履行義務の充足による収益の認識

履行義務の充足による収益の認識

2021年7月1日 PDF

情報センサー2021年7月号 企業会計ナビダイジェスト

EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 加藤大輔

監査部門にて会計監査業務に従事したのち、アドバイザリーサービスを行うFAAS事業部へ異動。現在は、主にIFRSや収益認識基準などの導入支援業務などに従事している。また、書籍の執筆や雑誌への寄稿、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)に掲載する会計情報コンテンツの企画・執筆に携わっている。

今回は「解説シリーズ『収益認識』第6回:履行義務の充足による収益の認識」の一部を編集し、紹介します。

Ⅰ はじめに

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、基準)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)では、収益を認識するに当たり、次の5ステップ<図1>を適用することとなります。今回はこのうち、最後のステップであるステップ5について解説します。

図1 収益認識の5ステップ

Ⅱ 解説

1. 一時点か一定期間かの判断

企業は約束した財又はサービス(以下、資産)を顧客に移転することにより履行義務を充足したときに又は充足するにつれて、収益を認識します。このため、企業は資産の支配の顧客への移転パターンを踏まえ、識別された履行義務が一定の期間にわたり充足されるものか、又は、一時点で充足されるものかを判定することとなります(基準35項、36項)。

次の①〜③の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転すると考えられるため、一定の期間にわたり履行義務として収益を認識します。一方、要件のいずれも満たさない場合には、一時点で充足される履行義務として、収益を認識します(基準38項、39項)。

① 企業が義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
② 企業が義務を履行するにつれて、新たな資産又は資産の増価が生じ、当該新たな資産又は資産の増価を顧客が支配すること
③ 企業が義務を履行することにより、別に転用できない資産が生じ、完了した部分については、対価を強制的に収受する権利を有していること

2. 一定期間にわたり充足される履行義務

一定期間にわたり充足される履行義務は、履行義務の充足に係る進捗度を見積もり、当該進捗(しんちょく)度に基づき収益を一定の期間にわたり認識することとなります。当該進捗度の見積り方法は、アウトプット法とインプット法があり(<表1>参照)、財又はサービスの性質を考慮して決定します(基準41項、適用指針15項)。

表1 履行義務の充足に係る進捗度の見積り方法(アウトプット法とインプット法)

一定の期間にわたり充足される履行義務の収益は、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができる場合にのみ、認識します。ただし、進捗度を合理的に見積もれないものの、発生する費用の回収が見込まれる場合には、進捗度の合理的な見積りが可能となるときまで、原価回収基準で処理することとなります(基準44項、45項)。

3. 一時点で充足される履行義務

一時点で充足される履行義務の収益認識時点を決定するに当たり、資産に対する支配の移転時期を検討することとなります。当該移転時期の検討は、例えば、次の指標を考慮することとされています(基準40項)。

① 企業が顧客に提供した資産の対価を収受する現在の権利を有していること
② 顧客が資産の法的所有権を有していること
③ 企業が顧客に物理的占有を移転したこと
④ 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること
⑤ 顧客が資産を検収したこと

4. 重要性等に関する代替的な取扱い

履行義務の充足に関して、例えば、次のような代替的な取扱いが設けられています。

(1)出荷基準等の取扱い

前記のとおり、一時点で充足される履行義務は資産に対する支配が移転した時点で収益を認識することとなりますが、商品又は製品が国内の販売であることを条件として、出荷時から当該商品又は製品の支配の顧客への移転時(例えば、検収時)までの間が「通常の期間」である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転されるときまでの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することが認められます。これは、国内の販売であれば出荷および配送に要する日数は通常数日程度であることが多く、この場合には、出荷時に収益を認識しても、その差異の金額的な重要性が通常乏しいことが想定されるためです(適用指針98項、171項)。

(2)契約の初期段階における原価回収基準の取扱い

前記のとおり、進捗度を合理的に見積もれないものの、発生する費用の回収が見込まれる場合には、進捗度の合理的な見積りが可能となるときまで、原価回収基準で収益を認識することとなりますが、契約の初期段階では収益を認識せずに、合理的に見積もることが可能となった時点から収益を認識することが認められています(<図2>参照)。これは、詳細な予算が編成される前など、契約の初期段階では、通常、費用の発生金額に重要性が乏しいと考えられるためです(適用指針99項、172項)。

図2 原価回収基準と原価回収基準(代替的な取扱い)の収益認識のイメージ

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