
第1章
進化する税務・財務担当上級幹部
必要とされるスキルの変化に伴い、⼈材を効果的に配置することがより⼀層困難となっています。
⼈材はあらゆる組織において最も重要な資産であり、適切な⼈材を有することは、今⽇の税務・財務部⾨が直⾯するあらゆる課題を解決するために重要です。
従来、税務部⾨は法令知識を重んじていました最⾼の税務スタッフは、どこで業務に従事しようとも、税法と規制を把握し理解していました。そして、このアプローチがうまく機能していたのは、税法が⽐較的安定し、企業の事業が数カ国のみで⾏われ、税務申告書が主として紙で作成され、税務当局に過去の収⽀の説明を提供していた時代でした。
回答者の83%は、税務・財務担当者のコアコンピテンシーの組み合わせが今後3年間で専⾨的な法令知識から、データ、プロセスおよびテクノロジースキルに移⾏すると回答しています。
コアコンピテンシー
83%の回答者は、税務・財務担当者は専門的な法令知識十種から、今後3年間でデータ、プロセスおよびテクノロジースキルにシフトすると考えています。
「今⽇の税務専門家は依然として水準の税務の専門的知識を備えている必要があります。同時に、データサイエンスを深く理解し、新しいデジタル納税申告の要求事項を満たす能⼒を備えている必要もあります。彼らには、⼈⼯知能、⾃動化、機械学習、データガバナンス、アナリティクスなどのツールについて習熟している必要があります」とBartonは述べています。
税務専門家は、ますます積極的な姿勢で、税務データとそれらの税務当局への開示がビジネスへ与える影響を理解し、それらの影響を経営幹部に報告する必要性が高まっています。さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる経済的影響を軽減するために政府が実施する経済対策をはじめ、急速に展開する法令や救済策を解釈し、⾏動できる態勢を整えておくことも重要となります。
調査回答者は、有能な人材を生み出す上で、以下の3つの課題を特定しています。
1. すでに存在するスキルギャップの拡大
調査回答者全体の39%は、現代的な税務・財務部門で能力を発揮するのに必要なスキルを持った人材の採用・維持が難しいと回答しています。回答者の45%は、新たな責任とキャリアアップの機会を税務・財務の人材に提供するのが困難と述べています。
2. ルーティンのコンプライアンス業務に要する膨大な時間
多くの回答者は、担当者がルーティンのコンプライアンス業務に時間を取られすぎることについても指摘しています(第5章で深く考察)。反復的作業が多くスキル開発を妨げることになり、企業にとってはすでに確保している人材が自身のキャリアアップが阻害されていると感じた場合、人材を失う危険性が高まります。
3. 将来に向けたスキルアップ
現代的な税務オペレーティングモデルにふさわしい人材を確保することは、今いる従業員に将来に向けたスキルを提供することを意味します。学習およびスキル開発プログラムは、人材の需要に合わせて進化させる必要があります。定評ある継続的教育プログラムを提供するサービスプロバイダーと連携して、自社の税務プロフェッショナルに技術ツールや政策変更に関する最新の見解を身に付けさせることも選択肢の一つといえるでしょう。

