海運業 第3回:海運業準則と海運業の収益・費用

2024年7月23日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 海運セクター
公認会計士 植木 貴幸/内田 聡/須藤 佳典/西部 雅史/高井 大貴/古田 晴信

1. はじめに

海運業を営む会社も一般事業会社であり、企業会計原則に基づいて会計処理がなされます。すなわち、役務を提供して獲得した貨幣性資産の額をもって収益として計上し、役務提供のために費消した財貨や用役を費用として計上するという点においては、他の事業会社と異なりません。

ただし、海運業を営む上での事業の特殊性、および、財務諸表等規則および国土交通省の定める「海運企業財務諸表準則」(以下、海運業準則)に基づく別記事業としての位置付けから、一部の会計処理や開示に、他の一般事業会社と異なった点があります。

一方で、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となった「収益認識に関する会計基準」(以下、会計基準)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)からなる、いわゆる「新収益認識基準」においては、別記事業に対する特別な取扱いはされていないことから、海運業準則の枠組みを考慮した範囲内で、他の業種と同様に新基準適用の検討を行うことになります。

2. 海運業における損益計算書項目

海運業の損益計算書は海運業準則の区分に沿って表示することが求められています。

海運業準則における収益・費用の区分の概略(営業利益まで)は以下のとおりです。

一.  海運業収益

二.  海運業費用
  海運業利益

三.  その他事業収益

四.  その他事業費用
  その他事業利益
  営業総利益

五.  一般管理費
  営業利益

3. 海運業の収益形態と収益認識

(1) 海運業収益とその他事業収益

海運業を営むことによる収益を海運業収益と呼び、海運業以外の収益である、その他事業収益と区分した記載が求められています。また、海運業収益自体もさらに、運賃・貸船料・その他海運業収益に区分して記載されます。これにより、損益計算書において海運業で稼得した利益を区分して把握することができます。

(2) 海運業収益の収益発生形態

海運業収益における収益発生形態は以下の三つに大きく分類・開示されます。

① 運賃

最終顧客である荷主との間で締結した貨物運送契約に従って貨物を運送したことによる運賃収益をいいます。これには当該運送契約に付随して生じた収益(滞船料等)も含まれます。また、運賃は、さらに貨物運賃と、その他運賃(旅客運賃等)に区分されます。

② 貸船料

傭船契約に基づいて船舶を貸与したことによる収益をいいます。傭船契約は、その形態により定期貸船料と裸貸船料に大きく区分されますが、そのいずれもが、この貸船料に含まれます。なお、傭船契約については、広義では荷主との間で個別に結ぶ航海傭船契約も含まれますが、当該収益は運賃として計上されます。

③ その他海運業収益

運賃・貸船料以外の海運業を営むことによって生じた収益をいいます。

(3) 海運業収益に関する収益計上基準

① 運賃

損益計算書での区分掲記は求められていませんが、貨物運賃は態様として定期船運賃と不定期船運賃に大きく分類することができます。

定期船とは(現在では専ら)コンテナ船のことをいい、不定期船とは、それ以外の油槽船(タンカー)、自動車運搬船、バラ積み船などをいいます。

前述の「収益認識に関する会計基準」適用前の海運業の会計慣行においては、運賃の売上計上基準として、積切出港(出帆)基準、航海日割基準(複合輸送進行基準を含む)、及び航海完了基準の3種類の基準から、企業が最も自社のビジネスに適合する方法を選択適用していたと考えられます。

しかし、一般的に船舶による運送サービスは、会計基準第38項等に定める「一定の期間にわたり充足される履行義務」の要件(1)~(3)(特に(1)企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること)を満たしている場合が多いと考えられることから、一定の期間にわたって収益を認識することとなり、基準適用前に認められてきた積切出港(出帆)基準や航海完了基準は認められなくなりました。

【一定の期間にわたり充足される履行義務の要件(会計基準第38項)】
次のいずれかを満たす場合、財・サービスの支配を顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する
(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、それにつれて顧客が当該資産を支配すること
(3) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用できない資産が生じ、かつ、それまでに完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有すること

このように「一定の期間にわたり充足される履行義務」として識別される場合は、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もった上で、その進捗度に基づいて、収益を一定期間にわたって認識することになります(会計基準第41項)。

