EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
デジタルトランスフォーメーション(DX)などデジタルの活用があらゆる分野で広がっている。この流れは税務の世界でも同様だ。テクノロジーによる税務プロセスの自動化・効率化はこれまでロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の活用などで進んでいたが、近年の人工知能(AI)の進化で加速する様相を見せている。
例えば、日本の金融機関は伝票上の消費税の事務処理の分析にAIを活用して計上誤りの削減に努めている。日本の大手メーカーは契約にかかる印紙税の要不要や税額の判断にAIを活用している。クライアントからの質問に生成AIで回答ドラフト(草案)作成に取り組む税理士法人も出てきた。
AIは税務プロセスを根本から変革する可能性がある。AIの税務プロセスへの統合は、より専門的な税務の知見と経験、税務以外の経済事象などの理解を必要とするタスクにリソースを集中させることを可能にする。
企業のコンプライアンス(法令順守)が主眼にあったが、AIによる自動化の進展で、税務に携わる従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになる。税務業務の効率向上だけでなく、企業の税務リスクの一層の削減、企業のレピュテーション(評判)向上にも貢献できるようになるだろう。
企業がこうした取り組みを進め、AIのポテンシャル(潜在能力)を発揮するには、経理部や税務部とIT(情報技術)部門や経営管理部門などとの社内協業を進められるかがカギを握る。
管理部門である税務部門はDXの取り組みでは、優先順位が低い取り扱いを受けがちだった。しかし、生成AIは、従来のAIでは難しかった自然言語を中心とした高い専門性の分野で処理を遂行できるようになるため、急速に活用が進むと思われる。
日本でも生成AIの活用にいち早く取り組んだソフトウエア企業は、経理や法務で利用が進んでいるとされる。各企業で生成AIの活用方法の理解が進めば管理部門を中心に据えた取り組みも増えてくるだろう。
税務当局もデジタル変革を進めている。AIやデータ分析を活用して税務調査の精度と効率を高めていく世界的な潮流がある。経済協力開発機構(OECD)の2022年の調査によると、50%前後の国の税務当局がリスク評価プロセスや不正検知などにAIを活用していると回答している。日本の国税庁も「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」を掲げて、データ分析を通じて税務調査の効率と精度を向上させている。
税務当局のこうした取り組みは、企業の税務申告の適正化やコンプライアンス強化の圧力を意味し、民間企業にも高度な税務データの管理と分析を求めているといえる。企業にとっても、税務データの透明性を高めるためAI技術を導入しようとするインセンティブ(誘因)が働くことになる。
(出典:2023年12月7日 日経産業新聞)