監査法人は誠実な人間性と職業的懐疑を重視していますが、この2つが今後も不可欠な資質であることは間違いありません。しかし、新しい環境では、より深いビジネス知識、テクノロジーに対する強い好奇心、ディスラプションを取り入れるアジャイルな考え方も監査人に求められるようになるでしょう。
多様性を育む
リモートワークの拡大により、強力な監査チームづくりの重要性は高まる一方です。監査チームに必要なのは、幅広い技術的スキルと人的スキルを持つ人材だけではありません。より多様な経験と視点を取り込むことも求められます。
そのためには、幅広い社会・文化的背景を持つ人材を募集し、採用するとともに、視野を広げるチャンスを採用した人材に提供しなければなりません。例えば、大手グローバル企業の顧客を担当させることで、さまざまな文化に触れることができます。最近ではパンデミックを受けて制限されているとはいえ、ここでは海外との行き来も重要です。EYでは、この行き来をできるだけ早く元の状態に戻したいと考えています。
しかし、これだけで多様性を育むことはできません。同時に、働く人たち全員が帰属意識を持ち、温かく迎え入れられていると感じることができる環境づくりが必要です。全員が成長し、貢献し、付加価値を生み出すことができるようにならなければなりません。
監査チームの多様性が広がるにつれ、組織には当然のことながら特に昇進に関して多様性に合った対応が求められます。そこで必要となるのが、監査のプロフェッショナルのさまざまな興味や希望に対応した、多彩で柔軟性とスピード感のあるキャリアパス制度の構築です。これまでのヒエラルキー型の画一的な昇進システムが全ての人に合うわけではありません。このようなキャリアパスを歩むことを望まない人たちに、別の昇進ルートを用意する必要があります。
昇進に関する評価では、勤続年数ではなく、その人のスキルを重視しなければなりません。例えば、EYではより「アジャイルな昇進(agile promotion)」の導入を進めています。これは、1年の決められた時期ではなく、上の役職に就く実力がついたと判断した時点で、その人を昇進させるシステムです。
急速に変化するビジネス環境で多様な人材が働けるようサポートするには、継続的な研修体制の整備が必要です。新しい働き方と同様、こうした研修にもハイブリッドモデルを採用する必要があるでしょう。パンデミックの間に、EYは研修の完全オンライン化を図りました。しかし、新たな長期的オペレーティングモデルに移行するための一環として、今後はオンライン研修とクラスルーム研修を組み合わせた形式で実施する方針です。
極めて専門的なヘッジ会計から、バリュエーション、サイバーセキュリティ、不正行為、サステナビリティ、税務、コーポレートファイナンスに関する専門知識に至るまで、幅広い内部のナレッジリソースにアクセスできることは、非常に大きな資産となります。事業が複雑さを増すにつれ、このような幅広い専門知識を活用できる体制の整備は、今まで以上に重要になるでしょう。
目的意識
監査人の働き方は変わりつつあります。今後は業務の一部をリモートで行うようになり、監査業務でもデジタルツールやデータの果たす役割がますます大きくなります。
これを心から歓迎する人たちもいる反面、困難にいや応なく直面する人たちもいるでしょう。しかし、この移行をうまくやり遂げることができれば、監査のプロフェッショナルは新しい環境で実力を遺憾なく発揮するでしょう。また、デジタルトランスフォーメーションによって仕事はより有意義なものになり、職業上の目的意識も向上するでしょう。
今の労働環境には、有能で目的意識が高く、公共の利益により貢献できるプロフェッショナルを育成するための絶好のチャンスが広がっているのです。
本稿は執筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、EYまたはEYのメンバーファームの見解ではありません。
サマリー
パンデミックの間にリモートワークへの移行が進んだことで、監査業務ですでに始まっていたトレンドが加速しました。監査法人に今期待されているのは、監査先企業、監査法人、個人のニーズに沿った、より柔軟性の高い働き方への移行です。新たな環境では、テクノロジーを活用する必要性や、アジャイルな考え方で変化とディスラプションを取り入れ、チームで効果的な業務運営を行う必要性も鮮明となっています。