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ケーススタディ
The better the question. The better the answer. The better the world works.
ケーススタディ

資⽣堂がビジネス・トランスフォーメーションを通じて目指す企業価値最⼤化に向けた取り組みとは

⽇本最⼤のビューティー企業である株式会社 資⽣堂(以下、資⽣堂)は、グローバルな事業モデルの確⽴を⽬指し、⾃社の各事業やその業務プロセス、また、基幹システムの再構築を進めています。

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マトリックス型経営体制を取る巨⼤企業において、いかにしてグローバルな変⾰を推し進めますか?

複数の外部テクノロジーベンダー、数多くの国と地域、そして複数の⾔語による展開。こうした規模のビジネス・トランスフォーメーションを遂⾏するには、戦略的アプローチが必須です。

⽇本初の民間洋風調剤薬局として創業以来、資⽣堂は150年以上にわたり進化し続け、⽇本およびアジアで最⼤のビューティー企業へと成⻑を遂げました。その歴史を通して、同社は、製品にARTとSCIENCEという異なる2つの優位性を融合し、「⼈」を中⼼とする企業⽂化を醸成するという創業理念に忠実であり続けています。また、真のグローバル企業として、約3万9千⼈の従業員を擁し、約120もの国と地域で事業を展開しています。

過去5年間、同社は中国、⽶国、欧州など海外市場での事業拡⼤に⼒を注ぎ、有機的な成長とともに、買収を通じても成⻑を遂げています。

多くの⽇本企業同様に、資⽣堂は地域本社がそれぞれのビジネスの責任と権限を持つマトリックス型の事業モデルで成果を挙げてきました。⼀⽅、同社の国際ビジネスが拡⼤するにつれ、IT環境やデータ管理プロセスを最適化することがマトリックス型組織体制では次第に困難となり、ビジネスに不可⽋な情報をつかむにも時間を要するようになっていました。経営陣は、現⾏の成⻑戦略を追求するためには、意思決定に必要なデータを迅速に入手できるよう、バックオフィス業務を変⾰、標準化する、グローバルに⼀貫した事業モデルの構築が必要であると認識するようになりました。

※動画を閲覧する際は、画面を最大化してご覧ください。

2019年、同社は複数年にわたるグローバルなビジネス変革プログラム、 「FOCUS(First One Connected & Unified Shiseido)」を始動しました。FOCUSを通じて、資⽣堂はデータドリブンな組織として⾶躍し、グローバル企業として群を抜く存在になることを⽬指しています。

これは壮⼤なスケールのプログラムです。その中⼼となるのは、財務、製造に始まり、サプライチェーン、⼈事に⾄るまで、組織全体の部⾨機能、プロセス、システムのデジタル化と標準化を実現する、グローバル規模のERP(Enterprise Resources Planning。企業資源計画のこと)プラットフォームの導⼊です。この導⼊には、世界中の多種多様な⽂化的背景をもつ数千⼈もの従業員を巻き込むことになります。またこうした従業員⼀⼈⼀⼈の参画が、トランスフォーメーションの成功にとって不可⽋なものです。

⽇本企業にとって、グローバル化と標準化が極めて難しい課題であることは、歴史を振り返ってみれば明らかです。そのため、⼤規模なビジネス・トランスフォーメーションは通常、⽶国や欧州の事業を中⼼に実施されています。しかし資⽣堂は、日本をオリジンとするからこそ⽇本をプロジェクトの中⼼(ハブ)にすることを選んだのでした。

将来へのビジョンとアプローチについて経営陣が合意すると、間もなくITベンダーとプラットフォームが選定されました。次に同社が必要としたのはプロジェクトの実⾏パートナーです。グローバルに通じるケイパビリティを備えるだけでなく、グローバルビジネスにおいて現地業務の効果的運営をサポートする際に要する微妙なさじ加減を理解するパートナーが必要でした。資⽣堂は過去の経験から、ビジネス・トランスフォーメーションとは単に戦略とテクノロジーを結び付けるだけではないことを学んでいました。変⾰にあたっては、従業員が覚える変化の体感を⼤切にすることが、最良の成果につながることを理解していました。

「FOCUSは単なるITプロジェクトではありません」資⽣堂のビジネス・トランスフォーメーション部⻑であるFrancois Keet⽒はそう語り、次のように続けます。「これはビジネス変革プログラムであり、だからこそビジネス部門が主導しなければ成果につながることはありません。世界最高のテクノロジーを手にしたとしても、チェンジマネジメントを適切に実施できなければ成功は見込めません」

資生堂の社屋の外観
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戦略的マインドをもって遂行するグローバルな取り組み

資⽣堂FOCUSプログラム完遂に向けて、EYは地域の垣根を越えてケイパビリティを結集し、トランザクション、ビジネス・トランスフォーメーション、テクノロジーの統合チームを結成しました。

EYは当初、資⽣堂のこの⼤規模プロジェクトの⼀部のみを⽀援する役割で選定されました。EYは、別のデジタルトランスフォーメーションプロジェクトではITベンダーとの協⼒で成功を収めた実績がありましたが、同社での戦略遂⾏パートナーの役割を担うことになったきっかけは、EYの戦略部⾨であるEYパルテノンのパートナーらが同社と築いてきた関係からでした。

