Pillar1のAmount Bでも係争は増加する
次に、Pillar1のAmount Bについては、既存の移転価格税制の枠組みを前提としており、すべての多国籍企業が対象となり得るものです。このAmount Bで、移転価格税制の執行プロセスは単純化し、多国籍企業にとっても確実性、予見可能性は高まるはずです。ただ、こちらも先進国の多国籍企業と、新興国、開発途上国の税務当局との係争は増加するリスクがあると考えられます。
Amount Bでは、すべての多国籍企業の関係会社間取引が対象となるため、適用対象がとても広くなります。また、一定の機能に対して一定の利益が対応するといっても、係争が減るとは限りません。新興国、開発途上国の税務当局や税務調査官は税収の確保にアグレッシブです。移転価格調査でも、本社や子会社の活動および機能に対して重点的な資料収集やインタビューを行い、当該国子会社の活動が限定的な販売等にとどまらないとして高い利益率を主張するのは、常とう手段だと言えます。日系企業も対応を海外子会社任せにするのではなく、積極的に関与することが求められるでしょう。
Pillar2でも内外の税務当局は積極姿勢を表明
他方、Pillar2のグローバル最低税率課税のための所得合算ルールでは、15%の最低税率に満たない分の追加課税額を親会社所在地国に申告・納税する一方、各国で導入が認められている国内最低課税制度が、グローバルルールに基づく合算税額に優先することになっています。そのため、税務係争については、親会社所在地国の税務当局と子会社所在地国の税務当局との2つのケースを想定すべきでしょう。
日系企業の場合、日本の国税当局にグローバル最低課税の申告を行う場合、いずれにしても積極的な税務調査の対象になっていくでしょう。そのため、税務調査については、海外子会社に係わる所得の合算という点で、類似性のある外国子会社合算税制の税務調査が参考になるかもしれません。こちらでは非違件数が毎年40~70件程度の範囲で推移しており、国税当局が外国子会社合算税制について重点的調査項目の1つとして確実に取り組んでいることを示しています。すでに国税は海外取引企業に対し、重点的に税務調査する方針を表明しており、対象となる多国籍企業グループは、税務調査が着実に行われることになると考えたほうがいいでしょう。
一方、海外では、低課税国や新興国だけでなく、先進国も国内最低課税制度の導入に動き出しています。導入されれば、税収を確保しやすくなるうえ、税務調査でも国際的な調整を要せず、国内制度として積極的な調査を行うことができます。ほかにも過少申告加算税や延滞税といったペナルティも各国で異なっており、大きなペナルティを課される国があることも忘れてはなりません。
海外子会社の税務調査は激化する可能性
では、日系多国籍企業は税務当局との係争にどのように対応すればいいのでしょうか。まずPillar2では日本および海外で税務当局との係争が増加する可能性があります。また、Pillar2がもたらす税務当局との係争は、既存の係争とは性質が異なる可能性が高いということです。国内最低課税制度による税務調査がグローバルな所得合算ルールに基づく合算額に影響を与えるため、OECDと各当局の明確な調整方法が示されることが待たれます。
さらに日系多国籍企業の本社は、これまで以上に海外におけるリスクマネジメントや税務調査に関与することが求められます。海外子会社における税務調査はより激化していく可能性があり、調査後の対応についても、本社が関与する場面が大きく増えていくはずです。日系多国籍企業では今後、Pillar2の導入状況にかかわらず、海外子会社における税務調査の対応の深化に取り組んでいくべきでしょう。