積極的な移転価格係争管理アプローチのメリットとは
積極的な移転価格係争管理アプローチを適切にとることで、リスクを後からではなくリアルタイムに特定できるほか、これまでのように別々に回答するのではなく、グローバルで一貫性のあるよく練られた文書を、十分な証拠書類と共に提出できるようになります。
これにより、現地の税務チームにかかるリソース調達の負担が軽減され、事後対応にあたるだけのアプローチだと生じる可能性がある証拠関連の問題も減るでしょう。さらに、税務当局間の情報共有が進む中、積極的な係争管理は、実質的に同一となる取り決めに関して、それぞれの税務当局に対して矛盾した説明をしないようにする上でも役立ちます。
つまり、積極的な移転価格係争戦略をとることで、潜在的な危険を回避し、弱点を是正することができます。また、納税者が紛争に関わるパラメーターを明確にする際にも有益です。
ある程度のリスクは常にあるものですが、目的は、どうしても和解できない場合を除き、問題が紛争や訴訟に発展しないようにすることです。そのためには、過誤、交渉の余地のあるポジション、些末なリスクは全て、未然に防ぐか(係争に特化したプランニング)、計画を立てて備えるか(ガイドブックとガバナンス)、解決して(APA)おきます。
後手後手の対応から、積極的な移転価格係争管理に移行するには
積極的な移転価格係争戦略は、万能の解決策になる可能性がある一方、多大な投資が必要となる場合があります。実際のところ、多くの納税者は既に、未処理の過去の係争問題に直面しています。例えば、幅広い情報提供の要請、複数年にわたる移転価格調査、MAP案件、そしてもちろん訴訟などです。管理の枠組みを、いくつかの段階的なステップに分けることで、変革をより管理しやすくし、その影響力を高め、より持続可能なものにすることができます。ビジネスケースとして社内で参考にしやすくなることは言うまでもありません。
例えば、既存の移転価格調査の範囲内で行う作業を基に、別の国・地域における同様の調査に事前に備えておくことで、重要な学びを得ることができ、それを将来の取引構造の考慮事項としたり、問題を管理して対応策を準備するために今後用いる方法の枠組みに組み込んだりすることもできます。
現行の調査プロセスへの投資をほんの少し増やし、担当者をもう1~2人置くなどすれば、ベンチマーク分析やAPAの成功例から、供述書、人事組織図、取締役会議事録まで、TP関連の専門的資料と証拠資料の両方をガイドブックに加えることができます。
ガイドブックには他にも、情報提供要請に対応するための手順図、よくある質問に対する標準回答、国際的な判例法集、潜在的な紛争の解決手段の概要など、現地のチームが活用できるリソースを盛り込むことができます。
解決後は、調査結果を見直すか、参考にできるよう「記録」して、APAを取得してはいかがでしょうか。メリットを長期的に得ることができます。場合によっては、バイラテラルAPAやマルチラテラルAPAの取得も検討してみてください。一貫性を確保することができ、安心感も増すはずです。このような潜在的なメリットはいずれも、基本的には既に行っていた作業を標準化・一元管理・活用して、投資した時間を最大限有効に活用することで生じます。
細かな業務も無数にありますが、その積み重ねが、税務部門の移転価格係争管理に対するアプローチを再構築する上で大きな役割を果たす場合があります。例えば、チームのアジェンダに税務係争に関する最新情報を反映させること、得た学びを現地チーム間で共有すること、過去の係争から得た学びを中核チームと共有し、今後の構造化の演習やコンプライアンス業務の参考とするためのプロセスを整備することなどです。既存のプロセスに、このように比較的軽微な変更を加えることで、価値ある、かなりのリターンを長期的に得ることができます。
結論
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受けて各国政府が財政強化を図り5、経済協力開発機構(OECD)が引き続き税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトを推し進める6中、移転価格係争は今後激化し、複雑になり、税務当局の間で多国間主義が強まるでしょう。
このような急速な変化が、バリューチェーン全体を対象とした「論より証拠」というフォレンジック調査に移行する傾向の強まりや、移転価格調査(加えて、共同調査と同時調査)における税務当局間の情報交換体制の活用拡大7と相まって、移転価格係争に対するアプローチを慎重に検討することを数多くの企業に促しています8。
こうしたアプローチの見直しを成功させるには、ある程度の積極性を中心に据えなければなりません。税務係争部門は将来、画一的な組織ではなくなるでしょう。かつてないほどグローバル化したこの移転価格リスク環境に対応する体制を十分に整えた納税者しか、どのようなリスクがどこにあり、それをどのように、いつ解決するかを把握することはできません。