第2章
法規制の変化
法律や規則の容赦ない変化のスピードは、税務・財務部門の重荷となっています。
税務に関する法規制が変化するスピードは過去10年間にわたって驚異的と言っても過言ではなく、このスピードが鈍化することはなさそうです。EYが発行しているWorldwide Corporate Tax Guideは、ちょうど1世代(30年間)において発生した変化を表すバロメーターの1つです。1991年の第1版は106の管轄区域を網羅し、総計381ページでした。2010年にはそれが915ページに増えました。2019年版は、1991年版で取り上げた同じ区域の法人税法を説明するのに1,352ページを費やしています。
世界保健機関が新型コロナウイルス感染症のパンデミックを宣言してから最初の10日間で、55を超える管轄区域で経済対策が制定されました。詳細はまだ流動的ですが、税務がその重要な手段の1つであるといえます。経済協力開発機構によると、2008年の世界金融危機においては、各国政府がその対応策として実施したすべての経済対策のうち56%が税制を通じて行われました。
世界に広がるデジタル化
今年だけでも世界中の膨大な数の管轄区域がそれぞれの税制改革に取り組んでおり、その多くは非常に包括的に実施されています。同時に、税務当局のデジタル化が進んでいます。ブラジルから英国まで、地理的、そして文化的にかけ離れた国々が、エンド・ツー・エンドのコンプラアインスプロセスを完全にデジタル化しています。国別報告書から共通報告基準、Standard Audit File for Tax (SAF-T)と呼ばれる標準フォーマットの会計データに至るまで、作業負荷は増加の一途をたどっています。
「30年以上にわたって税務に携わってきましたが、法規制の変化がこれほど一気に押し寄せるのを経験するのは初めてです」。こう語るのはEY Global Tax and Finance Operate LeaderのDave Helmerです。「法令や新しい規則のボリュームもさることながら、デジタル経済をはじめとする現代経済のイノベーションに税務コンセプトが適用されていることもです。ほかのフロンティア分野がたどった足跡と同様に、秩序と確実性が定着するにはまだしばらく時間がかかるでしょう」
法規制の変化がこれほど一気に押し寄せるのを経験したのは初めてです。ほかのフロンティア分野がたどった足跡と同様に、秩序と確実性が定着するにはまだしばらく時間がかかるでしょう
事実、このTFO調査の所見では、84%の組織が新たなデジタル納税申告の要求事項を順守するための作業負荷の増大を見越し、51%はこれらの要求事項が組織の税務リスクプロファイルの増加を招くと予測しています。

拡大する規模、増加するコスト
最大の経費を予測しているのは、200億米ドル以上の収益を上げている大企業です。TFO調査によると、大企業の83%はこれらの新しい要求事項を順守するため、今後5年間に少なくとも500万米ドルを費やすとしており、うち44%は少なくとも1,000万米ドルを費やす予定です(全対象企業では17%)。さらに大企業の12%が、これらのタスクに最低でも2,000米ドルを費やすとの結果が出ています。

これほどの数値が示唆するのは、新たに出現する要求事項に追いつくために企業は膨大な作業量を抱えるということです。これらの要求事項を満たすためのコストを一時的な支出とみなすことは可能ですが、圧縮されつつある全体予算内で組織は必要な投資を行わなければなりません(第4章で説明)。
Helmerは次のように述べています。「これはパラドックスです。企業は新しい法規制を順守するために多額の費用を投じなければならないだけでなく、長期的なコスト削減にも備えなければなりません。適切なターゲットオペレーティングモデルを今導入することが、今後のコンプライアンスの促進に大きな役割を果たすでしょう」
開発の監視
すべての変化の動向を追跡し、その影響を理解することは、現代の法人税務プロフェッショナルに求められるもう1つの重大な要件です。企業は、世界中の法令の主要な変更を監視、評価、対応するため、またデジタル納税申告の要求事項を順守するために 適切な人材とテクノロジーケイパビリティを備えていると自信を持つ必要があります。それができない場合は、そのケイパビリティを備える企業と提携するべきです。

