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監査役が意思疎通を図るべき者との連携の視点と方策

2021年4月1日 PDF
カテゴリー 特別寄稿

情報センサー2021年4月号 特別寄稿

獨協大学 法学部教授 高橋 均

一橋大学博士(経営法)。新日本製鐵(株)(現、日本製鉄(株))監査役事務局部長、(社)日本監査役協会常務理事、獨協大学法科大学院教授を経て、現職。専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。会社法等の専門家として法理論と企業勤務経験に基づく実務面からのアプローチを実践している。近著として『グループ会社リスク管理の法務(第3版)』中央経済社(2018年)、『実務の視点から考える会社法(第2版)』中央経済社(2020年)、『監査役監査の実務と対応(第7版)』同文舘出版(2021年)。

Ⅰ はじめに

監査役は、取締役等の執行部門から法的に独立しているといわれます。もっとも、法的に独立しているという文言が会社法に直接的に規定されているわけではありません。法的独立性を示す条文内容からそのように解釈されています。具体的には、監査役の選任や任期に関わる事項です。

株主総会における監査役の選任議案は、取締役とは別個の議題とした上で、監査役を選任します(会社法329条1項)。株主総会で選任された取締役が人事権を行使して監査役を決定すると、監査役の人事が取締役に完全に掌握され、取締役の職務執行の監査を十分に行うことが出来ない懸念が生じるからです。また、監査役の任期は4年であり、取締役の任期である2年(定款に定めれば短縮も可能)より長くなっています(会社法336条1項)※1。これは監査役が会社の都合により短期間で交代させられるのではなく、監査役の地位が確保され、その結果として独立性が維持されるであろうとの趣旨です※2。さらに、会社が監査役の選任議案を株主総会に提出する際は、監査役(会)の事前の同意が必要となります(会社法343条1項)※3。現任の監査役から見てその職務を遂行するに当たり、新任候補者が明らかに適任でないと判断したならば、不同意とすることにより取締役に再考を促すこととなります。また、監査役は、監査役の選任・解任・辞任について株主総会で意見を陳述する権利もあります(会社法345条4項)。これは取締役から合理的な理由がなく、理不尽に解任や辞任を強要されたときに、株主にその事情を説明し翻意を促す意味があります。もっとも、事前の同意権や株主総会での意見陳述権は、監査役が実際にその権利を行使するというより、取締役の監査役に対する不当な介入への抑止効果を期待した規定と考えられます。また、監査役は、会社又は子会社の取締役及び使用人を兼務することはできません(会社法335条2項)。子会社を含めた執行部門の役職員との兼務は、自己監査につながり、監査役としての独立性が維持できないからです。

上記のように、監査役は執行部門から独立した立場から、取締役の職務執行を監査する権限(会社法381条2項)がありますが、一方において、監査役は職務を遂行するにあたり、執行部門と一切関係を持つべきではないということを意味しているわけではありません。取締役等の執行部門も監査役も、会社の持続的発展のために必要なガバナンスを構築するという共通の目的があるからです。また、ガバナンスの構築のために、監査役は取締役等に限定せず、会計監査人や第三者委員会等の会社機関や組織とも連携をとる必要もあります。

そこで、本稿では、監査役が意思疎通をはかるべき対象との具体的な連携の視点と方策を考えてみたいと思います。

Ⅱ 監査役として意思疎通を図る意義と対象者

1.   法務省令の規定と趣旨

法務省令では、監査役はその職務を適切に遂行するため、当該株式会社の取締役や子会社の取締役等と意思疎通を図り、情報の収集及び監査の環境の整備に努めなければならないと規定されています(会社法施行規則105条2項)。会社法施行規則が新たに制定された際に規定された条文ですが、意思疎通を図るという一般的な内容を法令で規定することは珍しいことです。これは、会社法施行規則を制定する数年前に、日本監査役協会が監査役監査基準を大幅に改正した際に新たに規定した考え方を取り入れたものです※4。

