8 分 2021年8月27日

            屋内のクライミングウォールの前に立つ男性

限られたリソースで移転価格係争の増加に対応するには

執筆者 Joel Cooper

EY Global ITTS Controversy Leader

Vast cross-border experience. Thought leader in transfer pricing and related international tax controversy. Former advisor to governments on international tax and transfer pricing.

EY Japanの窓口

EY Japan International Tax and Transaction Services Leader

独立企業原則のフィロソファー(PhALP)であり、タレントプロデューサー(TP)。スキーに夢中だが、全く上達しない。温泉愛好家。

8 分 2021年8月27日

移転価格は税務リスクの最大の要因であるという結果が、複数の調査で出ています。積極的なアプローチがベストですが、限られたリソースで、どのように対応すればよいのでしょうか。

2つの問い
  • 移転価格の基本的な文書化要件を満たすことから、当局が求めるより詳細な情報の提供へとどのように移行するか?
  • 移転価格係争ではなぜ積極的なアプローチが効果的なのか?

2021年EY税務リスクと税務係争に関する調査で、移転価格(Transfer pricing, TP)が再度、多国籍企業の最大の税務リスクとして選ばれました1。隔年で実施されるこの調査でトップになるのはこれで4回連続となります。一方、もう1つのEYの調査では、企業の80%が2019年までの3年間に、移転価格の調査に直面したことが分かりました2。このような状況を受けて、税務リーダーは将来に適した係争部門を構築することにますます力を入れています3。ここで鍵を握るのが、積極的な移転価格係争管理アプローチです。

移転価格係争に対して積極的なアプローチをとることで、移転価格を巡る紛争をより効率的かつ効果的に把握・管理・解決しやすくなります。より積極的なアプローチをとる上で課題となるリソース不足についても克服できるはずです。

移転価格係争管理における積極性とは

従来多くの企業にとって、移転価格係争における積極性とは、最低限の移転価格文書化要件を満たすことと、特定の状況下での事前確認(APA)やその他裁定の申請に限られていました。

しかし最近の経験から、税務当局は移転価格調査において「論より証拠」というアプローチをとるようになってきたように見受けられます。格段に文脈的かつ詳細な情報の提供を求めてきますが、これらはコンプライアンス重視の標準的な移転価格の文書化要件にはおそらく盛り込まれないものです4

税務調査が詳細化しつつあることを踏まえると、そのような問い合わせを受けた時に、素早く、自信を持って、漏れなく答える準備が十分にできているかどうかを納税者は自問する必要があります。また、新規の、あるいは見直しが行われたオペレーティングモデル、事業再編、そしてサプライチェーン構造に関わる設計・実装・文書化が移転価格係争リスクに十分に対応したものであるかについても確認しなければなりません。

積極的な移転価格係争管理アプローチの例を、以下に示しました。

  • 移転価格係争に特化したワークストリームを、タックスプランニング、オペレーティングモデルの設計や実装プロジェクトに組み込む。これにより税務部門は、リスクが生じた時にそれを察知して、選択肢を適切に比較検討し、それに応じて証拠書類を準備することができます。このほか、関連会社間で起こり得る商流が相互協議手続(MAP)の対象となるのか、またAPAを戦略的に利用できるのかについて確認するなど、紛争解決の選択肢を検討することも必要です。
  • 特定の企業活動と取引の動きを証明する証拠資料、法的見解、法的論拠、経済分析結果から成る包括的な税務文書ファイルと、特定の問題に関するガイドブックを作成する。このガイドブックでは、複数の国・地域にまたがる事項(例:複数のグループ企業が1つか複数の中央組織に支払ったライセンス料またはサービス料)の裏付けをするにあたり、一貫したポジションをとる準備を整えるための枠組みを示すことができます。
  • 法的文書に問題がないことを確認する。具体的には、文書の不備を是正し、現場の事実と移転価格レポートの記述に齟齬が生じないようにします。
  • 移転価格リスク管理の包括的な枠組みを作り、組織内で税務リスクをどのように特定・評価・報告・エスカレーションするかについての概要を示す。この枠組みで、各種類のリスクに必要なサポートのレベル(例:第三者的立場からの助言や法的見解が必要となるのはどの種類のリスクか)や、APA、MAP、訴訟などの紛争を回避、解決するプロセスを開始するタイミングと方法も示すことができます。
  • マルチラテラルAPAの取得、重要な「基本的」取引についての確実性の確保、主要な国・地域の当局との関係構築など、得られるメリットを明記したAPA戦略を策定・実施する。これは納税者にとって効果的な積極的手段の1つであるにもかかわらず、2021年EY税務リスクと税務係争に関する調査の回答者のうち、積極的なAPA戦略を明確に定め、十分なリソースを投入して戦略を実施している企業はわずか35%でした。

積極的な手段や戦略としては他に、税務データの分析、主要市場における係争の動向のモニタリング、税務リスクレビューの定期的な実施、協調的なコンプライアンスプログラムの利用、税務政策の立案への関与(政策当局との直接対話や、業界団体・税務フォーラムへの参加)などがあります。現在の政策が将来の係争を招くことが多いため、最後に挙げた政策立案への関与は特に重要になるかもしれません。

