2022年9月30日
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

執筆者 EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

2022年9月30日
関連トピック 税務

企業の脱炭素化投資を後押しするために、令和3年度税制改正で大胆な税額控除支援制度が創設されました。本稿では、本税制の概要及び適用に際しての留意点について解説します。

本稿の執筆者

EY税理士法人 ビジネス タックス アドバイザリー 税理士 宮嵜 晃

2007年EY税理士法人に入所。税務コンプライアンス業務に従事。その後、14年7月から17年3月まで経済産業省(国際租税担当)に出向。帰任後は国際課税(主にCFC税制)、税額控除支援(研究開発税制、DX・CN税制、地域未来投資促進税制、登録免許税等)、税制改正要望支援業務に従事している。日本機械輸出組合 国際税務研究会委員。

要点
  • 税制は設備投資に対して最大10%の税額控除等を認める制度である。
  • CN適用にあたっては、事前に事業所轄省庁等に事業適応計画書を申請し、認定を受ける必要がある。
  • 事業適応計画認定以降に取得し、かつ、2024年3月末までに事業供用する設備投資が本税制の対象となっている。

Ⅰ はじめに

2050年のカーボンニュートラル実現という目標達成に向けて、令和3年度税制改正においてカーボンニュートラルに向けた投資促進税制(以下、CN税制)が新設され、企業の脱炭素化投資を後押しする環境が整備されています。 

Ⅱ CN税制

1. 概要

CN税制は、①大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備(需要開拓商品生産設備)の導入②生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備(生産工程効率化等設備)の導入に対して、最大10%の税額控除又は50%の特別償却を認める制度です。

CN税制の適用に当たっては、①事業所管省庁等による産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定及び②税務申告書に事業適応計画における認定申請書等の写しの添付が必要です。また事業適応計画期間中は、毎事業年度、計画の実施状況についての報告(実施状況報告書の提出)が必要です。

2. 適用要件と課税の特例の内容

(1) 需要開拓商品生産設備の導入

<表1>の要件のうち、①、③、④~⑥、⑦ロを満たすことにより、事業適応計画の認定を受けた場合には、10%の税額控除又は50%の特別償却を受けることができます。

* 需要開拓商品は、化合物パワー半導体など一定の製品に限定されています。したがって、認定事例のうち大部分は2.(2)によるものです。

表1 CN税制の要件一覧

(2) 生産工程効率化等設備等の導入

<表1>の要件のうち、①、②、④~⑥、⑦イを満たすことにより、事業適応計画の認定を受けた場合には、次の税額控除等を受けることができます。

炭素生産性が3年以内に7%以上向上:税額控除5%又は特別償却50%

炭素生産性が3年以内に10%以上向上:税額控除10%又は特別償却50%

* 炭素生産性=付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)/エネルギー起源二酸化炭素排出量

3. 適用に際しての留意点

① 本税制の検討開始から事業適応計画の認定を受けるまでは通常3カ月~6カ月程度を要します。

② 事業適応計画の認定以降に取得し、かつ、24年3月末までに事業供用する設備が対象です。なお、取得とは通常、資産の所有権を得たこと、つまり資産の購入、引渡しを受けたこと等を指します。

③ 貸付けの用に供する資産は税制の対象外です。したがって、会社が取得した設備を、子会社又は第三者に貸し付ける場合における当該資産は適用対象となりません。

④ 会社が保有する資産が対象になります。したがって、太陽光発電設備におけるPPA(パワー・パーチェス・アグリーメント)などは、通常はPPA事業者の所有資産であり、会社の資産ではないため、税制の対象となりません。

⑤ 2.(2)における事業適応計画の認定を受けるためには、原則として事業者全体で炭素生産性を7%以上(税額控除10%を利用する場合は炭素生産性を10%以上)向上させる目標を設定する必要があります。また、計画に記載された炭素生産性向上に向けた取組のうち、設備投資を実施する事業所(工場や店舗)の炭素生産性を1%以上向上させる設備が税制の対象になります。

⑥ 事業者全体の炭素生産性の向上目標を設定する上では、再エネへの切り替えによる二酸化炭素排出量の削減といった取組を含めても良いこととなっています。

⑦ 本税制の設備投資総額の上限は500億円です。また、税額控除の控除上限は、DX投資促進税制とあわせて当期の法人税額の20%です。

⑧ 設備投資について補助金を受けたことによる法人税法上の「圧縮記帳」と本税制の併用は可能です。圧縮記帳の適用を受けた場合は圧縮記帳後の金額に税額控除率等を乗じます。税額控除の適用を受ける場合は、圧縮記帳の適用を受けないほうが、税負担は少なくなります。

Ⅲ おわりに

前述の通り、認定を受けるためには幾つかの要件を満たす必要があります。次の事例に当てはまる場合は充足できる可能性があります。また、製造業のみならず、金融・保険業やサービス業においても適用可能です。

  • 事務所または工場などで使用する電力をCO2フリー電気に切り替えた、または切り替える予定
  • 太陽光発電設備(PPA契約により設置されるものを除く)又はLEDの導入、エネルギー効率の優れた設備への更新が行われる予定
  • 事務所や工場などの移転または新設を予定
  • CO2排出削減効果のある設備について、補助金の申請を予定

本稿が皆さまのCN税制適用に対するきっかけとなり、投資コストの負担の軽減に資すると共に、温暖化対策やカーボンニュートラル実現に向けた取組の一助となれば幸いです。

※ 経済産業省ウェブサイト www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/jigyo-tekio.html

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サマリー

企業の脱炭素化投資を後押しするために、令和3年度税制改正で大胆な税額控除支援制度が創設されました。本稿では、本税制の概要及び適用に際しての留意点について解説します。

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