監査役が意思疎通を図る者としては、①取締役、会計参与及び使用人(会社法施行規則105条2項1号)②子会社の取締役、会計参与、執行役及び使用人(同項2号)が列挙されています。監査役は、非業務執行役員と位置付けられていることから、業務執行の関連の情報が執行部門から当然として報告されるわけではなく、また監査役スタッフも多くの会社で十分な人数が確保されていないために必ずしも必要な情報を収集することができないという懸念があります。また、監査役スタッフを含めた監査役全員の職歴からみて、社内業務全てについての専門性や知見を網羅しているとは限りません。そこで、取締役等の執行部門と意思疎通を図り連携することによって、これらを補うことが望ましいということになります。しかし、意思疎通を図る場合に、監査役が取締役等の執行部門に一方的に依存するという意味ではなく、執行部門としても監査役独自の法的権限の活用を意識して意思疎通を図ることが必要です。取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれがある事実を発見したときは、監査役への報告義務がありますので(会社法357条1項)、このような有事の際に監査役に遅滞なく報告するためには、平時のときから、執行部門には監査役との意思疎通を図る意識を持ってもらう必要性があります。

また、執行部門以外にも、監査役が適切に職務を遂行するに当たり意思疎通を図るべき者という規定があることから(会社法施行規則105条2項3号)、社外の者とも連携の必要があります。具体的には、三様監査の一翼を担う会計監査人が想定されます。会計監査人は、公認会計士の資格を保有している外部の会計の職業的専門家です。平時のときから、会社内の会計不祥事やそのおそれに対して、同じ監査を行う立場から緊密な連携を図ることが大切であるはずです。また、会計監査人は、会計監査を通じて取締役の重大な不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見したというような有事の際にも、遅滞なく監査役に報告する義務があります(会社法397条1項)。

さらに監査役は、他の監査役、親子会社の監査役との意思疎通の努力義務も規定されています(会社法施行規則105条4項)。監査役は、監査役間での多数決の決定に従う必要は必ずしもなく、自らが正しいと考えたことを社内外に対して意見表明を行ったり行動を起こしたりすることができる独任制を特徴としています。他方で、お互いに意思疎通を密にして、監査に関する意見形成を図ることは重要と考えられます。また、子会社の監査役との間でも、親会社監査役は、子会社に対する業務報告請求権や調査権があることから(会社法381条3項)、これら権限が正当に行使されるために、親子会社の監査役間における意思疎通は必要です。

2.(代表)取締役との連携

(1) 連携の意義

監査役の職務が取締役の職務執行の監査であることから考えて、代表取締役をはじめとした取締役との関係はとりわけ重要なものになります。監査役は、取締役会への出席と意見陳述義務がありますが(会社法383条1項)、取締役との個別の意見交換を通じて、監査役が監査を通じて懸念している事項を説明したり、取締役からの監査役への個別の要望等を確認する意義は大きいものがあります。現実問題として、(代表)取締役には、都合の良い情報は部下等からいち早く報告されるのに対して、都合が悪い情報は報告が遅れたり、報告そのものが行われない可能性もあります。従って、社内のリスク管理上の不備や内部統制システムの問題と考えられる点について、監査役監査で得た情報や状況を監査役から取締役にタイムリーに説明するとともに、今後に向けた対応に関して相互に意見交換を行うことは、(代表)取締役にとっても有益と思われます。

(2) 連携のための具体的方策

まずは、相互の意見交換の場を定例化し、連携の定着化を図ることが肝要と思います。もっとも、必要に応じて行う不定期の開催とすると、日時の調整が出来ずに終わってしまう可能性があります。可能ならば、各年度のはじめに、意見交換の会議の日時を予め設定しておくことが考えられます。仮にそこまでいかなくても、四半期ないしは半期に一度開催ということは確定しておき、数カ月前に日時を決めるという方法もあります。

具体的な議題としては、期初の監査計画策定結果の説明、期中における監査役監査の実施状況と監査対象部門への指摘事項の説明、期末時期における年度末の監査結果の説明があります。もっとも、これらは取締役会で説明することが定例化しているということであれば、あえて個別にする必要はないとの考え方もあります。他方、限られた時間内における取締役会での報告では説明が足りない、もしくは個別に立ち入った内容について説明する意義があると考えるならば、やはり個別の意見交換会の機会を設ける意義はあると思います。いずれにしても、(代表)取締役との率直な意見交換を行うことが会議の趣旨であることから、多くの資料を事前に準備することや、詳細な議事録を作成することにこだわるのではなく、資料についても必要に応じて簡便な議題や議案がわかるものを準備すればよいと考えます。

また、非常勤社外監査役も同席することは一考に値します。非常勤社外監査役と(代表)取締役の接点を取締役会のみで行うのではなく、非常勤社外監査役として取締役会の議題・議案とならない会社運営事項について気がついたことなどを、社外の視点から率直に意見具申したり意見交換を行うことは、(代表)取締役にとっても有益なことが多いと思われます。