 

積極的な移転価格係争管理アプローチのメリットとは

積極的な移転価格係争管理アプローチを適切にとることで、リスクを後からではなくリアルタイムに特定できるほか、これまでのように別々に回答するのではなく、グローバルで一貫性のあるよく練られた文書を、十分な証拠書類と共に提出できるようになります。

これにより、現地の税務チームにかかるリソース調達の負担が軽減され、事後対応にあたるだけのアプローチだと生じる可能性がある証拠関連の問題も減るでしょう。さらに、税務当局間の情報共有が進む中、積極的な係争管理は、実質的に同一となる取り決めに関して、それぞれの税務当局に対して矛盾した説明をしないようにする上でも役立ちます。

つまり、積極的な移転価格係争戦略をとることで、潜在的な危険を回避し、弱点を是正することができます。また、納税者が紛争に関わるパラメーターを明確にする際にも有益です。

ある程度のリスクは常にあるものですが、目的は、どうしても和解できない場合を除き、問題が紛争や訴訟に発展しないようにすることです。そのためには、過誤、交渉の余地のあるポジション、些末なリスクは全て、未然に防ぐか(係争に特化したプランニング)、計画を立てて備えるか(ガイドブックとガバナンス)、解決して(APA)おきます。

後手後手の対応から、積極的な移転価格係争管理に移行するには

積極的な移転価格係争戦略は、万能の解決策になる可能性がある一方、多大な投資が必要となる場合があります。実際のところ、多くの納税者は既に、未処理の過去の係争問題に直面しています。例えば、幅広い情報提供の要請、複数年にわたる移転価格調査、MAP案件、そしてもちろん訴訟などです。管理の枠組みを、いくつかの段階的なステップに分けることで、変革をより管理しやすくし、その影響力を高め、より持続可能なものにすることができます。ビジネスケースとして社内で参考にしやすくなることは言うまでもありません。

例えば、既存の移転価格調査の範囲内で行う作業を基に、別の国・地域における同様の調査に事前に備えておくことで、重要な学びを得ることができ、それを将来の取引構造の考慮事項としたり、問題を管理して対応策を準備するために今後用いる方法の枠組みに組み込んだりすることもできます。

現行の調査プロセスへの投資をほんの少し増やし、担当者をもう1~2人置くなどすれば、ベンチマーク分析やAPAの成功例から、供述書、人事組織図、取締役会議事録まで、TP関連の専門的資料と証拠資料の両方をガイドブックに加えることができます。

ガイドブックには他にも、情報提供要請に対応するための手順図、よくある質問に対する標準回答、国際的な判例法集、潜在的な紛争の解決手段の概要など、現地のチームが活用できるリソースを盛り込むことができます。

解決後は、調査結果を見直すか、参考にできるよう「記録」して、APAを取得してはいかがでしょうか。メリットを長期的に得ることができます。場合によっては、バイラテラルAPAやマルチラテラルAPAの取得も検討してみてください。一貫性を確保することができ、安心感も増すはずです。このような潜在的なメリットはいずれも、基本的には既に行っていた作業を標準化・一元管理・活用して、投資した時間を最大限有効に活用することで生じます。

細かな業務も無数にありますが、その積み重ねが、税務部門の移転価格係争管理に対するアプローチを再構築する上で大きな役割を果たす場合があります。例えば、チームのアジェンダに税務係争に関する最新情報を反映させること、得た学びを現地チーム間で共有すること、過去の係争から得た学びを中核チームと共有し、今後の構造化の演習やコンプライアンス業務の参考とするためのプロセスを整備することなどです。既存のプロセスに、このように比較的軽微な変更を加えることで、価値ある、かなりのリターンを長期的に得ることができます。

結論

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受けて各国政府が財政強化を図り5、経済協力開発機構(OECD)が引き続き税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトを推し進める6中、移転価格係争は今後激化し、複雑になり、税務当局の間で多国間主義が強まるでしょう。

このような急速な変化が、バリューチェーン全体を対象とした「論より証拠」というフォレンジック調査に移行する傾向の強まりや、移転価格調査(加えて、共同調査と同時調査)における税務当局間の情報交換体制の活用拡大7と相まって、移転価格係争に対するアプローチを慎重に検討することを数多くの企業に促しています8

こうしたアプローチの見直しを成功させるには、ある程度の積極性を中心に据えなければなりません。税務係争部門は将来、画一的な組織ではなくなるでしょう。かつてないほどグローバル化したこの移転価格リスク環境に対応する体制を十分に整えた納税者しか、どのようなリスクがどこにあり、それをどのように、いつ解決するかを把握することはできません。

 

サマリー

移転価格は、過去4回のEY税務リスクと税務係争に関する調査で最大の税務リスクに選ばれています。移転価格の管理に対する積極的なアプローチは重要ですが、リソースに限りがあり、難しいのが現状です。文書化と透明性を求める当局の要求は強まっています。どうやって対応したらよいのでしょうか。

この記事について

執筆者 Joel Cooper

EY Global ITTS Controversy Leader

Vast cross-border experience. Thought leader in transfer pricing and related international tax controversy. Former advisor to governments on international tax and transfer pricing.

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