2024年4月19日
主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ9 タイではBOI税恩典が十分享受できるよう軽減緩和措置を導入

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ9 タイではBOI税恩典が十分享受できるよう軽減緩和措置を導入

執筆者 EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

2024年4月19日

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タイでは2023年、BEPS2.0のPillar2に沿って、グローバルミニマム課税を原則として導入することが決定されています。タイに所在する日本企業は、必要に応じて実効税率の計算や国内ミニマム課税(QDMTT)に基づく納税・申告などの新たな対応、優遇税制による法人税の減免メリットを享受する企業は、その影響分析が求められます。今回はタイにおける法人税、優遇税制への影響や留意点を解説します。

要点
  • タイの法人税率は20%であり、グローバルミニマム課税の導入が決定されている。2025年が適用初年度として予定されているものの、現段階では規制の詳細や構成要素はまだ公表されていない。
  • 著名なBOIの税恩典が十分に享受できるよう、BOI税恩典を取得している、あるいは今後取得する予定の納税者に対し、影響を軽減する緩和措置を講じることを発表。
  • その場合、現在享受している100%免税(法人税率0%)のメリットを放棄する代わりに、軽減された法人税率10%を選択することができ、免税期間の2倍に相当する減税期間を享受できる。ただし、減税期間との合計が10年間を上限とすることに留意が必要。

著名なBOIの税恩典があるが、法人税率15%を下回る場合は注意

タイの法人税率は20%ですが、著名なBoard of Investment(以下、BOI)によるインセンティブ制度があり、最長13年間の法人税免除(業種および条件による)などの税制上の恩典や、技術者・専門家の入国・就労許可など税制以外の恩典を付与されることから、より低い実効税率を享受することができます。

BOIは高度なテクノロジーをはじめ、各産業の重要性・業種に基づいて税恩典を分類しており、投資優遇の対象となる産業セクターに所属する製造会社などは、BOIによる税恩典を受けています。その場合、パッケージやBOI申請法人の活動内容によって内容や期間が異なるものの、法人税の減免といった恩典が付与されているので、それら企業の税負担率は、15%を下回る可能性があります。しかし、QDMTTおよびPillar2の対象となる企業は、15%を下回る税率で課税されている場合、追加法人所得税を申告・納付しなければなりません。日本企業では、タイ国内に複数の企業を展開しているケースが多いことから、グループ内で製造会社が多い場合、税負担率が15%を下回っていないか注意する必要があります。

 

BOIは軽減緩和措置を実施
減税期間は最大10年

タイでは2023年3月、BEPS2.0のPillar2に沿って、グローバルミニマム課税を原則として導入することを決定しました。2025年を適用初年度として施行することが予定されているものの、現段階では規制の詳細や構成要素はまだ公表されていない状況です。

グローバルミニマム課税の導入により、税恩典の効果は大きく減じられ、投資誘致の働きかけが奏功しない恐れがあるため、BOIは2023年5月に税恩典の効果を十分に享受できるよう、BOI税恩典を取得している、あるいは今後取得する予定の納税者に対し、当該税恩典に生じる潜在的な影響を緩和するための措置を講じることを発表しています。

この措置により、BOI税恩典を得ている納税者は、免税期間がある場合、現在享受している100%免税(法人税率0%)のメリットを放棄する代わりに、軽減された法人税率10%を選択することができ、その場合、免税期間の2倍に相当する減税期間を享受できるようにしています。ただし、当該納税者が免税期間に加え減税期間も有している場合は、その合計が10年間を超えることができないとしており、留意が必要です。

免税か、減税を選ぶか
免税では10年以上の期間もあり

なお、新たにBOIを申請する納税者は、後日減税制度に転換できる柔軟性を備えた免税制度、または減税制度のいずれかを選択できます。当初から免税制度ではなく、減税制度を選択可能としている趣旨は、免税期間の2倍の減税期間を付与することで、納税者が実質的に享受する税恩典の効果に差異が生じないようにすることにあります。

ただし、新たに減税制度を選択する場合には、減税期間の上限が10年になることに注意が必要です。免税制度を選択した場合は、10年以上の免税期間を付与されることがありますが、減税制度では10年を超える減税期間を得ることはできません。

こうした軽減緩和措置を適用するとき、BOIを新たに申請する企業は、連結収益が280バーツ以上の多国籍企業グループであるか、申請前の会計期間において国別報告書の提出要件の対象であること、また、追加の特別な投資奨励措置(生産効率改善など)を有さず、基礎的BOI投資奨励措置の資格があるか、あるいは現在享受しているといった要件があります。一方、現在BOI税恩典を得ている企業は、免税期間が少なくとも1年間残存しており、かつ法人税免除累積額が上限額に達していないこと、そして関連する申請手続きを順守していることが要件となっています。

実効税率15%を下回る場合はBOIの減税制度を選択する

このようにグローバルミニマム課税の導入によって、BOIが軽減緩和措置を講じたことは、朗報であると言えます。今後、BOIを最大限に有効活用しつつ、企業グループ単位で法人税の実効税率が15%を下回るかどうかをまず確認し、下回ることが予想される場合は、BOIの軽減緩和措置を利用して減税制度に転換する、または、新たにBOIを申請するときは、当初から減税制度で申請するかどうかなどの対応を検討・判断することが肝要だと言えます。

BOIの税恩典は必ずしも企業単位の損益に対してもたらされるわけではなく、事業プロジェクトごとに付与されるため、免税・減税の影響を適切に評価し、検討・判断を効果的に行うためにも税務アドバイザーに相談することをお薦めします。

【執筆者】
EY税理士法人 アソシエートパートナー 古瀬 裕久

サマリー

新たにBOIを申請する納税者は、後日減税制度に転換できる柔軟性を備えた免税制度、または減税制度のいずれかを選択できます。ただし、新たに減税制度を選択する場合には、減税期間の上限が10年になることに注意が必要です。BOIの税恩典は必ずしも企業単位の損益に対してもたらされるわけではなく、事業プロジェクトごとに付与されるため、免税・減税の影響については、税務アドバイザーに相談することをお薦めします。

この記事について

執筆者 EY 税理士法人

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