IBOR改革:第1段階の改訂の公表及び第2段階の始動

重要ポイント

  • IASBは、IBOR改革により生じる財務報告上の課題に対処するための基準改訂の第1段階の作業を完了した。

  • 本改訂の救済措置により、IBORが置き換わる前の不確実性が生じる期間においてもヘッジ会計を継続して適用できる。

  • 現在、IASBの焦点はプロジェクトの第2段階に移り、現行の金利指標がRFRに置き換わる時点で生じる可能性のある論点が議論されている。

  • 第2段階の論点については、2019年10月から2020年2月にかけて議論する予定である。
     

はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB又は審議会)は2019年9月26日、「金利指標改革-IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の改訂」(本改訂)を公表した。本改訂により、銀行間調達金利指標(IBOR)改革が財務報告に与える影響に対処するためのIASBの作業の第1段階が完了したことになる。

本改訂の一時的な救済措置により、既存の金利指標を実質的に無リスクの代替的金利(RFR)に置き換える前の不確実性が生じる期間においてもヘッジ会計を継続して適用することができる。

第1段階が完了し、IASBの焦点は、既存の金利指標がRFRに置き換わる時点で財務報告に影響を与え得る論点の検討に移った。これは、IASBプロジェクトの第2段階と称される。IASBは9月25日の会議で、第2段階で取り扱う一連の論点及び今後の会議の事前スケジュールに暫定的に合意した。なお、第2段階が進むにつれ、論点が追加され、スケジュールが変更される可能性もある。

我々は、IASBのプロジェクトの背景をIFRS Developments144号と145号で説明し、IFRS Developments第148号で公開草案について要約している。さらに、IASBが2019年8月の会議で行った決定についてIFRS Developments第151号で解説している。
 

IFRS第9号の改訂

IFRS第9号の改訂にはいくつかの救済措置が含まれ、本改訂は金利指標改革に直接影響を受けるすべてのヘッジ関係に適用される。

IBOR改革に直接影響を受けるヘッジ関係とは、IBOR改革によりヘッジ対象又はヘッジ手段の金利指標に基づくキャッシュ・フローの時期や金額に不確実性が生じる場合である。

救済措置の適用は義務付けられる。最初の3つの救済措置は以下に関するものである。

  1. 予定取引(又はその構成要素)の可能性が非常に高いかどうかの判定

  2. キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の金額の純損益への振替時点の判定

  3. ヘッジ対象とヘッジ手段との間の経済的関係の判定

これら救済措置のそれぞれに関し、ヘッジされているキャッシュ・フローの基礎となる金利指標(契約上特定されているかどうかに関係なく)が、IBOR改革の結果として変更されないものと仮定され、3つ目の救済措置では、さらにヘッジ手段から生じるキャッシュ・フローの基礎となる金利指標が、IBOR改革の結果として変更されないものと仮定されている。

4つ目の救済措置では、金利リスクのうちIBOR改革に影響される指標要素について、リスク要素が「独立して識別可能になる」という規定は、ヘッジ関係の開始時点でのみ充足すればよいと定めている。また、継続的なヘッジ戦略において、ヘッジ手段及びヘッジ対象がオープン・ポートフォリオに追加もしくは取り除かれる場合、「独立して識別可能になる」という規定は、ヘッジ対象が最初にヘッジ関係に指定される時点でのみ充足すればよいと定めている。

なお、ヘッジ手段のキャッシュ・フローがRFRに基づくように変更されるが、ヘッジ対象は依然としてIBORに基づく場合(又はその逆の場合)、ヘッジ手段とヘッジ対象の公正価値の変動に差が生じるため発生する非有効性に関して測定及び認識を免除する救済措置は定められていない。
 

救済措置の終了

上記の1つ目と2つ目の救済措置について

  • 1つ目の救済措置は、IBOR改革により生じる金利指標に基づくヘッジ対象のキャッシュ・フローの時期及び金額に関する不確実が存在しなくなる時点又はヘッジ対象が含まれるヘッジ関係が中止される時点のいずれか早い時点で終了する。

  • 2つ目の救済措置は、IBOR改革により生じる金利指標に基づくヘッジ対象のキャッシュ・フローの時期及び金額に関する不確実が存在しなくなる時点又はキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の累計額全額が純損益に振り替えられる時点のいずれか早い時点で終了する。

3つ目の救済措置は

  • ヘッジ対象は、IBOR改革により生じる金利指標に基づくヘッジ対象のキャッシュ・フローの時期及び金額に関する不確実が存在しなくなる時点で終了する。

  • ヘッジ手段は、IBOR改革により生じる金利指標に基づくヘッジ手段のキャッシュ・フローの時期及び金額に関する不確実が存在しなくなる時点で終了する。

  • 仮にヘッジ関係が上記2つの事象のいずれかが発生する前に中止される場合、救済措置はヘッジ会計の中止時点で終了する。

企業が複数項目のグループをヘッジ対象として指定する場合、救済措置が終了する時点に関する規定は、ヘッジ対象に指定されたグループに属する個々の項目に別個に適用される。

上記で説明した事象が発生しない場合、救済措置は継続して適用される。


開示規定

救済措置が適用されるヘッジ関係について、企業は以下を開示しなければならない。

a) 企業のヘッジ関係が影響を受ける重要な金利指標
b) 金利指標改革に直接影響される、企業が管理するリスク・エクスポージャーの程度
c) 企業はRFRへの移行プロセスをどのように管理しているのか
d) 例外規定を適用するにあたり企業が行わなければならなかった重要な仮定又は判断
e) ヘッジ関係におけるヘッジ手段の名目金額

