世界の新規上場動向 - 2023年1月~9月

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EY Japan

2024年2月7日
カテゴリー IPOの動向

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常盤 勇人

1. IPO市場の概況

2023年第3四半期における世界のIPO市場は、上場数350件、調達額384億米ドルとなり、対前年同期比では件数は6%減少(前年同四半期371件)、調達額は27%減少(前年同四半期523憶米ドル)になりました。これにより、2023年第1四半期、第2四半期の減速の流れが継続する結果となりました。世界のIPO市場を通年(2023年1月~9月)で見てみても、上場数968件、調達額1,012億米ドルとなり、対前年同月比で、上場数で5%減少(前年1,018件)、調達額32%(前年1,479億米ドル)の大幅な減少の結果となりました。一方で、株式市場の投資家心理が主要先進国で向上したこと、米国では今後も注目を集めるIPOが行われる見込みであること、新興国のIPO市場は堅調であることを理由に、IPO後の株価の推移が、第1四半期および第2四半期と比べて、第3四半期では改善したこともあり、IPO市場は勢いを取り戻しつつあります。

また、新興国では、IPO市場は過去10年間で上場数、調達額ともに30%以上の増加となりました。2023年の現時点(2023年9月末時点)までに行われた世界全体のIPOのうち、上場数の77%、調達額の75%を新興国が占めています。インドネシア、マレーシア、インドなどIPO市場が好調な新興国に加えて、トルコ、ルーマニアなどの国々もIPO市場が活発になっています。先進国では、米国で大規模なIPOが増加するなか、日本とイタリアでは小規模なIPOが増加しました。

セクター別のIPO件数では、2023年上半期から変化はなく、テクノロジーセクターが上場数(200件)および調達額(293億米ドル)ともに首位を維持し、製造セクターが上場数(195件)、調達額(205億米ドル)ともに2位という結果となりました。テクノロジーセクターでは、半導体設計会社ARM社(英国)が2023年9月時点での今期最大のIPOを果たしたこともあり、上場数では減少したものの、調達額で増加しました。また、消費財セクターでは、通年で唯一上場数および調達額が昨年度比で増加したセクターとなりました。生成AIなどで大流行となっている人工知能(AI)スタートアップのIPOは現時点では上場数に大きな増加は見られませんが、IPOを検討している人工知能スタートアップが増加し始めており、数年以内にIPO実行すると考えられています。

2. 南北アメリカエリア

第3四半期における南北アメリカ(Americas)エリアのIPO市場は、上場数36件、調達額86憶米ドルとなりました。対前年同期比では、上場数は第2四半期からの減少傾向が継続し7.7%減少したものの、調達額では第1四半期および第2四半期の増加傾向を維持し、238.4%の大幅増加となりました。これらの増加傾向によって、2023年1月から9月までの調達額が193億米ドルに達し、前年同期比159%の大躍進となりました。

1月から9月までに行われたIPO113件のうち、96件が米国で行われ、クロスボーダーIPOにおいても上場数が増加した唯一の市場となり、今後も大型IPOが複数行われる見通しとなっています。また、SPAC(特別買収目的会社)によるIPOは、2023年9月時点で調達額が7年ぶり、すなわち、2016年の水準まで低下しています。通常のIPOが回復基調にあるのに対して、SPACによるIPOは、当面静かな状態が続くことが予想されています。

3. アジア太平洋エリア

第3四半期におけるアジア太平洋(Asia-Pacific)エリアのIPO市場は、上場数195件、調達額206億米ドルとなり、対前年同期比で、件数は19.1%減少(前年同四半期241件)、調達額は41.4%減少(前年同四半期35.1億米ドル)となりました。同エリアの多くの国では、印紙税の低減などの施策を通して、政府が経済成長やIPOの活性化を目指しているものの、通年(2023年1月~9月)でも、上場数569件、調達額600億米ドルとなり、対前年同期間比で上場数8%増加(前年同期621件)、調達額41%減少(前年同期1013億米ドル)となりました。しかし、全世界で上場数、調達額ともに59%のシェアを占めており、世界で最も活発なIPO市場の地位は維持しました。世界IPOトップ10のうち3件は中国、1件はインドネシアで行われたものでした。本エリアの主要国でのIPO活動は弱まっていますが、全体的には、大型IPOが控えているというプラスの見通しがあり、2024年初頭にはIPO活動がわずかに回復することが期待されています。