3. 内部監査部門との連携

(1) 連携の意義

内部監査部門は、監査役と同様に社内の監査を行う立場であり、リスク管理の観点からは3線のディフェンスラインと位置付けられていることから※5、相互に補完関係にあると言えます。補完関係には、内部監査部門が監査を実施した中で監査対象部門に対して指摘した事項について、監査役の業務監査の際にその点が改善されているか確認することがあります(その逆もあり得ます)。また、内容的にも日程的にも監査の重複を避けることにより、監査を受ける対象部門が形式的な監査対応となることを回避する意義もあります。

(2) 具体的方策

内部監査部門との連携では、一事業年度において、期初・期中・期末という三つの時期に分けて連携実務を考えると分かりやすいと思います。

期初においては、監査計画の相互説明・確認が出発点となります。その際に、監査の方法として、チェックリストを利用するのか、モニタリング重視とするのか、ヒアリングをベースとするのかなどを相互に確認します。また、監査日程の確認も大事なポイントとなります。仮に、両者の監査日程が近接している場合には、相互に調整して少なくとも3カ月程度は監査時期を離すなどの工夫が必要です。監査時期の近接は、とりわけ監査対象部門にとって負担感が増すことになり、形式的な対応に拍車がかかる懸念が高まるからです。

相互の具体的な連携の方法として、予め、両者の意見交換のための会議日程を決めておくと効果的です。また、期初の段階で相互の要望事項の確認を行います。例えば、内部監査部門が内部通報制度の窓口となっている場合には、監査役から内部監査部門に対して、都度、内部通報件数と通報内容の報告をしてもらうことを要望すべきと思われます。

次に、期中においては、監査の実施状況と結果の相互報告があります。具体的には、事業部別や部門別に監査を実施した中で指摘した点や改善要望事項の報告・説明です。上場会社の場合、内部監査部門が財務報告に係る内部統制システム(いわゆるJ-SOX)の対応を担っている場合が多いこともあり、全社レベルの内部統制システム上の課題・問題点の有無と改善の方向性について意見交換を行うことは極めて有益です。企業会計審議会が作成した実施基準(平成19年2月15日公表)においては、財務報告に係る内部統制の評価手順として、全社レベルの内部統制の評価が出発点となっているからです。

なお、内部監査部門も執行部門の一部門として、監査役監査の対象部門であることから、内部監査部門を期中の業務報告聴取の最後の部門にして、期中時点の監査の実施状況と結果を総括的にヒアリングすることも考えられます。

期末においては、事業年度としての監査結果について、相互に説明し意見交換することになります。内部監査部門による全社を総括した監査結果の説明を受けるとともに、監査役監査結果についても内部監査部門に説明をします。

監査役(会)監査報告は、日本監査役協会のひな型ベースとなることが多いのに対して、内部監査部門が監査結果をまとめた書類は、特定団体のひな型があるわけではないので各社各様であり、監査役の期中監査における業務監査調書のように率直に記載されていることも多くなっています。

もっとも、株主に提出する監査役(会)監査報告と齟齬がないことを、最終的にチェックをする必要があります。内部監査部門において、財務報告に係る内部統制システムに開示すべき重要な不備はないものの全社レベルの内部統制システムでは改善すべき点は多いというような意味合いの記載がされていれば、監査役(会)監査報告に記載される内部統制システムの運用状況の相当性について、「特段に指摘すべき事項は認められない」と断言できない可能性もあります。

4. 会計監査人との連携

(1) 連携の意義

会計監査人は、会社の計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査し(会社法396条1項前段)、会計監査報告を作成する義務があります(同項後段)。会社によって開示される正確かつ適正な計算書類等は、株主や債権者にとって、その地位の継続や債権を持ち続けることの可否を判断する上で重要な書類になります。このために、会計の職業的専門家である会計監査人は、会社から独立した外部の立場から、会社の会計が一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従っているか監査を行い、その結果は監査役及び取締役を通じて株主に通知されます。

会計に関わる直接の不祥事に限らず、企業不祥事の多くは最終的に会計や税務にも関係することが多いことから、会計監査人が会計監査を通じて取締役の重大な不正行為等を発見したときには、監査役への報告義務があります(会社法397条1項)。また、2021年3月期から上場会社で全面適用となる「監査上の重要な検討事項」(Key Audit Matters:KAM)において、(会計)監査人は、事業年度の財務諸表の監査の過程で監査役と協議をした上で、当該監査において特に重要であると判断した事項を監査報告に記載することになっていることから(企業会計審議会改訂監査基準、第四報告基準二2(2))、協議を通じた相互の意見交換が必要となってきます。