第3章
包括的なデータおよび持続可能なテクノロジー戦略
非効率的なデータとテクノロジーの導入は、変革への障壁を生みます。
税務当局のデジタル化により、当局と企業情報を共有する方法に劇的な変化が生じています。法人税務部門は、報告先となる行政機関と同等のテクノロジーを配備し常に最新の状態に備えておく必要があります。さらに税務部門には、基礎となる会計システムのデータの設計とガバナンスに積極的に関与することが求められます。
戦略の追求
2020年のEY TFO調査によると、大多数の組織(73%)は、自社の税務・財務機能に関して正式な税務テクノロジー戦略を設定しています。税務機能の目標とビジョンを実行する上で最大の障壁について、次のいずれかを選択してもらいました。「予算がない」「必要な人材を採用できない」「データとテクノロジーの持続可能な計画がない」。そして回答者の65%が、障壁として「データとテクノロジーの持続可能な計画がない」を挙げたのです。文書で十分に裏付けられた予算と人材についての課題にこれらの企業が直面している事実を踏まえると、この結果は注目に値します。
これが特に憂慮されるのは、テクノロジーの変化のスピードが法規制のそれとほぼ一致しており、開発を推進していくには人材への要求が膨大になるためです。
「法規制の変化に対応するだけでなく、遅れを取らないようテクノロジーにも注視しながら、基本的なコンプライアンスの義務を満たそうとすれば作業は膨大となります。不可能と感じるのは無理もありません。テクノロジーがすぐに時代遅れになるかもしれないという懸念から、自信持って購入を決断できないというケースが多くあります」とHelmerは話し、続けて次のように述べました。「決断さえすればそれを活用できるリソースを間違いなく持っている企業もあります。ただ企業の多くは、これらの課題に集中的に注力するサービスプロバイダーとの連携を望むようになってきています」
変革のための戦略
65%の組織には、データとテクノロジーに関する持続可能な計画がありません。
テクノロジーにおける非効率性
実際に、現在のテクノロジーの利用は、本来可能な運用効率を達成しているようには見受けられず、人工知能(AI)や機械学習などのディスラプティブ テクノロジーを広範囲に活用している税務部門はわずか3%にすぎず、まったく使用していない組織も15%に上ります。
変革のための戦略の一環としてデータとテクノロジーに投資していないこれらの企業は、長期的に見て税務機能の目標とビジョンを実現する能力を限定してしまっています。さらにスプレッドシートの多用は多くの場合、複数のデータソースやシステムが税務用に正しく設定されていないことの現れです。エンタープライズシステムを活用することにより、インテリジェントな税務機能を目指す企業は飛躍的な効果を得ることができます。
ビジョンの実現に苦戦している組織は、全社的な財務テクノロジーを開発してそれを最新の状態に保つために何が必要かを検討すべきです。そのためのロードマップでは、基本データへの信頼を構築し、必要な要素をどのように調達するか(社内、外部ベンダー、またはハイブリッドアプローチによるか)を特定することが求められます。

第4章
意思決定を促すコスト圧力
回答者大半は、今後2年間で税務・財務部門のコスト削減を計画しています。
調査回答者は新しいデジタル税務申告の要求事項を満たすために支出の一時的な増加を予測する一方で(第2章)、多くがコスト削減の圧力が長期的に持続することを見越しています。
経費の引き締め
回答者の79%は、今後2年間で税務・財務部門のコスト削減を計画しています。コストの平均削減率は8.6%と見込まれています。この傾向は大企業で顕著となっており、大企業の86%がコスト削減を予測しています。
コスト削減を計画する組織
79%の回答者は、今後2年間で税務・財務部門のコスト削減を計画しています。
平均目標コスト削減率は、77%の企業が向こう2年間で6%の目標コスト削減率を予測していた前回レポートを上回りました。こうした連続性が意味するのは、コスト削減が継続的にかつ潜在的にプレッシャーを増大させていることです。
企業は、自社機能を構築するか、それともそのタスクに100%注力し成功するためのシステムを備えたサードパーティープロバイダーと連携するかを決めかねています
削減のしきい値
特筆すべきは、回答者が、平均で8%の節約が可能であるならば、税務部門の特定の業務をサードパーティーに運用させることを検討すると述べている点です。この相関関係は、アウトソーシングやコソーシングが8.6%のコスト削減目標を満たす助けとなり得る場合に、必然的にそれがソリューションと見なされることを示唆しています。ただし、社内とアウトソーシングのどちらを組織として選好するかは議論の1つとして残り、社内でコスト削減に取り組む企業もあります。
ターゲットオペレーティングモデルを最新化する企業の取り組みは、変化が絶え間なく生じている中、終わりなき闘いとなっています。企業は、継続的な課題を受け入れるか、あるいはすべてのコンプライアンス義務を満たすために人材、テクノロジー、プロセスをそれぞれ最新の状態に保てるよう外部ベンダーを採用するかを決める必要があります。

第5章
オペレーションを最適化する必要性
適材適所の実現は、業務における必須条件です。
最後に、調査で明確に示されたのは、大半の税務・財務エグゼクティブがより多くを期待している点です。エグゼクティブが人材に求めているのは、組織に付加価値をもたらすパートナーとなり、最終損益を改善するインサイトを提供することです。時間のかかる、反復性の高いコンプライアンス作業の負荷を軽減することは、その実現に向けた重要なステップとなります。
作業負荷の軽減
回答者は、税務・財務担当者がルーティンのコンプライアンス業務に時間を取られすぎている(ほぼ3分の2)と感じていると答えています。新たに出現する税務の要求事項と財務規制の範囲拡大によって予測される作業負荷の増大は、この事態を悪化させるばかりです。
総体的に、組織は税務・財務チームがルーティン業務に費やす時間を減らすことを期待しています。この傾向は大企業では顕著に表れています。全体の66%の時間をルーティンのコンプライアンス業務に費やしている現状に対し、望ましいとされる時間は51%です。