プロジェクト実施を⽀援するため、EYは精鋭チームを形成し、同社の経営陣と連携しました。「EYは当初、限定的な小規模のエンゲージメントチームとしてスタートしました。ほどなく私たちEYが提供する価値について経営陣にも理解いただき、その結果、EYのチームはより広範囲かつより深くサービスを提供できることになったわけです」と、EYパルテノンのAsia-Pacific ストラテジー エグゼキューション リーダーの小林暢子は述べています。

FOCUSの取り組みが本格化する中、同社は、ITインフラと事業モデルの整合は技術的にも⼈的にも極めて難題であること、そしてより戦略的な⽀援が必要であることを認識しました。「クライアントは、このプロジェクトがすぐにも複雑化していくことに気付きました」と、EYパルテノンのStrategy, Business Transformation and Digital Enterprise Applications DirectorであるNiyi Ojemuyiwaは述べています。「これほど複雑な取り組みを進め、リスクを特定、軽減し、ソリューションを標準化するために必要なのは、厳格なプロジェクト管理と確かな⼿法でした」

プロジェクト全体を大局的に見渡せる位置にあったEYは、戦略的サポートを提供できる分野を適切に特定することができました。特定された分野の1つに、ターゲット・オペレーティング・モデルがありました。「私たちは、トランスフォーメーションプロジェクトの先に目を向け、最終形態について考えることを、クライアントに勧めました」とOjemuyiwaは述べています。「このことが議論の端緒となり、デジタル戦略とターゲット・オペレーティング・モデルの開発につながりました。デジタル戦略の策定では、EYはID管理やアクセス管理に関する戦略および手法の決定にも参画しています」

「FOCUSプログラムの⽴ち上げに当たっては、EYはベストプラクティスを取り⼊れ、このグローバルプログラムが強固な基盤を築けるよう⽀援してくれました」と、資⽣堂のGlobal Solution Delivery & Enterprise ArchitectであるVenkat Somasundaram⽒は述べています。

⼈を変化の中⼼に据えてビジネス・トランスフォーメーションを進める

このビジネス変革プログラムの特徴の1つは、チェンジマネジメントに重点が置かれていることです。「⼀貫性のある世界標準のプロセスとデータ、そして1つにつながったシステムへのシフトは、資⽣堂にとって決定的な変化です」と、EY Japan People Experience and Change Practice LeaderであるNancy Ngouは語ります。さらに次のように述べています。「資⽣堂は過去の経験から、IT部⾨が主導する純粋なテクノロジー変⾰というアプローチでは成功はおぼつかないことを学んでおり、ビジネス主導の変⾰にしたいと考えていました」。主要業務に混乱を来す可能性のあるこのような重大な変革の実⾏と推進にビジネス部門を巻き込むにはチェンジマネジメントプログラムの導⼊が極めて重要であることを、リーダー陣が認識したのです。

変⾰は現場で起こり、その⼟地の⽂化の影響を受けます。そのため現地の⽂化を理解している地域のチームが主体となることが不可⽋です。
Nancy L. Ngou
EY Japan People Experience and Change Practice Leader

世界各地でチェンジマネジメントプログラムを推進するのは、EYのチェンジマネジメント専⾨家チームです。同チームは⼀貫したチェンジマネジメント⼿法に基づき、資⽣堂のグローバルおよび地域のリーダーやチームを⽀援しています。地域ごとのチームはグローバルチームと緊密に連携して、コミュニケーション、ビジネスにおけるレディネス分析、トレーニングに対するアプローチに⼀貫性があり、かつ現地の⽂化に沿ったものになるよう調整します。「変革は現場で起こり、その⼟地の⽂化の影響を受けます。そのため現地の⽂化を理解している地域のチームが主体となることが不可⽋です」と、Ngouが指摘したとおりです。

EY Humans@Centerによる調査が⽰唆するように、ビジネス・トランスフォーメーションの成功を⽀えるのは、⾵通しの良い協⼒的な⽂化です。この点を理解することで、チームが従業員のマインドセットを変化させることに意識を集中できるようになるはずです。「資⽣堂全体がグローバルにつながり、ワンチームとして運営される際に価値が⽣まれます。この価値を⼀層向上させるのに必要となるFOCUSを推進する上で必要となる⾏動の特定に当たっても、EYは同社の地域やグローバルのリーダーと共に取り組みました」、「成功に導く⾏動を特定できると、それらを直ちにチェンジマネジメントプログラムに織り込みました」とNgouは続けました。

Ngouのチームでは、資⽣堂のコアバリュー、"THINK BIG(広い視野から、⼤局を捉えて、物事を考えよう)"、"BE OPEN(本⾳を語ろう)"、"COLLABORATE(協⼒し合おう)"を中⼼に、従業員に向け、名付けて「FOCUSマインドセットキャンペーン」を展開しました。この中でFOCUS マインドセットを⼀貫したメッセージで伝え、画像や動画を活⽤したワークショップを実施しました。中国では、EYはFOCUSプログラムの主要なマイルストーンごとに、6回シリーズの EY wavespace TMセッション・プログラムを実施しました。このwavespaceTMのワークショップでは、デジタルコラボレーション空間で多様なデザイン⼿法を活⽤し、同社の従業員がプロジェクトの次の段階に向かうための⼼構えを育む⽀援をしました。

