- 日本企業(※1)の経営層の50%が今後12カ月間に買収を検討。ここ数年で最も低いレベル
- グローバル企業(※2)が英国のEU離脱等、各国間の規制、貿易、関税をめぐる不確実性から当面の間はM&A実行までの充電期間と考えている一方、海外向け投資においては変わらず重要と位置づけ
- 新たなプライベートキャピタルが競争を促進し、中期的なM&Aマーケットの見通しは堅調
EYが日本を含む45の国と地域における2,600名以上の経営層を対象に年2回実施している「第19回EY グローバル・キャピタル・コンフィデンス調査」によると、M&Aの計画は、地政学上の不確実性の増加等を背景に、抑制気味となっています。規制面におけるリスクに加え、現在進んでいる英国のEU離脱交渉や米中貿易摩擦をはじめとする貿易・関税に関する交渉が、M&A実施意欲に影響を与えており、日本企業の経営層の53%が、規制や政治面での不確実性が今後12カ月間のM&A活動における最大の潜在的リスクと回答しています。また、日本企業の50%は、今後12カ月間に買収を計画していると回答しており、半年前の調査(73%)から減少しています。また、グローバル市場における買収・合併(M&A)数が過去最高に近い数であるにもかかわらず、企業の買収意欲はここ4年間で最も低いレベルとなっています。
しかし、M&Aの必要性については、引き続き強く意識されていることに加えて、マクロ経済のファンダメンタルズに関する見方も依然として堅調で、日本企業の経営層の大部分は、グローバル経済の成長に対する展望は改善していると考えており、短期的にマーケットの安定性が低下したり、株式価値が低下するとの回答はわずか2%でした。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 代表取締役会長 ヴィンセント・スミスは次のように述べています。
「地政学上の、あるいは貿易および関税の不確実性により、M&A活動については"一時停止ボタン"が押されたような状況と考えています。今年前半の企業収益は予想以上に好調であり、またM&Aを実行することの戦略的重要性は全く変わっていませんが、M&Aは年初に比べやや停滞したまま推移すると私たちは予想しています。しかしこの停滞は長期にわたるものとは考えられず、その理由として企業はおそらくこの小休止期間を、過去12カ月間に行われた多くの案件を統合し、シナジーを出すことに注力する良い機会として捉えているということが挙げられます。M&A活動は、停止したのではなく、あくまでも一時的な充電期間に過ぎないと考えています。日本では経済のファンダメンタルズは力強く、また案件に対する戦略的必要性は国内外問わず依然として高いため、買収への意欲は2019年の後半に向けて再び高まってくると思われます。」
不安定要因によりポートフォリオ最適化が重要に
ますます増加するテクノロジー・ディスラプションのリスク、地政学上の不確実性、絶えず変化する消費者の嗜好を背景に、経営層はより頻繁に事業ポートフォリオの見直しを行うようになっています。事業ポートフォリオの見直しを半年ごとに行っていると回答した日本企業の経営層は62%に上り、半年前の調査時の回答(22%)と比較して著しく増加しています。逆に、見直しを年に一回またはそれより長い間隔で行っているという回答は前回調査時には73%を占めていましたが、今回の調査ではわずか14%でした。
プライベート・エクイティのM&A顕在化
ポートフォリオレビューの結果、約3分の2の日本企業(65%)が、売却すべき事業(採算の取れない、あるいはディスラプションのリスクのある事業)を特定しています。このことは、企業が今後さらに事業売却を加速し、市場における取引が活発になることを示唆しています。
また、売却対象事業として市場に出てくる案件に対して、プライベート・エクイティ・ファンド(以下、PE)が興味を示す局面も一層増えるでしょう。日本企業の経営層の22%が今後1年間のM&A市場においての主要なトレンドはPEの活動の活発化であると回答しています。回答者の82%が今後12か月におけるM&A活動や事業獲得競争が激しくなると考えており、その理由としてより活発なプライベート・キャピタルの台頭を挙げています。
スミスは次のように述べています。