コンプライアンスに費やす時間の削減が必至となっている背景には、回答者の圧倒的多数(83%)が、今後3年間で税務・財務担当者の税務の専門的コアコンピテンシーがデータ、プロセス、テクノロジースキルを含めて拡張されるだろうと予測していることがあります。
収益が200億米ドル以上の企業については、この数字が96%に達します。これは、複数の管轄区域で活動している大企業であれば余計に、より複雑で進化し続ける課題に直面している可能性があるという見方を裏付けています。
そうした人材の可能性を最大限引き出すには、これらの目標を支えるテクノロジーのプラットフォームを構築するか、こうしたケイパビリティを持つベンダーと連携するか、いずれかを選ぶことになるでしょう。ただそうした決断は、それぞれの企業のニーズ、予算およびリスクアペタイトに基づいて個々に委ねられます。
進むべき道
企業が税務・財務機能を運用する方法は、永続的に必要な変化を遂げようとしています。ほとんどすべての企業がこれを認識しており、自社が変革のプロセスのさなかにあると回答しています。
組織の大半が業務の変革を継続していることは明るい材料ですが、理論上の戦略と実際に変化が実行される方法には、依然としてずれがあります。これらの戦略がどれだけ持続可能であるかについても疑問が残ります。
本調査の所見によると、組織が税務・財務業務を現在と将来の両視点からも幅広く捉え、サイロ型の分散したコンピテンシーではなく、 1つのまとまった業務全体に取り組む重要性は明らかです。同様に、アウトソーシングとコソーシングが重要な役割を担っていくことが浮き彫りとなっています。
すべての企業は、以下のガイドを用いて、それぞれの進むべき道を選択する必要があります。
1. 現行のターゲットオペレーティングモデルを精査する。この時点で、コスト管理、価値創造およびリスク管理についての組織としての優先事項を検討し、税務・財務機能が全体的な事業戦略にいかに貢献しているかを理解する。これらの優先事項が明確になれば、人材、そしてテクノロジーのギャップを特定し、現行モデルが将来どの程度持続可能であるかが判断しやすくなる
2.何を構築すべきかを決定する。税務・財務業務を社内にとどめるには、一般的に現行の人材、データプロセスおよびテクノロジーを最適化するためにある程度の社内の変革が必要。組織によっては、価値が高く、ベスト・イン・クラスと見なす業務(税務係争の対策や管理など)を維持することを決める場合がある。しかし、これらの業務を有効性と統制を向上させて実施できるという確信がなくてはならない
3. コソーシングすべきものを決定する。組織によっては、一部の業務について、特に確定申告の遂行、規制上の申告およびデータ収集といったルーティン性の強い業務をコソーシングすべきと判断するかもしれない。これらのタスクのコソーシングは、集中化やサードパーティーの使用を通じて、コストを下げて実施できる場合がある
4.適切な組み合わせを見つける。多くの企業は、重要と見なす一部の税務・財務機能を引き続き所有し、それ以外をコソーシングするハイブリッドアプローチがふさわしいと決定しするとみられる。適切なハイブリッドアプローチでは、有効性と効率性の双方を最大化できるほか、最終損益を改善する業務に重点を置くことで、人材が企業にとっての付加価値パートナーとなることに注力できるようになる
サードパーティーへのコソーシングにより、全体的な税務コストを削減し、予測不可能な情報テクノロジー費用を管理すると同時に、社内リソースをより戦略的な業務に配分し直すことが可能となります。また、組織は、ベンダーによる必要な人材とテクノロジーへの多額の 継続的な投資を活用して、絶え間なく変化する世界に対応することができます。
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かつてないスピードで変化が生じる中、多くの企業が税務業務の変革に取り組んでいますが、中には、持続可能な戦略とその実行をつなげることに苦戦し、取り残されている企業もあります。企業は、人材の開発とコソーシングの双方がソリューションに果たす役割を検討しながら、現在と将来の課題に包括的に取り組むために、サイロ型構造を打破することを求められています。