進捗度の適切な見積方法には、適用指針第15~22項に定めるアウトプット法とインプット法がありますが、いずれかの方法が優先されているわけではなく、財又はサービスの性質を考慮して適切な進捗度の見積方法を決定し、それを首尾一貫して適用することになります。具体的には、海運実務で採用されている航海日数や航海距離等といった指標を、進捗度として用いられるかどうか検討することになると考えられます。

なお、当該履行義務の充足及び進捗度の見積りに関しては、適用指針第97項において「船舶による運送サービス」として個別に言及されています。一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が、通常の期間(運送サービスの履行に伴う空船廻航期間を含み、運送サービスの履行を目的としない船舶の移動又は待機期間を除く)である場合には、履行義務の識別(会計基準第32項)や進捗度の見積り(会計基準第41項)の考慮を行わずとも、複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務とした上で、当該期間にわたり収益を認識することができる、とされています。実務上は、この条項にのっとった売上計上基準を策定することが想定されます。

以上の運賃に係る収益認識のタイミングは、内航貨物船や近海船における運賃でも、原則として同様です。従来の積切出港(出帆)基準あるいは航海完了基準を継続できるのは、これらの運送形態における航海期間の短さに鑑みて、原則的な収益認識基準を適用する場合との影響額が非常に僅少である場合に限られると考えられます。

なお、貨物運賃を「一定の期間にわたり充足される履行義務」として会計処理する場合の具体的な仕訳例については、「情報センサー2021年5月号 業種別シリーズ 収益認識会計基準が海運業に与える影響および開示」をご参照ください。

② 貸船料

貸船料については、傭船期間が契約によって定められているため、傭船期間のうち事業年度内に経過した日数を日割(時間割・分割)で計上しているケースがほとんどと考えられます。新収益認識基準の適用後も、収益認識のタイミングや考え方に大きな変更はないと考えられます。なお、貸船料に関連して、決算時において前払いを受けた傭船料について翌事業年度に属する部分がある場合には、契約負債として貸借対照表に計上することになります(会計基準第78項)。

③ その他海運業収益

その他海運業収益には、運賃及び貸船料以外の海運業収益が含まれます。
海運業ビジネスには、船員配乗・雇用管理業務や船舶保守管理業務などを行う船舶管理業が存在します。船舶管理料については、現状の会計実務において、毎月定額で収益計上している場合があります。船舶管理業務は複数の履行義務により構成されているため、まずは履行義務を識別し、その上で各履行義務に対価を配分することが必要になります。その結果、従来の会計実務とは異なる収益認識パターンとなり得ることに留意が必要です。

(4) 変動対価の論点

海上輸送においては、滞船料(契約上の停泊期間内に積荷、揚荷が終了せず停泊期間が延長したときに、荷主が海運企業に支払う超過割増金)や、早出料(契約停泊期間より早く荷役が終了したときに、当該日数に応じて海運会社から荷主に支払われる割戻金)が発生する場合があります。これらの金額は、会計基準第50~55項等に定める、変動対価として取り扱われることになります。

変動対価の額については、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めるとされています。特に滞船料については、諸条件や責任関係について荷主との交渉が難航し、事後的に金額の変更を受ける場合があることから、どの範囲を取引価格に含めるかを慎重に判断する必要があります。

(5) 本人・代理人(総額・純額)の論点

海運業ビジネスにおいては、海運に付帯する業務として船舶代理店業が存在し、特に大手海運企業であれば、グループ企業として国内外に代理店企業を設立・運営する実務も多く存在しています。

船舶代理店業においては、代理店における顧客との約束の性質が、財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であるか、あるいは財又はサービスが他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務であるかを判断し、収益を総額で認識するか、手数料等だけを純額で認識するかの検討が必要となります。

(6) その他の論点

運送請負契約に付帯する業務に関して、航海完了した後に請求権が生じるような輸送サービス等が生じる場合には、債権として生じていない未回収の対価が、契約資産に該当するか検討する必要があります(会計基準第77項)。

また、裸傭船の貸船から生じる収益など、リース契約と類似した特徴を持っており、従来リース会計基準に準じた処理が適用されている取引については、新収益認識基準の適用後も、引き続きリース会計基準の貸手の処理の定めに従って収益を認識することになる点に留意が必要です。