4. EMEIAエリア

第3四半期における欧州・中東・インド・アフリカ(EMEIA)エリアのIPO市場は、上場数119件、調達額92億米ドルとなり、対前年同期比で、上場数30.8%増加(前年同四半期91件)、調達額36.8%減少(前年同四半期146億米ドル)となりました。通年(2023年1月~9月)で見てみると、上場数286件、調達額219億米ドルとなり、対前年同期間比で上場数1.8%増加、調達額44%減少となったものの、同市場は世界で2番目にIPOが多い市場となり、全世界で上場数30%、調達額22%のシェアを占めています。これらは、Hidroelectrica SA社(20億ドル、ルーマニア)、Ades Holdings社(12億ドル、MENA)、Schott Pharma社(9億ドル、ドイツ)やThyssenkrupp Nucera(7億ドル、ドイツ)の大型IPOが実施されたことが要因であり、第3四半期での世界IPOトップ10のうち、4件がEMEIAから実施されました。また、クロスボーダーIPOでは、ARM社(英国)がNASDAQへの大型IPOを果たし、約52億ドルの調達額を達成し、近年で最も大型のIPOの1つとなりました。

5. クロスボーダーIPO

2023年上半期におけるクロスボーダーIPOは、上場数41件、調達額27億米ドルとなりました。対前年同期比では、上場数17%増加、調達額44%増加となりました。中国企業による米国での上場、また、スイス証券取引所での上場も安定した人気を誇っているため、上場数、調達額ともに大きく上昇しました。

6. SPAC

2023年第3四半期(2023年1月~9月)までの世界のSPACによるIPOは、上場数53件(前年同期比60%減少)、調達額37億米ドル(前年同期比76%減少)と大幅に減少しました。地域別では、米国、アジア太平洋、欧州いずれもSPACによる上場数、調達額は大幅に減少し、SPACの減少トレンドは世界的に継続しています。

買収金額に関して、1位のBlack Spade Acquisition Co.は231億米ドル(2023年8月14日に買収完了)、2位のL Catterton Asia Acquisition Corp.は55億米ドル(2023年1月31日に買収合意)、3位のAlphaVest Acquisition Corp.は43億米ドル(2023年8月14日に買収合意)と多額となっているものの、これら以外の買収金額は14億米ドル以下にとどまっています。

市況は回復の兆しを見せているものの、当面の間はSPACによるIPOは低迷し、De-SPACやSPACの清算の方が目立つ状況が続くものと思われます。2023年第3四半期までのSPACによるIPOは静かな状況が続いており、調達額においては2016年以降最低レベルまで落ち込みました。2021年に急増したSPACのプロモーターの多くは、取引を完了するかあるいは清算するかの選択を迫られる中で、依然厳しい状況は続いており、SPACによるIPOは今後もしばらくは静かな状況が続くと見込まれます。

表1 主要エリア別IPO実績(2023年第3四半期)

エリア IPO件数(前年同期) 調達額(前年同期)
南北アメリカ 36(39) 8.6(2.5)
アジア太平洋 195(241) 20.6(35.2)
欧州・中東・インド・アフリカ(以下、EMEIA) 119(91) 9.2(14.6)
全世界合計 350(371) 38.4(52.3)

※ 単位:10億米ドル
※ 第3四半期:7月~9月(出典:Dealogic、EY)

表2 主要エリア別IPO実績(2023年1月~9月)

エリア IPO件数(前年同期) 調達額(前年同期)
南北アメリカ 113(116) 19.3(7.5)
アジア太平洋 569(621) 60.0(101.3)
欧州・中東・インド・アフリカ(以下、EMEIA) 286(281) 21.9(39.1)
全世界合計 968(1,018) 101.2(147.9)