本改訂は、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の28項(f)の開示規定の適用免除を定めている。したがって、企業は本改訂の適用開始時点で、当期及び比較年度のそれぞれについて、影響を受ける財務諸表の各表示科目の修正額を開示する必要はない。
 

発効日及び経過措置

本改訂は、2020年1月1日以降開始する事業年度から適用され、早期適用も容認される。当該規定は遡及適用しなければならない。ただし、従前にヘッジ指定が中止されているヘッジ関係を、適用時点で改めて再指定することはできない。さらに事後的判断に基づき、ヘッジ関係を指定することもできない。
 

IAS第39号の改訂案

IAS第39号「金融商品:認識及び測定」に行われる改訂は、以下を除きIFRS第9号の改訂と整合している。

  • ヘッジの将来に向かっての有効性評価において、ヘッジされているキャッシュ・フローが基づく金利指標(契約上特定されているかどうかに関係なく)及び(又は)ヘッジ手段のキャッシュ・フローが基づく金利指標は、IBOR改革の結果として変更されないものと仮定される。

  • ヘッジ遡及的な有効性の評価において、IBOR改革から生じる不確実性が存在する期間は、実際の結果が80%から125%の範囲を一時的に外れるとしても、当該判定を充足することとする。

  • 金利リスクのうち、(IFRS第9号によるリスク要素ではなく)IBOR改革に影響される金利指標部分のヘッジについて、「独立して識別可能である」とする規定はヘッジの開始時点でのみ充足されればよい。

     

第2段階の論点

IASBは2019年9月25日の会議で、第2段階で取り扱う論点の事前リストに関して合意した。内容は以下の通りである。

  • 分類及び測定
    • 条件変更により認識の中止が生じるか、生じない場合、どのように会計処理すべきか

    • 金利改定日及び複利期間の変更によりSPPIの評価に影響が生じるか

    • 条件変更により認識の中止が生じる場合、ビジネス・モデルの評価に影響が生じるか

    • 金融負債の金利改定日及び複利期間の変更により、組込デリバティブが生じるか

       
  • ヘッジ会計
    • ヘッジ指定:ヘッジされるリスクの変更によりヘッジ会計が中止になるか、柔軟性のあるヘッジ指定が容認されるか、及びローン・ポートフォリオのうちいくつかの資産がRFRに移行するが、その他の資産が移行しない場合の影響(新しいヘッジ関係の適格要件の適用を考慮した上で)

    • 第1段階の救済措置の終了:第1段階の救済措置の終了が、第2段階のヘッジ指定にどのような影響を及ぼすか、OCIに繰延べた金額はどのように振り替えられるのか、ヘッジされるリスクが変更されてもヘッジ会計の中止が求められない場合、仮想デリバティブの評価や公正価値ヘッジの修正をどのように取り扱うべきか
  • その他のIFRS基準書:IAS第19号「従業員給付」、IFRS第16号「リース」及びIFRS第17号「保険契約」にどのような影響が生じ得るか

  • 開示:追加の開示を開発すべきか
    IASBの9月の会議では、論点によっては既存のIFRSによる会計処理の明確化のみが必要な場合もあり、必ずしもすべての論点に対応してIFRSが改訂されるものではないことが指摘された。

弊社のコメント

我々は、IASBが、IBOR改革により生じる財務報告上の問題点に対処する第1段階のプロジェクトを完了したことを評価する。IASBは本改訂を最終基準化するにあたり、IBORから新しい金利指標に契約を修正する前の不確実性が生じる期間におけるヘッジ会計上の問題点を対応するために不可欠となる救済措置を定めた。

IASBが当該論点を優先課題とし、作業日程を前倒し、第1段階を完了したことにより、EUが2019年末の報告に間に合うように本改訂を承認する可能性が高まった。

また、IASBがRFRへ移行した段階で生じる財務報告上の論点の検討を始めたことも好ましく思う。IASBが合意した作業日程に基づくと、第2段階の公開草案が2020年4月もしくは5月に公表され、最終基準は2020年6月から9月に公表され、2020年末までの適用も可能になると推測される。

IBORからRFRへの移行は、国や地域ごとに、さらに金融商品ごとに異なるタイミングで行われることになるため、各企業は早急に契約の修正を開始する必要がある。IASBが識別した第2段階の論点は幅広く、それらを議論するために必要な時間を考慮すると、企業が会計上の論点に対応するために必要な解決策の公表が遅くなる可能性が懸念される。企業は、第2段階の会計上の論点が生じるのを回避するため、IBORからRFRへの移行を遅らせざるを得なくなり、世界の規制当局が必要と判断した変革が遅れる可能性もある。したがって、IASBはこの勢いが途切れることがないよう、第1段階と同じように緊急性をもって第2段階の論点に臨まなければならない。第2段階の論点をさらに2つに区分し、より緊急性の高い論点を「優先的に議論」すべきか検討することも1つの選択肢として推奨される。


「IFRS Developments 第152号 2019年9月」をダウンロード



関連コンテンツのご紹介

IFRS

EYのIFRS専門家チームは、国際財務報告基準の解釈とその導⼊にあたり、企業が直⾯する問題を精査します。

アシュアランスサービス

全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。

情報センサー

EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。