかの評価に資するガイダンスが追加され、事業及びアウトプットの定義が絞り込まれている。さらに公正価値に基づき実施されるスクリーニング・テストが導入されている。事業の定義に関するIFRS第3号中のガイダンスの適用方法を説明する設例も追加されている。
IASBは、IFRS第3号の本改訂及び2017年に行われたUS GAAPの同様の改訂により、IFRS適用企業とUS GAAP適用企業により事業の定義がより一貫して適用されることになると見込んでいる。
本改訂は2020年1月1日以降開始する事業年度から適用され、将来に向けて適用される。なお、早期適用は認められる。
IFRS第3号は企業結合について、事業を構成することのない資産又は資産グループの取得とは異なる規定を定めている。企業結合は取得法を適用して会計処理され、特に、のれんが生じることがある。一方、資産の取得として会計処理する場合、取引価格が公正価値の比率で、個々の取得した資産及び引き受けた負債に配分され、のれんが認識されることはない。
したがって、取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当するかどうかは、取引の会計処理を決めるうえで重要な検討事項となる。改訂前のIFRS第3号では、事業はインプット及びそうしたインプットに適用され、かつアウトプットを創出する能力を有するプロセスとで構成されるが、統合された活動及び資産の組み合わせが事業に該当するためにアウトプットの存在は必ずしも求められていなかった。
しかし、IFRS第3号の適用後レビュー(PIR)により、IASBは、事業の定義の解釈及びその適用方法について多くの利害関係者が持つ懸念を認識するに至った。そうした懸念を払拭するため、IASBは、ある取引を企業結合として、それとも資産の取得として会計処理すべきかの判断に資することを目的として、事業の定義の明確化を図った。
IFRS第3号は、取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当するかどうかを判断するにあたり、市場参加者の観点を採用している。すなわち、売手が事業として当該活動及び資産の組み合わせを運営していたか、又は取得者が事業としてそれらを運営する意図があるかということは、その判断に影響を与えるものではない。そうした事実に基づく評価では、事業の合理性、戦略的な意図及び取得企業の目的が考慮されないことから、有用な情報が提供されない可能性があるというPIRに対するコメント提供者からの指摘もあった。しかし、IASBはこの点について変更しないという結論に至っている。市場参加者の観点から、(取得者の意図ではなく)事実に基づく評価を行うことで類似する取引の会計処理が異ならないようにするためである。また、IASBは、事業に該当するかどうかの判断に主観的な要素を更に持ち込むと、実務上のばらつきが増えかねないと考えたのである。
IASBは、プロセスの有無が事業と事業以外のものとを区別すると考えているため、事業であるためには、統合された活動と資産の組み合わせには、最低限、インプット及びインプットと一体でアウトプットの創出能力に大きく寄与する実質的なプロセスが必要である。また、アウトプットの創出に必要なインプット及びプロセスのすべてがなかったとしても事業と判断し得る点についても明確にされている。すなわち、インプット及びインプットに適用されるプロセスは、「アウトプットを創出する能力」ではなく、「アウトプットの創出に寄与する能力」を有している必要がある。
改訂前のIFRS第3号は、「市場参加者が事業取得し、例えば自己のインプット及びプロセスとその事業を統合することで継続してアウトプットを産出することができるのであれば」、事業は売手がその事業の運営に用いていたインプット及びプロセスのすべてを含んでいる必要がないとされていた。しかし、改訂により、事業に該当するかどうかの評価は、市場参加者が例えば取得した活動及び資産を自己のインプット等と統合することで欠けている要素を入れ替えることができるかどうかに基づくのではなく、現在の状態と条件で実際に取得したものに基づき行うこととされ、そうした統合への言及はIFRS第3号から削除されている。
本改訂では、取得したインプットと取得した実質的なプロセスが一体で、アウトプットを創出する能力に大きく寄与するかどうかに焦点が当てられている。
IFRS第3号のPIRでは以下の評価の難しさも浮き彫りしている。すなわち、取得したプロセスが事業の1要素として足るものであるのか、欠けているプロセスが重要であり、取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当するとは言えないのか、及び取得した活動及び資産の組み合わせが収益を生み出さないものである場合に事業の定義をどのように適用すべきか、である。それを受けIASBは、取得したプロセスが実質的なものであるかを評価する際の一助となるガイダンスを追加している。このガイダンスでは、アウトプットが存在しない場合、より説得力のある証拠が求められる。
なぜなら、アウトプットの存在は、取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当することを示す一定の証拠になるためである。
IASBはまた、組織化された労働力の存在は、それ自体はインプットであるものの、プロセスが実質的なものであることを示す指標になると考えている。それは、組織化された労働力に、必要な技術及び規則や慣行を遵守することのできる経験が備わっているのであれば、その「知的能力」は、アウトプットを創出するためのインプットに適用できる必要なプロセスを、たとえそれが文書化されていなくとも、規定する可能性があるためである。
本改訂では、活動及び資産の組み合わせが取得日時点でアウトプットを有していない場合、(a) 取得したインプットでアウトプットを開発する又はアウトプットに転換する能力に、その取得したプロセスが決定的である場合、及び(b) 取得したインプットに、そのプロセスを遂行するために必要な技術、知識又は経験のある組織化された労働力及びその組織化された労働力が開発できる又はアウトプットに転換できるその他のインプットの両方が含まれる場合にのみ、取得したプロセスは実質的なものであるとみなされる。その一方で、活動及び資産の組み合わせに取得日時点でアウトプットがある場合には、(a) 取得したプロセスが、アウトプットを継続して生産する能力に決定的であり、取得したインプットにそのプロセスを遂行するために必要な技術、知識又は経験のある組織化された労働力が含まれる場合、又は(b) 取得したプロセスがアウトプットを継続して生産する能力に大きく寄与するとともに、当該プロセスが独特もしくは希少とみなされる場合、すなわち、多大なコストや努力を要することなく、あるいは、アウトプットを継続して生産する能力を低減させることなく入れ替えることができない場合、取得したプロセスは実質的なものであるとみなされる。
