EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株) 中村 裕之
収益管理・取引制度のコンサルティングにおいて10年以上の経験を持つ。高度なデータ分析に基づく戦略策定からデジタルテクノロジーを活用した現場での実行支援まで一気通貫のサービスを提供。これまで消費財、産業材・産業機器、金融サービス、自動車といったさまざまな業界においてクライアントの利益改善を実現してきた。EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株) カスタマー・チーム エグゼクティブディレクター。
「収益認識に関する会計基準(案)」など、主要な会計基準における収益認識基準の改定・明確化により企業の収益に関する実態がつまびらかになる中、営業担当者の属人的な経験や勘に基づく従来型の収益管理・取引管理は制度疲労を起こしつつあります。本稿では、より効率的に事業活動を行うための収益管理強化について解説すると同時に、経理・財務部門に与える示唆について考察します。なお、本稿の内容は、製造業における取引制度を念頭に置いています。
収益管理においては、他の業務と同様にPDCAサイクルを機能させることが肝要となります。特にCの部分、つまりチェック機能を働かせることが重要で、私個人のプロジェクト経験からみても、多くのクライアント企業で取引施策の効果検証が十分に行われていないために利益の取りこぼしが発生していました。では、このチェック機能を働かせるためにはどうすればよいのでしょうか。ここでは四つの要点があります(<表1>参照)。
これらを達成した結果として、製品別・取引先別の売上や利益の現状を体系的かつ精緻に把握・評価し、ピンポイントで適切な対策を打てるようになります。つまり、営業の現場レベルにおいて組織的な改善を続けるための基盤作りが可能となります。
また、これら四つの要点は、収益管理強化を実際に進める上でも重要なマイルストーンとなります。「1. 収益・取引に関する定義の統一」が達成できたので「2. 取引施策の目的の明確化」に進むというように、プロジェクトの工程管理の目安となるのです。
収益管理体制を強化することによって、多くの企業がこれまで積極的に取り組むことのなかった課題を解決するだけではなく、経済的な効果を期待することも可能となります。どの程度の改善効果を期待できるかは企業の現状や注力する領域によって異なりますが、おおむね以下の3点に集約されるといえます。
①ガバナンス強化
収益管理のルール・プロセスを明文化することで各国の実情をタイムリーかつ正確に把握でき、管理を徹底できる。
②業務効率
属人的な収益管理業務を標準化することで事業部内の業務効率改善のみならず、会計(時には税務)まで一気通貫の仕組み作りが可能となる。
③利益改善
無駄な値引きを抑制すると同時に取引施策の費用対効果を高めることによって追加利益の獲得につながる(通常1~2%ポイントの粗利率改善)。
デジタルテクノロジーによってビジネス環境が加速度的に変化している現在、収益管理においても自動化・AI化を見据えた業務改革が必須となっています。本稿で紹介している収益管理は、このデジタル化の流れにも沿っており、足元の基盤作りに貢献します(<図1>参照)。
ここまでご覧になってお気づきの方もいらっしゃると思いますが、本稿で紹介している収益管理のアプローチは日本市場に特化したものではなく、海外のどのような市場にも展開することができます。解釈次第では、目の届きづらい海外現地法人にこそ必要なソリューションかもしれません。また、視野を広げてグローバル市場全体として考えれば、本社主導でグローバルな取引方針を設定し、各国にて詳細な取引制度に落とし込むといったやり方も可能です。グローバルで取引に関する定義の統一やある程度の方向性を設定しつつ、現地の実情にあわせて各国にて取引施策を企画するといったイメージです。なお、現地法人の収益性が変わると課税リスクが生じる場合もあるため、税務面での注意が必要となります。
課題意識を持ってはいるが、きっかけがないため収益管理は旧態依然のまま、というケースは決して珍しくありません。一方で、日本基準では「収益認識に関する会計基準(案)」が公表され、企業は対応を迫られています。これを機に、収益管理についても検討してみてはいかがでしょうか。