これら以外でも、会計処理の方針等を巡って会計監査人と会社との間で意見の相違や対立もあり得ることから、執行部門から法的に独立した監査役が両者の意見や主張を聴取した上で、一定の判断をすることも考えられます。これらのためには、監査役としては日頃から意識的に会計監査人との連携を行うことが大切です。

(2) 具体的方策

会計監査人との連携の際に、監査役は会計監査人の監査の相当性の判断と報酬同意を行うという法的義務があることは意識する必要があります。その上で、期初段階における相互の監査計画の説明と意見交換、期中において四半期毎の会計監査人からの監査報告聴取、期末時期の事業年度における最終的な監査結果とその結果の根拠や今後の懸念事項等についての協議を行います。会計監査人との連携の在り方と実務は、既に単独で解説していますので、そちらをご覧ください※6

5. 任意の委員会や第三者委員会との連携

(1) 意義

執行部門のニーズに応じて、会社として報酬諮問委員会、指名諮問委員会、環境諮問委員会、第三者委員会等を設置することがあります。これらの委員会の設置目的の多くは、適切なガバナンス体制の構築の視点からですので、監査役はこれら委員会の審議内容について把握しておくことが重要となります。特に、第三者委員会を設置する場合は、事件・事故の調査や緊急対応(敵対的買収やM&Aの評価等)が必要であるときがほとんどであるため、取締役の善管注意義務の有無の判断に直結しますので、監査役として積極的な関わりを持つ必要があります。

(2) 具体的方策

任意の委員会と関わる方策としては、①任意の委員会を重要会議と位置付けた上で出席する(場合によっては、オブザーバーでも可)、②任意の委員会の決定内容や議事の状況の報告を受ける、③任意の委員会の議事録を入手する、などがあります。

第三者委員会の場合では、全て外部委員とすべきと考える事案でなく、社内メンバーと外部メンバーの合同チームとして構成されるならば、設置の目的によっては、監査役もメンバーの一人となるべきです。その上で、社外監査役も含めて、監査役間で情報を共有します。一方、純粋に外部の有識者から構成される独立第三者委員会であれば、その第三者委員会の設置の理由と目的、構成メンバーなどについて、取締役会の審議の過程で積極的に議論に加わるか、又は執行部門から個別に説明を受けることが必要です。さらに、第三者委員会の途中経過報告が常に行われるように執行部門に申し入れること、及び第三者委員会の最終報告内容と最終報告を受けた後の執行部門としての対応方法を確認します。その際、監査役としては、期末の監査役(会)報告の記載内容に関係する事項、例えば取締役の重大な善管注意義務違反の有無等が含まれているか検討することになります。

Ⅲ おわりに

法令で、監査役の監査環境の整備の一環として意思疎通を図るべきとの規定は、努力義務とは言え法的に大きな意義があり、監査役監査の実効性確保の観点からの趣旨であると理解すべきです。そして、具体的にどの程度意思疎通を図ったらよいかについては、監査環境や実務実態を踏まえて検討し実施していくことになります。しかし、少なくとも積極的に意思疎通を図る意識を持つことと、それを実践するための目的の明確化と年度を通じた会議を予め設定しておくなど、具体的な手段を確保しておくことが大切です。

※1 監査等委員は2年(会社法332条1項)、監査委員は1年(同条6項)である。
※2 もっとも、4年任期より前に退任しても罰則規定はないことから、役員人事の一環として、現実には4年の任期を全うする前に退任しているケースもないわけではない。
※3 監査委員の場合は、指名委員会で決定するため、監査委員による事前の同意手続きはない。
※4 平成16年に改正された監査役監査の実施基準の第3条4項において、「監査役は平素より会社及び子会社の取締役及び使用人等との意思疎通を図り、情報の収集及び監査の環境の整備に努める。」(日本監査役協会「監査役監査基準」平成16年2月12日改正)と規定された。
※5 竹内朗編『図解 不祥事の予防・発見・対応がわかる本』中央経済社(2019年)40ページ
※6 高橋 均「監査役と会計監査人との連携の在り方と実務~KAMの記載も見据えて」本誌2019年10月号(Vol.147)2~6ページ参照

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