 「チェンジマネジメントはビジネス・トランスフォーメーションの要です」と、資⽣堂 Global Business Process Lead (事業部)の中林圭美⽒は語ります。「変革マネジメントで大切なのは、ビジネス部門がまだ気付いていない、よりよい可能性に気付いてもらうこと。それに気付けば、変⾰は格段に進みやすくなります」

ワンチームのアプローチ

小さく、しかし力強く踏み出す。プロジェクト当初から、この精神がEYチームのエンゲージメントの原動⼒になってきたと、EYでのFOCUS責任者であるStefano Giordanoは述べています。「資⽣堂の経営陣と緊密な連携を取りながら、私たちEYはグローバル全体で⼀貫性を持ったプロセスとポリシーにより固く結ばれた、⾼いモチベーションを持つ多⽂化・多⾔語チームを組むことができました。専⾨はそれぞれ異なっても、私たちはチームとして動いています」

ガバナンスこそ、FOCUSの成功の秘訣です。適切なガバナンスがグローバル全体の⼀貫性を向上させ、データとプロセスの世界規模の統合を可能にします。
ステファノ ジョルダーノ
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション トランザクション・ストラテジー・アンド・エグゼキューション EYパルテノン パートナー

「多数のチームをまとめ、地域や⾔語の壁を越え、資⽣堂の各部⾨のニーズを調整し、ベンダーと連携し、期⽇内に成果を挙げるなど、プロジェクトの順調な進展にはすべて、強固なガバナンスが必要です。これほど複雑なプログラムの全体にわたって強固なガバナンスを維持するには、協調的なアプローチが⽋かせない」とGiordanoは説明し、続けて「ガバナンスこそ、FOCUSの成功の秘訣です。適切なガバナンスがグローバル全体の⼀貫性を向上させ、データとプロセスの世界規模の統合を可能にします」と語りました。Somasundaram⽒もこの意⾒に同意しています。「FOCUSは極めて⼤規模な取り組みです。本部は日本にあり、日本側にて全体管理はしていますが、グローバルに導入、実行されています。壮⼤なプロジェクトで、膨⼤な数のステークホルダー、地域、システム、プロセス、データが関与しており、並⾏して進めなければならないタスクが数多くある中で、プロジェクト管理と品質保証に関するEYのサポートは⼤きな助けとなっています」

資生堂の工場で化粧品容器が充填(じゅうてん)されている写真
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統合により、将来の成⻑の基盤を築く

透明性の向上、データインサイトの強化、およびオペレーションの円滑化が、クライアント、従業員、顧客にとっての価値を最⼤化します。

FOCUSのような⾼い⽬標を掲げるプログラムの成就には、堅固なプロジェクト管理とガバナンスを通した戦略遂⾏の徹底が不可⽋です。スケジュール厳守の上で、リスクや問題、依存関係の評価、システムとプロセスの検証がなされなければなりません。チェンジマネジメントもまた不可⽋です。経営陣から始まり、関与する⼈全ての⽀持が得られないならば、そのトランスフォーメーションは持続性を⽋くことでしょう。

FOCUSプログラムの成否は、地域の違いや時差を越えて成し遂げられる極めて⾼度な協調と協働に懸かっていました。これは資⽣堂のチームとEYのエンゲージメントチームとが、プロジェクト全体のビジョンを共有できていたからこそ成り⽴つものです。変⾰の正当性を裏付ける根拠とそれを推進するビジネス戦略の理解が⼗分に共有され、役割と責任を明確化し、信頼に基づく関係性が築かれ、率直で誠実な議論が促されてきたからこそ実現できるものです。

現時点までに、FOCUSは4つの異なる地域の11カ国で、スケジュール内に円滑に導⼊されており、サプライネットワーク、販売、調達、財務の全般にシナジーが⽣まれています。

「私たちは、この極めて複雑なビジネス変革プログラムの発足以来、多くのことを達成できたことを⾮常にうれしく思っています。FOCUSの開始から3年が経過し、現在、当社の売り上げの半数がFOCUSを通じて処理されており、残りの50%にも順次導⼊します」、「EYのような、グローバルな視点と各拠点に固有の背景の両⽅を理解する熱心な協⼒者なしには、FOCUSプログラムを加速し、成功に導くことはできなかったでしょう」とKeet⽒は述べます。

EYのチームは現在も、資⽣堂とITベンダーと共に、ビジネス・トランスフォーメーションを継続しています。ここではあらゆる段階で、アイデアを実⾏に移しフィードバックを受け取るというサイクルが成⽴しています。とはいえ、FOCUSの成果はすでに出ています。私たちは、プロセスの効率化とビジネスデータの透明性の向上を実現し、多様でグローバルな組織全体の価値を解き放つことができています。

※本記事は、2023年9月発行のグローバル記事How a cosmetics giant’s transformation strategy is unlocking valueを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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