4. 費用の発生態様と会計処理

(1) 海運業費用

海運業収益に対応する役務原価が海運業費用です。海運業費用は運航費、船費、借船料、その他海運業費用に区分されます。

① 運航費

運航費には、船舶の運航に伴って発生する費用のうち、直接的、変動費的に発生する費用が集計されます。また、海運業準則上、運航費はさらに貨物費・燃料費・港費に区分されます。

  • 貨物費
    海運会社の収益のうち、多くが貨物輸送によって占められていますが、貨物費とは当該貨物の揚げ積みにかかる費用など、貨物の取り扱いに際して発生した費用を指します。
  • 燃料費
    貨物費は「貨物」に関連して発生する費用ですが、燃料費は「船舶」の稼働に要することに関連して発生するものです。船舶の燃料である船舶用C重油等の棚卸計算により計上されます。
  • 港費
    船舶が港に入出港および停泊した際に生じる費用です。入出港に際しての曳船(えいせん)料等の港湾作業料、岸壁使用料等の港湾施設料、トン税(各港の所在国および所在都市が外航船舶の寄港に課する、トン数に比例した税金)やスエズ運河等を通過する際の運河通航料等が含まれます。

貨物費が貨物の取扱量を、燃料費が航行距離と燃料の距離当たり消費量、燃料単価をそれぞれドライバーとして変動する費用であるとすると、港費は寄港回数と係留日数に比例する変動費であるといえます。

② 船費

運航費が船舶の運航に伴って直接的、変動費的に発生する費用であるのに対し、船費とは船舶を所有し、維持管理するために生じる費用であり、通常、間接的、固定費的に発生する費用として分類されます。 船舶を運航するためには船員の配乗が必須となりますが、それら船員の給料である船員費(退職給付費用や賞与引当金繰入額を含む)が発生します。

また、不測の事態に対処するために必須である船舶保険(船舶の毀損(きそん)を保証するもの以外にも、船舶の不稼働損失保険、コンテナの輸送事故を担保するコンテナ保険等を含む)も、船費を構成する要素です。

船舶の所有と維持に関する費用も船費となり、船舶に関する減価償却費や船舶修繕費、固定資産税、第2回で説明した特別修繕引当金繰入額が船費に含まれます。

③ 借船料

借船料は、貸船料とは反対に傭船契約に基づいて船舶を借りたことに対する対価の支払いを表す費用です。

また、当該借船料に計上される傭船契約は、大きく定期傭船契約と裸傭船契約に区分されます。定期傭船契約とは、賃貸借と役務提供の混合契約とされ、船舶の運航(船員の配乗やメンテナンスを含む)自体は船主が行い、傭船者が運航を指示するという形態をとります。これに対して裸傭船契約とは、傭船者が船主より船舶自体を借り受ける傭船形態です。すなわち、裸傭船契約とは船舶という固定資産のみを賃借する契約であることから、リースの一形態であるといえます。

④ その他海運業費用

その他海運業費用には他船取扱手数料やコンテナ関連施設の使用料、保管料等が含まれます。その他海運業費用につき、海運業費用合計額の100分の10を超える場合は別掲が必要となります。

(2) 一般管理費

海運会社が事業を営むに当たって発生する費用のうち、全社的な管理業務に対して発生した費用については、海運業費用とは区別して「一般管理費」として処理されます。なお、「一般管理費」とは海運業準則上の科目ですが、海運業界においては当該費目を一般的に「店費」と呼び、陸上で発生する費用から構成されます。

一般管理費の主要な科目としては、役員報酬、従業員給与(陸上勤務員に対するもの)などの人件費項目や、減価償却費(陸上勤務員が使用する設備に関するもの)などが挙げられます。

5. 海運業における財務諸表の表示

前述のとおり海運業は別記事業とされており、その個別財務諸表は海運業準則に従って表示することが求められています。海運業準則では、①損益計算書、②株主資本等変動計算書、③貸借対照表、④附属明細表の順に表示されることになっており、損益計算書が先にくることが特徴的です。また、④の附属明細表には海運業収益および費用明細表、減価償却費明細表といった海運業準則に特有の明細表があります。また、損益計算書では海運業収益、海運業費用、貸借対照表では海運業未収金、代理店債権、船内準備金などの海運業特有の勘定科目が定められています。

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