「超大型プライベート・エクイティ・ファンド、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)等の公的ファンド、事業会社によるコーポレート・プライベート・エクイティ・ファンド(コーポレート・ベンチャー・キャピタルも含む)隆盛が資金調達環境を根本的に変えつつあります。こうしたプライベート・キャピタルが今後のM&A市場再活性化の原動力となると考えられます。ファンドマネージャーは、過去のキャピタルマーケット史上見られないほど大量にプライベート・キャピタルに資金を配分しています。多くのファンドマネージャーが、資金拠出者に投資リターンを提供するための有力な手段としてこれまで以上にプライベート・エクイティを活用するでしょうし、また、その一方で、直接投資を活発化するファンドマネージャーも現れると思われます。」
経営層の最大の関心事の一つは英国のEU離脱交渉
グローバル企業の経営層のほぼ全員が、英国のEU離脱交渉の結果に注視していると答えています。41%のグローバル企業の経営層が、英国と欧州連合(EU)の協議では、スイスと同様の経済自由貿易協定を結ぶことが最も好ましい結果であると回答し、それに次いで多い22%の経営層が、カナダが提唱する自由貿易協定モデルが望ましいと回答しています。
また、英国のEU離脱による金融サービスへの影響についても関心が高いことを示しています。英国のEU離脱後、ロンドンを拠点とする金融サービス提供機関から金融関連商品やサービスを購入しなくなるだろうと回答したグローバル企業の経営層は、全体の43%に上りました。
グローバルで貿易や関税分野のリスクが高まっている状況は継続しているものの、多くの日本企業が、潜在的影響を分散・軽減するために、依然としてクロスボーダーM&Aを検討していることがわかりました。日本企業の経営層の20%が、英国内を含む国際的な投資機会に着目しており、例えば、英国は、日本企業の経営層からはM&Aにおける投資候補国として第3位に挙げられています。日本企業の経営層は、投資候補国として日本、米国、英国、中国、インドという順で回答しました。
また、スミスは次のように述べています。
「このような環境下でも、日本国内市場の成長力や人口減少の課題など日本企業がクロスボーダーM&A取組みを必要とする要因は存在しています。多くの日本企業は、貿易や関税政策に起因する潜在的影響の分散・軽減、未開拓市場へのアクセス、そしてグローバルベースで展開するサプライチェーンを保持するために、常にM&Aを意識しています。日本企業の回答者がM&A投資候補国として挙げた上位5か国は、すべて貿易の不確実性の渦中にいる国々であり、この回答結果は、M&Aを検討している企業は潜在的な地政学上のディスラプションを乗り越えていく機会を模索していることを示唆しています。不確実性により、一部のグローバル企業の経営層はM&Aのプラニングや取組を一時的に停止しており、このため、今後12カ月間のディール活動は現段階の高い水準からやや減速するかもしれません。しかし、来年になればM&A活動が再度活発化するようになると考えています。現在行われている事業ポートフォリオの見直しの結果、事業売却機会が増え、事業アライアンスであったり、エコシステム構築等の業務資本提携が増えると考えられるためです。
テクノロジーディスラプションやセクターコンバージェンス(セクターをまたいで進行しつつある破壊的な技術革新)に先手を打ち、地政学上の変化をうまく乗り越えていくためにM&Aは不可欠です。そして、プライベート・エクイティおよび他のプライベート・キャピタルの間で事業獲得競争が増加している中、静観して待つことを選択している企業経営層も、一年から一年半後にはディール活動の場に戻らざるを得なくなることでしょう。」
詳しい調査結果は ey.com/ccb をご覧ください。またTwitterでも情報を発信しています。(@EY_TAS | #EYCCB)
※1:日本企業=今回の調査で回答のあった企業のうち、日本に本社を置くグローバルで展開している企業
※2:グローバル企業=上記※1日本企業を含むグローバルでビジネスを展開している企業。本調査では全回答者がこれに該当する
※本プレスリリースは、英語のプレスリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
英語版プレスリリース:
Global M&A appetite dips to four-year low amid rising geopolitical uncertainty