※ 単位:10億米ドル(出典:Dealogic、EY)

表3 セクター別のIPO実績(2023年1月~9月)

セクター IPO件数(前年同期) 調達額(前年同期)
Technology 200(220) 29.3(26.8)
Industrials 195(160) 20.5(26.3)
Materials 131(172) 9.0(14)
Consumer products 110(66) 9.8(2.7)
Health and life sciences 100(118) 8.2(13.6)
Energy 54(67) 13.4(32.7)
Consumer staples 55(67) 2.7(3.7)
Real estate 30(44) 2.0(3.7)
Retail 32(37) 1.6(5.6)
Media and Entertainment 29(18) 0.9(1.1)
Financials 21(32) 3.2(7.8)
Telecommunications 11(17) 0.5(9.8)
合計 968(1,018) 101.2(147.8)

※ 単位:10億米ドル(出典:Dealogic、EY)

表4 上位10証券取引所のIPO件数(2023年1月~9月)

順位 市場 IPO件数 割合
1 インド(National and Bombay) 70 20%
2 深セン(SZSE and Chinext) 46 13%
3 米国(NASDAQ) 29 8%
4 上海(SSE and STAR) 27 8%
5 インドネシア(IDX) 23 7%
6 日本(Prime, Growth, Standard, REIT, Pro Market) 22 6%
7 勧告(KRX and KOSDAQ) 17 5%
7 北京(BSE) 17 5%
7 トルコ(Main and STAR) 17 5%
10 香港(Main Board and GEM) 13 4%
11 オーストラリア(ASX) 11 3%
11 イタリア(Main and AIM) 11 3%
  その他 47 13%
  全世界合計 350 100%

※(出典:Dealogic、EY)

表5 上位10証券取引所のIPO調達額(2023年1月~9月)

順位 市場 調達額 割合
1 上海(SSE and STAR) 8,928 23%
2 米国(NASDAQ) 7,673 20%
3 深セン(SZSE and Chinext) 6,536 17%
4 ルーマニア(BVB) 2,049 5%
5 インド(National and Bombay) 1,912 5%
6 サウジアラビア(Tadawul and Nomu Parallel Market) 1,515 4%
7 ドイツ(Main and Scale) 1,514 4%
8
インドネシア(IDX) 1,247 3%
9 日本(Prime, Growth, Standard, REIT, Pro Market) 1,151 3%
10 トルコ(Main and STAR) 933 2%
11 米国(NYSE) 924 2%
12
香港(Main Board and GEM) 872 2%
  その他 3,185 8%
  全世界合計 38,439 100%

※(10億米ドル)
※(出典:Dealogic、EY)

表6 2023年1月~9月の上位SPAC合併取引(公表済取引も含む)

SPAC名 市場 事業会社名 評価額
(10億米ドル)
ターゲットセクター
Black Spade Acquisition Co. 米国(NASDAQ) VinFast Auto Pte. Ltd.1 23.1 製造業
L Catterton Asia Acquisition Corp. 米国(NASDAQ) Lotus Technology Inc. 5.5 製造業
AlphaVest Acquisition Corp. 米国(NASDAQ) Wanshun Technology Industrial Group Ltd.1 4.3 テクノロジー
Semper Paratus Acquisition Corp. 米国(NYSE) Tevogen Bio Inc. 1.4 一般消費財
Aquaron Acquisition Corp. 米国(NASDAQ) Bestpath (Shanghai) IoT Technology Co. Ltd. 1.4 製造業

1 de-SPAC完了
※ 単位:10億米ドル(出展:EY analysis, Dealogic , SPACInsider)

表7 SPACのIPO実績(2023年1月~9月)

地域 IPO件数(前年同期比) 調達額(前年同期比)
南北アメリカ 23(△71%) 2.9(△78%)
アジア太平洋 27(△21%) 0.3(△74%)
EMEIA 3(△83%) 0.5(△67%)
全世界合計 53(△60%) 3.7(△76%)

※ 単位:10億米ドル(出展:EY analysis, Dealogic)