IFRS第3号ではまた、取得した契約はそれ自体では実質的なプロセスではないという点など、これらの規定を補完するための一定の明確化が図られている。ただし、取得した契約(不動産管理の委託又は資産管理の委託に関する契約など)によっても組織化された労働力へアクセスできる場合がある。
従来、アウトプットは、投資者やその他の所有者、構成員、参加者に直接提供される配当、コストの低減又はその他の経済的便益という形でのリターンと定義されていた。本改訂の一環としてIASBは、アウトプットの定義を絞り込み、顧客に提供される財又はサービス、投資収益(配当や利息など)又は通常の活動から生じるその他の収益に焦点を当てたものとした。それを受けIFRS第3号の付録Aの事業の定義も改訂されている。
IASBによれば、改訂前のIFRS第3号では、投資者に直接提供されるコストの低減及びその他の経済的便益に言及されていたものの、それが資産と事業の区別に役立つことはなかった。例えば、資産の取得の多くはコストの低減がその動機となって行われるかもしれないが、実質的なプロセスの取得を伴わない場合がある。そのため、この文言はアウトプット及び事業の定義から削除されている。
事業の定義を適用するには大きな判断を伴うこともあるが、IFRS第3号のPIRに対し、コメントした多くの関係者が、取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当しないと判断される状況に関するガイダンスがほとんど、あるいは全く存在しないと指摘している。こうした懸念を払拭するため、任意の公正価値に基づくスクリーニング・テストが導入されている。このテストの目的は、取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当しないかの評価を簡便的に行うことを容認する点にある。スクリーニング・テストを実施するか否かは、取引ごとに選択できる。
取得した総資産の公正価値の実質的にすべてが、単一の識別可能な資産又は類似する識別可能な資産のグループに集中する場合に、このテストを充足することになる。IASBは、活動及び資産の組み合わせに実質的なプロセスが含まれているかどうかは、その組み合わせに充てられた資金の調達方法に左右されることはないと結論付けていることから、テストは純資産ではなく総資産が基になる。さらに一定の資産は、テストで検討すべき総資産から除外される。テストを充足する場合、その活動及び資産の組み合わせは事業ではないと判断され、それ以上の評価は不要である。テストを充足しない場合、または、テストの実施を選択しない場合、IFRS第3号の通常の規定を適用して詳細な評価を実施しなければならない。すなわち、スクリーニング・テストだけで、取引が企業結合であると結論付けられることはない。
上述の改訂に加えて、事業の定義に関するIFRS第3号のガイダンスの適用に資する設例も提供されている。これらの設例はIFRS第3号に付属するものであり、任意のスクリーニング・テストの適用及び取得したプロセスが実質的なものであるかの評価を中心に取り扱っている。
IFRS第3号はIASBと米国財務会計基準審議会(FASB)との共同プロジェクトで開発された基準であり、事業の定義もUS GAAPと同様であった。しかし、実際にはUS GAAPではその定義により、より多くの取引が事業に該当すると考えられていた。US GAAPのPIRでも、IFRS第3号のPIRと同様、事業の定義を適用することの難しさが指摘され、FASBは2017年に会計基準アップデートNo.2017-01「事業の定義の明確化」を公表することでUS GAAPを改訂している。
文言は異なるが、IFRS第3号の改訂は、US GAAPの改訂時にFASBが至った結論と類似の結論に基づいたものとなっていることから、IASBは、本改訂により、US GAAP適用企業とIFRS適用企業により事業の定義がより一貫して適用されることになると見込んでいる。ただし、IFRSの改訂とUS GAAPの改訂では異なる点も存在する(例えばスクリーニング・テストはIFRSでは任意であるのに対しUS GAAPでは強制される)。これらの相違点については、IFRS第3号の結論の根拠で論じられている。
本改訂は、その取得日が2020年1月1日以後開始する最初の事業年度の期首以後である企業結合又は資産取得のいずれかに該当する取引に適用される。したがって、過去の取引について再検討は求められない。早期適用も認められるが、その旨を開示しなければならない。
取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当するかどうかにより、取得日(すなわち当初認識)時点の会計処理及びその後の会計処理はいずれも大きく異なる可能性がある。事業の定義に関する従前のガイダンスでは実務にばらつきが生じていたため、IFRS第3号における事業の定義が明確にされ、追加のガイダンスが提供されたことは有用であろう。
本改訂は適用開始日以降の取引その他の事象に将来に向けて適用されることになるため、移行時に大半の企業が改訂の影響を受けることはないであろう。しかし、本改訂の適用後に活動及び資産の組み合わせの取得を検討している企業は、その会計方針を適時に変更する必要がある。
また、今回の改訂はIFRSのその他の領域にも無関係ではない。たとえば、親会社が子会社の支配を喪失し、2014年9月に公表されたIFRS第10号及びIAS第28号の改訂「投資者とその関連会社又はジョイント・ベンチャーとの間での資産の売却又は拠出」を早期適用している場合には、事業の定義が関係してくる可能性がある。
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