EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
IFRSデスク 公認会計士 山岸 正典
金融部にて上場保険会社、リース会社等の会計監査に携わるとともに、金融機関のIFRS導入支援業務、J-SOX導入支援業務、損害保険会社の設立支援業務等の各種アドバイザリー業務に従事。2016年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、IFRS関連の研修講師、執筆活動などに従事している。
国際財務報告基準(以下、IFRS)では、のれんの償却は行わず、毎年(及び兆候がある場合はいつでも)定量的な減損テストを行うアプローチが採用されています。しかし、2015年6月に国際会計基準審議会(以下、IASB)から公表されたIFRS第3号「企業結合」の適用後レビュー(PIR)に係るフィードバック報告書では、現行ののれんの会計処理に関して数多くの懸念・意見が寄せられたことを受けて、今後重点的に検討すべき項目として、「のれんの減損テストの有効性と複雑性」「のれんの認識後の会計処理(「減損のみのアプローチ」と「償却及び減損アプローチ」の比較)」が識別されました。その後も、IASBではのれんの会計処理に関する議論・調査が継続的に行われています。
そこで、本稿では前記のうち、「のれんの減損テストの有効性と複雑性」に関する議論の動向を紹介します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
のれんの減損テストの有効性に関して、IFRS第3号「企業結合」の適用後レビュー(PIR)の中で特に注目された意見は、現行の減損テストにより認識される減損損失が「too little, too late(少なすぎる、遅すぎる)」のではないかというものです。これは、以下の二つの事象が実際にはビジネスで生じているのれんの減損を覆い隠すシールドになっているためといわれています。
第1のシールド
被取得事業ののれんが配分される、取得企業の既存の資金生成単位(以下「CGU」という)における未認識ののれん(取得前の自己創設のれん)
第2のシールド
購入のれんに置き換わる又は補充される、取得後に生じた未認識ののれん(取得後の自己創設のれん)
これら二つのシールドに対処するアプローチとして、17年12月にヘッドルーム・アプローチを本格的に検討することが暫定決定されました。ヘッドルーム・アプローチとは、財務諸表に認識されていないヘッドルーム(回収可能価額が帳簿価額を上回る余裕部分)を減損テストの追加的なインプットとして用いる方法です。すなわち、CGUの回収可能価額が帳簿価額(のれんを含む)と未認識のヘッドルームの合計額を下回る場合、当該差額を減損損失として認識する方法です。未認識のヘッドルームの考え方を用いることで、覆い隠されていた減損損失を認識するアプローチと言えます。
ヘッドルーム・アプローチによる減損テストを、<設例>を使って紹介します。
未認識のヘッドルームは、基本的には既存の減損テストから入手可能な情報で計算できることから、実務的な負担は少ないとの分析もありますが、今後も引き続き、ヘッドルーム・アプローチの詳細な分析や議論が進められると思われます。
のれん減損テストの複雑性に関しては、現行の減損テストは複雑で、多くの時間と費用を要するため、より簡素化された減損テストの方法が検討されています。18年2月までに検討されたアプローチは以下の通りです。
17年12月に、のれんの償却の再導入については検討を行わないことが暫定決定されました。そのため、今後の議論はのれんの減損テストにこれまで以上に焦点が当たることになります。18年の下期には、「のれんと減損」のリサーチ・プロジェクトに係るディスカッション・ペーパー又は公開草案が公表される予定です。のれんの減損テストの変更は多数のIFRS適用企業に大きな影響を及ぼすことも想定されるため、今後の議論は注目に値すると思われます。